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初級者用ダンジョン編
【5】千霊剣
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漆塗りの珈琲盆に乗せたカップを配る最中、その視線はエルに釘付けである。
宝石と揶揄される翡翠色の双眼。その双眼に映る管理人の姿。小精霊は頬を薄く染め、うっとりと唇と開けた。
「珈琲です、エルさん」
「私もいるぞ、エヴァ」
「僕もいます、エヴァさん」
怪訝な顔をする二人など片隅にも映らず、エヴァは「はあ」と艶やかな吐息を漏らし、盆を抱く。レヴィは「はあ」と多量の溜息を漏らし、頭を抱える。
高能回復薬は一本銀貨二枚に変わった。一箱十五本、計銀貨三十枚、つまり一万$紙幣三枚分。更に謝礼として、魔素玉各種三個の色が付いた。
実際は謝礼とは建前で、迷宮に『魔法属性(氷)限定』『被ダメージ(氷)半減』の追加機能を付与した為、魔素玉が不要品になった、と言うのが本音である。
「冒険者様には酷な話だな」
「”白麗の奏”の名に劣らぬ為さ」
この追加機能について補足説明をするならば、この『魔法属性(氷)限定』により冒険者は氷属性以外の魔法使用不可と言う制限が発生し、魔物は『被ダメージ(氷)半減』により氷属性の魔法耐性が付加される。
要約すれば、優位な環境作り、である。
「まあ難攻不落な迷宮に冒険者が寄り付かない、何て話は少なくないが、あの美しさ見たさに客足が途絶える事もないんだろうな」
「(い、いいいいい、いま、いま、う、美しいって言われた…っ)」
「雑誌記者の足も途絶えないがな」
「ああ、今週の週間ダンジョン見たよ。これで十四週連続表紙か。従業員の副収入があるのは正直羨ましいな。俺も欲しいよ」
「(わ、わわわわ、私の事、私の事っ、ほ、ほほ、欲しいって、それって、もしかして…っ)」
物陰に隠れる禁断の小精霊のエヴァ。顔一面を木苺の様に赤く染め、漆黒のドレスから零れそうな胸元に手を添える。
深呼吸、深呼吸、深呼…───。
「仕事だ、エヴァ」
「きゅうっ」
華奢な肩を跳ねさせる刹那、エヴァの視界を白銀の世界が奪った。
其処は見慣れた景色。石造りの外壁、戦士達の残骸、血すらも白く染める円形闘技場。禁断の小精霊が君臨する、白麗の奏の最終区画。
そして、其処に同じ様にして立つ、エル・ディアブロム。
「管理人、これは一体」
通信魔法を展開させ、愛しきあの人がこの戦場に立つ理由を問う。
「体験したいんだと。お前を」
「わ、私を体験したい…?」
頭を抱える管理人を余所に、心臓が躍動するのを感じる禁断の小精霊。
だが、愛する人と血肉を削る争いなど…───いや、だがしかし”結ばれぬ運命にある二人が戦場で出会う”と言う展開は存外悪くない。
葛藤が葛藤を生む。葛藤の連鎖、葛藤の螺旋は彼女を苦しめる。
その苦しみは、管理人のたった一言で解放される事になった。
「お前の力を証明出来れば、デートを約束するそうだ」
「───…Yes、ma'am」
目の色が変わる。と同時、黒のドレスは突如無数の繊維と化した。小精霊は魔力の操作術に長けた種族である為、衣類や装飾品は魔素の繊維から拵える。
黒の繊維は見る見ると形を変え、その体躯に纏い始めた。やがて優美なドレスは、機能性を重視した小精霊族の伝統衣装へ。
「準備はいいか、エヴァ」
「待っていて下さったのですか。お優しい…────いえ、随分と余裕なのですね」
「好奇心だよ」
悠々と構えるエル。禁断の小精霊は表情を変えず、掌を前に翳した。
その瞬間、禁断の小精霊の頭上に十数本の結晶の剣が召喚される。
光を反射し神秘的な輝きを見せる芸術。
その切っ先はどれもエルを指している。
結晶の剣は、二十、三十と数を増し、幻想的な光景が広がってゆく。
「これが”千霊剣”。”光の小精霊”の膨大な魔力、繊細な魔力操作術と”闇の小精霊”の圧倒的な格闘技術、唯一無二の武器召喚術を兼ね備えた、禁断の小精霊の力か」
「お待たせしました。エルさん、いきます…────っ」
宝石と揶揄される翡翠色の双眼。その双眼に映る管理人の姿。小精霊は頬を薄く染め、うっとりと唇と開けた。
「珈琲です、エルさん」
「私もいるぞ、エヴァ」
「僕もいます、エヴァさん」
怪訝な顔をする二人など片隅にも映らず、エヴァは「はあ」と艶やかな吐息を漏らし、盆を抱く。レヴィは「はあ」と多量の溜息を漏らし、頭を抱える。
高能回復薬は一本銀貨二枚に変わった。一箱十五本、計銀貨三十枚、つまり一万$紙幣三枚分。更に謝礼として、魔素玉各種三個の色が付いた。
実際は謝礼とは建前で、迷宮に『魔法属性(氷)限定』『被ダメージ(氷)半減』の追加機能を付与した為、魔素玉が不要品になった、と言うのが本音である。
「冒険者様には酷な話だな」
「”白麗の奏”の名に劣らぬ為さ」
この追加機能について補足説明をするならば、この『魔法属性(氷)限定』により冒険者は氷属性以外の魔法使用不可と言う制限が発生し、魔物は『被ダメージ(氷)半減』により氷属性の魔法耐性が付加される。
要約すれば、優位な環境作り、である。
「まあ難攻不落な迷宮に冒険者が寄り付かない、何て話は少なくないが、あの美しさ見たさに客足が途絶える事もないんだろうな」
「(い、いいいいい、いま、いま、う、美しいって言われた…っ)」
「雑誌記者の足も途絶えないがな」
「ああ、今週の週間ダンジョン見たよ。これで十四週連続表紙か。従業員の副収入があるのは正直羨ましいな。俺も欲しいよ」
「(わ、わわわわ、私の事、私の事っ、ほ、ほほ、欲しいって、それって、もしかして…っ)」
物陰に隠れる禁断の小精霊のエヴァ。顔一面を木苺の様に赤く染め、漆黒のドレスから零れそうな胸元に手を添える。
深呼吸、深呼吸、深呼…───。
「仕事だ、エヴァ」
「きゅうっ」
華奢な肩を跳ねさせる刹那、エヴァの視界を白銀の世界が奪った。
其処は見慣れた景色。石造りの外壁、戦士達の残骸、血すらも白く染める円形闘技場。禁断の小精霊が君臨する、白麗の奏の最終区画。
そして、其処に同じ様にして立つ、エル・ディアブロム。
「管理人、これは一体」
通信魔法を展開させ、愛しきあの人がこの戦場に立つ理由を問う。
「体験したいんだと。お前を」
「わ、私を体験したい…?」
頭を抱える管理人を余所に、心臓が躍動するのを感じる禁断の小精霊。
だが、愛する人と血肉を削る争いなど…───いや、だがしかし”結ばれぬ運命にある二人が戦場で出会う”と言う展開は存外悪くない。
葛藤が葛藤を生む。葛藤の連鎖、葛藤の螺旋は彼女を苦しめる。
その苦しみは、管理人のたった一言で解放される事になった。
「お前の力を証明出来れば、デートを約束するそうだ」
「───…Yes、ma'am」
目の色が変わる。と同時、黒のドレスは突如無数の繊維と化した。小精霊は魔力の操作術に長けた種族である為、衣類や装飾品は魔素の繊維から拵える。
黒の繊維は見る見ると形を変え、その体躯に纏い始めた。やがて優美なドレスは、機能性を重視した小精霊族の伝統衣装へ。
「準備はいいか、エヴァ」
「待っていて下さったのですか。お優しい…────いえ、随分と余裕なのですね」
「好奇心だよ」
悠々と構えるエル。禁断の小精霊は表情を変えず、掌を前に翳した。
その瞬間、禁断の小精霊の頭上に十数本の結晶の剣が召喚される。
光を反射し神秘的な輝きを見せる芸術。
その切っ先はどれもエルを指している。
結晶の剣は、二十、三十と数を増し、幻想的な光景が広がってゆく。
「これが”千霊剣”。”光の小精霊”の膨大な魔力、繊細な魔力操作術と”闇の小精霊”の圧倒的な格闘技術、唯一無二の武器召喚術を兼ね備えた、禁断の小精霊の力か」
「お待たせしました。エルさん、いきます…────っ」
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