銀色のクマ

リューク

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自分の部屋

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 その夜も、家の隅々までストラップを探した。お母さんに聞いても知らないと言われ、ついでに「もう遅いから寝なさい」と怒られた。

 仕方なく二階へ上がり、自分の部屋に戻る。見慣れた居場所をざっと見回してみた。ドアの真正面に勉強机があり、その横に木製のクローゼット。机に向かって右側の窓の下には、クリーム色のシーツが敷かれたベッドがある。枕の傍には、幾つかのぬいぐるみが仲良くお座りしている。その中でも、あのテーマパークのクマだけベッタリと枕へ寄り添っていた。期間限定品とは違い普通の茶色をしているが、モコモコと柔らかい感触が可愛い。ゲームセンターのUFOキャッチャーで、奈美と協力して勝ち取った戦利品だ。

 まだ起きていると親に気づかれないよう、なるべく静かに机を動かして裏を覗き込んだ。埃が不気味に舞い踊る中、見えたのはだらしなく伸びきった輪ゴムと緑色のビー玉だけだった。三十センチ物差しを使い、腕を伸ばして床の隅からかき出す。手に取ってゴミ箱の上で埃を叩いていると、昼間の青いハンカチを思い出した。

 結局落し物届にもなかった。教室にもゴミ袋の中にもなかった。通学路や自分の家でも見つからない。このままだったら、どうしよう。椅子にグッタリと座りながら体をよじり、クマに目をやった。

 奈美とは九歳の時からお絵描きをしたり、プールに行ったりして遊ぶようになった。六年生になってからは、親にねだって買ってもらったスマホのアプリで、メッセージを毎日送り合っている。初めの月はよく電話をかけていたが、請求書を見てお母さんが顔を真っ赤にした。それからは、お金が掛かりにくいメッセージのやり取りが中心になった。たいして中身のない内容でも、変な冗談やカラフルな絵文字で飾られたメッセージは、送るのも受け取るのも楽しい。

 そういえば、今日はメッセージを確認していない。ランドセルの中からスマホを取り出し、画面を開いた。

 新着メッセージなし。

 スマホに操られたかのように指が動き、メッセージの作成画面を表示した。点滅するカーソルをグッと見つめながら、色々な言葉を思い浮かべる。でも上手い切り出し方が見つからない。いつもは三十秒も掛からず文章ができあがるのに。気がつくと画面の時計は日付を変えようとしていた。

 あんまり夜遅いと迷惑かもしれないな、と自分に言い聞かせ、スマホを机の上に置いた。ベッドに入ってさっさと寝ようとしたが、公園で見た風景が瞼の内側のスクリーンで再生される。なかなか眠りにたどり着けず、何度も体の向きを変える。家の近くのお店は明かりを消し、空には一つも星が見えない。窓越しの景色が見えないよう、クマのぬいぐるみを顔に近寄せた。
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