おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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王都編 〜狩猟祭 ハニートラップ〜

167.おっさん、衝撃を受ける

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 サローニャが本祭1日目の終了を告げた。
 その言葉で出入口のゲートから少しづつ観客達が出て行くが、まだまだ会場内には観客達が残り、今だに獲物の処理が続く集積場にも多くの観客が見に行っていた。
「聖女様、お疲れ様でした」
 ニコールが立ち上がりながら声をかけてくる。
「あ、はい。お疲れ様でした」
「また夕食会でお会いしましょう」
 エリカも立ち上がると、また後でと天幕を出て行く。
「私たちも一度戻りましょう」
 キースが俺の座っていた椅子を引いてくれた。
 結局シェリーは戻ってこなかった。
 ロイが手に入れた大きな魔石を展示する作業に追われているのだろう。


 貴族達がゾロゾロと自分達の天幕に戻る列に混ざり、俺達も戻る。
 結局アレらはあの後一度も会場に戻ってくることはなかった。
 主催者のくせにシェリーの指示とはいえ一目散に逃げ出し、その後会場の様子を見にくることもしないアレらに、周りの貴族達も陰で嘲笑っていた。
 歩いている最中、周囲にいた貴族達が声をかけてきて、シェリーの行動を絶賛し、俺にも守ってくれてありがとう、と礼を言っていく。
 シェリーと俺の株は爆上がりで、それに反比例するかのようにアレらの株は大暴落していた。





 天幕に戻ると、午後7時からの夕食会に出席するために着替えが始まる。
 昨日と同じような少しだけセクシー要素が入った衣装に苦笑しながら着替え終わると、その姿を見たジャニスが、綺麗よ~といつものように体をくねらせた。


 さぁ、戦闘開始だ。


 天幕を出る直前、気持ちを切り替えるために、頬を両手でパンパンと叩いた。







 昨日の前夜祭と同じドーム型の天幕に入ると、狩猟祭の時とは違って着飾った人達で溢れかえっていた。
 昨日と同じような立食形式のバイキングで、テーブルにたくさんの食事が並べられていい匂いがしていたが、緊張からか食欲が無く食べる気にはならなかった。
「少しでもいいので、お腹に入れておいてください」
 キースがこれから起こることを考え、果物を皿に取ってくれて無理にでもお腹に詰め込んだ。

 シェリーが言ったようにケロッとした顔で会場に姿を現したアレらを見る。
 貴族達が嘲笑っていたのに、今は媚びを売るように談笑している姿を見て鼻で笑う。
「ほんといい神経してるわよね」
 ジャニスも俺と同じ考えで、馬鹿にしたように笑っていた。

 夕食会場をうろうろしつつ、声をかけられたら立ち止まって雑談する。
 それを何度か繰り返しながら、展示されているロイの魔石へ近付く。
 ガラスケースに納められた魔石の周囲に先程までは人がたくさんいてなかなか近付くことが出来なかったが、今はだいぶ落ち着きようやっと見に行くことが出来た。

「ほんとでけえな」
 オスカーが近寄ってまじまじと見つめる。
「ほんとね。幾らで売れるかしら」
 オリヴィエがニヤリと笑う。
 その言葉で、30センチの魔石が白金貨900枚だったのだから、23センチだと単純計算で690枚になる。

 8,280万円。

 その金額に変な汗が出る。
「ほんと運がいいわよね」
 ジャニスが振り返り、こっちに向かって歩いてくるロイとディーを見た。
「すげーだろ」
 ニヤニヤしながらロイがドヤ顔を決める。
「私なんて5センチでしたよ」
 ディーが言い、ムゥと不貞腐れた。
「日頃の行いの差だな」
「ロイに言われたくないわ」
 ディーがロイをどつき笑いが起こった。
「叔父上」
 その時、背後から声をかけられた。
「セリオ。久しぶりだな」
「お久しぶりです」
 オスカーが声をかけてきた青年の肩をバンバンと叩き破顔する。
「大きくなったなぁ。19歳になったんだったか?」
「やだなぁ、叔父上、もう20歳だよ」
 笑いながら答える青年を見て、彼がオスカーの甥で帝国公爵家の嫡男だとわかった。
 オスカーに似ている。きっとオスカーが20歳の時もこんな感じだったんだろうと思った。
「歓談中失礼しました。
 ディーゼル殿下、ご無沙汰しております。セリオ・レンブラントです」
「お久しぶりです。セリオ。本当に大きくなりましたね」
 セリオはオスカーやディーよりも少し背が高い。ロイと同じくらいだ。体つきはオスカーより若干細めという感じだが、ほどよく筋肉がついているのはわかった。少し長めの焦茶色の髪を後ろで束ね、白い歯を見せて笑う顔は爽やかイケメンだ。
「この方が聖女様ですか?」
 セリオとバチッと目が合い、帝国の高位貴族という立場にまた昨日のようなことになるのではと、思わず身構えてしまった。
「オスカーの甥、セリオ・レンブラントです。どうぞよろしく」
「ショーヘイです。こちらこそよろしくお願いします。オスカー様には大変お世話になっています」
 セリオの爽やかな挨拶に、ただの取り越し苦労だったと気付き、差し出された手を笑顔で握り返した。
「可愛いらしい人ですね」
「っぐ…」
 自分の半分の年の青年に可愛いと言われて言葉を詰まらせた。
「セリオ、背ぇ伸びたな」
 ロイが優しい目でセリオに声をかけた。
「ロイ…。もう並んだぞ」
 セリオがロイの正面に立つと、手で身長が同じだと笑う。
「いつ来たんだ?
 今日の開始時間にはいなかったろう」
 オスカーが聞き、セリオが振り返る。
「昼頃到着して、午後から狩りに参加してたんだ。上位には入れなかったけど、魔石は手に入れたぞ」
 言いながらポケットからケースを取り出して中を見せた。
「おお、これはなかなか」
 大きさは6、7センチほどだった。
 そしてまたロイに向き直る。
「ロイ」
 ニコニコとロイに微笑みかける。
 そして、ロイの前にいきなり跪いた。
 その光景にヒュッと息を呑む。
「どうかこれを受け取って欲しい。俺の伴侶になってくれ」
 セリオの言葉に、金槌で頭を殴られたような衝撃が襲った。

 え?
 は?
 ロイに?

 ぐわんぐわんと頭の中でセリオの言葉が反復される。
 ディーもオスカーも、周囲にいた全員があんぐりと大きく口を開けて驚愕していた。
「あー…。とりあえずこれは受け取るが…。悪いなセリオ。申し出は受けられねぇ」
 ロイが苦笑いしながらケースを手に取るが、断りの言葉を発した。
「えー、ダメ?」
「無理だな」
「どうしても?」
「どうしても」
 セリオが子供のように顔を顰めてチェッと舌打ちした。
 ロイの断りの言葉で、俺はハッと意識を取り戻したかのように口を閉じた。だが、2人のやりとりや雰囲気を見て、かなり2人が親密であることはわかった。
 過去に何があったのか、と口を閉じて歯を食いしばる。それと同時に手もギュッと握られていた。

 
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。


 ロイがプロポーズされる場面を目撃したことに心臓がうるさいほど脈打ち、いいしれない不安が俺を襲う。
「んー…でもまぁ、まだ時間あるし。諦めないから、俺」
 ニカッと笑うセリオに、心が押し潰される。
「諦めろ」
 そんなセリオにロイが笑いながら即答する。
 俺は必死に負の感情に耐えた。
 俺のものだと叫びたい衝動を必死に抑える。
 昨日、俺がメルヒオール達に求婚された時、2人も今の俺と同じ感情と戦っていた。
 2人も耐えてくれたのだ。
 俺も耐えねばと、グッと歯を食いしばり、ロイを見つめた。
 キースがそんな俺を察して、そっと背中に添えて慰めてくれる。その優しさに感謝しつつ、なんとかその場を乗り切ることが出来た。
「明日はもっと大きな魔石を手に入れるから。待っててよ」
 セリオが笑いながら言い、それではまた明日、と全員に会釈して立ち去って行った。
 その姿が見えなくなって、はあぁと力を抜いた。
「ショーへー。大丈夫だ」
 ロイが俺をじっと見て微笑む。
 その目が、お前だけだと言っているのがわかって、俺も微笑んだ。
「いやぁ驚いたわ…」
 オスカーがまさに青天の霹靂だったようでいまだに目を丸くしている。
「ロイ、あの子とどういう関係なの?」
 ジャニスが不思議そうに首を傾げる。
「5年前、追放された後レンブラントに2ヶ月世話になったんだ」
「俺が紹介したんだよ。セリオの家庭教師にって」
 オスカーが言い、まさかこんなことになるとはな、とため息をついた。
「あー、それでセリオはロイに惚れちゃっったってわけ」
「あんときゃまだこんくらいのガキだぜ?」
 ロイが自分の胸あたりに手を持って行き、当時の身長を示す。
「憧れが恋心になったってことでしょうね」
 ディーが苦笑混じりに言った。
「兄貴になんて言やぁいいのか…」
 オスカーが頭を抱え、あははと全員笑った。



 セリオが立ち去った後、帝国とシグルド国の貴族が挨拶に来た。
 それぞれと自己紹介をし、各貴族達はセリオのように握手ではなく、やはり俺の手に口付けを落としていった。その行為にやはり身構えてしまったが、あっさりと挨拶が終わってホッとする。


 夕食会が始まって1時間が過ぎ、休憩するために壁際の椅子に座っていた。
「ショーヘイ殿」
 そこにメルヒオールが近付いて来る。
 ニコニコと微笑む美人に、思わず心の中で来るなと呟いた。
「少し夜風にあたりに行かないか」
「ぁ…」
 そう言われ手を差し出されたが、どうすればいいのか判断に迷ってしまった。
 この先いつアレらが声をかけてくるかわからないし、この場から離れていいものか悩んだ。
 だが、メルヒオールの後方、離れた所でこっちを見ていたアランに気付いた。
 アランが顔を顰めながらも小さく頷き、GOサインを出す。おそらく他国の王子の申し出を断れないんだと察し、はい、と返事をした。
 差し出された手を取ると、引かれるように立ち上がる。
「お前達はここで待機していろ」
 メルヒオールが後ろに控えている従者に言うと、1人で俺を連れ出す。
 だが、キースがそのメルヒオールの言葉に顔を僅かに顰めた。
 メルヒオールが1人ならば、こちらがぞろぞろと護衛を引き連れるわけにはいかない。
 とりあえず会場を出るまでは後ろをついて行くが、その間にアランに目配せした。
 すぐにアランが気付き、襟元の通信用魔鉱石をさりげなく握る。
「アリー」
「はい」
「ショーへーを守れ」
「かしこまりました」
「ショーへー。今だけ通信を切れ。こっちの会話が漏れる」
 聞こえてきたアランの指示に従い、襟元の通信用魔鉱石に触れて、オープンにしてあった回線を遮断した。
 人混みで、音がある場所ならオープン状態にしていても、周囲の雑音にかき消されてバレることはないが、2人きりで静かな環境では通信から声が聞こえてしまう。それを恐れての指示だった。
 天幕の出入口でキースと護衛が立ち止まり、翔平とメルヒオールを見送った。
「大丈夫かしら…」
 オリヴィエが呟く。
 キースも眉を顰め、ザワザワと体の表面がざわつきを覚えた。


 メルヒオールと2人で天幕の外に出る。
 直前にキースがコートを羽織らせてくれたので、寒くはない。むしろ、天幕の中は人混みで温度が上がり若干暑かったので、その涼しさにはぁと息を吐き出した。
「暑かったな」
「そうですね」
 メルヒオールに言われてニコリと微笑む。
 手を引かれたまま、ゆっくりと天幕を囲む通路を歩く。
 外にもベンチが置かれており、俺達と同じように暑さから逃れて涼んでいる人が数人いた。
 しばらく無言で歩き、ちょうど出入口と反対側の、森が見える位置で立ち止まると手を離し、夜空に浮かぶ星々を見上げた。
「ショーヘイ殿は記憶がないのだとか」
「はい。魔力暴走を起こしている所を、ディーゼル殿下、ロイ様、グレイ様に助けられまして。
 それ以前の記憶がございません」
「まるっきり何も?」
「はい。わかるのは名前と自分が男であるということだけです。
 今日の狩りの動物すら記憶にありません」
「動物も…」
 メルヒオールが驚いたように俺を見る。
「目にするもの聞くこと全てが初めてで。
 殿下達と王都への旅路は驚きの連続でした」
 食べ物もわからなかったんです、と笑った。
「今も思い出せないのか」
「はい。全く何も。
 今は聖女だなんて言われてますけど、魔法のことも忘れていたんです」
「なんと…」
「いつ自分が聖女だと気付いたのだ」
「そもそも、聖女のことも記憶にないんですよ。
 ただ、旅の途中でモンスターブレイクに遭遇しまして…。
 多くの怪我人を目にして無我夢中でヒールを使っていました。とにかく助けたくて。
 気がつけば聖女だって言われてこんなことに」
 あははとおかしそうに笑う。
「自覚がないのだな」
「よく言われます。
 私自身、今も自分が聖女だなんて思っていません。
 私はただ魔力が多いだけの普通の男です」 
 そう笑うと、メルヒオールの手が俺の腰に回った。
 その行動にビクッと体を強張らせる。明らかにその反応はメルヒオールにも伝わったはずだ。
「あ…あの…」
 はっきりと狼狽えて体を離そうとするが、がっちりとホールドされて動かなかった。
 そのまま正面で向かい合う形で引き寄せられる。
 近くなった綺麗な顔に焦り、両手をメルヒオールの胸に添えて押し返そうとするが、全く動かない。
「なんと奥ゆかしいことか。
 ますます其方を知りたくなった」
「は、はぁ…」
 目の前で綺麗に顔で微笑まれて、狼狽えながら曖昧な返事をし、なんとかその腕から逃れようと腕に力を入れ、体を捩った。
「本当に恥ずかしがり屋なのだな」
 クスクスと俺の抵抗っぷりをおかしそうに笑い、手を離す。
 すぐに俺はメルヒオールから距離を取った。
「そんなすぐに逃げずとも」
 俺の行動に、本当におかしそうに笑う。
「面白いなショーヘイは」
 少しメルヒオールの雰囲気が変わったことに気付いた。
「な、何がですか」
「今まで私の誘いを拒む者など1人もいなかった。
 ここまで逃げられたのは初めてだ」


 だろうね。
 第7王子という立場と、その綺麗な顔で迫られたらそりゃ落ちるわ。


 と心の中で皮肉った。
「近くにディーゼルやロイが居て靡いていないのだから、当然と言えば当然か」
 自分と同じように、綺麗なイケメンの2人を名指しする。


 もうとっくに靡いて結婚の約束もしてますけどね。
 

 とさらに毒付く。
「面白い。非常に面白い」
 メルヒオールの目が楽しそうに細められた。


 もしかしてこいつ、手に入らないとわかったら、欲しくないものでも欲しがるタイプか。


 とそう分析した。
「俺なんか面白くありませんよ」
 思わず素が出てしまった。
 それに対して、おや?という顔をして破顔した。
「そっちが素かい?」
 あ、と苦虫を噛み潰したような表情をしながらも、もういいやと開き直る。
「そーですよ。今までは聖女の演技です」
「そうか。私は今の方が好みだ」
 うへぇとはっきりと嫌な顔をした。
 その顔を見てメルヒオールが声に出して笑う。
「今回は素を引き出せただけで良しとしようか」
 笑いながら俺に近付くが、俺ははっきりと身構える。
 そんな俺に笑いながら俺に手を差し出した。
「戻ろうか」
 戻るには、また聖女の演技をしなくてはならない。
 渋々とその手に自分の手を重ねた。
 だが、次の瞬間グイッと引き寄せられて、唇を奪われた。
「!!」
 すぐに離されて、カアァッと顔も耳も真っ赤になった。
「恥ずかしがり屋なのは演技ではないんだな」
「う…うるさい!」
 思わず乱暴な口をきき、メルヒオールがあっはっはと口を開けて笑った。
 ひとしきり笑い終わると、再び手を差し出す。
「ショーヘイ。こんなに興味をそそられたのは初めてだ。
 もっとお前が知りたい」
 口元は笑っているが、その目は真剣だった。
 俺はそれに対して何も答えず、ただ目を逸らした。その俺の反応にメルヒオールは微笑む。
 再び手を取られ、元来た道を戻って夕食会場に戻る。
 メルヒオールはずっとご機嫌でニコニコしていたが、俺は口をへの字に結び不貞腐れていた。
「ショーヘイ。顔」
 出入口が近付くとニヤリと笑いながら俺の顔を覗き込む。
 そこで俺は顔の筋肉を色々動かし変顔をメルヒオールに見せた後、いつもの聖女の微笑みを浮かべた。
「あっはっはっは!」
 その様子にまた声に出して笑っていた。
 出入口で待っていたキースとオスカー達が大口を開けて笑うメルヒオールが見えて首を傾げた。
「では、また。楽しかったよ」
「こちらこそ」
 キースの前で互いに挨拶して、その場で別れた。
 すぐに襟元の通信用魔鉱石に手を伸ばすと回線を繋ぐ。
「ショーヘイさん、大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫。
 ただ…、今までの聖女の姿が演技だってバレた」
 キスされたことは誰にも言わないでおこうと心に決める。
「は?」
「そのくらいは問題ないだろ」
 オスカーが言い、いつかはバレるんだ、と笑った。




 アレらの罠の前になんか疲れてしまっったと、再び壁際の椅子に座った。
 背もたれに寄りかかって、会場内で談笑しながら食事をする人達を眺めつつ、ふぅと息を吐き、少しの間だけ目を閉じた。

「ショーへー、奴らだ」
 魔鉱石から聞こえたオスカーの声に目を開ける。
 見ると、アレらが俺に向かって真っ直ぐ歩いてくるのが見えた。


 来た。


 一気に全身に緊張が走る。
 アレらを出迎えるために立ち上がり、深呼吸をしながら、意識を切り替えて行く。
「疲れたかね?」
 ジェロームがニヤニヤしながら俺に話しかけてきた。
「はい。少し…」
「それはいけないな」
 ジャレッドもニヤリと笑う。
 本当にこの親子は同じ嫌な笑い方をする。
 2人の目線がはっきりと俺の体を舐め回すように見ているのがわかった。
「聖女よ。実は其方に見せたいものがあるのだが、時間があるなら見に来ないかね」
「そうなんですか?何でしょう」
「おそらく気にいると思うのだが」
「どこにあるのですか?」
 首を傾げて聞く。
「ここではないのだが…」
「…連れて行って、見せて、くださいますか…?」
 自分なりに色気を含めた微笑みを浮かべて2人を見ると、はっきりと2人の喉が唾を飲み込むのが見えた。


 引っ掛かった。


 そう確信する。
「そうか、見たいか。では特別に見せてやろう」
 ジェロームがニヤァと笑い、背中を向けると俺に右肘を突き出した。
 その肘に左手を添えると、歩き始める。
「あ、キース。護衛の皆様も。
 ジェローム様とジャレッド様に守っていただきますから、大丈夫です」
 はっきりとアレらに聞こえるように言い、1人で行くと伝えた。
「しかし聖女様」
 わざとらしくジャニスが狼狽える。
「大丈夫です」
「そうですか…」
 着いて行きかけた足を止め、ジャニスが下がる。
 キースが俺にコートを渡し、受け取ると、キースの目を見て微かに頷いた。
 キースも口を真横に結び、何かに堪えるように頷き返す。
「行ってらっしゃいませ」
 キースが頭を下げ、俺はジェロームにエスコートされつつ天幕を後にした。




「アレが動いたぞ」
 オスカーが魔鉱石に連絡を入れる。
「各員、手筈通り順番に会場を出て配置につけ」
 アランがすぐに指示を出した。
「私はここから動けません。どうかショーを守ってください。
 よろしくお願いします」
 シェリーが泣きそうな声で言った。






 ジェロームに案内されるまま、天幕から離れ、平原を進む。
「どちらまで行かれるんですか?」
 天幕がだいぶ後方になり、聞こえていた騒がしい声もとっくに聞こえなくなっていた。
「あの森の中だ」
 そう言われて前方の森を眺める。
 その森が例の場所だとはっきり認識した。
「あの方たちは何をしてるんですか?」
 歩きながら、森周辺に見える人影について聞いた。
 おそらく、あの人たちは客を取ろうとしている娼婦や男娼だというのはわかった。
 森に近付く人に声をかけているのが見えるし、さらに、数人が入っていく姿も見えた。
 今まさにこの森全体が娼館のようになっていると思った。
「散歩でもしているのだろう」
 ジャレッドが俺の後ろから答える」
「あと少しだぞ」
 どんどん森に近付き、鬱蒼と繁る木々が圧迫するように迫ってくる。
 数分後には森に入り、さらに奥へ進んだ。
 周囲に人の気配なく、ジェロームが持つ魔鉱灯だけが足元を照らしていた。
「秘密の場所…なんですね」
「そうだ」
 ジェロームがグヘヘと奇妙な声で笑った。
「ここは誰も知らん。安心して楽しめるぞ」
 ジャレットがいつのまにか俺の隣に並び、歩きながら俺の尻を撫で回した。
 その手を払いのけたい、殴り倒して逃げたい感情を堪えながら、ひたすらついて行く。
 さらに数分進むと、前方に数張の天幕が見えた。
「こんな所に天幕が…」
 驚いたように声に出す。
「資材置き場なのだがな、一つはワシらのための物なのだよ
 言いながら、待ちきれないのか速度を上げ、俺を引っ張るように天幕へと急ぐ。
 ジャレッドが俺たちを追い抜くと、一足先に天幕に到着し、その入口の幕を広げて待つ。
 ジェロームが俺を引っ張り、足早にその中に入った後、ジャレッドが一応周囲を見渡して誰もいないことを確認すると、バサッと幕を閉めた。
「なるほど…そういう場所なのですね」
 中に入り、ぐるりと見渡す。
 15人程入れる天幕の中は、絨毯が敷かれ、ベッドではなく、柔らかそうな大きな布団が直に敷かれていた。さらにクッション類が至る所に置かれている。
 天幕の中にはむせ返るような花の匂いが立ち込めていて、頭が痛くなりそうだった。
「せ、聖女よ…」
 ジェロームが待ちきれないと、はぁはぁと荒い息で自分の服に手をかけ脱いで行く。
 それを見て吐き気がしたが、ジェロームにこっちから近付き、その手を止めさせた。
「焦らないで…時間はたっぷりあるでしょう?」
 ジェロームがそんな俺の手を掴むとベロベロとむしゃぶりつき、舐め始めた。
 うわ、とべちゃべちゃにされる手を見ながら、ジェロームの顔を手で撫で、煽る。
 その俺の背後から、ジャレッドの両腕が俺を捉えた。
「はぁ…ショーへー…」
 胸を弄り、揉まれ、あまりの強さに痛みを覚えて顔を顰めた。
「も…、もう我慢できん」
 ジェロームが俺の手を離し、ガチャガチャと焦りながらベルトを緩め、下着ごとずり下ろした。
 ジャレッドがそんな父親の姿に苦笑し、いきなり俺の肩を掴むと乱暴に俺を後ろの布団へ引き倒した。
 柔らかい布団でどこかを打ち付けることはなかったが、それでもいきなり乱暴に扱われたことに焦った。
「ジャレッド様…」
 ジャレッドが仰向けになった俺の腹の上に跨ると、彼もガチャガチャとベルトを外し、下着ごとズボンをずり下ろすと、ズルンとイキリたったペニスを俺に向けた。
「ほら、お前が欲しがってたものだ」
 そのグロテスクなモノに吐き気を堪えながらも、演技を続ける。
 ジェロームが俺のベルトに手をかけ外そうとし、ジャレッドは上着に手をかけた。
 だが、今回のために衣装班のクロエ達が用意してくれた服はとての複雑になっており、簡単に脱がすことが出来ないようになっていた。
 ボタンが至る所にあり、脱がすのはかなり手間がかかる。
「んだ、これ」
 案の定、ジェロームもジャレッドも中々脱がすことが出来ずにイライラし始める。
 これが狙いだった。
 
 ビリリリ!!

 ジャレッドの手が上半身の服を大きく左右に引き裂いた。襟元に付けられていた魔鉱石がどこかへ吹っ飛ばされてしまい、しまったと一瞬顔を顰めた。
 さらに、ベルトが取れないジェロームは大急ぎで棚にあるナイフを取りに行き戻ってくると、ベルトをナイフで切り裂く。
 ここまでされれば充分だった。
 一気に反撃に出る。

 瞬時に魔力を解放し、2人に向かって風魔法を放った。
 いきなり襲ってきた強烈な風になすすべなく2人の体が俺から離れ、吹っ飛ばされる。
「な、何を!」
 急いで体を起こし、引き裂かれた服をそのままにして、逃げるために行動を開始した。
 突然の俺の抵抗に2人の目が見開き、吹っ飛ばれた体を起こし、下半身を曝け出したまま床に座る。
「ショーへー。何か気に触ることでもしたか?」
 ジェロームが俺の機嫌を取るようなセリフを言った。
 ここに来てもまだ俺がこいつらに抱かれたがっていると思っている馬鹿さ加減に反吐が出る。
「服を駄目にされて怒っただけです」
 冷たい目を2人に向け、フンと鼻を鳴らした。
「その気がなくなりました」
 そう言うと、天幕の出入口付近にいる2人が邪魔で、さらに手を払い、風魔法で2人の体を真横へ吹っ飛ばした。
「き!貴様!!」
 ジェロームが叫び、すぐに立ち上がると俺に飛びかかってきたが、硬化の魔法をかけた右手で、その頬をスパン!と音を立てて叩き落とした。
「へぶ!」
 奇妙な声を上げて床に倒れたジェロームを無視して、そのまま出入口に向かう。
「待て!!」
 背後からジャレッドの声がして振り返ると、ジャレッドの手から何かが俺に向かって投げられた。

 カシャン

 振り返った瞬間音とともに首に軽い衝撃が走った。
「あ?」
「は!はは!」
 ジャレッドが笑った。
 咄嗟に首に触れる。その指先に金属の感触が触れた。
 俺の首に、黒い首輪が嵌められていた。
 その首輪を両手で触り、取ろうとしたが、びくとも動かない。
 硬化の魔法を使って壊そうとしたが、魔法自体が使えなくなっていた。
「魔法封じだ!これでお前は魔法が使えんただの男だ!!」
 ジャレッドが笑い、俺は一瞬で判断すると出入口の幕を開け飛び出そうとした。
「無駄だ!」
 後ろから背中に衝撃が走る。
 雷の魔法を放たれて、全身が電撃のショックに襲われる。
「あ…」
 ガクッと膝をつき、痙攣を起こす体を必死に押さえ込もうとするが、言うことが聞かず、動かすこともままならなかった。
「ジャレッド!よくやった!」
「うるさい!黙ってろ!!」
 ジェロームが息子を褒めた瞬間、ジャレッドが怒鳴った。
「な、なんじゃ貴様、父に向かって」
 ジャレッドが立ち上がると、四つ這いになった俺に近付き、その足首を掴んで中に引きずり戻した。
「何が聖女だ。魔法が使えなければそこらへんにいる男と変わりないだろ!」
 うつ伏せのまま布団まで戻され、そのまま尻を掴まれる。
「なぁ聖女様。たっぷり可愛がってやる」
 ジャレッドの手がベルトが外れたズボンを掴み、ボタンを引きちぎり、一気に膝まで下着ごと引きずり下ろした。
「はは…ははははははは!!!」
 背後でジャレッドが笑う。
 まだ電撃のショックで体が動かせず、声も出せない状態で、その恐怖に耐えた。

 何とかこの状況を打開しなければ。
 体は動かなくても、脳は動く。
 必死に頭をフル回転させた。

 



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公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
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魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
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小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

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