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王都への旅路 〜遊郭の街ゲーテ〜
69.おっさん、再会する
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翔平とはぐれて4時間が経とうとしていた。
そろそろ21時になり、どの店も出入りが多くなり、ガラス窓の中にいる娼婦や男娼も次々に入れ替わって行く。
「一旦戻るか…」
グレイが、1人呟いてスカーレットの店へ足を向ける。
このまま見つからなかったら…。そう考えて、ゾッと悪寒が背筋を走る。
そんな考えを打ち消すように、走ってスカーレットの店へ急いだ。
正面入口から中に入り、自分に気付いた黒服がすぐに近付いてくる。
「見つかりましたよ。こちらで保護しています」
早口で言われたその言葉に、深い安堵のため息をついた。
「良かった…」
一気に力が抜けて、両膝に手をついて深呼吸する。
「どこに?」
すぐに背筋を伸ばして執事に向き直る。
「こちらです」
そう言って駆け足で案内された。
「あ、グレイ」
部屋のドアを開け、中に通されると、中に居た男娼に声をかけられた。
「……ショーヘーか…?」
胸元から首まではだけた真っ赤な着物を着て、さらに顔には化粧。一瞬誰だかわからなかった。
「あはは…おもちゃにされちゃってさ」
かなり脱力した笑いを漏らしながらソファから立ち、着せられた赤い衣装の振袖のような長い袖を広げて見せた。
「…良かった」
その自分の姿に笑うことなく、安心したような、泣きそうな顔をして近付くと、ギュッと抱きしめられる。
「本当に良かった…」
グレイの胸に顔を押し付けられて、ものすごい強さで抱きしめられ、あまりの強さに痛い痛いと言うと、慌てて腕を離された。
「ああ、あいつらにも知らせないと」
少しだけ涙ぐんでしまった顔を隠すように、そう言って窓に近付き開けると、腕を外に突き出して、ポンと赤い光の玉を空へ打ち上げる。
「何それ」
自分も窓のそばに寄り、空へ打ち上げられた光の玉を見上げた。
照明弾のように赤い光が上空に浮かんでいる。
「俺ら3人の合図だ。気付いてくれるといいが」
「へぇ」
「どうやってここに来たのかは、あいつらが来てから聞くことにするわ」
そうして、空に浮かぶ赤い光を2人で見つめた。
何処を探しても見つからない。
通り沿いの店の人間に確認しても、誰も翔平を目撃した者がいない。
どんどんと焦りが募る。
今頃、大変な目にあっているのかもしれない。
すでにこの街から連れ出されてしまったのかもしれない。
時間が経つにつれて、思考が悪い方へ悪い方へと向かってしまうことを、必至に押さえ込んで、探し続ける。
心を襲う、恐怖に似た不安。
通りを歩く、無関係な人たちまで怪しく見えてくる。
どこにいるんだ。
今にでも頭を抱え込んで泣き叫びそうになるのを堪える。
涙を堪えるために、空を見上げた。
そして視界に入る、子供の時から何度も見たことのある赤い光。
そんなに強い光ではないが、夜空にはありえない赤という色がはっきりと見えた。
その光を見た瞬間、全身が一気に逆立ち無意識に走り出す。
ぶつかりそうになる人達をすばやくよけ、障害物をかわし、真っ直ぐにスカーレットの店に向かう。
「ロイ!」
途中で同じく光を見つけたディーが後ろから追いついてきた。
「貴方じゃなかったんですね」
斜め後ろまで追いつかれて、上空の赤い光がロイが放ったものではないとわかった。
「グレイか」
残りはグレイしかいない。
彼が見つけて連絡してくれたのだ。
店に飛び込むように入ると、執事が待ちかねたように、こちらです、と駆け足で案内してくれる。
すでに店の中は多くの客で溢れて、娼婦や男娼たちも、その客に寄り添い、自ら体をすり寄せてアピールしている。
そんな中突然現れた大慌ての2人にみんなが驚き、逃げるように道を開けてくれた。
はやる気持ちを抑えて階段をかけあがり、廊下を進む。最早走っていた。
追い抜かされそうな勢いの2人に、執事が一番奥の応接室です、と伝えると、一目散に執事を追い抜き、2人がその扉を勢い良く開ける。
「ショーヘー!」
バタンと勢いよく開けられた扉が大きな音を立て、その音に、窓から上空の赤い光を見上げていたショーヘーがビクッと反応した。
振り返り、2人の顔を見る。
「ショーへー…?」
「ショーヘイさん…?」
2人がポカンと口を開けたまま目をぱちくりさせた。
しばらく静寂が訪れる。
「あ…あの、お姐さんたちに遊ばれちゃって…こんな格好に…」
何も言わない2人に言い訳するようにあははと乾いた笑いを漏らしたが、次の瞬間。
「うわ!」
ロイとディーの鼻からたらりと血が流れた。
それを見たグレイが爆笑してソファでのたうち回る。
「は、鼻血!」
慌てて拭くものを探すが、この世界にティッシュのようなものはなく、狼狽えた。
借物の服で拭くなんてことは出来ず、とりあえず、身近にあった、笑い転げているグレイの袖を掴むと、魔力を込めた腕で思い切りひっぱり、ビリリリと勢いよく両腕の袖が肩から破け、驚いたグレイがなすすべなく、シャツの両袖を翔平に奪い取られた。
「垂らすな!拭けよ!」
2人の顔面にグレイの元袖をそれぞれ押し付けて、グリグリと鼻を押さえる。
「な、なんて格好を…」
「ショーへー、エロい」
鼻を押さえられながら、2人の腕が自分へ絡みつき、そのまま抱きしめられた。
「お、おい!!」
2人に抱きしめられ、どんどん体重をかけられ、重さに耐えられなくなって、そのまま床に倒れた。
「ちょっ…、重い」
2人の鼻を押さえながら、のしかかられて身動きが取れない。
「あらあら」
ロイ達が戻ったと聞いたスカーレットが、開けっぱなしのドアのそばに立って、足元に転がる3人見下ろして笑う。
「離れろって」
なんとか2人から逃れようとするが、びくともしない。
「グレイ!笑ってないで助けろ!」
言われたグレイが笑いながら、ソファから立ち上がると、ベリッと音を立てそうな勢いで、2人を自分から引き剥がしてくれた。
「ショーヘー~」
「ショーヘイさ~ん」
グレイに剥がされてもなお、手を伸ばして自分を触ろうとする2人を尻目に、立ち上がって、乱れた衣装を直す。元々着崩して着付けられた着物がさらに乱れてしまって、はだけて足が出てしまった合わせを元へ戻した。
「鼻血拭け」
手を離したせいで、再び鼻血が垂れた2人に顔を顰める。
「あはははは。なぁに、恋人の色っぽい姿見て鼻血出しちゃったわけ?」
若いわねぇと、ロイとディーの顔を見て、楽しそうに笑う。
そして、部屋の隅にあったキャビネットの引き出しからガーゼのような布を取り出すと2人に渡した
「とりあえず、座れや」
グレイが笑いを堪えながら、まるで猫のように首の後ろを掴んで、2人をソファへ座らせるが、手を離すとまた翔平の側へ行こうとするので、上から肩を押し付けて動かないようにする。
「ショーヘー、こっちに座れ」
そう言われて、仕方なくロイとディーの間に座る。
「せま!」
座った瞬間2人に寄って来られて、ぴったりと体を寄せられ腕が自分の腰や肩にまとわりつく。
「見つかって良かったわね」
スカーレットが向かい側のソファに座り、翔平をベタベタと触りまくるロイとディーの姿に目を細めた。
「すまんな。落ち着くまでもうちょっと待ってくれ」
「いつもこうなの?」
向かい側で鼻を押さえながらも、左右から翔平を抱きしめて、頬へキスしたり匂いを嗅いだりする2人に、クスクスと笑いを堪える。
されている翔平がとても迷惑そうにしていて、その温度差も面白い。
「まぁ…こんなもんだな」
呆れたようにグレイが答える。
「お前ら、もういい加減にしろよ」
少し低めの声で2人を諌めるように呟くと、自分を弄っていた2人の手がピタリと止まる。
そして、スッと密着していた体を少しだけ離すと、ソファに改めて座り直した。
「上手に躾けてるわね」
ふふふとスカーレットが笑う。
これでようやっと話が出来ると、ふぅと息を吐いた。
4人で応接室から食堂へ移動し、少し遅めの夕食をとりながら、はぐれてから今までの話をした。
「ほんと肝が冷えました。見つかって本当に良かった。後でそのミーナさんへお礼をしないと」
「そうだな。それにしても運がいい」
グレイがムシャムシャと口を動かす。
「そうね。貴方の日頃の行いがいいせいかしら」
スカーレットが微笑みながら果実酒を口にする。
「それにしても驚いたぜ。お前のかっこ。一瞬誰だかわからなかった」
グレイが笑う。
「うちの子達がショーヘイちゃんを気に行っちゃって。
可愛い子には目がないから。
もう貴方達の連れじゃなかったら、全力で勧誘してるところよ」
コロコロとスカーレットが笑う。
「絶対に売れっ子になるわよ。
どう?うちはかなり高待遇よ」
そう言って、美しい顔でウインクされて頬を染め、笑って誤魔化した。
ロイとディーはムッとしてスカーレットを睨みつけるが、彼女はクスクスと笑うだけだ。
「それにしても、ショーヘイちゃん。この子達の相手は大変でしょう」
クスクスと笑う。
「ええ、まぁ…」
ちゃんづけで呼ばれたことがいささか引っ掛かる。
「体、大丈夫?この子たちに相手を悦ばせる術を叩き込んだから、気持ち良いでしょう?SEX」
はっきりと言われた内容に、一気に全身を真っ赤に染めた。
今にも噴火しそうになる顔を隠すように縮こまる。
「ロイもディーもグレイも、15歳だったかしら? ここで筆下ろししたのよね?」
そうあっけらかんと告白されて、3人がスカーレット!と大きな声を出し、自分も面食らった。
「別に言わなくてもいいでしょう!」
「バラすなよ!」
「あらいいじゃない。ショーヘイちゃんも聞きたくない?」
そう言われて、スカーレットと3人を見る。
慌てふためく3人を見るのは楽しい。いつも揶揄われる立場だから、スカーレットにやり込められる姿は楽しいと思う。
「ギルバートに連れられて、この店の子たちに相手してもらったのよ。
晴れて童貞卒業、おめでとう」
そのスカーレットの言い方にクスッと笑った。
それにしても、ギルバートなりの性教育なんだろうが、実地教育というのはいかがなものかと思ってしまった。
「まぁ、それでも、すぐにこの子たちに店の子が潰されることになったんだけどね。
もうやりすぎよ。
2、3日使い物にならない子までいて大変だったんだから」
大損よ、大損、と笑いながら言い、3人が黙って俯く。
「あははは…」
赤裸々なスカーレットの言葉に笑うしかない。
「ショーヘイちゃんも大変よね。2人を満足させるまでって言ったら、寝られないんじゃない?
次の日歩ける?」
グッと言葉に詰まって、カアァッと真っ赤になった。
「スカー。もうやめてやれ」
ロイが苦笑いする。
「あら。まさかプラトニックな関係なの?
まさか…、まだ処女なんじゃ…」
そう言われて、恥ずかしさに悶絶しそうになって、さらに赤くなって縮こまる。
3人が揶揄われる所を見たいと思って黙っていたが、結局は自分も思い切り揶揄われた。
スカーレットは楽しそうに少女のようにコロコロと笑った。
「冗談よ。ごめんなさいね、ショーヘイちゃん」
コロコロと笑い、楽しいのかどうか微妙な空気のまま食事が終わった。
「今日は泊まっていくでしょ?」
そう言われ、ここに泊まることに自分はかなり焦る。
確かにもう他の宿を探す時間ではない。だが、ここは宿ではなく、男女を買うための店であって、部屋を取るということは、それだけ店側は損をするはずだ。
「部屋はもう開けてあるから、泊まっていきなさいね」
有無を言わさない笑顔で言われ、断れずに全員頷いた。
その後、ミーナの仕事部屋に向かい、3人を紹介した。
「ショーヘーの彼氏って英雄ロイ様なの!?」
大声で叫ばれ、大口をあげて仰天される。さらにもう1人の恋人がこの国の第三王子と知り、もう驚きすぎて声が出せなくなっていた。
だが、ハッと我に返り、いきなり謝り出す。
「す!すみません!大切なお方をおもちゃに!」
ミーナな自分に化粧したことを謝罪し、そのセリフでやっぱり自分をおもちゃにして遊んでたんだと、自ら認めたことに笑った。
だが、2人がズイッとミーナに近寄りその手を握った。
「よくやってくれた」
「いい仕事してくれました」
「え?あ?はぁ」
素晴らしいと2人に詰め寄られてミーナが戸惑いつつ、ハハッと笑った。
「でもほんと良かったね、ショーヘー」
「ありがとう、ミーナ」
そう言いつつ、キュッとミーナに抱きしめられて、子供のような小さな体を抱きしめ返す。
その後ろでロイとディーがジト目で自分を見ていて、明らかに嫉妬している視線に呆れてしまった。
スカーレットに案内されて用意してくれたという部屋に案内される。
その途中、自分をおもちゃにした娼婦たちにも会い、ロイが恋人だったとわかって驚かれつつも、羨望の眼差しを向けられた。
だが、ロイの彼氏という羨望ではなく、ロイとSEX出来るという羨望だということに、娼婦の1人に耳打ちされて気付かされ、娼婦や男娼たちの間で、ロイがかなりの床上手で噂になるほどだと知った。
たった数十分の間に入ってきた情報量の多さに頭が混乱してくる。
「グレイは1人でいいの?誰かつける?」
「いや、いい」
グレイが渋い顔をする。
「あら、いいの?」
スカーレットが意外という顔をしたが、グレイの後ろでニヤニヤしている自分たちに気付いて察したらしい。
「貴方にもいい人が出来たのね。おめでとう。でも1人寝が寂しかったらいつでも言ってね」
そう言いながらポンとその胸を叩く。
スカーレットに本命がいるとバレたと気付いたグレイがバッと後ろを振り返るが、わざとらしく視線をそらし、そっぽを向きつつほくそ笑んだ。
そして、廊下の最奥。案内された部屋を見て入り口で唖然と立ち尽くす。
部屋の中央にある赤いシーツの大きなベッド。
壁や天井、衝立に描かれている様々な性行為の体位。モザイクなど一切ない男女や同性同士の性行為が描かれた絵に、どこを向いても目のやり場に困ってしまい、結局赤くなって俯いてしまった。
ロイとディーは平然としているが、自分はかなり動揺してしまう。
ここがどういう部屋なのかは一目瞭然で、きっとスカーレットは気を効かせたつもりなのだろう。
だが、自分はこういうあからさまなものにはまだ抵抗がある。
気を遣ってくれたのだろうが、自分はまだ3人での経験がない。目下のところ心の準備中だ。
スカーレットがそんな自分を見て目を細めた。
「ねえ、ちょっとショーヘーちゃん借りるわね」
「変なことするなよ」
「変なこと教えないでくださいよ」
「失礼ね。ちょっとお話するだけよ」
そう言いつつ、スカーレットにおいでと言われて後をついていく。
再び廊下を歩いて、すれ違う客や娼婦、男娼の艶かしい姿にますます、ここがそういう店だと改めて体を強張らせた。
スカーレットに案内されたのは、建物の隅にある小さな個室だった。
4畳半ほどの和室のような小さな部屋で、椅子やテーブルはなく、床に座布団と鏡台が置かれているだけだった。
「この部屋、どう思う?」
そう聞かれて部屋を見る。
先ほどのあからさまな部屋と違い、こぢんまりとした部屋だが、妙に落ち着くと思った。
障子のような窓枠に、掛け軸のような長さのある絵。生けられた花。
「なんか…落ち着きます…」
そう言うと、スカーレットが嬉しそうに微笑み、どうぞと座布団を勧められて、そこに正座する。
スカーレットも前に座り、鏡台のとなりあった茶器を引き寄せるとその場でお茶を入れ始める。
「ここはね、私の恋人の部屋だったの」
そう言い、ゆっくりとした動作だが、美しい所作でお茶を湯呑みに注ぐ。
「恋人…」
「もう亡くなったのだけれど。彼女と一緒にこの街を作ったの」
この街を作ったと聞いて、ディーから聞いたジュノーの存在を思い出す。
「チヨという名前よ」
スッとお茶を膝の前に置いてくれた。
「頂きます」
熱いから気を付けて、とスカーレットが微笑む。
「チヨはジュノーだったの。この国ではない別の遠い所で見つかって、捕えられて、性奴隷にされた」
静かに話す内容に、心を鷲掴みにされた。ついこの間、同じくジュノーだったチャールズが性的暴行を何年も受けていたことを思い出し、言葉が見つからない。
「私も性奴隷だったのよ」
スカーレットの言葉に驚いて、その美しい顔を見た。
「同じ奴隷商の元で出会って、同じ貴族に買われたの。彼女は前にいた世界のヨシワラという所で体を売って働いていたと言っていたわ」
それを聞いてやっぱりこの街は吉原をモデルに作られたんだと納得できた。
「彼女は強かった。
体を弄ばれていても、その尊厳を失うことはなかった。
彼女はSEXを武器に強く生きることを教えてくれたの。
体を売るという行為が蔑まれるものではないと教えてくれた。
彼女がいなければ、私はとっくに狂っていたでしょうね」
スカーレットが遠い日を思い出すように、空を眺める。
チヨとスカーレットは他国の貴族の元で性奴隷として生き、ある時、戦争の混乱に乗じて逃げ出した。
流れ流れて、この地へ辿り着き、チヨの知識と性技を駆使してこの国の貴族や豪商に取り入ったという。
気付けば、奴隷紋は消え、自分たちでこの店を作った。
奴隷落ちしそうな子を買い、体を売らせてはいるが、奴隷のような扱いは絶対にしなかった。
教育を施し、品格を身につけさせ、たくさんの子を見受けという制度で嫁がせて行ったという。
気が付けば、自分達のルールは街に受け入れられ、真似をする店が増え、いつしかここは遊郭になった。
スカーレットは言う。
「体は売っても心は売らない。大切な人が出来るまで、生涯をかけてもいいと思える伴侶が見つかるまで、心だけは綺麗なままで。そううちの子には言い聞かせてるのよ」
ものすごく安っぽいセリフに聞こえるが、今までそうやって数百年生きてきたスカーレットの言葉には重みがあった。
「私はチヨを愛していたわ。彼女が亡くなっても、私はチヨだけを愛し続けるの」
そう言って笑ったスカーレットは美しかった。
「ねえショーヘイちゃん。SEXは嫌い?」
「え?」
「貴方、まだあの2人と寝てないんでしょ?」
その言葉にカアッと赤面した。
「ロ、ロイとは…何度か」
思わず答えてしまい、ますます赤くなる。
「ディーとはまだなの?」
そう聞かれて、最初はロイと付き合っていたが、ディーとはまだ付き合い始めて日が浅いことを素直に伝えた。
「あら、そうなのね。私はてっきり最初から2人同時に貴方と、と思ったけど…」
スカーレットが少し考える。
「ああ、なるほど。ディーは遠慮してたのね」
小さく呟いて、1人で納得する。
「きっとディーは貴方とロイが愛し合う姿を見て、一度は身を引いたんでしょう。あの子らしいわ」
その言葉にズキンと心が跳ねた。
スカーレットは2人のことを良く理解している。
だから、ディーが翔平への想いを押し殺して、ロイと翔平の幸せをまずは第一に考えたのね、と理解した。
「不器用な子よね。王位継承権を放棄したのも、ロイと一緒にいるため。
ロイの幸せはあの子の幸せでもあるのね」
そう独り言のように呟いて、悲しそうに笑う。
その言葉に、先日グレイにも同じことを言われたことを思い出す。
ロイはディーゼルで、ディーゼルはロイ。
愛情以上の2人の繋がりに、心がかき乱される。
「ねぇ、ショーヘイちゃん」
スカーレットが顔を上げる。
「貴方、ニホン人、よね?」
唐突に言われて、真顔になった。
しばらく間が開いて、ゆっくりと何を言われたのかを考える。
「…ぇ…」
そして数十秒後に言われた言葉を理解した。
「ニホン人なんでしょ? チヨと同じ、ジュノーなのね」
「…どうして…」
「雰囲気がね…、チヨに似てるの」
スカーレットの目に涙が浮かぶ。
「優しくて、温かい、誰もが惹きつけられる雰囲気。
でも、優しいだけじゃない。
芯が通った強い意志を持った黒い瞳」
スカーレットが静かに涙を流した。
「似てるのよ。とても」
両手で顔を覆う。
「貴方のそのキモノ。チヨが作ったの。彼女がいた世界で、チヨが着ていたのを、この世界でも作ったの」
そう言いながら嗚咽を漏らす。
「貴方を見て、彼女をすぐに思い出したわ。彼女もよくその赤いキモノを着ていた」
静かに肩を震わせて泣くスカーレットに胸を締め付けられる。
思わず、座っていた状態から、彼女へ手を伸ばし、その細い体を抱きしめた。
「チヨ…。チヨ…」
スカーレットが泣き止むまで、ただ彼女を抱きしめ続けた。
「ありがとう。ごめんなさいね。また知り合って数時間しか経ってないのに、こんなこと」
美しい仕草でそっと涙を拭い、笑顔を作る。
「貴方達の世界のこと、ニホンという国のこと、チヨから教えてもらったわ」
そう微笑み、じっと自分を見つめる。
「貴方は、この世界に戸惑っているんでしょう?
ニホンという国は、男女の関係が正しくて、同姓同士というのは異端だとチヨから聞いたの。
ヨシワラでは、男娼の店もたくさんあったと言っていたけど、影間と呼ばれてあまり大っぴらに出来ない性癖だったそうね」
「…はい。同性愛は、差別の対象でした…」
「苦しんだでしょう。この世界の常識に」
そう言われて、グッと口を真横に結ぶ。
「重婚も認められない。1人で複数を愛することもタブー。
この世界とは180度違うわね」
「そうですね…」
スカーレットはチヨから日本のことを聞いて、ちゃんと理解していた。
そんなチヨと同じ日本人である自分のことも理解しようとしているとわかって、複雑な感情が湧き起こる。
「それでも、貴方はロイを愛した。ディーを愛したのね」
「…自分でも驚いています」
スカーレットとは視線を合わせず話す。
「俺は、元々女性が恋愛対象で、男から恋愛感情を向けられたり、性的に迫られるなんて一度もなかった。
でもこの世界に来て、ロイとディーに好きだと言われて、いろんな男から性的な視線を向けられて…」
何度か、いやらしい目で舐め回すように見られた経験を思い出してゾッとする。
「今もまだ…戸惑ってます」
「そう…」
スカーレットが悲しそうに答える。
「でも、俺はロイが、ディーが好きです。愛してます」
今度ははっきりとスカーレットの目を見て言った。
「これはもう、常識とかそういうのは無しにして、俺の正直な気持ちです。
2人を愛してます」
じっと彼女の目をみると、スカーレットは嬉しそうに微笑む。その美しさに吸い込まれそうになった。
「けど…、まだ体がついていってないという所かしら」
見透かしたようにスカーレットに言われて苦笑する。
「ロイとはSEXしました。何度も。
気持ちよくて、愛されてるって実感が凄くて。今はもうほとんど抵抗がないくらい…」
「でも、今度は2人を相手に、だものね。
怖いのね」
そう言われて、頷く。
そう。怖いのだ。
心の準備と2人には言ったが、一体どうやって準備するというのか。
そうではない。
2人に抱かれて、ロイだけでも我を忘れるくらいSEXに溺れそうになるのに、2人同時に抱かれた時、自分がどうなってしまうのかわからなくて怖かった。
「当たり前よ。1人の愛を感じるだけでも死にそうになるくらい気持ち良いのに、それが2人分だもの」
スカーレットが笑う。
「でもね。気持ち良さが単純に2倍になるわけじゃないのよ」
そう言って、スカーレットが自分の手を取る。
「愛されて、それを受け止めて、全身で愛を感じるの。
そこに理性も本能も関係ないわ。ただ、素直になるだけでいいのよ」
ゆっくりと手を撫でる。
「誰だって初めては怖いわ。
だけど、怖いのは最初だけ。2人の愛を感じた瞬間、それは最高の時間になるはずよ」
その言葉に、曇天だった心の中に光が差し込んでくる。
「ショーヘイちゃん」
スカーレットの顔が近づき、ゆっくりと唇が重なった。
その柔らかい唇にうっとりと目を閉じる。
「ロイとディーゼルをよろしくね。
あの子達に愛されてあげて。
あの子達を愛してあげて」
その美しい笑顔に見惚れる。
スカーレットの口紅がついた自分の唇を指でなぞる。
赤くなった自分の唇を見て微笑み、再び唇を重ねて口紅を自分へ移していく。
「綺麗よ」
スカーレットに言われ、真っ赤に頬を染めた。
そろそろ21時になり、どの店も出入りが多くなり、ガラス窓の中にいる娼婦や男娼も次々に入れ替わって行く。
「一旦戻るか…」
グレイが、1人呟いてスカーレットの店へ足を向ける。
このまま見つからなかったら…。そう考えて、ゾッと悪寒が背筋を走る。
そんな考えを打ち消すように、走ってスカーレットの店へ急いだ。
正面入口から中に入り、自分に気付いた黒服がすぐに近付いてくる。
「見つかりましたよ。こちらで保護しています」
早口で言われたその言葉に、深い安堵のため息をついた。
「良かった…」
一気に力が抜けて、両膝に手をついて深呼吸する。
「どこに?」
すぐに背筋を伸ばして執事に向き直る。
「こちらです」
そう言って駆け足で案内された。
「あ、グレイ」
部屋のドアを開け、中に通されると、中に居た男娼に声をかけられた。
「……ショーヘーか…?」
胸元から首まではだけた真っ赤な着物を着て、さらに顔には化粧。一瞬誰だかわからなかった。
「あはは…おもちゃにされちゃってさ」
かなり脱力した笑いを漏らしながらソファから立ち、着せられた赤い衣装の振袖のような長い袖を広げて見せた。
「…良かった」
その自分の姿に笑うことなく、安心したような、泣きそうな顔をして近付くと、ギュッと抱きしめられる。
「本当に良かった…」
グレイの胸に顔を押し付けられて、ものすごい強さで抱きしめられ、あまりの強さに痛い痛いと言うと、慌てて腕を離された。
「ああ、あいつらにも知らせないと」
少しだけ涙ぐんでしまった顔を隠すように、そう言って窓に近付き開けると、腕を外に突き出して、ポンと赤い光の玉を空へ打ち上げる。
「何それ」
自分も窓のそばに寄り、空へ打ち上げられた光の玉を見上げた。
照明弾のように赤い光が上空に浮かんでいる。
「俺ら3人の合図だ。気付いてくれるといいが」
「へぇ」
「どうやってここに来たのかは、あいつらが来てから聞くことにするわ」
そうして、空に浮かぶ赤い光を2人で見つめた。
何処を探しても見つからない。
通り沿いの店の人間に確認しても、誰も翔平を目撃した者がいない。
どんどんと焦りが募る。
今頃、大変な目にあっているのかもしれない。
すでにこの街から連れ出されてしまったのかもしれない。
時間が経つにつれて、思考が悪い方へ悪い方へと向かってしまうことを、必至に押さえ込んで、探し続ける。
心を襲う、恐怖に似た不安。
通りを歩く、無関係な人たちまで怪しく見えてくる。
どこにいるんだ。
今にでも頭を抱え込んで泣き叫びそうになるのを堪える。
涙を堪えるために、空を見上げた。
そして視界に入る、子供の時から何度も見たことのある赤い光。
そんなに強い光ではないが、夜空にはありえない赤という色がはっきりと見えた。
その光を見た瞬間、全身が一気に逆立ち無意識に走り出す。
ぶつかりそうになる人達をすばやくよけ、障害物をかわし、真っ直ぐにスカーレットの店に向かう。
「ロイ!」
途中で同じく光を見つけたディーが後ろから追いついてきた。
「貴方じゃなかったんですね」
斜め後ろまで追いつかれて、上空の赤い光がロイが放ったものではないとわかった。
「グレイか」
残りはグレイしかいない。
彼が見つけて連絡してくれたのだ。
店に飛び込むように入ると、執事が待ちかねたように、こちらです、と駆け足で案内してくれる。
すでに店の中は多くの客で溢れて、娼婦や男娼たちも、その客に寄り添い、自ら体をすり寄せてアピールしている。
そんな中突然現れた大慌ての2人にみんなが驚き、逃げるように道を開けてくれた。
はやる気持ちを抑えて階段をかけあがり、廊下を進む。最早走っていた。
追い抜かされそうな勢いの2人に、執事が一番奥の応接室です、と伝えると、一目散に執事を追い抜き、2人がその扉を勢い良く開ける。
「ショーヘー!」
バタンと勢いよく開けられた扉が大きな音を立て、その音に、窓から上空の赤い光を見上げていたショーヘーがビクッと反応した。
振り返り、2人の顔を見る。
「ショーへー…?」
「ショーヘイさん…?」
2人がポカンと口を開けたまま目をぱちくりさせた。
しばらく静寂が訪れる。
「あ…あの、お姐さんたちに遊ばれちゃって…こんな格好に…」
何も言わない2人に言い訳するようにあははと乾いた笑いを漏らしたが、次の瞬間。
「うわ!」
ロイとディーの鼻からたらりと血が流れた。
それを見たグレイが爆笑してソファでのたうち回る。
「は、鼻血!」
慌てて拭くものを探すが、この世界にティッシュのようなものはなく、狼狽えた。
借物の服で拭くなんてことは出来ず、とりあえず、身近にあった、笑い転げているグレイの袖を掴むと、魔力を込めた腕で思い切りひっぱり、ビリリリと勢いよく両腕の袖が肩から破け、驚いたグレイがなすすべなく、シャツの両袖を翔平に奪い取られた。
「垂らすな!拭けよ!」
2人の顔面にグレイの元袖をそれぞれ押し付けて、グリグリと鼻を押さえる。
「な、なんて格好を…」
「ショーへー、エロい」
鼻を押さえられながら、2人の腕が自分へ絡みつき、そのまま抱きしめられた。
「お、おい!!」
2人に抱きしめられ、どんどん体重をかけられ、重さに耐えられなくなって、そのまま床に倒れた。
「ちょっ…、重い」
2人の鼻を押さえながら、のしかかられて身動きが取れない。
「あらあら」
ロイ達が戻ったと聞いたスカーレットが、開けっぱなしのドアのそばに立って、足元に転がる3人見下ろして笑う。
「離れろって」
なんとか2人から逃れようとするが、びくともしない。
「グレイ!笑ってないで助けろ!」
言われたグレイが笑いながら、ソファから立ち上がると、ベリッと音を立てそうな勢いで、2人を自分から引き剥がしてくれた。
「ショーヘー~」
「ショーヘイさ~ん」
グレイに剥がされてもなお、手を伸ばして自分を触ろうとする2人を尻目に、立ち上がって、乱れた衣装を直す。元々着崩して着付けられた着物がさらに乱れてしまって、はだけて足が出てしまった合わせを元へ戻した。
「鼻血拭け」
手を離したせいで、再び鼻血が垂れた2人に顔を顰める。
「あはははは。なぁに、恋人の色っぽい姿見て鼻血出しちゃったわけ?」
若いわねぇと、ロイとディーの顔を見て、楽しそうに笑う。
そして、部屋の隅にあったキャビネットの引き出しからガーゼのような布を取り出すと2人に渡した
「とりあえず、座れや」
グレイが笑いを堪えながら、まるで猫のように首の後ろを掴んで、2人をソファへ座らせるが、手を離すとまた翔平の側へ行こうとするので、上から肩を押し付けて動かないようにする。
「ショーヘー、こっちに座れ」
そう言われて、仕方なくロイとディーの間に座る。
「せま!」
座った瞬間2人に寄って来られて、ぴったりと体を寄せられ腕が自分の腰や肩にまとわりつく。
「見つかって良かったわね」
スカーレットが向かい側のソファに座り、翔平をベタベタと触りまくるロイとディーの姿に目を細めた。
「すまんな。落ち着くまでもうちょっと待ってくれ」
「いつもこうなの?」
向かい側で鼻を押さえながらも、左右から翔平を抱きしめて、頬へキスしたり匂いを嗅いだりする2人に、クスクスと笑いを堪える。
されている翔平がとても迷惑そうにしていて、その温度差も面白い。
「まぁ…こんなもんだな」
呆れたようにグレイが答える。
「お前ら、もういい加減にしろよ」
少し低めの声で2人を諌めるように呟くと、自分を弄っていた2人の手がピタリと止まる。
そして、スッと密着していた体を少しだけ離すと、ソファに改めて座り直した。
「上手に躾けてるわね」
ふふふとスカーレットが笑う。
これでようやっと話が出来ると、ふぅと息を吐いた。
4人で応接室から食堂へ移動し、少し遅めの夕食をとりながら、はぐれてから今までの話をした。
「ほんと肝が冷えました。見つかって本当に良かった。後でそのミーナさんへお礼をしないと」
「そうだな。それにしても運がいい」
グレイがムシャムシャと口を動かす。
「そうね。貴方の日頃の行いがいいせいかしら」
スカーレットが微笑みながら果実酒を口にする。
「それにしても驚いたぜ。お前のかっこ。一瞬誰だかわからなかった」
グレイが笑う。
「うちの子達がショーヘイちゃんを気に行っちゃって。
可愛い子には目がないから。
もう貴方達の連れじゃなかったら、全力で勧誘してるところよ」
コロコロとスカーレットが笑う。
「絶対に売れっ子になるわよ。
どう?うちはかなり高待遇よ」
そう言って、美しい顔でウインクされて頬を染め、笑って誤魔化した。
ロイとディーはムッとしてスカーレットを睨みつけるが、彼女はクスクスと笑うだけだ。
「それにしても、ショーヘイちゃん。この子達の相手は大変でしょう」
クスクスと笑う。
「ええ、まぁ…」
ちゃんづけで呼ばれたことがいささか引っ掛かる。
「体、大丈夫?この子たちに相手を悦ばせる術を叩き込んだから、気持ち良いでしょう?SEX」
はっきりと言われた内容に、一気に全身を真っ赤に染めた。
今にも噴火しそうになる顔を隠すように縮こまる。
「ロイもディーもグレイも、15歳だったかしら? ここで筆下ろししたのよね?」
そうあっけらかんと告白されて、3人がスカーレット!と大きな声を出し、自分も面食らった。
「別に言わなくてもいいでしょう!」
「バラすなよ!」
「あらいいじゃない。ショーヘイちゃんも聞きたくない?」
そう言われて、スカーレットと3人を見る。
慌てふためく3人を見るのは楽しい。いつも揶揄われる立場だから、スカーレットにやり込められる姿は楽しいと思う。
「ギルバートに連れられて、この店の子たちに相手してもらったのよ。
晴れて童貞卒業、おめでとう」
そのスカーレットの言い方にクスッと笑った。
それにしても、ギルバートなりの性教育なんだろうが、実地教育というのはいかがなものかと思ってしまった。
「まぁ、それでも、すぐにこの子たちに店の子が潰されることになったんだけどね。
もうやりすぎよ。
2、3日使い物にならない子までいて大変だったんだから」
大損よ、大損、と笑いながら言い、3人が黙って俯く。
「あははは…」
赤裸々なスカーレットの言葉に笑うしかない。
「ショーヘイちゃんも大変よね。2人を満足させるまでって言ったら、寝られないんじゃない?
次の日歩ける?」
グッと言葉に詰まって、カアァッと真っ赤になった。
「スカー。もうやめてやれ」
ロイが苦笑いする。
「あら。まさかプラトニックな関係なの?
まさか…、まだ処女なんじゃ…」
そう言われて、恥ずかしさに悶絶しそうになって、さらに赤くなって縮こまる。
3人が揶揄われる所を見たいと思って黙っていたが、結局は自分も思い切り揶揄われた。
スカーレットは楽しそうに少女のようにコロコロと笑った。
「冗談よ。ごめんなさいね、ショーヘイちゃん」
コロコロと笑い、楽しいのかどうか微妙な空気のまま食事が終わった。
「今日は泊まっていくでしょ?」
そう言われ、ここに泊まることに自分はかなり焦る。
確かにもう他の宿を探す時間ではない。だが、ここは宿ではなく、男女を買うための店であって、部屋を取るということは、それだけ店側は損をするはずだ。
「部屋はもう開けてあるから、泊まっていきなさいね」
有無を言わさない笑顔で言われ、断れずに全員頷いた。
その後、ミーナの仕事部屋に向かい、3人を紹介した。
「ショーヘーの彼氏って英雄ロイ様なの!?」
大声で叫ばれ、大口をあげて仰天される。さらにもう1人の恋人がこの国の第三王子と知り、もう驚きすぎて声が出せなくなっていた。
だが、ハッと我に返り、いきなり謝り出す。
「す!すみません!大切なお方をおもちゃに!」
ミーナな自分に化粧したことを謝罪し、そのセリフでやっぱり自分をおもちゃにして遊んでたんだと、自ら認めたことに笑った。
だが、2人がズイッとミーナに近寄りその手を握った。
「よくやってくれた」
「いい仕事してくれました」
「え?あ?はぁ」
素晴らしいと2人に詰め寄られてミーナが戸惑いつつ、ハハッと笑った。
「でもほんと良かったね、ショーヘー」
「ありがとう、ミーナ」
そう言いつつ、キュッとミーナに抱きしめられて、子供のような小さな体を抱きしめ返す。
その後ろでロイとディーがジト目で自分を見ていて、明らかに嫉妬している視線に呆れてしまった。
スカーレットに案内されて用意してくれたという部屋に案内される。
その途中、自分をおもちゃにした娼婦たちにも会い、ロイが恋人だったとわかって驚かれつつも、羨望の眼差しを向けられた。
だが、ロイの彼氏という羨望ではなく、ロイとSEX出来るという羨望だということに、娼婦の1人に耳打ちされて気付かされ、娼婦や男娼たちの間で、ロイがかなりの床上手で噂になるほどだと知った。
たった数十分の間に入ってきた情報量の多さに頭が混乱してくる。
「グレイは1人でいいの?誰かつける?」
「いや、いい」
グレイが渋い顔をする。
「あら、いいの?」
スカーレットが意外という顔をしたが、グレイの後ろでニヤニヤしている自分たちに気付いて察したらしい。
「貴方にもいい人が出来たのね。おめでとう。でも1人寝が寂しかったらいつでも言ってね」
そう言いながらポンとその胸を叩く。
スカーレットに本命がいるとバレたと気付いたグレイがバッと後ろを振り返るが、わざとらしく視線をそらし、そっぽを向きつつほくそ笑んだ。
そして、廊下の最奥。案内された部屋を見て入り口で唖然と立ち尽くす。
部屋の中央にある赤いシーツの大きなベッド。
壁や天井、衝立に描かれている様々な性行為の体位。モザイクなど一切ない男女や同性同士の性行為が描かれた絵に、どこを向いても目のやり場に困ってしまい、結局赤くなって俯いてしまった。
ロイとディーは平然としているが、自分はかなり動揺してしまう。
ここがどういう部屋なのかは一目瞭然で、きっとスカーレットは気を効かせたつもりなのだろう。
だが、自分はこういうあからさまなものにはまだ抵抗がある。
気を遣ってくれたのだろうが、自分はまだ3人での経験がない。目下のところ心の準備中だ。
スカーレットがそんな自分を見て目を細めた。
「ねえ、ちょっとショーヘーちゃん借りるわね」
「変なことするなよ」
「変なこと教えないでくださいよ」
「失礼ね。ちょっとお話するだけよ」
そう言いつつ、スカーレットにおいでと言われて後をついていく。
再び廊下を歩いて、すれ違う客や娼婦、男娼の艶かしい姿にますます、ここがそういう店だと改めて体を強張らせた。
スカーレットに案内されたのは、建物の隅にある小さな個室だった。
4畳半ほどの和室のような小さな部屋で、椅子やテーブルはなく、床に座布団と鏡台が置かれているだけだった。
「この部屋、どう思う?」
そう聞かれて部屋を見る。
先ほどのあからさまな部屋と違い、こぢんまりとした部屋だが、妙に落ち着くと思った。
障子のような窓枠に、掛け軸のような長さのある絵。生けられた花。
「なんか…落ち着きます…」
そう言うと、スカーレットが嬉しそうに微笑み、どうぞと座布団を勧められて、そこに正座する。
スカーレットも前に座り、鏡台のとなりあった茶器を引き寄せるとその場でお茶を入れ始める。
「ここはね、私の恋人の部屋だったの」
そう言い、ゆっくりとした動作だが、美しい所作でお茶を湯呑みに注ぐ。
「恋人…」
「もう亡くなったのだけれど。彼女と一緒にこの街を作ったの」
この街を作ったと聞いて、ディーから聞いたジュノーの存在を思い出す。
「チヨという名前よ」
スッとお茶を膝の前に置いてくれた。
「頂きます」
熱いから気を付けて、とスカーレットが微笑む。
「チヨはジュノーだったの。この国ではない別の遠い所で見つかって、捕えられて、性奴隷にされた」
静かに話す内容に、心を鷲掴みにされた。ついこの間、同じくジュノーだったチャールズが性的暴行を何年も受けていたことを思い出し、言葉が見つからない。
「私も性奴隷だったのよ」
スカーレットの言葉に驚いて、その美しい顔を見た。
「同じ奴隷商の元で出会って、同じ貴族に買われたの。彼女は前にいた世界のヨシワラという所で体を売って働いていたと言っていたわ」
それを聞いてやっぱりこの街は吉原をモデルに作られたんだと納得できた。
「彼女は強かった。
体を弄ばれていても、その尊厳を失うことはなかった。
彼女はSEXを武器に強く生きることを教えてくれたの。
体を売るという行為が蔑まれるものではないと教えてくれた。
彼女がいなければ、私はとっくに狂っていたでしょうね」
スカーレットが遠い日を思い出すように、空を眺める。
チヨとスカーレットは他国の貴族の元で性奴隷として生き、ある時、戦争の混乱に乗じて逃げ出した。
流れ流れて、この地へ辿り着き、チヨの知識と性技を駆使してこの国の貴族や豪商に取り入ったという。
気付けば、奴隷紋は消え、自分たちでこの店を作った。
奴隷落ちしそうな子を買い、体を売らせてはいるが、奴隷のような扱いは絶対にしなかった。
教育を施し、品格を身につけさせ、たくさんの子を見受けという制度で嫁がせて行ったという。
気が付けば、自分達のルールは街に受け入れられ、真似をする店が増え、いつしかここは遊郭になった。
スカーレットは言う。
「体は売っても心は売らない。大切な人が出来るまで、生涯をかけてもいいと思える伴侶が見つかるまで、心だけは綺麗なままで。そううちの子には言い聞かせてるのよ」
ものすごく安っぽいセリフに聞こえるが、今までそうやって数百年生きてきたスカーレットの言葉には重みがあった。
「私はチヨを愛していたわ。彼女が亡くなっても、私はチヨだけを愛し続けるの」
そう言って笑ったスカーレットは美しかった。
「ねえショーヘイちゃん。SEXは嫌い?」
「え?」
「貴方、まだあの2人と寝てないんでしょ?」
その言葉にカアッと赤面した。
「ロ、ロイとは…何度か」
思わず答えてしまい、ますます赤くなる。
「ディーとはまだなの?」
そう聞かれて、最初はロイと付き合っていたが、ディーとはまだ付き合い始めて日が浅いことを素直に伝えた。
「あら、そうなのね。私はてっきり最初から2人同時に貴方と、と思ったけど…」
スカーレットが少し考える。
「ああ、なるほど。ディーは遠慮してたのね」
小さく呟いて、1人で納得する。
「きっとディーは貴方とロイが愛し合う姿を見て、一度は身を引いたんでしょう。あの子らしいわ」
その言葉にズキンと心が跳ねた。
スカーレットは2人のことを良く理解している。
だから、ディーが翔平への想いを押し殺して、ロイと翔平の幸せをまずは第一に考えたのね、と理解した。
「不器用な子よね。王位継承権を放棄したのも、ロイと一緒にいるため。
ロイの幸せはあの子の幸せでもあるのね」
そう独り言のように呟いて、悲しそうに笑う。
その言葉に、先日グレイにも同じことを言われたことを思い出す。
ロイはディーゼルで、ディーゼルはロイ。
愛情以上の2人の繋がりに、心がかき乱される。
「ねぇ、ショーヘイちゃん」
スカーレットが顔を上げる。
「貴方、ニホン人、よね?」
唐突に言われて、真顔になった。
しばらく間が開いて、ゆっくりと何を言われたのかを考える。
「…ぇ…」
そして数十秒後に言われた言葉を理解した。
「ニホン人なんでしょ? チヨと同じ、ジュノーなのね」
「…どうして…」
「雰囲気がね…、チヨに似てるの」
スカーレットの目に涙が浮かぶ。
「優しくて、温かい、誰もが惹きつけられる雰囲気。
でも、優しいだけじゃない。
芯が通った強い意志を持った黒い瞳」
スカーレットが静かに涙を流した。
「似てるのよ。とても」
両手で顔を覆う。
「貴方のそのキモノ。チヨが作ったの。彼女がいた世界で、チヨが着ていたのを、この世界でも作ったの」
そう言いながら嗚咽を漏らす。
「貴方を見て、彼女をすぐに思い出したわ。彼女もよくその赤いキモノを着ていた」
静かに肩を震わせて泣くスカーレットに胸を締め付けられる。
思わず、座っていた状態から、彼女へ手を伸ばし、その細い体を抱きしめた。
「チヨ…。チヨ…」
スカーレットが泣き止むまで、ただ彼女を抱きしめ続けた。
「ありがとう。ごめんなさいね。また知り合って数時間しか経ってないのに、こんなこと」
美しい仕草でそっと涙を拭い、笑顔を作る。
「貴方達の世界のこと、ニホンという国のこと、チヨから教えてもらったわ」
そう微笑み、じっと自分を見つめる。
「貴方は、この世界に戸惑っているんでしょう?
ニホンという国は、男女の関係が正しくて、同姓同士というのは異端だとチヨから聞いたの。
ヨシワラでは、男娼の店もたくさんあったと言っていたけど、影間と呼ばれてあまり大っぴらに出来ない性癖だったそうね」
「…はい。同性愛は、差別の対象でした…」
「苦しんだでしょう。この世界の常識に」
そう言われて、グッと口を真横に結ぶ。
「重婚も認められない。1人で複数を愛することもタブー。
この世界とは180度違うわね」
「そうですね…」
スカーレットはチヨから日本のことを聞いて、ちゃんと理解していた。
そんなチヨと同じ日本人である自分のことも理解しようとしているとわかって、複雑な感情が湧き起こる。
「それでも、貴方はロイを愛した。ディーを愛したのね」
「…自分でも驚いています」
スカーレットとは視線を合わせず話す。
「俺は、元々女性が恋愛対象で、男から恋愛感情を向けられたり、性的に迫られるなんて一度もなかった。
でもこの世界に来て、ロイとディーに好きだと言われて、いろんな男から性的な視線を向けられて…」
何度か、いやらしい目で舐め回すように見られた経験を思い出してゾッとする。
「今もまだ…戸惑ってます」
「そう…」
スカーレットが悲しそうに答える。
「でも、俺はロイが、ディーが好きです。愛してます」
今度ははっきりとスカーレットの目を見て言った。
「これはもう、常識とかそういうのは無しにして、俺の正直な気持ちです。
2人を愛してます」
じっと彼女の目をみると、スカーレットは嬉しそうに微笑む。その美しさに吸い込まれそうになった。
「けど…、まだ体がついていってないという所かしら」
見透かしたようにスカーレットに言われて苦笑する。
「ロイとはSEXしました。何度も。
気持ちよくて、愛されてるって実感が凄くて。今はもうほとんど抵抗がないくらい…」
「でも、今度は2人を相手に、だものね。
怖いのね」
そう言われて、頷く。
そう。怖いのだ。
心の準備と2人には言ったが、一体どうやって準備するというのか。
そうではない。
2人に抱かれて、ロイだけでも我を忘れるくらいSEXに溺れそうになるのに、2人同時に抱かれた時、自分がどうなってしまうのかわからなくて怖かった。
「当たり前よ。1人の愛を感じるだけでも死にそうになるくらい気持ち良いのに、それが2人分だもの」
スカーレットが笑う。
「でもね。気持ち良さが単純に2倍になるわけじゃないのよ」
そう言って、スカーレットが自分の手を取る。
「愛されて、それを受け止めて、全身で愛を感じるの。
そこに理性も本能も関係ないわ。ただ、素直になるだけでいいのよ」
ゆっくりと手を撫でる。
「誰だって初めては怖いわ。
だけど、怖いのは最初だけ。2人の愛を感じた瞬間、それは最高の時間になるはずよ」
その言葉に、曇天だった心の中に光が差し込んでくる。
「ショーヘイちゃん」
スカーレットの顔が近づき、ゆっくりと唇が重なった。
その柔らかい唇にうっとりと目を閉じる。
「ロイとディーゼルをよろしくね。
あの子達に愛されてあげて。
あの子達を愛してあげて」
その美しい笑顔に見惚れる。
スカーレットの口紅がついた自分の唇を指でなぞる。
赤くなった自分の唇を見て微笑み、再び唇を重ねて口紅を自分へ移していく。
「綺麗よ」
スカーレットに言われ、真っ赤に頬を染めた。
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