おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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王都編 〜狩猟祭 ハニートラップ〜

160.おっさん、争奪戦にパニクる

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 手を取られたまま、正面からジッと笑顔で見つめられる。
 褐色の肌をした美しい男の目が俺の目を捕らえて離さない。その目は灰色で、ロイと同じ色だと余計なことを考えてしまった。


 ど、ど、ど、どどどどどどうしよう。


 心の中の自分の声が吃りまくる。
 驚いた表情のまま固まり、焦り、心の中でダラダラと汗をかく。
 視線をずらして周囲を確認しようにも、目が離せない。


 な、な、何か、い、い、言わなきゃ。
 な、な、な、何を、言えば。


 そう思っても何を言えばいいのか全く思い浮かばない。
 完全にパニックを起こしていた。




 目の前でメルヒオールが翔平にプロポーズした。
 会ってものの数分でだ。
 心の底からドス黒い何かが湧き上がる。
 嫉妬、怒り、悔しさ、負の感情がマグマのように煮えたぎった。
「ロイ、どーどー」
 突然、ガシッとスクラムを組むようにグレイにのしかかられた。
「抑えろ。抑えろよ。我慢しろ」
 冷静にロイを宥めながら、翔平とメルヒオールから視線を離さずに、ロイを抑え込む。
 触れた部分から、パチパチと火花のような魔力が今にも爆発しそうになっているのを感じながら、ゆっくりと、静かに語りかける。


 ディーの体も細かく震えていた。
 全く表面には出さないが、ロイと同じように表現しようのない負の感情が渦巻き、ディーは意識して感情を抑え込む。
 だが、気を抜けば一気に外に爆発しそうな感情に限界が近いこともわかった。
 アランがそんな弟にすぐに気付き、グレイと同じようにディーの肩に腕を回すと、のしかかるように抑え込んだ。


 やべぇ、こいつら爆発しそうだ。
 ショーへー、何か言え。
 頼むから断れ。
 断ってくれ。


 アランが心の中で翔平に訴える。
 だが、翔平がパニックを起こしているのは手に取るようにわかった。まさかの自体にアランも若干パニック気味で助け舟を出そうにも、言葉が出てこない。  
 
 他国の王子相手に、下手な断り方は出来ない。相手を立てつつ、納得させるような言い回しをしなければ今後の外交にも影響が出る。
 なんでここにサイファーがいないのか。
 この場にいない兄を恨めしく思った。
 
 アランもグレイも翔平と同じように心の中でダラダラと汗をかきまくる。


 この間たった20秒ほど。
 メルヒオールは今だに翔平の手を握り、じっと目を見つめたまま返事を待っている。

 何も出来ず見守ることしか出来ない騎士達も心中穏やかではなく、当人たちしか感じることの出来ない異常な緊張感に汗を滲ませた。





「それなら、僕も立候補してもいいですよね?」
 突然、その場の空気を打ち破るように言葉が発せられた。
「初めまして、聖女様」
 歩み寄ってきた人物に、その場に居た全員の視線が向けられる。

 アランが緊張を破った人物を見てさらに心の中で狼狽えるが、時間を稼げたことに安堵しつつ必死に言葉を探し、翔平を救うために思考をフル回転させた。

 丸いメガネをかけた、まだあどけなさの残る少年が数人の護衛と従者を連れて近付くと、翔平の前に立った。
 メルヒオールが翔平の手を離し、その少年に場所を譲ると、少年がメルヒオールに会釈しつつ翔平の手を取って跪く。
「キドナの第2王子、バシリオ・クルーズと申します」
 チュッと翔平の手に口付ける。
「僕も貴方の伴侶候補に名乗りをあげましょう。
 メルヒオール殿と同様に、今回の獲物を貴方に捧げます」
 バシリオがそう言って立ち上がると、翔平と同じくらいの背の高さで、目線を合わせてニコリと微笑む。
 柔らかな印象を持つ、可愛い感じの少年にポカンとしつつ、すぐに挨拶されたという事実を思い出して、頭を下げた。
「ショ、ショーヘイと申します。ど、どうぞお見知り置きを…」
 なんとか挨拶だけは返すことが出来たが、パニックは治らない。
 何か言わなくては、何か返さなくては、と考えれば考えるほど何も言葉が出てこない。逆に頭の中が真っ白になり、冷静さを完全に失ってしまった。
「ぁ…」


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 そればかりが思考を支配して、全く考えがまとまらない。


「アラン様、メルヒオール様、バシリオ様。発言の許可をいただけますか」
 そんな中、聞いたことのある声がした。
「ティム…」
 アランが以外な人物な口出ししてきたことに、驚愕しつつも時間を稼いでくれるかもしれないと、彼に向かって頷いた。
 メルヒオールもバシリオも、ニコリとティムに微笑む。彼の申し出と態度は完璧で、断る理由など何処にも見当たらなかった。 
「発言をお許しいただきありがとうございます。
 サンドラーク公国、ディアス男爵家が次男ティム・ディアスと申します」
 丁寧にお辞儀をして身分を明かす。
「ショーヘイ様」
 ティムが前に出るとニコリと俺の目を見て白い歯を見せて笑った。爽やかな海の男という印象のまま、今度は彼が俺の手を取り、跪いた。
「身分が違いすぎるのは重々承知しております。ですが、気持ちを抑えることは出来ません。
 私も貴方の伴侶候補に名乗りをあげましょう。一目見た時からお慕いしております」
 真剣な目で下から見上げられ、手に口付けられた。
 それを見たメルヒオール、バシリオが苦笑する。
「ちょ、ちょっと待ってください」
 さらに周囲から声と手が上がった。
 人をかき分けるように前に進み出た男が、全員に頭を下げた。
「アルベルト公爵家次男ディーン・アルベルトです。私も名乗りをあげさせていただこう」
 次々と手をあげ、声を上げ、翔平の周辺に集まり出し、名乗りを上げていく。

 マールデン第7王子 メルヒオール
 キドナ第2王子 バシリオ
 ディアス男爵家次男 ティム
 アルベルト公爵家次男 ディーン
 マース侯爵家長男 デイヴィス
 ドルキア男爵家長男 デニー
 チェルニー伯爵家次女 コリーナ
 ローレン男爵家次男 エリオット
 ルメール伯爵家長女 ブリジット
 ミラー子爵家次男 ジャック
 ミラー子爵家3男 ジェラルド
 ワグナー子爵家長男 ドナルド

 翔平を取り囲むように集まった人達に唖然としながらグルリと周囲を見渡した。
 はっきりと名乗り出た人以外にも、自分もと声を出しかけた人達がいることにも気付いた。
 だが、身分や錚々たる顔ぶれに諦めたのか、今ここで表明しなくてもいいと思ったのか、それ以上名乗り出ることはなかった。

 翔平に順番に跪き、その手に口付けて伴侶候補に名乗りをあげていく姿を見ていたら、だんだんとパニックが治っていった。
 徐々に冷静さを取り戻し、止まっていた思考が動き出す。

 それはアランも同じだったようで、思いもよらぬ光景にどう収拾をつけるか頭をフル回転させた。
 俺を取り囲み、プロポーズした人達の顔をわざとじっと見渡しつつ、その後ろにいるロイとディーの顔を見る。
 2人と視線が合い、俺の心がギュッと締め付けられた。

 愛して、プロポーズされて受け入れた2人が怒りや悔しさといった複雑な感情が混じった表情を浮かべていた。
 ロイをグレイが、ディーをアランが抑え込んでいるのもわかって、こんな状況になっても俺たちの関係を暴露し公表出来ないことに泣きたくなる。

 少し俯き、はっきりと戸惑いの表情を浮かべながらゆっくりと深呼吸する。



「皆様…。ありがとうございます。
 大変嬉しく思います…」
 ゆっくりと話し始める。
 メルヒオールの返答に困り、パニックを起こしたが、冷静に考えると、今ここでプロポーズの返事をしなくてもいいのだと気付いた。
 だが、全員にはっきりと断ることも出来ないことも理解した。
 だからあえて自分の気持ちを素直に伝えようと思った。
「皆様は、私が聖女だから伴侶に迎えたいのでしょうか…?」
 そう悲しげに微笑み、全員の顔を見渡した。その俺の言葉に数人は、そうだ、という肯定の表情を浮かべ、数人は戸惑い、数人は顔色を変えなかった。
「私は、聖女である前に、ショーヘイという1人の男です。
 これは私の我儘ですが、聖女ではなく、私個人を見てくださる方を選びたいと思っています…」
 顔を上げて、全員に語りかけるようにゆっくりと話す。
「この聖女の力は、突然出現しました。
 以前の記憶を失うほど突然に。
 なので、また突然この力を失うかもしれません。
 この力を失い、ただのショーヘイになった時、それでも私を想ってくださいますか?」
 言葉を選び、薄く微笑みながら問いかけると、はっきりと数人は俺の視線から目を逸らした。それは聖女でなくなった俺はいらない、と言っているのと同義だと受け取る。
「…聖女よ。いや、ショーヘイ殿、申し訳ない」
 メルヒオールが俺の言葉に応えた。
「いささか性急過ぎたことに謝罪しよう」
 俺に近付き手を取る。
「だが、今の言葉を聞いて私は其方がもっと知りたくなった。
 其方を知り、愛してみたい。
 今の言葉だけで其方には価値があると思った」
「私も同じです。
 聖女ではない貴方を知りたい」
 バシリオも続けて言い、俺に向かって微笑む。
「ありがとうございます。
 今は、お気持ちだけを受け取らせてください」
 そう言いながら一歩下がると丁寧にお辞儀する。それを見たメルヒオール、バシリオ、ティムを始めとした数人は納得した笑みを浮かべ、数人は微妙な笑みを浮かべていた。

 アランがホッと胸を撫で下ろし、抑え付けた弟をちらりと横目で確認し、もう大丈夫だと手を離す。
 グレイも同じように落ち着いたロイから腕を解くと、背中をポンポンと叩いた。

 了承するわけでも、はっきりと断ったわけでもない、翔平の言い回しに場が収拾する。
 緊張で体を強張らせていた騎士達も、肩から力を抜いた。


 何とかなった…。
 あれで良かったかな。


 心の中で安堵のため息をつきながら、微笑みを絶やさず、目の前から立ち去って行く、伴侶候補に名乗りを上げた人達へ会釈で返す。
「ショーへー」
 アランが近付き、ポンポンと肩を叩いて労ってくれる。何も言わなかったが、何を言いたいのかはそれだけで伝わった。

「ショーヘイ様」
 立ち去らず、最後まで残ったバシリオが再び俺に近付き、再び緊張が走るが、ニコリと笑顔で返す。
「話が前後して申し訳ありません。
 是非謝罪をさせて頂けませんか」
 バシリオの目が真剣に俺たちに向けられる。
 俺だけではなく、アランやディー、護衛騎士達にもその視線を向けた。
 アランがそっと手を動かして周囲に遮音魔法をかけた。
 それに気付いたバシリオがアランに会釈すると、深々と頭を下げる。
「この度は、兄が大変な愚行を犯しました。
 父王フォスターに代わり、心よりお詫び申し上げます」
「2度です。1度目はショーヘイさんに怪我を負わせましたが、それでも間者全員無傷で帰しました」
 ディーが低い声で怒りを表す。
「2度目は王太子直属の親衛隊の襲撃で、こちらにも被害が出ている」
 アランがさらに続ける。
「存じております。
 本来ならば父自らレイブン王に謝罪するのが筋であることも、重々承知しております」
 バシリオが頭を下げたまま言う。
 アランが小さく息を吐き、頭を上げるように言った。他国の王子に頭を下げさせたままでは外聞も悪い。
「身内の恥を晒すようで心苦しいのですが、現在我が国は王太子が王を凌ぐ勢いで勢力を伸ばしておりまして、今回の襲撃も兄が独断で行動した結果です」
「フォスター様がそこまで力を削がれているとは初耳です」
 ディーが言うと、バシリオが苦笑する。
「父ももう歳を召しましたので…。
 軍事面に至ってはすでに兄が手中に収めています」
「7年前のジェラール聖王国が我が国に侵攻した際に中立を守られたのは…」
「私が食い止めました。
 聖王国の侵攻は、政治的状況や軍事的な意味合いを含めても勝ち目はないとわかっていましたので。
 目先の欲に駆られて加担するなど、愚の骨頂です」

 会話を聞いていて、公国と聖王国、キドナの位置関係を頭に思い描く。
 ジェラール聖王国は、公国のドルキア領とイグリット領、そしてキドナに面している。
 目先の欲と聞いて、聖王国の目的はイグリットが保有する魔鉱石の2つの鉱山を奪取する目的があったんだと気付いた。
 公国全土に侵攻するわけではなく、イグリットを奪いたかったというわけか。
 それにしても、目の前のバシリオは少年のように見えるが、実際は若く見えるだけで青年の年齢だと気付いた。

「今回の来訪に関して王太子は…?」
「兄には知らせていません。私の独断でまいりました。
 私は公国と友好な関係を築きたいと思っています。その方が我が国にとって有益であることは間違いない。
 ショーヘイ様が今後もたらしてくださる利益を考えれば、敵対し、ジュノーを奪うなどもっての外です」
 バシリオが俺を見て微笑み、ジュノーであることを知っていると告げる。
「なるほど。バシリオ様の考えは理解しました。
 こちらとしても襲撃を表沙汰にする必要はないと考えていますので、謝罪を受け入れましょう」
 アランがニヤリと笑う。
「我々としても隣国とは友好な関係を築きたいと思っています」
 ディーも同じようにニヤリと笑った。
 そんな兄弟2人の笑顔が一緒で、今後キドナとの外交をすでに頭の中で描いているんだと理解し、俺は外交には一切口を挟むべきではないと、口を噤んだ。
「ありがとうございます。
 どうぞ今後ともよしなに」
 バシリオが微笑み、俺を再び見る。
「ショーヘイ様。
 先ほどは失礼致しました。
 ですが、伴侶候補に名乗りを上げたことは撤回致しません」
 そうはっきりと断言する。
「兄のように襲うのではなく、正々堂々と貴方を口説き落としてみせます」
 少年のような笑顔だが、逞しい大人の男の顔だった。
 それを見たディーとロイがあからさまに顔を顰め、バシリオは俺たちの関係にも気付いているのか、ニコリと楽しそうに微笑む。
「それでは、私はこれで。
 狩猟コンテスト、頑張りましょう」
 そう言い、握手を交わして立ち去って行った。
 バシリオが立ち去り、アラン達も俺から離れて行く。
 ロイもディーもはっきりと俺から離れたくない、話したいと視線を向けるが、ずっと一緒にいるわけにも行かず、俺も同じような気持ちを抱えたまま、離れた。

 そばにいて欲しい。
 手を繋ぎ、抱きしめて欲しい。抱きしめたい。
 そう願っても叶わない。
 小さなため息をつくと、アビゲイルが俺の肩を叩き、休みましょう、と声をかけてくれ、席に戻る。
「疲れた…」
 椅子に座ると声に出す。
「ショーヘイさん」
 その背後から会場の隅でじっと今までの様子を見ていたキースが声をかけ、飲み物を手渡してくれる。
「ありがとう」
 喉がカラカラになっていた。
 一気にコップを空にすると、すかさず別のコップを差し出され、キースの気の利いた対応に破顔する。
「それにしても焦ったな…」
 グレイが深いため息をついた。
 メルヒオールが翔平にプロポーズした時のロイのヤバさは、この会場を吹っ飛ばす勢いだったと言った。
 かろうじてその魔力を抑え込んで怒りを気付かれないようにしていたが、一発触発だったと、そばで見ていたオスカーも苦笑する。
「ほんとまいったよ…全くの想定外だもんな…」
 両手でコップを持ち、クピクピと細かく中のジュースを飲む。すごく喉が渇いて、焦りと緊張で精神が削られたと漏らした。
「でも、考えてみたら当然よね。
 いくらこの国で保護されたって言っても、独身なら誰にでもチャンスがあるってことだもの」
「両殿下も自分の国のために聖女を欲しがるのは当たり前な話ね」
「バシリオ殿下に至っては俺がジュノーだってことも知ってるしな」
 ジャニスとアビゲイルの言葉に頷いた。
「それにしても、メルヒオール殿下が口火を切ったせいで、今まで水面下でしか動いてなかったのが、一気に浮上してきた感じだな」
「聖女争奪戦も本戦突入か」
 グレイとオスカーが笑い、俺は笑い事じゃねー、と文句を言った。
 
 シークレットパフ作戦の実行中に思わぬ騒動にため息を何度もついた。
 気持ちを落ち着けるために何度も何度も深呼吸を繰り返し、目を閉じて気持ちを切り替える。
 結局、この騒動のおかげであっという間に時間が過ぎてしまい、あと少しで午後8時を迎えようとしていた。

 しばらく座って1人で思考を巡らせる。

 あの騒動の時、ジェロームもジャレッドも何も言ってこなかった。
 ちらっとその姿を見たが、2人も忌々しげに見ているだけで、何をするわけでも、言うわけでもなかった。
 会場がおかしな空気になってしまい、もしかすると、今日俺を誘ってくることはないかもしれない。それなら、こちらから何かアクションを起こした方がいいだろうか。
 8時を過ぎても声をかけてこないようなら、俺の方から声をかけるか。

 だが何て声をかける?
 何か質問をする。
 いや、何もわかっていないのだから答えられるわけがない。
 こちらから休憩室に誘う。
 いや、あからさま過ぎる。
 気分転換で外の空気を吸いに。
 いや、この場所から離れるのは危険だ。

 いくつか候補を浮かべながら、誘われる口実を模索した。
 だが、結局は適当に近付き、声をかけやすいような行動を取ることに決めた。

 3人になった時に話す内容はすでにシナリオが出来ている。
 まずはそこまで持っていかないと次に進めない。何としても今夜3人で話す状況を作らなければ、と行動を起こすことにした。

 ザワザワとあちこちで歓談する人達を尻目にその場から離れる。
 アレらは、他の貴族達と話し込んでいて、一向にこちらに向かってくる様子はないので、こちらから近付きつつ、思わせぶりな行動を取ることにする。
「アビーとジャニスだけついてきて。グレイとオスカーは威圧感あるから少し離れててくれる?」
 そう言うと、同じ騎士でも柔らかいイメージを持つ2人をそばに置き、グレイとオスカーには少しだけ下がってもらう。
 2人も俺の言葉に素直に従いつつ、一定の距離を保ってついてきた。

 ゆっくりと会場の中を進み、徐々にアレらとの距離を詰めて行く。
 途中、ブリアナに声をかけられ立ち止まって彼女のマシンガントークに笑い、さらに、ヤクモ商会のエリオールとも雑談した。
 アレらの視界に俺が入る位置まで来ると、わざとらしく何かを探しているような素振りを見せ、アレの視線が俺に注がれているのを確認した後、会場の隅の方へ移動しつつ、さらにキョロキョロと辺りを見渡した。

「何か探してらっしゃるんですか?」
 掛かった、と心の中で呟いた。
 ジャレッドが俺に近づいてくると、俺に声をかけてきた。
「あ…すみません。ちょっと人酔いしたみたいで…、休憩できる場所を…」
 少しだけ背の高いジャレッドを上目遣いで見つめてそう言うと、ジャレッドの目が細められる。
「それはいけない。休憩室があるのでご案内しましょう」
「ありがとうございます」
 ニコリと微笑み、ジャレッドの腕に触れ、自分からエスコートを促してみると、見るからに下心剥き出しの笑みを浮かべたのを見逃さなかった。
 ジャレッドの腕にしがみつくように絡ませて、具合が良くないフリをしつつもたれかかる。
 そのまま少し後ろを振り返り、そっとジャニスとアビゲイルに目配せすると、ジャニスの眉がピクリと動き、数歩身を引くと、さらに背後にいるグレイとオスカーに合図した。
 ジャニスから合図を受け取った2人が、静かに移動し、会場内に散らばったロイやディー達にさりげなく近付いて合図する。
「こちらです」
 会場を出て、ドーム型天幕の中で仕切られた廊下に入ると、いくつかの個室のドアが並んでいた。
 廊下には数人の貴族や富裕層の人が居て、雑談したり、他の休憩室を利用していた。
「こちらは主催者の休憩室なので、誰にも邪魔されません。
 ゆっくり休んでください」
 ドアを開けながらジャレッドが言い、俺を中までエスコートすると、8畳程の部屋の中にあるソファに座らせてくれる。
「何かお飲み物をお持ちしましょうか」
「あ、いえ、大丈夫です」
 そう笑顔を向けると、ついてきたジャニスとアビゲイルを見る。
「我々はドアの外におりますので、御用の際はお声がけください」
 ジャニスが言い、静かに部屋を出るが、それと入れ違いのようにジェロームが慌てた感じで廊下を走ってきた。
「体調が悪いのか!?大事ないか!?」
 休憩室に入るなり、大きな声を上げた。その後ろで、アビゲイルが静かにドアを閉めた。
「大丈夫です。人に酔っただけですから、人のいない所で休めば落ち着きます」
 わざとらしく心配するジェロームに微笑み、礼を言った。
「其方は大切なゲストなのだ。
 体調を崩されてはかなわんからな」
 ジェロームはわざとらしくホッとしたように言い、個室で3人だけになったことに、明らかに嬉しそうに鼻の穴を膨らませた。


 さぁ、勝負開始だ。
 耐えろよ、俺。


 ジェロームとジャレッドに微笑みながら、心の中で戦闘開始のゴングの音を聞いた。




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