銀色のクマ

リューク

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校舎の裏

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 無数の雑草が生い茂る校舎の裏の奥。五十センチほど高さのあるレンガに囲われたゴミ捨て場は、校内であることを忘れるほど人の気配がなかった。様々な大きさのゴミ袋が、満員電車みたく窮屈そうにしている。意を決して乗車するかのように、深い息を吐きながら足を運んだ。

 順にゴミ袋の口を開いて中を調べていく。教室にあるゴミ箱の三倍以上入りそうな大きさの袋。腕をめいっぱい入れないと、奥の方までは届かない。

 キラッと光るものが視界に入る度、ストラップが見つかったと胸が弾む。破れかけたアニメキャラクターのシール。流行っているらしい、バトルカードのラメ。錆ついたパチンコの玉。学校に関係ないものを持ち込むことに口うるさい先生を鬱陶しく思っていたが、今は賛成派に転じた。

 ゴムがくたびれて切れたヘアゴムを見つけると、さっきの奈美の変わった様子が気になった。急にパン屋に行けなくなったから、怒ったのかもしれない。でも奈美も用事ができたと言っていた。何か別に嫌なことがあったのか。魚の小骨がいつまでも喉に引っかかっている感じがする。そういえば今日の給食はサバの味噌煮だったかと、今更ながら味を思い出した。

 なかなか集中できない。それでもカラスが食べ物を探すように、ガサガサとゴミ袋の中を調べていった。
五時半を町中に知らせる「赤とんぼ」のメロディーが響き渡り、驚いて肩がビクッと震えた。見上げると、夕日を照らした校舎が鈍いオレンジ色に染まっている。

 ずっとしゃがんで痺れてしまった足を休めようと、近くのレンガの塀に座る。本当にカラスがイタズラしたような光景を見回すと同時に、手が発する異様な臭いに気がつく。今まで嗅いだことがないくらい独特で、何て言い表せばよいか分からない。額に汗が垂れてきたが、手でぬぐおうとはしなかった。

 ゴミ袋の口を閉じて腕をこまめに洗い、帰りながら通学路を探すことにした。コンクリートに敷かれた落ち葉を蹴り散らしながら、光り物がないかと目を凝らす。好き放題変色した枯葉が、カサカサと音を立てて地面から飛び上がる。たまに虫が潜んでいると、小さく悲鳴をあげてしまった。しばらく歩き、曲がり角の脇に誰かが掃き集めた落ち葉の山を見つけた。足を棒の替わりにゆっくりと突っ込んで探していると、通りがかりのお爺さんに叱られた。

 拾われていない限り、もう学校にはない。そしてストラップを失くした日から、通学路も調べている。日が経つほどに見つかる可能性が低くなる。もう、家しかない。

 はねた毛先をいじりながら、柵越しに公園へ目をやる。小さい時はお母さんとしょっちゅう来ていたが、三年生からは奈美と遊ぶ庭になった。滑り台・ブランコ・鉄棒が囲む中、まだ帰りたくないと叫ぶ男の子を前に、母親らしき人が困った表情を浮かべている。

 今日は珍しく、クラスの女子が公園に集まっていることに気がついた。早くストラップを見つけて、奈美と何も気にせず遊びたい。そう思いながら地面を探そうとした時、何かが視界に引っかかった。再び顔をグンと公園の方へ向ける。

「奈美……」

 思わず口に漏らした。奈美が他の女子とスマホを片手におしゃべりしている。

 いいよ、あたしも用事できたし。

 渇いた言葉が頭で再生された。用事って他の子と遊ぶ約束? いや、別におかしくはない。今日あたしが一緒に帰れなくなって、違う人と遊んでいる。ただそれだけだ。うん、ただそれだけ。

 おまじないの様にそう繰り返していると、一人の女子と目が合いそうになった。思わずビクッとして顔をそむけてしゃがみ、見つからないように小走りを始めた。

 なんで? なんであたし逃げなきゃいけないの?

 汗がじっとりと首筋を伝った。すぐに息があがり始める。夕日に作られた長い影が、小走りを続ける体にピッタリとついていく。
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