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王都編 〜勉強する〜
184.おっさん、冗談を言う
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共有リヴィングでオスカーの報告を聞く。
娼館でジョンが執心しているというシアと一晩過ごしたと初っ端から告げられて、思わず顔を赤くした。
その俺の反応を見てオスカーが微妙な表情を浮かべる。
そしてオスカーはまずシアについて説明を始めた。
「シアはジョンに借金があって、それを返済するために男娼になった」
「ジョンとそのシアが元々知り合いだったってこと?」
「ああ。名前を出したわけじゃないが、間違いなくジョンのことだろう。
そして、シアが語ったジョンという男は正義感の塊のような男だった」
シアの父親は元々ベルトラーク領都のニールで鍛冶屋を営んでいた。ベルトラーク家は武を重んじるため、街に鍛冶屋は多い。
雇っている兵士達の装備品を揃えるためにシアの父親も領主から定期的に武器や防具を受注していた。
そんな繋がりがあり、友人というわけではないが、顔見知りではあった。
しかし4年前、父親が知人の連帯保証人になったあげく夜逃げされ、代わりに借金を背負うことになった。
シアの父親は借金を返すために鍛冶以外の仕事を掛け持ちして働き、1年後に過労死してしまい借金が残される。
母親も必死に働いたが、それでも利子ばかりが膨らんで、借金奴隷になりかけた所を、ジョンが借金を肩代わりして親子を救った。
「そしてシアを男娼として働かせて、返済させているというわけかね」
フィッシャーが聞くとオスカーが苦笑する。
「それがそうじゃないんだよ。
シアはジョンに言われたから男娼になったわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
ジャニスが聞き返す。
「シアは自ら進んで男娼になったんだ。そしてジョンに返済している」
「せっかく助けられたのに、男娼になったんじゃぁ…」
アビゲイルが眉間に皺を寄せる。
言いたいことはわかる。せっかく奴隷にならないように救ったのに、男娼になったのでは、ジョンのした行為が報われないと思った。
「ジョンもそれを知って、救った意味がないと激怒したそうだ」
酷く怒られました、と微笑んだシアの顔を思い出してオスカーが苦笑した。
ジョンはシアが夢幻城で男娼として働き始めたことを知って、娼館に怒鳴り込みシアを連れ戻そうとした。
だが、シアは断固としてジョンに従わなかった。
返済もゆっくりでいいというジョンに背き、なるべく早く返済したいのと、別の目的があったからだった。
「別の目的?」
「そうだ。シアは男娼という立場を利用した情報屋だ。まぁこれは総合的に判断した俺の推測だがな」
「なるほど…」
ギルバートが顎を指でさすりながら目を細める。
「ジョンのためということか」
フィッシャーも苦笑する。
「あー…」
ギルバートとフィッシャーを見て、俺もなんとなく察した。
数年前にジョンがきっかけになったという、性奴隷商人の摘発。
生死の境を彷徨うほどの怪我を負ったにも関わらず、全てたまたまで済ませた。
ジョンはその情報をどこから得たのか。
その出所がこれでわかった。
シアだ。
男娼も性奴隷も、同じ性を商品にした同一の業界。
そういう情報も入ってくるのだろう。
さらに彼は、自分を買う客から言葉巧みに様々な情報を聞き出していると考えられる。
「シアはあの街の男娼にしては器量もあるし頭もいい。実際高級店から引き抜きもかかっている。
だが、それらを断っているのは、あの場所にいなければならない理由があるからだ」
「それが、ジョンのために情報屋になるってことか」
「え?え?」
ジャニスとアビゲイルだけが首を捻り、俺が簡単に説明した。
「つまりね。ジョンは悪人を退治するために、情報を集めているんだよ。
それを知ったシアは、救ってもらったジョンのために男娼という立場を利用した情報屋になったんだ。
ジョンがシアの所に通っているのは、情報を受け取るためだってことだよ」
そう2人に教えると、おお、なるほど、と理解する。
「確かに下町であるが故に犯罪者が集まりやすい。高級娼館となると客の質が変わって情報が集めにくくなるからな」
アランがやるねぇ…と口元をニヤニヤさせながら呟いた。
「…去年…。高利貸しで荒稼ぎしてた金融商会が摘発されたな…」
フィッシャーが呟く。
「そんなことがあったな。
あれもベルトラーク領の自警団に寄せられた密告がきっかけだった」
サイファーがニヤリと笑う。
「え、何?ジョンっていい奴じゃない」
アビゲイルが声を上げる。
「全ては情報から導き出した推測に過ぎん。確定じゃない」
そんなアビゲイルにオスカーが苦笑する。
「でも、ジョンはなんで悪人退治してるの?」
ジャニスがオスカーに聞く。
「残念だがそこまでは聞けなかった。その高貴なお方をとても尊敬しているとだけで、目的までは突っ込めんかったな。おそらく聞き出そうとすれば逆に怪しまれる」
「そこまで聞ければ充分です。
男娼が初回でそこまで身の上話をするのも珍しい」
ギルバートがクスッと笑う。
「ま、俺の魅力ってやつだな」
そう言いながらドヤ顔をするが、それについては誰も反応を返さないでいると、何だよ、と少しだけムッとした表情になり、思わず笑ってしまう。
「それで、なんでここにロイとディーを呼んでないわけ?」
ジャニスが今の話なら別に聞かせても問題ないでしょ、と俺も気になっていたことを言う。
「それな。ここからが聞かせられない理由なんだよ」
ソファーにふんぞり返っていたオスカーが背もたれから起き上がる。
「今から話すことは全部仮定だってことを頭に入れて聞けよ」
オスカーが声を落として全員の顔を見た。
「シアとショーヘーは似てるんだ。正確には、聖女を演じているお前にだな。
顔は全く似てないが、持っている雰囲気や仕草が似ている。シアを見て、俺はお前を思い出しちまった。
おそらくジョンはお前を見てシアを連想したはずだ」
「俺とそのシアさんを重ねてるってこと?」
「それもあるだろう。
ジョンの話を聞く前は、単純に似てるから下心ありだと考えたんだがな。おそらくそんな単純な話じゃない」
ジョンは己が信じる正義のために、弱い者、理不尽に追い込まれる者を救っている。
だが、全員を救えないこともわかっている。救いたくても救えなかった人々を目の当たりにするたび、心に傷を負っていた。
シアはそんなジョンを自身の全てを使って癒している。優しく抱きしめ、子供にするように頭を撫でる。
最初の頃は娼館に来るたびに男娼を辞めろと何度も詰め寄ったが、いつしかジョンはそんなシアに癒されるため訪れるようになった。
長い時で3日、娼館に閉じこもるという。
「思い出してくれ、ジョンが娼館に入り浸る、性に奔放な男だと聞いた時、どう思った?」
「ありえないと思ったわ。SEXのことしか頭にないクズ野郎からショーヘーちゃんを守らなきゃって」
アビゲイルがすぐに答え、それにジャニスも頷き、大体全員がその噂上の姿に憤慨した。
「だよな。俺もそう思ったわ」
苦笑いを浮かべながら肯定した。
「だがな、シアが語ったジョンはそんな男じゃなかった」
少しだけ間を開けて全員の顔を見る。
「これも聞いたことある噂だが、性欲が強くて来る者拒まず。据え膳を全て食らい、性に関する異名を持つ男がショーヘーを誘ったらどう思う?」
「何よそれ、駄目に決まって…」
「あ!」
ジャニスの言葉の途中で、俺は大きな声をあげた。それにジャニスが驚く。
「その噂って…ロイのことか…」
「そうだ。もう何年も前から広まってるあいつの噂だ。ロイだけじゃない。ディーゼルも似たような噂があるだろ」
サイファーとアランが、あー…とがっかりしたような声を上げ脱力した。
「そういうことか…」
フィッシャーが眉間に皺を寄せる。
「まさか2人の過去の行いがここまで響くとはね」
ギルバートも怒ったように表情を固くする。
「もうわかったな。
ジョンはロイとディーゼルからショーヘーを、聖女を救おうとしているんだと思う」
オスカーがはっきり言い、全員が項垂れたように脱力した。
ロイとディーの過去の性事情。
時期的には18歳から22歳くらいまでの話で、若気のいたりということもあって、相手を取っ替え引っ替えし、性にだらしのない時期があった。
2人とも顔が良く地位も金もあり、寄ってくる輩は多かったため、SEXの相手に困ることがなかったのも原因だ。
その結果、夜の帝王やら発情王やら揶揄され、面白おかしく噂された。
一つの事実が曲解され尾鰭をつけ拡散し、さらに尾鰭を付け足して広まって行った。
そんな噂を2人は武勇伝のように感じ、火消しをすることなく放置した。
そんな2人が聖女を発見し保護したと聞いて、おそらく誰しもが当然聖女に手を出したと思っただろう。
ジョンもまたそう思ったうちの1人だ。彼は、ロイとディーが聖女を手籠にしたと考え、救おうと思ったのだ。
ジョンが翔平を誘ったのも、護衛を外せと言われたのも、過去の2人の行動の結果が引き起こしたものと言える。
「だからあれほど口を酸っぱくして素行に注意しなさいと言ったのに」
ギルバートが忌々しげに言う。
以前猥談騒ぎが決着した時もギルバートは同じことを言っていたのを思い出す。
「確かにこんな話2人に聞かせられないわね」
ジャニスが呟く。
「そうは言っても説明せにゃならんな」
アランがため息をついた。
「ジョンはその正義感から聖女を2人の獣から救おうとしている。
だが、これは全て憶測の域を出ない」
ロイとディーを獣と言ったオスカーに苦笑する。
「聖女を何かに利用するために誘い、何かをするために護衛を外せと言ったとも考えられる。
または、救い、利用するという両方の場合もな」
オスカーが続け、数人が頷いた。
「ジョンが簒奪に関係ないという決定的な理由も見当たらない。
むしろ、考え方によって濃厚だと言える」
サイファーが顎を手でさすりながら考える。
「おそらく、こちらが流した3人の関係を否定する噂や偽装工作は全く信用していないだろう。逆にディーゼルとロイを擁護するために王家が仕組んだと考えることも出来る」
サイファーの言葉で、俺も同じことを考えていた。
きっとジョンは俺たちの関係に気付いている。王都について1ヶ月以上俺に何もアプローチしてこなかったのは、情報を集め、事実確認を行っていたとも考えられる。
「ロイとディー個人だけではなく、2人を擁護する王家にも不信感を抱いている…。だから王家が用意する護衛を外せ、か」
「そうなるとジョンは簒奪の実行者であって黒幕ではない。
ジョンに情報を与え、その行動を後押ししている、または計画そのものを考えている人物が別にいる」
「それが父親であるショーンである可能性もあるわけだ…」
全員がうーん…と頭を悩ませた。
その時共有リヴィングのドアがノックされた。
「どうぞ」
キースが素早くドアに近寄り確認すると、そこにロイとディーが立っていた。
「なんで呼んでくれなかったんだよ」
「オスカーからの報告を聞くんでしょう?」
報告があるはずなのに、声がかけられず、きっとアランやサイファーを探したのだろう。
入ってきた2人に全員の視線が集中した。
「え?何だ?」
自分達以外のメンバーがすでに揃っていることと、その全員に何とも言えない視線を向けられたことに2人ともギョッとしていた。
「ディーゼル、ロイ」
サイファーが立ち上がると、2人に近寄り弟の肩をポンと叩き、思わせぶりにため息をつく。
「な、なんですか」
ディーが兄の行動と微妙な空気に狼狽えた。
「場所を移動しましょうか。
ショーヘイ君はここにいてください」
やれやれ、とギルバートが立ち上がる。
「は?え?」
アラン、オスカーが立ち上がり、来たばかりの2人を押し返してリヴィングから出て行かせる。おそらく談話室に移動するんだと思い、見送った。
「お茶にしましょうか」
ドアが閉まるとキースが言った。
ショーヘー、とロイが俺を呼ぶ声が聞こえて苦笑した。
約1時間後、共有リヴィングに全員が戻って来る。
「お帰り」
最後に入ってきた2人の顔が目に見えてげっそりし項垂れていた。
きっとかなりギルバートに絞られたのだろう。怒られ、嫌味を言われ、貶されたに違いない。
そんな2人に同情したわけではないが、座っていたダイニングの椅子から立ち上がると2人に近寄って、そっと抱きしめた。
「ショーヘー…」
「ショーヘイさん…」
2人がギュッと俺の両肩にそれぞれ頭を乗せて抱きしめ返してきた。
「ごめんなさい…」
2人が小さい声で俺に謝る。
俺は何も言わず、ただ2人の背中をポンポンと叩いて慰めた。
すっかり小さくなってしまった2人をソファに座らせて、改めて話の続きをする。
目下明後日に控えたデートをどう乗り切るか、それが焦点になった。
「オスカーの推測が正解だったとして、どういう対応をするのが最良なのか」
アランが腕を組んで考える。
「それなんだけど、前にも言ったように、俺は最初から素で行こうと思う」
ニコリと笑った。
「聖女というベールを脱いで、1人の男として会うつもりだ」
俺の言葉にギルバートがクスッと笑う。
「ジョンはその正義感から俺を救おうとしているなら、救う必要はないと思わせればいい」
「まぁ、その通りだな」
アランが納得する。
「こちらがジョンの、ベルトラークの情報を集めていたように、おそらくジョンもこちらの情報を集めているはず」
俺の言葉にロイとディー以外が頷いた。
「きっと俺たちの関係も集めた情報からバレているだろうね。だけど、そこに恋愛感情があるかどうかはわかっていないはずだよ。
そこに打開策があると思うんだ」
隣に座る2人を微笑みながら見つめ、そっとその手を握ると、嬉しそうに握り返してきた。
「それでちょっと思ったんだけど…」
全員の顔を見渡し、最後に両隣に座るロイとディーを見る。
「俺がこの世界に来たのは、ベルトラーク領内で、ロイに助けられてロマ様の家に1週間ほど滞在してた」
「もう半年前になるのか…」
ロイが感慨深げに目を細めた。
「実はその時に持っていた鞄を失くしているんだけど…」
「う…」
ロイがキュッと口を真横に結ぶ。
ロイが翔平の鞄を回収し忘れて、入っていた顔写真入りの社員証ごと、襲ってきた野盗のゴブリンに持ち去られている。
「もしジョンが犯罪に対して目を光らせ、常に情報を集めているなら、ジュノーが現れた噂にも触れたはずだ。
俺の鞄に入っていたものが、ベルトラーク領内の闇市っていうの?犯罪者が盗品を捌く市みたいな場所に流れた可能性はないかな」
全てが憶測だが、思いついたことを並べる。
「確かに…。あのチャールズがショーヘイさんの顔を知った絵姿が入ったカードは見つかっていません」
ディーが言った。
社員証はあの遺跡から見つからなかった。
ということは、チャールズが持っていたのではなく、目撃しただけということになる。
チャールズ自身も誘拐などの犯罪に手を染めており、公国に広がる犯罪者の闇市にも精通していただろう。
「もしかすると、ジョンは俺がジュノーだと認識しているかも」
そう言うと半分は驚き、半分はフッと口元を歪める。
「その可能性は高いですね。
どうやらジョンという男は噂とは真逆のようです。
情報と状況からショーヘイ君がジュノーであると判断したやもしれません」
ギルバートが面白いと言いたげに笑う。
「元々ジュノーはその魔力総量が一般人に比べて多いのは文献を読めばわかる。
聖女が使うヒールは、魔力を多く使うため、突然現れた奇跡の存在というよりも、同時に発生したジュノーの存在と重ねて考えた方が現実的だろう」
フィッシャーも頷きながら言った。
「じゃぁ、ジョンはショーヘーちゃんの正体を見抜いた上でデートを申し込んで来たってことよね」
「それって、はっきりとショーヘーちゃんを利用しようとしてるってことじゃないの?」
「そうだね。だけどやっぱり憶測でしかないんだ。でも知っているだろうと予測することで心構えは出来るし、慌てずに済む」
「そうだな。まずは明後日、初回の向こうの出方を見る必要がある」
サイファーが言い、俺も頷く。
「ジョンはショーヘーの正体を知っている。もしそれを言われた場合は、隠す必要はないだろう」
アランが考えた末に結論を出す。
「こっちから言うことはないが、3人の関係やジュノーについて聞かれた場合は否定せずに答えてくれ。
その上で、外交上の問題で秘密にしていると言ってくれ。キドナの件もあるしその答えは有効なはずだ」
「わかった」
笑顔で答える。
「ジョンが得た情報でどこまで正確に把握しているのか、それを確認しなければなりませんね。頼みましたよ、ショーヘイ君」
ギルバートが俺にニコリと微笑む。
「まずは明日、出迎えの時は聖女ショーヘイで頼む」
最後にサイファーが言い、話し合いが終わった。
全員を1階まで見送りに行く。
今日はこのままアランが瑠璃宮に泊まるらしく、満面の笑顔で俺と同じように他を見送っていた。
今日の護衛はロイとディーで、久しぶりの2人セットに嬉しくなる。
だが、2人は口数が少なく凹んだままだった。
そんな2人の手を引っ張って3階まで戻るが、リヴィングに入っても項垂れて突っ立ったままだった。
「ギルにかなりこてんぱんにされたからな」
アランが笑いながら言い、2人の背中をポンポンと叩く。
「全く…ほら、2人とも」
そんな2人の腕を引っ張って引き寄せると頭をそれぞれ両肩に押し付けるように抱きしめる。
「過去のことだろ?いつまでも凹むなよ」
「まさか俺たちの昔の行動がここまで尾を引くなんて」
ロイが俺の肩にグリグリと顔を押し付けながら抱きしめて来る。
「昔に戻れるなら、当時の自分をボコりたいです…」
ディーもロイと同じように頭を押し付ける。
そんなしょげかえる2人に笑う。
「もう今更言っても仕方のないことだよ。前を向け前を」
笑いながら頭を撫でた。
夕食後、キースと明日のスケジュールの再確認をした後、早々に自室に戻る。
アランがキースと早く2人きりになりたいと全身で訴えており、そんな無言の圧に負けたせいだ。
2人ともまだ反省中のようで時折ため息をつきながら小さくなっていた。
そんな2人を急かして交代で風呂に入るように言い、背中を押す。
風呂から上がった2人の髪をドライヤー魔法で乾かしてやり、事前に用意していた2人の寝夜着を着せてあげる。
やはり護衛としてここに泊まると言っても、騎士服のままでは落ち着かないと思って、2人の寝夜着や私服を数着用意してもらっていた。
まるで子供にするように風呂に入れ、着替えさせるという行動に笑いながら、2人をベッドまで誘導した。
「俺も風呂入ってくるから先に寝てろ」
ベッドに座った2人に言い、俺もバスルームに向かった。
「はぁ…」
ロイがバフッとベッドに倒れ込んだ。
「なぁディー」
「何ですか」
「俺たち、ショーヘーに迷惑かけっぱなしだ…」
「…そうですね」
ディーもバフッとベッドに倒れる。
「情けねえ…ほんと情けねえ…」
仰向けになり、目を腕で覆うと口を閉じた。
「私たちは、何をしてあげられるでしょうか…」
ディーも横向きになると頭を抱え込むように背中を丸めて縮こまった。
そんな2人の言葉をバスルームと寝室を繋ぐ扉のそばで聞いた。
本当に2人は過去の行いを後悔して、猛反省している。上部だけの反省ではなくて、心から反省している様子にクスッと笑った。
静かにバスルームから出ると、ベッドに近付いた。
「もう反省は終わり」
2人の間に腰を下ろすと、拳を作ってその体を小突く。
「俺に何をしてくれるかって?」
ディーが言った言葉を復唱すると、隠していた顔を上げて俺を見た。
「もう充分だよ。これ以上何も望んでない。2人とも充分に俺を愛してくれてるだろ?
これ以上望むのはただの欲張りだ」
そう言って笑うと、2人が泣きそうな顔になって体を起こすと左右から抱きついてきた。
2人のその猛反省ぶりが、俺を思ってのことだと充分すぎるほど伝わってきた。俺を愛してくれているからこそ、後悔も大きいんだと理解した。
「ロイ、ディー。
俺を愛してくれてありがとう。
これからも、俺を愛してくれるだろ?」
2人の腕に触れ、微笑みながら言うと、2人が顔を歪ませて左右からギュウギュウと抱きしめてくる。
「愛してる」
「愛してます」
何度も何度もそう呟く2人に破顔する。
そしてそのまま2人にベッドに押し倒された。
そこで、俺は悪戯心がムクムクと心に湧き起こる。
「あのさ。俺のお願い聞いてくれるか?」
「聞く。なんでも聞く」
「聞きます」
2人が同時に即答した。
そんな2人にニヤリと笑うと、
「じゃぁ、抱かせて」
とそう言った。
たっぷり1分は間が空いた。
「は?」
「え?」
上から俺を見下ろす2人の目が点になり、吹き出しそうになるのを堪える。
「だから、俺が上になりたい。俺にお前達を抱かせて欲しい」
2人の目がますます点になった。
「え、あ、いや…」
「そ、それは…」
「なんだよ。お願いを聞いてくれるんだろ?」
そう笑いながら2人を下からじっと見つめると、目に見えて2人が狼狽え始める。
「言ったけど…。え?ショーヘーが俺を抱く?」
「ショーヘイさんが?私を?」
ブツブツと呟いて、その状況を想像したのか、赤くなったり青くなったりを繰り返した。
「ダメ?」
首を傾げて、わざとあざとい感じを醸し出しながら聞いた。
「ぅ…うぅ…」
「うー…」
途端に2人が唸り出す。
俺から体を離して真剣に悩み始めた2人に我慢できず、とうとう俺は吹き出してしまった。
「っぶ!はは、あははは!!!」
大声で笑い、2人の様子に腹を抱えて笑う。
「冗談!冗談だよ!!っぷ、くくく…」
言ったことを訂正しながらも、笑いが止まらない。
そんな俺を見ながら2人は顔を真っ赤にしてプウッとむくれた。
「ショーヘー!」
「ショーヘイさん!」
「お前らの顔!!あははは!!」
お腹を抑えながらベッドに仰向けに転がって足をばたつかせた。
「焦ったじゃねーか!」
ロイがムキーッと俺に覆い被さり、笑う俺を押さえつけるように押し潰してきた。
「ひゃっはっは!!」
ディーが仕返しするように、俺の脇腹をくすぐる。
「ほんと焦りましたよ!」
「ひぁ!ひゃはは!」
2人にくすぐられ、笑いすぎて涙が出る。
「冗談かよ…マジで焦った…」
「冗談で良かった…」
そして不意に2人にギュッと抱きしめられた。
「でも…本当に抱きたいって言うのなら、それは…拒みませんよ」
ディーが顔を上げて苦笑しながら言った。
「まぁ…あれだな、ショーヘーも男だしな…」
ロイも呟く。
「2人とも、抱かれた経験あるんだろ?」
笑いが収まった後、静かに2人に聞いた。
「昔な…。それこそ若かりし頃の話だ」
若かりしって、今も充分若いだろ、とツッコミたくなったがそれを飲み込む。
「その時の流れで…」
ディーも苦笑しながら肯定する。
「お前達が昔、かなり自由な性生活を送ってたっていうのは、色んな人から聞いたし、知っているつもりだったけどな」
クスッと笑いながら言うと、2人とも決まり悪そうな表情になる。
「面目ない…」
「弁明のしようがないです…」
「責めてるわけじゃないよ。そう聞こえたならごめん」
また凹みそうになる2人に笑う。
「ここはそういう世界で、お前達が特殊ってわけでもないだろ?
ただ、ロイとディーはその立場があったから、噂が誇張されて大きくなっただけだと思うよ」
「ギルにも同じことを言われた。普通の人と同じことをしても評価が違うって」
ロイが小さくため息をつく。
「その時はまだまだガキだったってことだなw」
声に出して笑うと2人ともガキだったなぁと笑った。
しばらく笑い、2人がじっと俺を見つめていることに気付く。
ロイの手が頬に触れると静かにキスをする。ディーも同じように重ねるだけの長めのキスをしてきた。
「俺はお前達を抱きたいと思わないよ」
俺を見下ろす2人の目を見て、薄く微笑みながら言う。
「俺は…お前達に…抱かれたい」
頬を染め、恥ずかしそうに言った翔平の表情が2人の心を貫き、その下半身にも直撃した。
途端にもじもじ、ソワソワし始めた2人に笑う。
「抱き潰すのは、勘弁な」
笑いながら、2人に向かって腕を伸ばした。
娼館でジョンが執心しているというシアと一晩過ごしたと初っ端から告げられて、思わず顔を赤くした。
その俺の反応を見てオスカーが微妙な表情を浮かべる。
そしてオスカーはまずシアについて説明を始めた。
「シアはジョンに借金があって、それを返済するために男娼になった」
「ジョンとそのシアが元々知り合いだったってこと?」
「ああ。名前を出したわけじゃないが、間違いなくジョンのことだろう。
そして、シアが語ったジョンという男は正義感の塊のような男だった」
シアの父親は元々ベルトラーク領都のニールで鍛冶屋を営んでいた。ベルトラーク家は武を重んじるため、街に鍛冶屋は多い。
雇っている兵士達の装備品を揃えるためにシアの父親も領主から定期的に武器や防具を受注していた。
そんな繋がりがあり、友人というわけではないが、顔見知りではあった。
しかし4年前、父親が知人の連帯保証人になったあげく夜逃げされ、代わりに借金を背負うことになった。
シアの父親は借金を返すために鍛冶以外の仕事を掛け持ちして働き、1年後に過労死してしまい借金が残される。
母親も必死に働いたが、それでも利子ばかりが膨らんで、借金奴隷になりかけた所を、ジョンが借金を肩代わりして親子を救った。
「そしてシアを男娼として働かせて、返済させているというわけかね」
フィッシャーが聞くとオスカーが苦笑する。
「それがそうじゃないんだよ。
シアはジョンに言われたから男娼になったわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
ジャニスが聞き返す。
「シアは自ら進んで男娼になったんだ。そしてジョンに返済している」
「せっかく助けられたのに、男娼になったんじゃぁ…」
アビゲイルが眉間に皺を寄せる。
言いたいことはわかる。せっかく奴隷にならないように救ったのに、男娼になったのでは、ジョンのした行為が報われないと思った。
「ジョンもそれを知って、救った意味がないと激怒したそうだ」
酷く怒られました、と微笑んだシアの顔を思い出してオスカーが苦笑した。
ジョンはシアが夢幻城で男娼として働き始めたことを知って、娼館に怒鳴り込みシアを連れ戻そうとした。
だが、シアは断固としてジョンに従わなかった。
返済もゆっくりでいいというジョンに背き、なるべく早く返済したいのと、別の目的があったからだった。
「別の目的?」
「そうだ。シアは男娼という立場を利用した情報屋だ。まぁこれは総合的に判断した俺の推測だがな」
「なるほど…」
ギルバートが顎を指でさすりながら目を細める。
「ジョンのためということか」
フィッシャーも苦笑する。
「あー…」
ギルバートとフィッシャーを見て、俺もなんとなく察した。
数年前にジョンがきっかけになったという、性奴隷商人の摘発。
生死の境を彷徨うほどの怪我を負ったにも関わらず、全てたまたまで済ませた。
ジョンはその情報をどこから得たのか。
その出所がこれでわかった。
シアだ。
男娼も性奴隷も、同じ性を商品にした同一の業界。
そういう情報も入ってくるのだろう。
さらに彼は、自分を買う客から言葉巧みに様々な情報を聞き出していると考えられる。
「シアはあの街の男娼にしては器量もあるし頭もいい。実際高級店から引き抜きもかかっている。
だが、それらを断っているのは、あの場所にいなければならない理由があるからだ」
「それが、ジョンのために情報屋になるってことか」
「え?え?」
ジャニスとアビゲイルだけが首を捻り、俺が簡単に説明した。
「つまりね。ジョンは悪人を退治するために、情報を集めているんだよ。
それを知ったシアは、救ってもらったジョンのために男娼という立場を利用した情報屋になったんだ。
ジョンがシアの所に通っているのは、情報を受け取るためだってことだよ」
そう2人に教えると、おお、なるほど、と理解する。
「確かに下町であるが故に犯罪者が集まりやすい。高級娼館となると客の質が変わって情報が集めにくくなるからな」
アランがやるねぇ…と口元をニヤニヤさせながら呟いた。
「…去年…。高利貸しで荒稼ぎしてた金融商会が摘発されたな…」
フィッシャーが呟く。
「そんなことがあったな。
あれもベルトラーク領の自警団に寄せられた密告がきっかけだった」
サイファーがニヤリと笑う。
「え、何?ジョンっていい奴じゃない」
アビゲイルが声を上げる。
「全ては情報から導き出した推測に過ぎん。確定じゃない」
そんなアビゲイルにオスカーが苦笑する。
「でも、ジョンはなんで悪人退治してるの?」
ジャニスがオスカーに聞く。
「残念だがそこまでは聞けなかった。その高貴なお方をとても尊敬しているとだけで、目的までは突っ込めんかったな。おそらく聞き出そうとすれば逆に怪しまれる」
「そこまで聞ければ充分です。
男娼が初回でそこまで身の上話をするのも珍しい」
ギルバートがクスッと笑う。
「ま、俺の魅力ってやつだな」
そう言いながらドヤ顔をするが、それについては誰も反応を返さないでいると、何だよ、と少しだけムッとした表情になり、思わず笑ってしまう。
「それで、なんでここにロイとディーを呼んでないわけ?」
ジャニスが今の話なら別に聞かせても問題ないでしょ、と俺も気になっていたことを言う。
「それな。ここからが聞かせられない理由なんだよ」
ソファーにふんぞり返っていたオスカーが背もたれから起き上がる。
「今から話すことは全部仮定だってことを頭に入れて聞けよ」
オスカーが声を落として全員の顔を見た。
「シアとショーヘーは似てるんだ。正確には、聖女を演じているお前にだな。
顔は全く似てないが、持っている雰囲気や仕草が似ている。シアを見て、俺はお前を思い出しちまった。
おそらくジョンはお前を見てシアを連想したはずだ」
「俺とそのシアさんを重ねてるってこと?」
「それもあるだろう。
ジョンの話を聞く前は、単純に似てるから下心ありだと考えたんだがな。おそらくそんな単純な話じゃない」
ジョンは己が信じる正義のために、弱い者、理不尽に追い込まれる者を救っている。
だが、全員を救えないこともわかっている。救いたくても救えなかった人々を目の当たりにするたび、心に傷を負っていた。
シアはそんなジョンを自身の全てを使って癒している。優しく抱きしめ、子供にするように頭を撫でる。
最初の頃は娼館に来るたびに男娼を辞めろと何度も詰め寄ったが、いつしかジョンはそんなシアに癒されるため訪れるようになった。
長い時で3日、娼館に閉じこもるという。
「思い出してくれ、ジョンが娼館に入り浸る、性に奔放な男だと聞いた時、どう思った?」
「ありえないと思ったわ。SEXのことしか頭にないクズ野郎からショーヘーちゃんを守らなきゃって」
アビゲイルがすぐに答え、それにジャニスも頷き、大体全員がその噂上の姿に憤慨した。
「だよな。俺もそう思ったわ」
苦笑いを浮かべながら肯定した。
「だがな、シアが語ったジョンはそんな男じゃなかった」
少しだけ間を開けて全員の顔を見る。
「これも聞いたことある噂だが、性欲が強くて来る者拒まず。据え膳を全て食らい、性に関する異名を持つ男がショーヘーを誘ったらどう思う?」
「何よそれ、駄目に決まって…」
「あ!」
ジャニスの言葉の途中で、俺は大きな声をあげた。それにジャニスが驚く。
「その噂って…ロイのことか…」
「そうだ。もう何年も前から広まってるあいつの噂だ。ロイだけじゃない。ディーゼルも似たような噂があるだろ」
サイファーとアランが、あー…とがっかりしたような声を上げ脱力した。
「そういうことか…」
フィッシャーが眉間に皺を寄せる。
「まさか2人の過去の行いがここまで響くとはね」
ギルバートも怒ったように表情を固くする。
「もうわかったな。
ジョンはロイとディーゼルからショーヘーを、聖女を救おうとしているんだと思う」
オスカーがはっきり言い、全員が項垂れたように脱力した。
ロイとディーの過去の性事情。
時期的には18歳から22歳くらいまでの話で、若気のいたりということもあって、相手を取っ替え引っ替えし、性にだらしのない時期があった。
2人とも顔が良く地位も金もあり、寄ってくる輩は多かったため、SEXの相手に困ることがなかったのも原因だ。
その結果、夜の帝王やら発情王やら揶揄され、面白おかしく噂された。
一つの事実が曲解され尾鰭をつけ拡散し、さらに尾鰭を付け足して広まって行った。
そんな噂を2人は武勇伝のように感じ、火消しをすることなく放置した。
そんな2人が聖女を発見し保護したと聞いて、おそらく誰しもが当然聖女に手を出したと思っただろう。
ジョンもまたそう思ったうちの1人だ。彼は、ロイとディーが聖女を手籠にしたと考え、救おうと思ったのだ。
ジョンが翔平を誘ったのも、護衛を外せと言われたのも、過去の2人の行動の結果が引き起こしたものと言える。
「だからあれほど口を酸っぱくして素行に注意しなさいと言ったのに」
ギルバートが忌々しげに言う。
以前猥談騒ぎが決着した時もギルバートは同じことを言っていたのを思い出す。
「確かにこんな話2人に聞かせられないわね」
ジャニスが呟く。
「そうは言っても説明せにゃならんな」
アランがため息をついた。
「ジョンはその正義感から聖女を2人の獣から救おうとしている。
だが、これは全て憶測の域を出ない」
ロイとディーを獣と言ったオスカーに苦笑する。
「聖女を何かに利用するために誘い、何かをするために護衛を外せと言ったとも考えられる。
または、救い、利用するという両方の場合もな」
オスカーが続け、数人が頷いた。
「ジョンが簒奪に関係ないという決定的な理由も見当たらない。
むしろ、考え方によって濃厚だと言える」
サイファーが顎を手でさすりながら考える。
「おそらく、こちらが流した3人の関係を否定する噂や偽装工作は全く信用していないだろう。逆にディーゼルとロイを擁護するために王家が仕組んだと考えることも出来る」
サイファーの言葉で、俺も同じことを考えていた。
きっとジョンは俺たちの関係に気付いている。王都について1ヶ月以上俺に何もアプローチしてこなかったのは、情報を集め、事実確認を行っていたとも考えられる。
「ロイとディー個人だけではなく、2人を擁護する王家にも不信感を抱いている…。だから王家が用意する護衛を外せ、か」
「そうなるとジョンは簒奪の実行者であって黒幕ではない。
ジョンに情報を与え、その行動を後押ししている、または計画そのものを考えている人物が別にいる」
「それが父親であるショーンである可能性もあるわけだ…」
全員がうーん…と頭を悩ませた。
その時共有リヴィングのドアがノックされた。
「どうぞ」
キースが素早くドアに近寄り確認すると、そこにロイとディーが立っていた。
「なんで呼んでくれなかったんだよ」
「オスカーからの報告を聞くんでしょう?」
報告があるはずなのに、声がかけられず、きっとアランやサイファーを探したのだろう。
入ってきた2人に全員の視線が集中した。
「え?何だ?」
自分達以外のメンバーがすでに揃っていることと、その全員に何とも言えない視線を向けられたことに2人ともギョッとしていた。
「ディーゼル、ロイ」
サイファーが立ち上がると、2人に近寄り弟の肩をポンと叩き、思わせぶりにため息をつく。
「な、なんですか」
ディーが兄の行動と微妙な空気に狼狽えた。
「場所を移動しましょうか。
ショーヘイ君はここにいてください」
やれやれ、とギルバートが立ち上がる。
「は?え?」
アラン、オスカーが立ち上がり、来たばかりの2人を押し返してリヴィングから出て行かせる。おそらく談話室に移動するんだと思い、見送った。
「お茶にしましょうか」
ドアが閉まるとキースが言った。
ショーヘー、とロイが俺を呼ぶ声が聞こえて苦笑した。
約1時間後、共有リヴィングに全員が戻って来る。
「お帰り」
最後に入ってきた2人の顔が目に見えてげっそりし項垂れていた。
きっとかなりギルバートに絞られたのだろう。怒られ、嫌味を言われ、貶されたに違いない。
そんな2人に同情したわけではないが、座っていたダイニングの椅子から立ち上がると2人に近寄って、そっと抱きしめた。
「ショーヘー…」
「ショーヘイさん…」
2人がギュッと俺の両肩にそれぞれ頭を乗せて抱きしめ返してきた。
「ごめんなさい…」
2人が小さい声で俺に謝る。
俺は何も言わず、ただ2人の背中をポンポンと叩いて慰めた。
すっかり小さくなってしまった2人をソファに座らせて、改めて話の続きをする。
目下明後日に控えたデートをどう乗り切るか、それが焦点になった。
「オスカーの推測が正解だったとして、どういう対応をするのが最良なのか」
アランが腕を組んで考える。
「それなんだけど、前にも言ったように、俺は最初から素で行こうと思う」
ニコリと笑った。
「聖女というベールを脱いで、1人の男として会うつもりだ」
俺の言葉にギルバートがクスッと笑う。
「ジョンはその正義感から俺を救おうとしているなら、救う必要はないと思わせればいい」
「まぁ、その通りだな」
アランが納得する。
「こちらがジョンの、ベルトラークの情報を集めていたように、おそらくジョンもこちらの情報を集めているはず」
俺の言葉にロイとディー以外が頷いた。
「きっと俺たちの関係も集めた情報からバレているだろうね。だけど、そこに恋愛感情があるかどうかはわかっていないはずだよ。
そこに打開策があると思うんだ」
隣に座る2人を微笑みながら見つめ、そっとその手を握ると、嬉しそうに握り返してきた。
「それでちょっと思ったんだけど…」
全員の顔を見渡し、最後に両隣に座るロイとディーを見る。
「俺がこの世界に来たのは、ベルトラーク領内で、ロイに助けられてロマ様の家に1週間ほど滞在してた」
「もう半年前になるのか…」
ロイが感慨深げに目を細めた。
「実はその時に持っていた鞄を失くしているんだけど…」
「う…」
ロイがキュッと口を真横に結ぶ。
ロイが翔平の鞄を回収し忘れて、入っていた顔写真入りの社員証ごと、襲ってきた野盗のゴブリンに持ち去られている。
「もしジョンが犯罪に対して目を光らせ、常に情報を集めているなら、ジュノーが現れた噂にも触れたはずだ。
俺の鞄に入っていたものが、ベルトラーク領内の闇市っていうの?犯罪者が盗品を捌く市みたいな場所に流れた可能性はないかな」
全てが憶測だが、思いついたことを並べる。
「確かに…。あのチャールズがショーヘイさんの顔を知った絵姿が入ったカードは見つかっていません」
ディーが言った。
社員証はあの遺跡から見つからなかった。
ということは、チャールズが持っていたのではなく、目撃しただけということになる。
チャールズ自身も誘拐などの犯罪に手を染めており、公国に広がる犯罪者の闇市にも精通していただろう。
「もしかすると、ジョンは俺がジュノーだと認識しているかも」
そう言うと半分は驚き、半分はフッと口元を歪める。
「その可能性は高いですね。
どうやらジョンという男は噂とは真逆のようです。
情報と状況からショーヘイ君がジュノーであると判断したやもしれません」
ギルバートが面白いと言いたげに笑う。
「元々ジュノーはその魔力総量が一般人に比べて多いのは文献を読めばわかる。
聖女が使うヒールは、魔力を多く使うため、突然現れた奇跡の存在というよりも、同時に発生したジュノーの存在と重ねて考えた方が現実的だろう」
フィッシャーも頷きながら言った。
「じゃぁ、ジョンはショーヘーちゃんの正体を見抜いた上でデートを申し込んで来たってことよね」
「それって、はっきりとショーヘーちゃんを利用しようとしてるってことじゃないの?」
「そうだね。だけどやっぱり憶測でしかないんだ。でも知っているだろうと予測することで心構えは出来るし、慌てずに済む」
「そうだな。まずは明後日、初回の向こうの出方を見る必要がある」
サイファーが言い、俺も頷く。
「ジョンはショーヘーの正体を知っている。もしそれを言われた場合は、隠す必要はないだろう」
アランが考えた末に結論を出す。
「こっちから言うことはないが、3人の関係やジュノーについて聞かれた場合は否定せずに答えてくれ。
その上で、外交上の問題で秘密にしていると言ってくれ。キドナの件もあるしその答えは有効なはずだ」
「わかった」
笑顔で答える。
「ジョンが得た情報でどこまで正確に把握しているのか、それを確認しなければなりませんね。頼みましたよ、ショーヘイ君」
ギルバートが俺にニコリと微笑む。
「まずは明日、出迎えの時は聖女ショーヘイで頼む」
最後にサイファーが言い、話し合いが終わった。
全員を1階まで見送りに行く。
今日はこのままアランが瑠璃宮に泊まるらしく、満面の笑顔で俺と同じように他を見送っていた。
今日の護衛はロイとディーで、久しぶりの2人セットに嬉しくなる。
だが、2人は口数が少なく凹んだままだった。
そんな2人の手を引っ張って3階まで戻るが、リヴィングに入っても項垂れて突っ立ったままだった。
「ギルにかなりこてんぱんにされたからな」
アランが笑いながら言い、2人の背中をポンポンと叩く。
「全く…ほら、2人とも」
そんな2人の腕を引っ張って引き寄せると頭をそれぞれ両肩に押し付けるように抱きしめる。
「過去のことだろ?いつまでも凹むなよ」
「まさか俺たちの昔の行動がここまで尾を引くなんて」
ロイが俺の肩にグリグリと顔を押し付けながら抱きしめて来る。
「昔に戻れるなら、当時の自分をボコりたいです…」
ディーもロイと同じように頭を押し付ける。
そんなしょげかえる2人に笑う。
「もう今更言っても仕方のないことだよ。前を向け前を」
笑いながら頭を撫でた。
夕食後、キースと明日のスケジュールの再確認をした後、早々に自室に戻る。
アランがキースと早く2人きりになりたいと全身で訴えており、そんな無言の圧に負けたせいだ。
2人ともまだ反省中のようで時折ため息をつきながら小さくなっていた。
そんな2人を急かして交代で風呂に入るように言い、背中を押す。
風呂から上がった2人の髪をドライヤー魔法で乾かしてやり、事前に用意していた2人の寝夜着を着せてあげる。
やはり護衛としてここに泊まると言っても、騎士服のままでは落ち着かないと思って、2人の寝夜着や私服を数着用意してもらっていた。
まるで子供にするように風呂に入れ、着替えさせるという行動に笑いながら、2人をベッドまで誘導した。
「俺も風呂入ってくるから先に寝てろ」
ベッドに座った2人に言い、俺もバスルームに向かった。
「はぁ…」
ロイがバフッとベッドに倒れ込んだ。
「なぁディー」
「何ですか」
「俺たち、ショーヘーに迷惑かけっぱなしだ…」
「…そうですね」
ディーもバフッとベッドに倒れる。
「情けねえ…ほんと情けねえ…」
仰向けになり、目を腕で覆うと口を閉じた。
「私たちは、何をしてあげられるでしょうか…」
ディーも横向きになると頭を抱え込むように背中を丸めて縮こまった。
そんな2人の言葉をバスルームと寝室を繋ぐ扉のそばで聞いた。
本当に2人は過去の行いを後悔して、猛反省している。上部だけの反省ではなくて、心から反省している様子にクスッと笑った。
静かにバスルームから出ると、ベッドに近付いた。
「もう反省は終わり」
2人の間に腰を下ろすと、拳を作ってその体を小突く。
「俺に何をしてくれるかって?」
ディーが言った言葉を復唱すると、隠していた顔を上げて俺を見た。
「もう充分だよ。これ以上何も望んでない。2人とも充分に俺を愛してくれてるだろ?
これ以上望むのはただの欲張りだ」
そう言って笑うと、2人が泣きそうな顔になって体を起こすと左右から抱きついてきた。
2人のその猛反省ぶりが、俺を思ってのことだと充分すぎるほど伝わってきた。俺を愛してくれているからこそ、後悔も大きいんだと理解した。
「ロイ、ディー。
俺を愛してくれてありがとう。
これからも、俺を愛してくれるだろ?」
2人の腕に触れ、微笑みながら言うと、2人が顔を歪ませて左右からギュウギュウと抱きしめてくる。
「愛してる」
「愛してます」
何度も何度もそう呟く2人に破顔する。
そしてそのまま2人にベッドに押し倒された。
そこで、俺は悪戯心がムクムクと心に湧き起こる。
「あのさ。俺のお願い聞いてくれるか?」
「聞く。なんでも聞く」
「聞きます」
2人が同時に即答した。
そんな2人にニヤリと笑うと、
「じゃぁ、抱かせて」
とそう言った。
たっぷり1分は間が空いた。
「は?」
「え?」
上から俺を見下ろす2人の目が点になり、吹き出しそうになるのを堪える。
「だから、俺が上になりたい。俺にお前達を抱かせて欲しい」
2人の目がますます点になった。
「え、あ、いや…」
「そ、それは…」
「なんだよ。お願いを聞いてくれるんだろ?」
そう笑いながら2人を下からじっと見つめると、目に見えて2人が狼狽え始める。
「言ったけど…。え?ショーヘーが俺を抱く?」
「ショーヘイさんが?私を?」
ブツブツと呟いて、その状況を想像したのか、赤くなったり青くなったりを繰り返した。
「ダメ?」
首を傾げて、わざとあざとい感じを醸し出しながら聞いた。
「ぅ…うぅ…」
「うー…」
途端に2人が唸り出す。
俺から体を離して真剣に悩み始めた2人に我慢できず、とうとう俺は吹き出してしまった。
「っぶ!はは、あははは!!!」
大声で笑い、2人の様子に腹を抱えて笑う。
「冗談!冗談だよ!!っぷ、くくく…」
言ったことを訂正しながらも、笑いが止まらない。
そんな俺を見ながら2人は顔を真っ赤にしてプウッとむくれた。
「ショーヘー!」
「ショーヘイさん!」
「お前らの顔!!あははは!!」
お腹を抑えながらベッドに仰向けに転がって足をばたつかせた。
「焦ったじゃねーか!」
ロイがムキーッと俺に覆い被さり、笑う俺を押さえつけるように押し潰してきた。
「ひゃっはっは!!」
ディーが仕返しするように、俺の脇腹をくすぐる。
「ほんと焦りましたよ!」
「ひぁ!ひゃはは!」
2人にくすぐられ、笑いすぎて涙が出る。
「冗談かよ…マジで焦った…」
「冗談で良かった…」
そして不意に2人にギュッと抱きしめられた。
「でも…本当に抱きたいって言うのなら、それは…拒みませんよ」
ディーが顔を上げて苦笑しながら言った。
「まぁ…あれだな、ショーヘーも男だしな…」
ロイも呟く。
「2人とも、抱かれた経験あるんだろ?」
笑いが収まった後、静かに2人に聞いた。
「昔な…。それこそ若かりし頃の話だ」
若かりしって、今も充分若いだろ、とツッコミたくなったがそれを飲み込む。
「その時の流れで…」
ディーも苦笑しながら肯定する。
「お前達が昔、かなり自由な性生活を送ってたっていうのは、色んな人から聞いたし、知っているつもりだったけどな」
クスッと笑いながら言うと、2人とも決まり悪そうな表情になる。
「面目ない…」
「弁明のしようがないです…」
「責めてるわけじゃないよ。そう聞こえたならごめん」
また凹みそうになる2人に笑う。
「ここはそういう世界で、お前達が特殊ってわけでもないだろ?
ただ、ロイとディーはその立場があったから、噂が誇張されて大きくなっただけだと思うよ」
「ギルにも同じことを言われた。普通の人と同じことをしても評価が違うって」
ロイが小さくため息をつく。
「その時はまだまだガキだったってことだなw」
声に出して笑うと2人ともガキだったなぁと笑った。
しばらく笑い、2人がじっと俺を見つめていることに気付く。
ロイの手が頬に触れると静かにキスをする。ディーも同じように重ねるだけの長めのキスをしてきた。
「俺はお前達を抱きたいと思わないよ」
俺を見下ろす2人の目を見て、薄く微笑みながら言う。
「俺は…お前達に…抱かれたい」
頬を染め、恥ずかしそうに言った翔平の表情が2人の心を貫き、その下半身にも直撃した。
途端にもじもじ、ソワソワし始めた2人に笑う。
「抱き潰すのは、勘弁な」
笑いながら、2人に向かって腕を伸ばした。
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