婚約破棄されたい悪役令嬢は、今日も愛人の子を愛でる

14出発

「……私は仕方なくこの伯爵家のために身を隠すの！お姉様、勘違いなさらないでっ！」

今日からオリーブは領地にある別荘で数年間暮らすことになる。

なぜなら、エリオット様の子供を妊娠したから。

お父様は産まれたら伯爵家の後継ぎとして丁重に育てると彼女に伝えた。

「あんなダサくてつまんないお姉様だから、仕方なく私がエリオット様の子供を妊娠したのにっ……！未婚の私が誰かに妊婦姿を晒すことはできないからって！しばらくはこの私が隠居！隠居ですって！」

(ああ……。うるさいっ！)

「タダでさえ妊娠してから、毎日ムカムカするわ、イライラするわだしっ……！大好きなエリオット様ともしばらく会えないなんて……！」

そんなに大きな声で重大な秘密を話されたらますますここに置いておける訳がない。

相変わらずのお馬鹿加減に呆れてしまう。

「オリーブ、伯爵家のためにありがとう。気をつけて。エリオット様には出産したら連絡しておくから」

私はオリーブを半ば強引に馬車に押し込んだ。

身の回りの世話は、引き続きオリーブ付きの侍女が行う。領地には一応家令と使用人が2名いるから問題ないだろう。

私はオリーブの侍女にくれぐれも出産するまでは誰にも会わないよう釘をさした。

侍女は一瞬ビクリとしたがすぐに頷いた。
それもそうだろう。

もし出産するまでに誰かにその姿を見られたら大問題だ。

「あなたの家族の面倒は見ておくから安心して」

私は最後にそう耳元で囁いた。

上手くいけば報奨、失敗すれば……。

荷物が次々と運ばれていく。

出産したらすぐに赤子だけこちらに運ぶ予定だ。

こちらでもお母様が万全を期して臨むらしい。
(まあ、お母様の実子ですからね……)

馬車の中からエリオット様を呼んでこい、と喚き散らすオリーブを無視し、私はヘンプリンの解毒に関して頭をなやませていた。

(……しっかし、うるさいわね……)

キャンキャン泣くならまだ犬のほうが……。
いや、犬に失礼だった……！

何とかオリーブを見送ると、私はその足でカイトとロデムに会う手筈になっていた。

何でも、解毒薬がすでに開発されている可能性があるらしい。

その話を聞きに師匠の元に急いだ。