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王都編 〜狩猟祭 ハニートラップ〜
159.おっさん、新たな伴侶候補に驚く
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ウキウキとはしゃぐように前を歩く恋人を見てガックリと脱力する。
「どうしたのさ」
「緊張し過ぎて変な汗かいた」
はあとブラッドがため息を漏らす。
「まさかあそこでショーへーに聞かれるとは思わんかったわ」
「そうだね。あれはあれでいいんだよ。向こうもあの質問で嘘だって確信出来ただろうし」
エドワードが楽しそうに笑う。
「なんでこんな回りくどいこと…。
普通にハイメを追ってるって言やぁいいじゃねぇか」
「それは駄目だよぉ。こっちが仕入れた情報をタダで渡すなんてあり得ないし」
エドワードがブラッドに近寄り、その腕に絡みついてくっつく。
「俺の仕事を利用するなよな…」
ため息をつきながら、小柄な恋人の肩を抱く。
「いーじゃない。別にブラッドが動きにくくなるわけじゃないでしょ?」
「そうだけどよぉ…」
はぁと息を吐きながら腹黒な可愛い恋人を見下ろす。
「情報は鮮度が命。
出すべき所でちゃんと出すから大丈夫だよ」
「利益を鑑みて、だろ?」
「それは当然」
エドワードが持つ情報はまだ他にもある。それを全て教えなかったことに顔を顰めた。
「あんまりあいつらを甘くみんなよ。痛い目みるぞ。
それに、俺はあいつらとは同じ釜の飯を食った仲だ。あんまりお痛すると俺も…」
エドワードの小さな肩を抱く手に力がこもり、見上げてくるエドワードを睨むように目線を合わせた。
利益を追求し過ぎて、友人を貶めるようなことになるなら、恋人だとしても許さないと目で訴える。
「…大丈夫だよ」
ブラッドを見つめ返してニコッと微笑む。
「恋人より戦友を取るんだね。妬けちゃうなー」
「そうじゃねぇよ。
ディーはもちろんだが、ロイもああ見えて戦略家だ。それに加えて軍事統括のアランだぞ。
商人同士の駆け引きとは訳が違うって言ってんだよ」
「心配してくれてるんだ」
ギュッとさらに体を寄せる。
「当たり前だろ」
ブラッドが顔を逸らし正面を向くが、その顔が赤くなり、耳まで染まっていた。
それを見てエドワードはふふふと嬉しそうに笑いながら、べったりとブラッドにくっついた。
王族の天幕から出て自分にあてがわれた天幕まで戻る。
その戻る道すがら、先ほど挨拶した人数人に話しかけられ、適当な会話を繰り返していた。
周囲を見渡して見ると、狩猟祭に参加する貴族達が狩りの道具の手入れをしていたり、仲間達と森の地図を広げて相談している光景を目にする。
「結構みんなガチなんだな…」
明日の狩猟スタートに向けて準備を進める人達を眺めながら呟いた。
「狩りは遊びじゃねーからな。獲物によっちゃ下手すりゃ死ぬ」
グレイに言われて、そういえば狩りについて何も知らないと、今更考えた。
狩りと聞いてイメージしていたのは、たまにニュースで目にした猪狩りだった。集団で山に入り、連絡を取り合いながら包囲網を狭めて、銃で撃つ。
考えてみれば、そんな狩りしか知らない。
「なぁ、狩りってどんな風にやるんだ?」
今更だが聞いてみた。
この間ロイがたくさん狩ってきたと言っていたが、何をどうやってどれだけ狩ったのかは、結局聞いていない。
天幕に戻り、グレイとオスカーに聞いた。
「狩りを知らんのか」
オスカーが驚いたように言う。
「ショーヘイさんが居た世界では狩りをすることはないんですか?」
「ないな。俺もやったことないし、身近で聞いたこともないわ。
だから、狩りって言われてもピンと来ないんだよね」
そう言いながら首を傾げる。
「旅をしてる時、ロイもグレイもたまに野生動物狩ってたろ?このくらいの…」
ウサギくらいの大きさの動物を、野営中に獲って来て、それを捌いて食べたのを思い出す。塩を振って焼いただけだが、焼き鳥のようで美味しかった。
「何を狩るんだ?」
「そりゃぁ色々と」
小さいものから大きいものまでたくさんの種類が生息していると教えてくれる。
小さいものは、先ほどのウサギのような動物から、5mを越える大型の動物まで様々な種類がいるという。ただ大型は森の奥深くまで行かないと見つからないし、力も強く、一歩間違えばこちらが狩られることになると聞いた。
「コンテストは、動物の種類、大きさ、重さ、狩り方、その総合点で競い合うんだ」
種類や大きさなどは何となくわかるが、狩り方とはなんだ、と首を捻ると、狩った後の獲物の状況だという。
ようするに、急所一撃で仕留めたものと、何度も切りつけてボロボロなった場合では、同じ獲物でも価値が違うらしい。
「なるほどねぇ。
武器は?魔法は?」
「武器は何でもいいですが、魔法は使用制限があります。何せ森ですから。火魔法などは禁止されています」
それを聞いて、そうだよな山火事になっちゃう、と納得した。
「チームを作って狩るやつもいるし、ロイみたいに単独で狩るやつもいる。
色々だな」
「明日になればわかるが、狩られた獲物は一度ここに集められるんだ。
そこで、コンテストの鑑定員がその場で点数をつけて行く仕組みになってる」
「その獲物はどうするんだ?」
「鮮度が良いうちに、すぐに解体される。離れた場所で解体ショーもやってるから、嫌じゃなければ見に行ってみるといい」
流石にウサギみたいな動物を捌くのも見ていられなかったので、解体ショーは遠慮すると言った。
「捌いてすぐに焼いて食べることも出来るぞ」
グレイが楽しみだ、と唾を飲み込み、相変わらず食い物に目がないな、と笑った。
「でも、狩ってくるまで待つしかないならその間は暇だな」
「それがそうでもないんだよ。
通信用魔鉱石を使って、狩りの実況中継があるからな。だから、誰がどんな獲物を狩ろうとしているのかわかるし、臨場感もある」
「へぇ~。面白そうだな」
ラジオの生中継だな、と思った。
「ま、後は明日になればわかるさ」
あらかた狩りの説明が終わった頃を見計らったように、ジェロームとジャレッドが俺を迎えに来た。
「では参ろう」
ジェロームが鼻息を荒くして、俺に肘を差し出す。
「よろしくお願いします」
心の中で大きなため息をつきながらそっと左手を添えた。
ジェロームは本当によく喋る。
歩きながら、よく疲れないな、と思うほどベラベラベラ喋りまくった。
その話の内容もどれも似たり寄ったりで、いかに自分が凄いのか、これだけのイベントを開催できる力も技量もあると、俺に猛烈にアピールしてくる。
俺はじっとその話に耳を傾け、すごいすごいと感動を伝え、相槌を打った。
ジャレッドもそんな父親の少し背後に立ち、俺に話しかけ、自分もいずれは父の後を継いでこの狩猟祭をもっと大きな、世界中に響渡るようなものにしたいと夢を語っていた。
一応、2人から設備などを説明をされたが、彼らの説明は、ここにこれがある、というだけで、詳細や意味については何の説明もなかった。
なので、こちらから気になった物をいくつか聞いてみたのだが、2人に答えられるわけもなく、近くにいたスタッフに丸投げして説明させる、ということが何度かあって呆れてしまった。
だが、俺に説明をしてくれるスタッフが嬉しそうに話すので、これを利用しようと思い立つ。
「ジェローム様はお優しいですね」
腕を絡ませてピタリと体を寄せると、そうジェロームを見る。
「ん?」
俺が何を言っているのかわかっていないのか、脂ぎった顔をさらにテカらせる。
「だって、わざとスタッフの方に説明をお願いしているではありませんか。
あの方、私とお話ししたいようでしたし…。私に説明できて嬉しそうでした。
下の者にも気遣えるなんて、素晴らしいことです」
微笑みながら俺の意図を詳しく説明してやると、やっと理解し鼻息を荒くして、そうだろう実はそうなのだ、と自分の手柄のように話す。
こいつ、真性のアホだ。
心の中で呟いた。
柵で囲まれた立入禁止区域から出て、今度は狩猟コンテストの会場に移動する。
コンテスト会場は立入禁止区域ではなく、一般客や一般参加者も自由に出入り出来るようになっていた。
ただ、その中であっても一般人が近付けない場所もある。
そこに案内された。
「明日、明後日はここでコンテストを見ることになる」
野営の天幕とは形の違う天幕に近付く。壁と天井があり、前面部分は大きく解放されている。
運動会などでみかけるタープテントを天井を高くして、巨大に豪華にした感じだ。
その中にパーティ会場のように、円卓と椅子が並べられていた。その数も多く、数百人は座れるくらいの数だ。
その布張の壁に、真っ白い薄い石で出来たボードが数箇所に立てかけてあり、びっしりと升目が書かれている。
「これがランキングボードでな。一目で順位がわかるようになっておる」
「今年は数年ぶりにロイ殿が参加されるとあって、獲物の評価点数が爆上がりするでしょう」
ジャレッドが初めて説明してくれた。
「私の護衛も参加するのです。
名前が上位に入れば嬉しいのですが…」
ロイとディー、アビゲイルがコンテストに参加する。上位に名前が入れば、本当に嬉しいと思った。
「ロイ殿は当然優勝候補ですが、殿下お二人は微妙な所ですね。
毎年、上位にはおりますが、そこまでの成績では…」
ジャレッドが鼻で笑いながら言い、かなりムッとした。が、顔には当然出さない。
「ジャレッド様は参加されないのですか?」
だが、嫌味だけは言った。
「私は運営の方が忙しいので」
ジャレッドが嫌味に気付きもせず返してきたが、実際に運営しているのはシェリーで、お前はただ見てるだけだろ、と心の中で毒づく。
今日の午前中も、シェリーは運営本部で忙しく指示を出し、確認作業をずっと続けている。こいつらは、準備完了との報告を受けるだけで、その終わった準備も何のことだかわかっていないのは、今までの案内を見ていればわかる。
この2人は狩猟祭がどうやって開催され、どんなことが必要で、誰が何をしているのかも全くわかっていなかった。
「これだけの規模のお祭りですから、さぞお忙しいことでしょう。
どうかお身体だけはお気を付けなさってください」
再び嫌味を言いつつ、ジェロームから離れると、ジャレッドの腕をそっと撫でて寄り添う。
すると、ジャレッドは父親ほどではないが鼻を膨らまし、俺を見てニヤニヤと笑った。
「聖女よ、次だ」
俺が離れ息子の方へ行ったのが気に入らないのか、俺の手を掴むと自分の方へ引き寄せる。
「あ」
ナイスタイミング、と言わんばかりに、俺はつまづいたフリをして、わざとジェロームの胸に飛び込んだ。
しっかりとジェロームの胸元の服を握り、体を寄りかからせると、下から顔を見上げる。
「す、すみません…」
わざとらしくすぐに体を離し、手を口元に持って行き恥じらうような動きをした。
作戦とはいえ、自分の行動が恥ずかしくて赤くなる。
「ぉ…おお。大事ない大事ない」
ジェロームの鼻の下がビローンと伸びたのを見て、心の中で吐いた。
夕方、あらかた会場の説明が終わり、再び貴族達の立入禁止区域に戻った。
「疲れたであろう。前夜祭までまだ時間がある。こちらの天幕でお茶でも…」
ジェロームがニヤニヤしながら誘い、俺の肩に回した腕を背中に持っていくと、撫でまわした。
ゾクッと悪寒が走りつつ、逃げたいのを必死で我慢しながら、そっと寄り添い、囁くように言った。
「そうしたいのは山々なのですが…、私にも準備がありますので…」
顔を近づけて、準備、という言葉を強調して言った。
単純な意味での準備なのだが、それを別の意味で捉えられるような言い方にする。
「そ、そうか」
ジェロームが俺の尻に手を回すと、その形を確かめるように動いた。
「では前夜祭を楽しみにしておるぞ」
「はい。私も楽しみです」
尻に回ったジェロームの手を握り、さらに押し付けるようにすると、鼻の穴が思い切り広がり、俺の尻肉を掴んだ。
「では…」
スッとジェロームから離れ、隣の天幕に戻ろうとするが、後ろに居たジャレッドと目が合い微笑む。
「ジャレッド様も、また後ほど…」
静かに近付いて顔を寄せて囁くように言った。
「あ、ああ…」
その返事が明らかに上擦っており、さらに挑発するために、ジャレッドの腕をスルッと撫でた後に離れる。
ゆっくりと会釈し、そのまま自分の天幕に戻った。
俺、キース、グレイ、オスカーの順に天幕に入り、その入口の幕が完全に下がった所で、俺は床に膝をつき、がっくりと項垂れる。
「やっと終わった…」
「いやぁ…完璧だったわ」
感心するような、呆れるような、微妙な声でグレイが言った。
「見事にやり切ったな。偉いぞ」
オスカーが笑いを堪えながら褒めてくれるが、嬉しくなかった。
「間違いなく勘違いしましたね」
キースも苦笑し、項垂れた俺を助け起こすように手を伸ばす。
「何度吐きそうになったか…」
キースに手を引かれて立ち上がり、そのままソファに座った。
「キッツイわー。マジでキモイ。俺が」
だらしなく両手両足を広げ、ソファの背もたれに後頭部を預けると天井を見上げた。
「見たかよ、あの俺を見る目。あーやだやだ。キモすぎる」
ブルッと体を震わせて両腕で上半身を抱きしめながら腕を摩った。
「次は前夜祭のパーティだな。気をつけろよ」
「受け入れるフリして、かわして、焦らす、だっけ?」
はああと深く長いため息をついた。
夜7時からの前夜祭のために、普通の聖女仕様から、豪華な聖女仕様に変身する。
しかも、衣装担当の3人組は今回のハニートラップのことを知っているので、豪華な聖女仕様にセクシー要素が追加された。
「うへぇ~」
出来上がった自分の姿に変な声を出す。
上半身の体のラインが分かるようなフィットしたデザイン。全く素肌を晒していないのだが、白っぽいグレーの生地が何故か艶かしい。
その上から振袖のようなローブを羽織るが、ゆったりしているため動きによって体のラインが見える仕様になっていた。
腰履きのズボンを履いているが、大きな装飾のベルトからスカートのようなドレープ生地が足を包む。
「おー、似合うじゃねーか」
衝立から出てきた俺にグレイが言った。
「綺麗ね~。あたしも騎士服じゃなくて、そういうの着たいわぁ」
体をくねらせてジャニスが羨ましそうに言った。
「ジャニスなら俺よりも似合うだろうな」
心から言うと、ジャニスがもっと体をくねらせて照れる。
「ショーヘイさん。個室に誘われても1人でついていかないでくださいね。
私も注視していますが、どこかに行くときは必ず護衛を」
キースが心配そうに俺に何度も同じことを言う。
「うん。グレイもジャニスも頼むよ。
俺が1人になりそうだったら着いてきてくれな」
なるべく護衛のそばに居て、1人にならないようにしようとしても、離されてしまう可能性はある。
そうならないよう、ぴったりと俺も護衛に張り付く気でいるが、罠を仕掛ける過程で離れてしまうことも考慮しなくては、と考えていた。
「聖女様、お迎えが」
天幕の表で見張っていたアビゲイルが入口から声をかけてきた。
「準備出来たかね」
許可してないのに、ズカズカとジェロームが入って来た。
「ほほう…これは美しい…」
ジェロームに丁寧にお辞儀をして、褒めてくれたことに対してお礼をする。
「では参ろうか」
昼間と同様に肘を差し出され、そっと左手を添えた。
10分ほど歩いてすぐに前夜祭会場であるドーム型天幕に到着した。
その入口から中に入ると、どよっとざわめきが起こる。
そのざわめきを無視して、ジェロームは俺を伴侶のように引き連れて奥に進み、上座の脇にある席に座らせた。
その背後にグレイ、オスカー、アビゲイル、ジャニスが立つ。
「また後でな」
顔を寄せて囁くように俺に言い、俺もニッコリと笑顔で応える。
ジェロームとジャレッドが離れ上座へ移動するのを見ながら、目線を会場の中に走らせた。
少しだけ高い位置にいるため、全体をくまなく見渡せる。立食形式のパーティで、あちこちに食事が並べられたテーブルが並び、その周囲に参加する貴族やその連れ、観光目的の貴族達が大勢居た。
上座の方へ視線を戻すと、主催者であるジェロームの両隣にジャレッドとシェリーが座り、その同列にディーとアランの姿もあった。その脇にシドニー達5人の近衞とロイの姿があり、2人の姿を見てホッとする。
「なぁ、普通ホストって先に会場入りして、ゲストを迎えるもんじゃないのか?」
後ろにいる4人にこそっと聞いてみた。
「その通りだ。
本来ならジェロームが最後に入場するなんてあり得ねーよ」
オスカーがバカにしたように言う。
「ディーやアランを差し置いて後から登場するたぁ、とんでもねぇ話だわ」
グレイも皮肉を込めて笑う。
やっぱりそうなのか、と俺の認識が正しかったことを確認した。
「多分、これもシェリーの考えなんでしょうね。周りの貴族達を見てみなさいよ。みんな不思議そうな顔してるわよ」
アビゲイルに言われて再び貴族達に視線を向けると、確かに、ジェロームを見てコソコソ話している人が何人もいた。
「かなり反感を買ったわね。ざまぁないわ」
ジャニスが鼻で笑う。
背後に視線を向けることはないが、4人と話し、ジェロームがやったことはかなり失礼なことだと確認できた。
「もう、失脚への道を進み出してるってことか」
そう笑うと、4人は楽しそうに笑い、俺の言葉を肯定した。
午後7時。
ジェロームの前夜祭開会宣言とともに、パーティーが始まる。
ジェロームと同列にいたディーとアランは、宣言後すぐに席を立ち、さっさとジェロームから離れてこっちに向かって来た。
「ショーヘイさん、綺麗です」
ディーの顔がデレッと歪み、顔直せとアランに指摘される。
そこにシェリーが近付いてくると、丁寧に挨拶をしてくれた。
周囲には、主催者側のシェリーが聖女に挨拶に行ったという風にしか見えないが、ディーがすかさず遮音魔法を自分達の周囲にこっそりかけて、会話が外に漏れないようにする。
「ショー、アレに何をしたの?」
シェリーがおかしそうに笑う。
「何って、頑張って煽ってみたよ」
俺も笑顔で答えると、グレイが口を出した。
「別人かと思うくらいアレに色気振り撒いてたわ」
「ありゃ、間違いなく勘違いしたな」
オスカーも笑う。
「そのようですね。さっき、アレに休憩室の準備をして、人払いをするように言われました」
「仕掛けてきますね」
ディーが顔を顰める。
「間違いなく。でも、ここでは行為に及ぶことは出来ないのはアレもわかっています。
ですから…。ショー、かなり辛いと思いますが…」
シェリーが心配そうに俺を見た。
個室に誘い、翔平がアレにされることに心痛な表情をする。
「大丈夫。上手くやるよ。
主催者がそんな顔しないで、笑って」
笑顔でシェリーに言うと、彼女は無理矢理笑顔を作る。
「それと、ジャレッドも貴方にご執心なようです。
あれもまだ独身ですから。アレよりも自分の方が相応しいと思ったかもしれませんわ」
「一応、ジャレッドも煽ったからね。
まさに、親子で取り合いの喧嘩でもしてくれれば、今後やりやすいかと思ってさ」
「なるほどね、そりゃいい考えだ。
喧嘩してる最中に逃げられるしな」
アランが笑い、それを狙ってるんだけどね、と俺も笑った。
「おそらくは、パーティーの中ほど、8時過ぎには声をかけてくると思います」
時計を見ながら言い、全員にアレに用意する個室の場所を伝えた。
「万が一の時は、ショーの身を守るために突入してください。
前倒しになりますが、その事実で追い込みます」
「了解した」
シェリーに全員が頷くと、丁寧に頭を下げて離れて行き、ディー達も一旦俺たちから離れる。
パーティーが始まって、15分ほど経った時、会場の出入口が騒がしくなる。
見ると、ジェロームを始め、ジャレッドも、シェリーも出入口に向かっていた。
どうやら、大物ゲストが到着したようで、入ってくる一行に貴族達が道を開けているのが見えた。
「これはこれは、ようこそお越しくださいました」
「この度は、狩猟祭の開催おめでとうございます。マールデンを代表して、心よりお祝い申し上げます」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
ジェロームと挨拶をかわす、マールデン国第7王子メルヒオールの姿を遠くから眺めた。
サンドラーク公国よりも北の国と聞いていたのだが、褐色に近い肌の色と尖った耳、それに長い金髪の美丈夫だった。
やはりエルフ族。顔は綺麗としか言いようがないほど整っており、メルヒオールの背後に控える護衛達もまた、綺麗な顔をしていて、その全員が雑誌を飛び出してきたモデルのような美人な集団にポカンと口を開けて見入ってしまった。
「メルヒオール、久しいな」
「おお、アランか。久しぶりだ」
ジェロームとの挨拶を簡単に切り上げ、さっさとアランの元へ行くメルヒオールにジェロームが頭を下げたまま舌打ちした。
「ディーゼルも元気そうだ。おお、そこにいるのはロイか!?久しぶりだな。何年ぶりだ!?」
嬉しそうに話すメルヒオールが、アラン達と握手を交わし、抱擁の挨拶をかわす。
そんな挨拶の間、俺はオスカーに促されて席を立つと、その挨拶の場に進んだ。
「メルヒオール、紹介しよう。
我が国で保護した聖女ショーへー様だ」
「おお。貴殿が」
メルヒオールが嬉しそうに俺をじっと見る。
「伝説と謳われた聖女をこうして目にすることが出来るとは。長生きするものよな」
その言葉でやはり長命種のエルフで、目の前の王子も数百歳なんだろうな、と考えながら微笑む。
「お初にお目にかかります。
縁あって、公国にお世話になっております、ショーヘイと申します。どうぞお見知り置きを」
丁寧に頭を下げて貴族流の挨拶をすると、メルヒオールが破顔する。
「一度のヒールで、数百人を癒すことが出来ると聞いた。まさに伝説の聖女だな」
メルヒオールも頭を下げ、挨拶を返してくれると、じっと俺の顔を見た。
「とても愛らしい。噂通りだ」
ニッコリと笑うと、突然俺の前に跪き、俺の手を取る。
「このメルヒオール、貴方に会うためにここに参上いたしました。
お会いできて誠に光栄です」
そのまま手に口付けられ、美人すぎるイケメンの言葉に、俺も顔を真っ赤にさせた。
「アラン、聖女は独身なのであろう?」
「あ、ああ…」
アランが答えるが、顔が引き攣った。メルヒオールが次に何を言うのか、すぐに察したようだった。
「ならば、俺が伴侶候補に名乗りをあげても問題ないな」
やっぱりかー、とアランが自分の眉間を指で叩く。
「え!?」
俺とディーの声が重なった。
俺はともかく、ディーは思わず声に出してしまったことに、慌てて口を噤む。
周囲からもどよめきが起こる。
メルヒオールが俺の手を握ったまま立ち上がり、再び俺の手に口付ける。
「今回の狩りの獲物を聖女に捧げよう」
ニコリと微笑まれ、驚き過ぎて何も言えなかった。
「どうしたのさ」
「緊張し過ぎて変な汗かいた」
はあとブラッドがため息を漏らす。
「まさかあそこでショーへーに聞かれるとは思わんかったわ」
「そうだね。あれはあれでいいんだよ。向こうもあの質問で嘘だって確信出来ただろうし」
エドワードが楽しそうに笑う。
「なんでこんな回りくどいこと…。
普通にハイメを追ってるって言やぁいいじゃねぇか」
「それは駄目だよぉ。こっちが仕入れた情報をタダで渡すなんてあり得ないし」
エドワードがブラッドに近寄り、その腕に絡みついてくっつく。
「俺の仕事を利用するなよな…」
ため息をつきながら、小柄な恋人の肩を抱く。
「いーじゃない。別にブラッドが動きにくくなるわけじゃないでしょ?」
「そうだけどよぉ…」
はぁと息を吐きながら腹黒な可愛い恋人を見下ろす。
「情報は鮮度が命。
出すべき所でちゃんと出すから大丈夫だよ」
「利益を鑑みて、だろ?」
「それは当然」
エドワードが持つ情報はまだ他にもある。それを全て教えなかったことに顔を顰めた。
「あんまりあいつらを甘くみんなよ。痛い目みるぞ。
それに、俺はあいつらとは同じ釜の飯を食った仲だ。あんまりお痛すると俺も…」
エドワードの小さな肩を抱く手に力がこもり、見上げてくるエドワードを睨むように目線を合わせた。
利益を追求し過ぎて、友人を貶めるようなことになるなら、恋人だとしても許さないと目で訴える。
「…大丈夫だよ」
ブラッドを見つめ返してニコッと微笑む。
「恋人より戦友を取るんだね。妬けちゃうなー」
「そうじゃねぇよ。
ディーはもちろんだが、ロイもああ見えて戦略家だ。それに加えて軍事統括のアランだぞ。
商人同士の駆け引きとは訳が違うって言ってんだよ」
「心配してくれてるんだ」
ギュッとさらに体を寄せる。
「当たり前だろ」
ブラッドが顔を逸らし正面を向くが、その顔が赤くなり、耳まで染まっていた。
それを見てエドワードはふふふと嬉しそうに笑いながら、べったりとブラッドにくっついた。
王族の天幕から出て自分にあてがわれた天幕まで戻る。
その戻る道すがら、先ほど挨拶した人数人に話しかけられ、適当な会話を繰り返していた。
周囲を見渡して見ると、狩猟祭に参加する貴族達が狩りの道具の手入れをしていたり、仲間達と森の地図を広げて相談している光景を目にする。
「結構みんなガチなんだな…」
明日の狩猟スタートに向けて準備を進める人達を眺めながら呟いた。
「狩りは遊びじゃねーからな。獲物によっちゃ下手すりゃ死ぬ」
グレイに言われて、そういえば狩りについて何も知らないと、今更考えた。
狩りと聞いてイメージしていたのは、たまにニュースで目にした猪狩りだった。集団で山に入り、連絡を取り合いながら包囲網を狭めて、銃で撃つ。
考えてみれば、そんな狩りしか知らない。
「なぁ、狩りってどんな風にやるんだ?」
今更だが聞いてみた。
この間ロイがたくさん狩ってきたと言っていたが、何をどうやってどれだけ狩ったのかは、結局聞いていない。
天幕に戻り、グレイとオスカーに聞いた。
「狩りを知らんのか」
オスカーが驚いたように言う。
「ショーヘイさんが居た世界では狩りをすることはないんですか?」
「ないな。俺もやったことないし、身近で聞いたこともないわ。
だから、狩りって言われてもピンと来ないんだよね」
そう言いながら首を傾げる。
「旅をしてる時、ロイもグレイもたまに野生動物狩ってたろ?このくらいの…」
ウサギくらいの大きさの動物を、野営中に獲って来て、それを捌いて食べたのを思い出す。塩を振って焼いただけだが、焼き鳥のようで美味しかった。
「何を狩るんだ?」
「そりゃぁ色々と」
小さいものから大きいものまでたくさんの種類が生息していると教えてくれる。
小さいものは、先ほどのウサギのような動物から、5mを越える大型の動物まで様々な種類がいるという。ただ大型は森の奥深くまで行かないと見つからないし、力も強く、一歩間違えばこちらが狩られることになると聞いた。
「コンテストは、動物の種類、大きさ、重さ、狩り方、その総合点で競い合うんだ」
種類や大きさなどは何となくわかるが、狩り方とはなんだ、と首を捻ると、狩った後の獲物の状況だという。
ようするに、急所一撃で仕留めたものと、何度も切りつけてボロボロなった場合では、同じ獲物でも価値が違うらしい。
「なるほどねぇ。
武器は?魔法は?」
「武器は何でもいいですが、魔法は使用制限があります。何せ森ですから。火魔法などは禁止されています」
それを聞いて、そうだよな山火事になっちゃう、と納得した。
「チームを作って狩るやつもいるし、ロイみたいに単独で狩るやつもいる。
色々だな」
「明日になればわかるが、狩られた獲物は一度ここに集められるんだ。
そこで、コンテストの鑑定員がその場で点数をつけて行く仕組みになってる」
「その獲物はどうするんだ?」
「鮮度が良いうちに、すぐに解体される。離れた場所で解体ショーもやってるから、嫌じゃなければ見に行ってみるといい」
流石にウサギみたいな動物を捌くのも見ていられなかったので、解体ショーは遠慮すると言った。
「捌いてすぐに焼いて食べることも出来るぞ」
グレイが楽しみだ、と唾を飲み込み、相変わらず食い物に目がないな、と笑った。
「でも、狩ってくるまで待つしかないならその間は暇だな」
「それがそうでもないんだよ。
通信用魔鉱石を使って、狩りの実況中継があるからな。だから、誰がどんな獲物を狩ろうとしているのかわかるし、臨場感もある」
「へぇ~。面白そうだな」
ラジオの生中継だな、と思った。
「ま、後は明日になればわかるさ」
あらかた狩りの説明が終わった頃を見計らったように、ジェロームとジャレッドが俺を迎えに来た。
「では参ろう」
ジェロームが鼻息を荒くして、俺に肘を差し出す。
「よろしくお願いします」
心の中で大きなため息をつきながらそっと左手を添えた。
ジェロームは本当によく喋る。
歩きながら、よく疲れないな、と思うほどベラベラベラ喋りまくった。
その話の内容もどれも似たり寄ったりで、いかに自分が凄いのか、これだけのイベントを開催できる力も技量もあると、俺に猛烈にアピールしてくる。
俺はじっとその話に耳を傾け、すごいすごいと感動を伝え、相槌を打った。
ジャレッドもそんな父親の少し背後に立ち、俺に話しかけ、自分もいずれは父の後を継いでこの狩猟祭をもっと大きな、世界中に響渡るようなものにしたいと夢を語っていた。
一応、2人から設備などを説明をされたが、彼らの説明は、ここにこれがある、というだけで、詳細や意味については何の説明もなかった。
なので、こちらから気になった物をいくつか聞いてみたのだが、2人に答えられるわけもなく、近くにいたスタッフに丸投げして説明させる、ということが何度かあって呆れてしまった。
だが、俺に説明をしてくれるスタッフが嬉しそうに話すので、これを利用しようと思い立つ。
「ジェローム様はお優しいですね」
腕を絡ませてピタリと体を寄せると、そうジェロームを見る。
「ん?」
俺が何を言っているのかわかっていないのか、脂ぎった顔をさらにテカらせる。
「だって、わざとスタッフの方に説明をお願いしているではありませんか。
あの方、私とお話ししたいようでしたし…。私に説明できて嬉しそうでした。
下の者にも気遣えるなんて、素晴らしいことです」
微笑みながら俺の意図を詳しく説明してやると、やっと理解し鼻息を荒くして、そうだろう実はそうなのだ、と自分の手柄のように話す。
こいつ、真性のアホだ。
心の中で呟いた。
柵で囲まれた立入禁止区域から出て、今度は狩猟コンテストの会場に移動する。
コンテスト会場は立入禁止区域ではなく、一般客や一般参加者も自由に出入り出来るようになっていた。
ただ、その中であっても一般人が近付けない場所もある。
そこに案内された。
「明日、明後日はここでコンテストを見ることになる」
野営の天幕とは形の違う天幕に近付く。壁と天井があり、前面部分は大きく解放されている。
運動会などでみかけるタープテントを天井を高くして、巨大に豪華にした感じだ。
その中にパーティ会場のように、円卓と椅子が並べられていた。その数も多く、数百人は座れるくらいの数だ。
その布張の壁に、真っ白い薄い石で出来たボードが数箇所に立てかけてあり、びっしりと升目が書かれている。
「これがランキングボードでな。一目で順位がわかるようになっておる」
「今年は数年ぶりにロイ殿が参加されるとあって、獲物の評価点数が爆上がりするでしょう」
ジャレッドが初めて説明してくれた。
「私の護衛も参加するのです。
名前が上位に入れば嬉しいのですが…」
ロイとディー、アビゲイルがコンテストに参加する。上位に名前が入れば、本当に嬉しいと思った。
「ロイ殿は当然優勝候補ですが、殿下お二人は微妙な所ですね。
毎年、上位にはおりますが、そこまでの成績では…」
ジャレッドが鼻で笑いながら言い、かなりムッとした。が、顔には当然出さない。
「ジャレッド様は参加されないのですか?」
だが、嫌味だけは言った。
「私は運営の方が忙しいので」
ジャレッドが嫌味に気付きもせず返してきたが、実際に運営しているのはシェリーで、お前はただ見てるだけだろ、と心の中で毒づく。
今日の午前中も、シェリーは運営本部で忙しく指示を出し、確認作業をずっと続けている。こいつらは、準備完了との報告を受けるだけで、その終わった準備も何のことだかわかっていないのは、今までの案内を見ていればわかる。
この2人は狩猟祭がどうやって開催され、どんなことが必要で、誰が何をしているのかも全くわかっていなかった。
「これだけの規模のお祭りですから、さぞお忙しいことでしょう。
どうかお身体だけはお気を付けなさってください」
再び嫌味を言いつつ、ジェロームから離れると、ジャレッドの腕をそっと撫でて寄り添う。
すると、ジャレッドは父親ほどではないが鼻を膨らまし、俺を見てニヤニヤと笑った。
「聖女よ、次だ」
俺が離れ息子の方へ行ったのが気に入らないのか、俺の手を掴むと自分の方へ引き寄せる。
「あ」
ナイスタイミング、と言わんばかりに、俺はつまづいたフリをして、わざとジェロームの胸に飛び込んだ。
しっかりとジェロームの胸元の服を握り、体を寄りかからせると、下から顔を見上げる。
「す、すみません…」
わざとらしくすぐに体を離し、手を口元に持って行き恥じらうような動きをした。
作戦とはいえ、自分の行動が恥ずかしくて赤くなる。
「ぉ…おお。大事ない大事ない」
ジェロームの鼻の下がビローンと伸びたのを見て、心の中で吐いた。
夕方、あらかた会場の説明が終わり、再び貴族達の立入禁止区域に戻った。
「疲れたであろう。前夜祭までまだ時間がある。こちらの天幕でお茶でも…」
ジェロームがニヤニヤしながら誘い、俺の肩に回した腕を背中に持っていくと、撫でまわした。
ゾクッと悪寒が走りつつ、逃げたいのを必死で我慢しながら、そっと寄り添い、囁くように言った。
「そうしたいのは山々なのですが…、私にも準備がありますので…」
顔を近づけて、準備、という言葉を強調して言った。
単純な意味での準備なのだが、それを別の意味で捉えられるような言い方にする。
「そ、そうか」
ジェロームが俺の尻に手を回すと、その形を確かめるように動いた。
「では前夜祭を楽しみにしておるぞ」
「はい。私も楽しみです」
尻に回ったジェロームの手を握り、さらに押し付けるようにすると、鼻の穴が思い切り広がり、俺の尻肉を掴んだ。
「では…」
スッとジェロームから離れ、隣の天幕に戻ろうとするが、後ろに居たジャレッドと目が合い微笑む。
「ジャレッド様も、また後ほど…」
静かに近付いて顔を寄せて囁くように言った。
「あ、ああ…」
その返事が明らかに上擦っており、さらに挑発するために、ジャレッドの腕をスルッと撫でた後に離れる。
ゆっくりと会釈し、そのまま自分の天幕に戻った。
俺、キース、グレイ、オスカーの順に天幕に入り、その入口の幕が完全に下がった所で、俺は床に膝をつき、がっくりと項垂れる。
「やっと終わった…」
「いやぁ…完璧だったわ」
感心するような、呆れるような、微妙な声でグレイが言った。
「見事にやり切ったな。偉いぞ」
オスカーが笑いを堪えながら褒めてくれるが、嬉しくなかった。
「間違いなく勘違いしましたね」
キースも苦笑し、項垂れた俺を助け起こすように手を伸ばす。
「何度吐きそうになったか…」
キースに手を引かれて立ち上がり、そのままソファに座った。
「キッツイわー。マジでキモイ。俺が」
だらしなく両手両足を広げ、ソファの背もたれに後頭部を預けると天井を見上げた。
「見たかよ、あの俺を見る目。あーやだやだ。キモすぎる」
ブルッと体を震わせて両腕で上半身を抱きしめながら腕を摩った。
「次は前夜祭のパーティだな。気をつけろよ」
「受け入れるフリして、かわして、焦らす、だっけ?」
はああと深く長いため息をついた。
夜7時からの前夜祭のために、普通の聖女仕様から、豪華な聖女仕様に変身する。
しかも、衣装担当の3人組は今回のハニートラップのことを知っているので、豪華な聖女仕様にセクシー要素が追加された。
「うへぇ~」
出来上がった自分の姿に変な声を出す。
上半身の体のラインが分かるようなフィットしたデザイン。全く素肌を晒していないのだが、白っぽいグレーの生地が何故か艶かしい。
その上から振袖のようなローブを羽織るが、ゆったりしているため動きによって体のラインが見える仕様になっていた。
腰履きのズボンを履いているが、大きな装飾のベルトからスカートのようなドレープ生地が足を包む。
「おー、似合うじゃねーか」
衝立から出てきた俺にグレイが言った。
「綺麗ね~。あたしも騎士服じゃなくて、そういうの着たいわぁ」
体をくねらせてジャニスが羨ましそうに言った。
「ジャニスなら俺よりも似合うだろうな」
心から言うと、ジャニスがもっと体をくねらせて照れる。
「ショーヘイさん。個室に誘われても1人でついていかないでくださいね。
私も注視していますが、どこかに行くときは必ず護衛を」
キースが心配そうに俺に何度も同じことを言う。
「うん。グレイもジャニスも頼むよ。
俺が1人になりそうだったら着いてきてくれな」
なるべく護衛のそばに居て、1人にならないようにしようとしても、離されてしまう可能性はある。
そうならないよう、ぴったりと俺も護衛に張り付く気でいるが、罠を仕掛ける過程で離れてしまうことも考慮しなくては、と考えていた。
「聖女様、お迎えが」
天幕の表で見張っていたアビゲイルが入口から声をかけてきた。
「準備出来たかね」
許可してないのに、ズカズカとジェロームが入って来た。
「ほほう…これは美しい…」
ジェロームに丁寧にお辞儀をして、褒めてくれたことに対してお礼をする。
「では参ろうか」
昼間と同様に肘を差し出され、そっと左手を添えた。
10分ほど歩いてすぐに前夜祭会場であるドーム型天幕に到着した。
その入口から中に入ると、どよっとざわめきが起こる。
そのざわめきを無視して、ジェロームは俺を伴侶のように引き連れて奥に進み、上座の脇にある席に座らせた。
その背後にグレイ、オスカー、アビゲイル、ジャニスが立つ。
「また後でな」
顔を寄せて囁くように俺に言い、俺もニッコリと笑顔で応える。
ジェロームとジャレッドが離れ上座へ移動するのを見ながら、目線を会場の中に走らせた。
少しだけ高い位置にいるため、全体をくまなく見渡せる。立食形式のパーティで、あちこちに食事が並べられたテーブルが並び、その周囲に参加する貴族やその連れ、観光目的の貴族達が大勢居た。
上座の方へ視線を戻すと、主催者であるジェロームの両隣にジャレッドとシェリーが座り、その同列にディーとアランの姿もあった。その脇にシドニー達5人の近衞とロイの姿があり、2人の姿を見てホッとする。
「なぁ、普通ホストって先に会場入りして、ゲストを迎えるもんじゃないのか?」
後ろにいる4人にこそっと聞いてみた。
「その通りだ。
本来ならジェロームが最後に入場するなんてあり得ねーよ」
オスカーがバカにしたように言う。
「ディーやアランを差し置いて後から登場するたぁ、とんでもねぇ話だわ」
グレイも皮肉を込めて笑う。
やっぱりそうなのか、と俺の認識が正しかったことを確認した。
「多分、これもシェリーの考えなんでしょうね。周りの貴族達を見てみなさいよ。みんな不思議そうな顔してるわよ」
アビゲイルに言われて再び貴族達に視線を向けると、確かに、ジェロームを見てコソコソ話している人が何人もいた。
「かなり反感を買ったわね。ざまぁないわ」
ジャニスが鼻で笑う。
背後に視線を向けることはないが、4人と話し、ジェロームがやったことはかなり失礼なことだと確認できた。
「もう、失脚への道を進み出してるってことか」
そう笑うと、4人は楽しそうに笑い、俺の言葉を肯定した。
午後7時。
ジェロームの前夜祭開会宣言とともに、パーティーが始まる。
ジェロームと同列にいたディーとアランは、宣言後すぐに席を立ち、さっさとジェロームから離れてこっちに向かって来た。
「ショーヘイさん、綺麗です」
ディーの顔がデレッと歪み、顔直せとアランに指摘される。
そこにシェリーが近付いてくると、丁寧に挨拶をしてくれた。
周囲には、主催者側のシェリーが聖女に挨拶に行ったという風にしか見えないが、ディーがすかさず遮音魔法を自分達の周囲にこっそりかけて、会話が外に漏れないようにする。
「ショー、アレに何をしたの?」
シェリーがおかしそうに笑う。
「何って、頑張って煽ってみたよ」
俺も笑顔で答えると、グレイが口を出した。
「別人かと思うくらいアレに色気振り撒いてたわ」
「ありゃ、間違いなく勘違いしたな」
オスカーも笑う。
「そのようですね。さっき、アレに休憩室の準備をして、人払いをするように言われました」
「仕掛けてきますね」
ディーが顔を顰める。
「間違いなく。でも、ここでは行為に及ぶことは出来ないのはアレもわかっています。
ですから…。ショー、かなり辛いと思いますが…」
シェリーが心配そうに俺を見た。
個室に誘い、翔平がアレにされることに心痛な表情をする。
「大丈夫。上手くやるよ。
主催者がそんな顔しないで、笑って」
笑顔でシェリーに言うと、彼女は無理矢理笑顔を作る。
「それと、ジャレッドも貴方にご執心なようです。
あれもまだ独身ですから。アレよりも自分の方が相応しいと思ったかもしれませんわ」
「一応、ジャレッドも煽ったからね。
まさに、親子で取り合いの喧嘩でもしてくれれば、今後やりやすいかと思ってさ」
「なるほどね、そりゃいい考えだ。
喧嘩してる最中に逃げられるしな」
アランが笑い、それを狙ってるんだけどね、と俺も笑った。
「おそらくは、パーティーの中ほど、8時過ぎには声をかけてくると思います」
時計を見ながら言い、全員にアレに用意する個室の場所を伝えた。
「万が一の時は、ショーの身を守るために突入してください。
前倒しになりますが、その事実で追い込みます」
「了解した」
シェリーに全員が頷くと、丁寧に頭を下げて離れて行き、ディー達も一旦俺たちから離れる。
パーティーが始まって、15分ほど経った時、会場の出入口が騒がしくなる。
見ると、ジェロームを始め、ジャレッドも、シェリーも出入口に向かっていた。
どうやら、大物ゲストが到着したようで、入ってくる一行に貴族達が道を開けているのが見えた。
「これはこれは、ようこそお越しくださいました」
「この度は、狩猟祭の開催おめでとうございます。マールデンを代表して、心よりお祝い申し上げます」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
ジェロームと挨拶をかわす、マールデン国第7王子メルヒオールの姿を遠くから眺めた。
サンドラーク公国よりも北の国と聞いていたのだが、褐色に近い肌の色と尖った耳、それに長い金髪の美丈夫だった。
やはりエルフ族。顔は綺麗としか言いようがないほど整っており、メルヒオールの背後に控える護衛達もまた、綺麗な顔をしていて、その全員が雑誌を飛び出してきたモデルのような美人な集団にポカンと口を開けて見入ってしまった。
「メルヒオール、久しいな」
「おお、アランか。久しぶりだ」
ジェロームとの挨拶を簡単に切り上げ、さっさとアランの元へ行くメルヒオールにジェロームが頭を下げたまま舌打ちした。
「ディーゼルも元気そうだ。おお、そこにいるのはロイか!?久しぶりだな。何年ぶりだ!?」
嬉しそうに話すメルヒオールが、アラン達と握手を交わし、抱擁の挨拶をかわす。
そんな挨拶の間、俺はオスカーに促されて席を立つと、その挨拶の場に進んだ。
「メルヒオール、紹介しよう。
我が国で保護した聖女ショーへー様だ」
「おお。貴殿が」
メルヒオールが嬉しそうに俺をじっと見る。
「伝説と謳われた聖女をこうして目にすることが出来るとは。長生きするものよな」
その言葉でやはり長命種のエルフで、目の前の王子も数百歳なんだろうな、と考えながら微笑む。
「お初にお目にかかります。
縁あって、公国にお世話になっております、ショーヘイと申します。どうぞお見知り置きを」
丁寧に頭を下げて貴族流の挨拶をすると、メルヒオールが破顔する。
「一度のヒールで、数百人を癒すことが出来ると聞いた。まさに伝説の聖女だな」
メルヒオールも頭を下げ、挨拶を返してくれると、じっと俺の顔を見た。
「とても愛らしい。噂通りだ」
ニッコリと笑うと、突然俺の前に跪き、俺の手を取る。
「このメルヒオール、貴方に会うためにここに参上いたしました。
お会いできて誠に光栄です」
そのまま手に口付けられ、美人すぎるイケメンの言葉に、俺も顔を真っ赤にさせた。
「アラン、聖女は独身なのであろう?」
「あ、ああ…」
アランが答えるが、顔が引き攣った。メルヒオールが次に何を言うのか、すぐに察したようだった。
「ならば、俺が伴侶候補に名乗りをあげても問題ないな」
やっぱりかー、とアランが自分の眉間を指で叩く。
「え!?」
俺とディーの声が重なった。
俺はともかく、ディーは思わず声に出してしまったことに、慌てて口を噤む。
周囲からもどよめきが起こる。
メルヒオールが俺の手を握ったまま立ち上がり、再び俺の手に口付ける。
「今回の狩りの獲物を聖女に捧げよう」
ニコリと微笑まれ、驚き過ぎて何も言えなかった。
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