創造世界の道化英雄《ジェスター・ヒーロー》

帯来洞主

文字の大きさ
14 / 44
第一幕「道化の英雄」・Hero de Jester・

第04話「道化の行進」2/3

しおりを挟む

 一方で、手品紛いの戦法でマンティスを翻弄する創伍の姿を、負傷したアイナと守凱は見届けることしかできなかった。

「ついに、道化師同士が繋がったか……」

 守凱が深い溜息を吐く。

「守凱、ごめんなさい。私が素早く動けなかったから……」
「気にするな……どの道、こっちの手中に入るか、彼の手に渡るかのどちらかしかなかったんだ。こうなってしまった以上、素直に認めるしかないだろう。仲間達に会わせる顔がないがな……」
「長官にはどう報告を?」
「向こうから出向かせる、とでも伝えておくさ……」

 息を切らしながら話す守凱だが、マンティスの仕込み刀により脇腹を切られ、手で抑えても出血が止まらない。脚を切られたアイナは、回復術で自分の応急処置は出来たのだが……。

「守凱の傷を治す魔力が足りない……アップライト・プリーステスでもままならないなんて、このままじゃ……!」
「ぐっ――!」
「守凱っ!」
「大丈夫だっ、このくらい……」

 救護班を呼ぼうにも、今からでは遅すぎて出血多量で死に至るかもしれない。どうしたらいいのかと途方に暮れていた。

 そんな中――

「大丈夫か!?」

 創伍が、二人の元へと駆け寄ってきたのだ。

「真城 創伍……」
「何しに来たの……?」

 守凱が睨みを強くし、拒絶の意を表す。

「シロ、この右手で二人の傷を治せるか?」
「なっ……!?」

 数時間前、シロ目当てに奇襲したことを差し置いて、創伍は二人の傷を治すと言い出したのだ。

「治すことはできるけど、私達を襲った人を助けるなんて……」

 創伍の右肩に留まるシロが不満そうな顔を浮かべる。二人は何も言い返せないが、アイナにとってこの場は猫の手も借りたい事態なのも事実。

「そうかもしれないけどよ、さっきは俺達を遠回しに助けてくれたろ? それに……俺にはそこまで悪い奴にも見えないんだ」
「………うん、創伍が言うなら……いいよ。その人の傷口に手を当てて、治したいと願い続けて」
「ありがとなっ、シロ」

 シロの了解を得た創伍は、ゆっくりと守凱の傷口に赤い右手を当てて眼を瞑る。
 守凱は不服そうな顔を浮かべるが、払いのけたりはしなかった。

「余計な世話を……」
「したくてしてるんじゃない。こういう性分なんだ」

 創伍の赤い手はみるみる光を増し、十秒もしない内に傷口から流れ落ちた血が元へ戻っていく。手を離した時には、負傷したのかと思う程に傷口が綺麗に消え、守凱を完治させた。続けて応急処置をしていたアイナの脚の傷も完治させたのだ。

「………………」
「あ、ありがとう……」

 俯いて黙る守凱とは真逆に、窮地を救われたアイナは創伍に感謝するしかなかった。

「気にしないでくれ。とりあえず、ここからは俺達の邪魔しないで安静にしといてな!」

 創伍は満更でもない顔をしながら、再び戦場へと戻っていく。

「道化の英雄……似合って見えるのは、やはり何とも嘆かわしいな」
「どうしようもなくお人好しなんだから……」

 その後ろ姿が僅かながら一人前に見えたのは、気のせいではなかった。


 * * *


「創伍って、本当に優しいね!」
「ごめん。迷惑だったか?」
「ううん、全然! だってそこが創伍のイイところだもんっ!」
「……そう言われるのは初めてだな」

 シロは不本意だったかもしれないが、やはり創伍は困っている人を見捨てずにいられなかった。そんな彼のお人好しを尊重したシロが協力したことで、今の創伍にもう心残りはない。
 再び地獄へ舞い戻ると、ようやく触手地獄から抜け出たマンティスが怒りに震えていた。

「オノレェェ……オノレオノレオノレェェェエエエ!!」

「あーあ、まだ懲りないみたい」
「文字通り蟷螂の斧ってか……」
「創伍、そろそろフィナーレといこうよ!」
「フィナーレ? どうするんだ??」
「これから私の言った通りにして。まずはね……」

 シロが創伍に耳打ちをする。遂にパレードを終盤へと導き、二人でマンティスを仕留めるのだ。

「さぁ皆様!! 名残惜しいですが、いよいよクライマックスです! 最後のとっておきの手品は、モニター中継にてお見せします!!」

「死イイィィィネヤラァアアァッ!!」

 またもシロが指を鳴らすと、電気街のビルのモニターに創伍達が映る。だがそんな事に目もくれず、マンティスは怒りに身を任せて先制を取らんと突貫。飛んで火に入る何とやらだ。

「創伍――まずは拳銃を!」
「あぁ!」

 まずはマンティスに殺された警官の物と思われる拳銃を拾う。それを拾った創伍はシロの指示通りの想像をし、真っ向から走って来たマンティスに向けて拳銃を発砲。

 パチュンッ――

「グッ!?」

 普通の拳銃とは違う発砲音にマンティスが咄嗟に目を瞑る。創伍が撃ったのは塗料が飛び散る着色弾で、たちまちマンティスを目立ちやすいピンク色に染め上げた。

「コ、コレハ……一体…………! ソレニ真城ハ…………ッ!?」

「やーい、マンティス! こっちだこっち!!」
「あっかんべー! こっちだよぉ!!」

 誘うように挑発しながら創伍達が向かったのは、電器店だ。何か仕掛けるつもりと知りながら、ここでマンティスが躊躇するはずもない。

「逃ガスカァァァッ!!」

 ブレーカーを落とされた真っ暗闇の店内に生存者はいない。床に転がるのは、数々の死体。創伍は恐怖に耐えながらも、勇気を振り絞り、そして彼らの無念を果たすためにもシロの指示通りに行動を取る。

「クソッ……! 何処ニ隠レタ!? 出テキヤガレエエェ!!」

 足音を辿り、家電・電子機器コーナーにマンティスが到着する。最新のテレビやパソコンが並ぶこの階の通路に、立っているのはマンティスのみ。

「創伍……今だよっ」

 一方創伍達は、息を殺しながらレジカウンターの裏側に潜んでいた。シロの合図でノートパソコンに触れ、また言われた通りの想像をする。

 今度は、かなりトリッキーだ。

『やぁ、ヒュー・マンティス。襲われる側に立つ気分はどんなものかな?』
「ッ!!?」

 電気は止まっているのに、創伍の右手がパソコンに触れただけで、シロの声が店内放送用のスピーカーを通して響き渡る。マンティスは警戒をして武器を構えるが、店内中のスピーカーから声が響いて彼らの気配は掴めない。

『君は今、すごく怖がっているね? 起きるはずないと思っていた展開になってしまい、これから何が起きるのか、道化師の手の内なんて読めるはずがないもん。そうでしょう?』
「黙レッ! 貴様コソ、コノ暗闇ノ中デハ不利ダロウガッ!!」

 確かに、暗闇で気配だけを頼りに闘うのはあまりに現実的ではない。

 ――だから、創伍達は用意をしていたのだ。

「うらぁ!!」
「ギッ!?」

 創伍の蹴りが、簡単且つ正確に命中してマンティスを吹っ飛ばす。答えは簡単――着色塗料を放つ寸前、として想像していたのだ。それにどうやらマンティスは、人間に擬態している時と比べると、視力が低下しているのか、そのことにまだ気付いていない。

『あれあれ~? どうしたのヒュー・マンティス。バナナの皮でも踏んだ?』

 創伍の足音はシロが大声を出すことでスピーカーに掻き消され、完全に暗闇へ溶け込むことが可能となる。後はこれを四、五回繰り返すことで塗料塗れのマンティスを、フロアでのたうち回せた。

「グググッ……ガアアァァァッ……!! 殺ス……! ブッ殺スッ!!」

 そうこうしている内に、フィナーレの準備が整った。

『『『『ホラホラホラ♪ 私はここだよ。頑張れ頑張れ!』』』』

「――何ッ!?」

 なんと店内に並ぶパソコンやテレビ、タブレットやスマートフォンのデモ機に次々と電源が点き、暗闇をディスプレイの光が一斉に照らす。いくつもの白背景の画面の中にシロが映っており、マンティスを挑発し始めた。

『この中のどれかに本物の私が居るよ! 見事当てたら、な景品が待ってまーす!』
「クッソォォォォッ、チョコザイナアァアアアアッ!!」

『ここだよー!』
『ベロベロバ~!』
『こっちだってば!』
『鬼さんこちら♪ 手のなる方へ♪』

「ダッタラ……虱潰シラミツブシニ斬ルマデダアアアアアァァッ!!」

 対するマンティスは大胆な行動に出た。手の鉤爪で並んでいた電子機器を全て切り裂き始めたのだ。高価なノートパソコンや、頑丈そうなスマートフォンなども草木の様に斬り落とされ、その断面からは火花が飛び散る。

 創伍達は――を待っていた。

「……ンナッ!?」

 想像した着色塗料には、蛍光作用を付けただけじゃない。も付け足していた。機械から飛び散った火花が塗料に付着すると、床に垂れた箇所から引火して確実にマンティスを追い詰め、炎で攻め立てる――

「ギィアァアアアッッ!! 熱イ! 熱イイィィッ!!」
『アハハハハッ、残念! ハズレにはな景品……なぁんてね♪』

 炎に纏われ苦しむマンティスを、いくつものシロが嘲笑う。

『それじゃあ、答え合わせだね!』
「ゲヘッ……ハァ……アッ……!?」

 斬られずに済んだ電子機器の画面が次々と暗転し始める。そしてフロアの中央——テレビコーナーに置いてある4Kテレビ一台だけの画面が残った。その中のシロが本物だった。

『私は――ここだよ!』

 シロは、ちょうど目の前に立つマンティスに向けて何をする気か、画面の中で右手をグーにして突き出した。

『これは今朝のお返し!』
「ヅアガ……ッ!? アアアァァァアッ——!!!」

 すると、またしても珍妙な光景が創伍の眼前を過ぎる。シロがテレビの中で突き出した右手は、たちまち画面越しに巨大な拳となって飛び出し、マンティスの体を、歯を、骨を砕く。そしてそのまま壁を突き抜け、再び地獄の電気街へと叩き落とした。

「……すっげぇ」
「さぁ、創伍。戻ろう!」

 気付けばしれっとテレビの中から抜け出ており、まるで遊び尽くしてご満悦な子供のよう。一風変わった闘い方には言葉も出ず、守凱やアイナがシロを厄介者呼ばわりするのも、これが所以なのかもしれないと感じる創伍なのであった。


 * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...