おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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王位簒奪編 〜ジョンとの2度目のデート〜

197.おっさん、情報を与える

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 ジョンは俺と偽装結婚するつもりだ。


 ジョンは、ロイとディーゼルに俺が手籠にされたと思い込み、王家が政敵を排除するための駒として利用しているという誤った情報を鵜呑みにした。

 だが初回のデートで、事実は違うと気付いた。
 目の前を覆っていた偽情報のベールが取り払われた今、ジョンは改めて情報を精査したはず。

 何故そう思い込んでしまったのか。
 
 ジョンはそれを考えた結果、自分が利用されたと気付いた。
 王家から、ロイとディーから、聖女を救うという大義を自分に植え付けた奴がいる。
 それに気付いて、ジョンはそいつが誰か、その目的を考えたはず。
 
 実に簡単な話だ。
 聖女を利用したい、手に入れたいのは、王家ではなくその誰かであり、その目的は王家への反逆。つまりは王家の敵。

 その敵は何処の誰かはわからないが、そいつは王家を、聖女を狙っている。

 ジョンは王家から聖女を守ろうとしていたが、今はその敵から聖女を守ろう考えた。

 だが聖女はそばにいない。
 聖女を守るためには、そばに、一緒にいることが必要だと。
 

 その答えが、結婚だ。
 守るためだけの結婚で、完全な偽装。



「なぜそう思う?」
「だって」
 ハハッと声に出して笑う。
「ジョンは別に俺のこと好きじゃないだろう?」
 ジョンが一瞬ポカンとした後、微妙な表情を浮かべ苦笑した。その表情は悪戯が見つかった子供のようでもあるし、悲しみを感じているようでもあるし、なんとも微妙できまり悪そうな微笑みだった。
「ジョンは己が信じる正義のために聖女を守りたい。
 そこに愛はないよ」
 ニコリと笑うと、ジョンがフフッと笑い声を漏らす。
「あいつの言った通りだ」
 笑いながら呟く。
「あいつって、俺に会わせたいって言った人か?」
「ああ」
「へぇ…」
 ジョンの言葉からすると、シアは俺が偽装結婚を見抜くと予測していたことになる。
 なぜ会ったこともない俺がそう考えると予測したのか。すごく興味が湧いた。会ってみたいと思うが、現状ジョンをまだ完全に信用出来ていない。
 限りなく白に近いグレー。
 出来れば、完全に白だという確証が欲しい。

 おそらくそれはジョンも同じだ。


 前回、俺は王家に利用されていないと言い切った。そこに俺の意思があると。
 だが、それもよく考えればおかしな話なのだ。
 何故そこまで聖女が王家を信用しているのかという謎が残る。
 その謎を解こうとすると、単純に保護者とその対象という関係以上の何かがあると考えるのが妥当だ。

 聖女は王家に利用されているのではなく、協力している。
 では何に協力しているのか。

 それが王家の政敵を排除すること。そこに繋がる。


 前回は時間切れでそれ以上のことを話せなかった。
 時間が経って改めてじっくりと考え、俺の考えや行動を訝しみ、今回のデートで俺の、王家の目的、自分を騙した王家の敵を探りにくるだろうと予測していた。

 シアに会わせたいと言われたのは予想外だ。
 情報屋のシアに、俺が偽装結婚を見抜くだろうという洞察力があり、状況判断能力も高く、見識もあるようだから、一度騙されてしまった自分よりもそっちの方が手っ取り早いと思ったのかもしれない。

 どちらにせよ、俺もジョンから情報を引き出したい。
 それには、ジョンから信用を得なければならない。そのためには、ある程度こちらの手の内を見せた方がいいと思った。
 教えても問題のない、調べればわかる情報を。
 


 
「シアさん…だっけ?」
 会わせたいという人物の名前を口にした。
 その瞬間、ジョンが目を見開き驚愕の表情を浮かべる。
「だいぶ、ご執心のようで」
 ニコリと微笑みながら言うと、その表情がゆっくりと苦笑した。
「知ってるのか」
「まあね。前に言ったろ?王家は篩にかけてるって。
 当然、ジョンについても調べてる」
「なるほどね」
 ますます苦笑する。
「ブルーノ男爵家のデイルが主催する朗読会に参加してるみたいだな。
 それに夢幻城だっけ?」
 俺の言葉にジョンの顔がどんどん顰められ、ハハハ…と力なく笑った。
「まぁ…なんというか…」
「別に責めてるわけじゃないよ」
 そんなジョンに笑う。
「こっちの世界じゃ、割と普通のことらしいし。
 そのシアさんっていう人が好きなんだろ?だから俺に会わせたいんじゃ?」
 ニコニコしながら俺の想像で、揶揄うように言った。

 ジョンはシアのことが好きで、恋愛感情があればいいと思っていた。
 偽装とは言え、好きでもない俺と結婚しようとしているのだ。それを好きな人に説明するために会わせようとしている、という意味を含めて聞いた。
 もちろんそれは建前で、ジョンが俺をシアに会わせたい理由は他にあるとわかっている。

「まさか。シアは大切な友人だ」
 はっきりと即座に否定された。少し焦っているような表情にもなる。
 今の話だけを聞けば、遊び人だと思えるからだ。
「そうなの?だって、入り浸ってるって聞いたぞ」
「あー…それは…」
 ジョンが言葉を探して悩む。
「シアはベルトラーク出身でな、色々あって男娼なんてやっているが、本当はそんな奴じゃなくて…」
「ふぅん…」
 俺はそれ以上聞かずジョンの反応を見る。
「だが、もしショーヘーと結婚したら、朗読会も参加しないし、シアとももう…」
「それは無理だろ」
 被せ気味にすぐ否定した。
 揶揄うのをやめて、本筋に戻す。 
「無理って、なんで」
「ジョンの目的がSEXじゃないって知ってるからだよ」
 ジョンが一瞬で真顔になり、そしてすぐに眉間に皺が寄った。
「どこまで知ってるんだ」
 ジョンからピリッとした緊張感が伝わり、まるで得体の知れないものを見るような目で俺を見る。
「言ったろ?調べたって」
 それに対して物怖じせず薄笑いを浮かべる。
「ジョンがとても正義感が強いのは前回で充分理解したよ。
 そんな正義感の塊みたいなジョンが、乱行目的の会に出席したり、娼館に入り浸るなんて、おかしいだろ」
 空になった互いのティーカップに、おかわりを注ぎながら話す。
「きっとジョンには別の目的がある。
 朗読会は、集まる貴族達や同伴する者から。
 そして娼館ではシアさんから」
 注いだお茶をジョンの前に静かに差し出す。
「情報を集めているんだろう?
 犯罪に繋がる情報を集めて、その芽を摘んでる。または排除、摘発する」
 ティーカップを持ちながら、ニコリとジョンに微笑みかける。
 ジョンは口を半開きにして、ポカンと俺を見ていた。
「な…」
 何故、と言おうとして止めた。

 聖女に相応しい相手がどうか、俺を調べた。
 それこそ、普通の身辺調査なんかじゃないと、今初めて思い知った。これこそが王家の、最高権力者の力だ。

「は…はは…」
 脱力し、半笑いの状態で椅子にもたれかかる。
「王家も、知っているのか」
「俺も知っているくらいだからね。
 だからこそ、王家はジョンを信用した。ジョン・ベルトラークという個人は信用たり得ると判断したんだ。
 聖女の相手に相応しいって思ったんだろうな」
 ジョンから信用を得るために、大袈裟に話を盛った。半分は憶測のままで、その背景などの事実確認は行なっていない。
 ジョンが俺を見つめたまましばらく間が開く。俺も目を逸らさずにじっとその目を真剣に見つめ返した。
「はあぁぁ…」
 そして目を逸らして、深く長いため息をついた。
「なんだよ…バレバレかよ…」
 目頭を揉みながら呆れるように言った。そんなジョンにクスッと微笑む。

 俺がバラせる内容はここまでだ。
 王家に目に見えない敵がいることは事実で、何年もその敵を探していたこと、それに俺が協力していることを話すかどうかは、今後の話の流れ次第。

 これは俺の勝手な判断だが、ジョンは確実に白だという前提で情報を与え、その結果、ジョン自らの考えで俺が囮になっていると気付かせたかった。
 そう気付くことが、潔白であると証明することになる。
 そう考えた。

 ジョンを信用したい、という俺の願望が含まれているが、その正義感は好ましいし、必要だと思った。
 何よりも、友人としてこれからも付き合って行きたかった。

 微笑みながらも、徐々に緊張が高まっていった。










 一応デートという名目もあり時間も余裕があるから、真っ直ぐジュリエッタに向かわず、ゆっくりと歩きながら街を散策する。
「ねぇ、これから一緒に」
「なぁ、俺たちと飲みに」
「いいことしようぜ?」
「どっかに行かない?」
 1時間と少し散策しただけで、十数人に声をかけられた。
「行かね」
「無理」
「出直せ」
「失せろ」
 ロイもアレックスも、威圧の魔力と睨みでナンパを悉くシャットアウトする。
 それでも少し歩けば声をかけられる。
 流石にその数の多さにうんざりし始めていた。
「どうする?もう行くか?」
 ロイが声をかけるが、まだ4時半くらいで、飲み始めるにはかなり早い。乗合馬車を使えば、セドアとルヴァンの間の歓楽街にある店には30分で到着する。このままブラブラしながらジュリエッタまで歩けば丁度良い時間になるが、ナンパがウザすぎた。
「まぁ、いいんじゃね?」
 アレックスが答え、帝都とは違う街並みや行き交う人々を観察した。
「こっちは武器を持って歩く奴は少ないな」
「そうだな。帝国に比べりゃ少ないな。っていうか、帝国が多すぎんだよ」
 軍事国家であり、強い者がのしあがれる国で、武器を携帯して強さを鼓舞するのは当たり前だった。故に荒事も多い。
「平和だな」
 アレックスが呟いた一言にロイは苦笑する。

 今別の場所で緊張が高まりつつある。キドナとの国境沿いに国軍の4分の1が派遣されて、国境警備にあたっていた。
 現在行われている定例議会でも、キドナとの外交に関して議論が繰り返されていることも知っている。

 アレックスに見られないように小さくため息をつきつつ、立ち並ぶ店のショーウィンドウを眺めた。
「あ」
 その内の一軒に目が止まる。
「寄っていいか?」
 アレックスに声をかけて、その店、宝飾店に足を向けた。
「欲しいものでもあるのか?」
 ロイの後ろをついて行き、店に入った。
「もしかして…」
 ロイが愛したという人に贈るのか、とピンときた。
「あー…まぁ…。今まであんまりプレゼントとかしてなくてな。
 街に出ることもあんまねーし…」
 並べられた宝飾品を眺めながら答える。
 実際に、王都に戻ってから王城を出たのは数える程しかない。
 団の仲間と飲みに行ったりするだけで、後はほぼ城内で色々な仕事をしていた。
 翔平の護衛以外の日は、サイファーやアランに頼まれた仕事をしており、それは騎士団の訓練や座学の講師、城の警備状況の確認と見直し、武器庫の在庫管理から書類仕事まで多岐に渡っていた。
 本当に暇だと思われ、人手不足の所に放り込まれていいように使われており、下手すれば、現役時代よりも忙しくしていた。
 考えてみれば、翔平に贈ったのはペアピアスと魔石だけだ。
 他に花の一つも贈っていなかった。
 付き合っていることを、愛し合っていることを隠した状況で大っぴらにデートも出来ず、翔平が欲しいと思うものもわからない。
 以前ディーが翔平とデートして、魔導ペンを贈っていたのが、本当に羨ましくて、悔しかったのを思い出す。

 俺も何か贈りたい。
 贈って喜ぶ顔を見たい。

 喜ぶ翔平の顔を想像して、二ヘラと顔が歪んだ。
 それを見たアレックスは、うわぁ、と呆れたような、気持ち悪いものを見たような表情を浮かべる。
「宝石がいいのか?」
「いやぁ…どうだろう」
 品物を見ているが、首を傾げるロイにさらに呆れる。
「ちなみに、その相手は男と女どっちだ」
「男」
「どんな?」
「可愛い。とにかく可愛い。ほんわかする。あったかいし、笑顔がマジ可愛い。恥ずかしがり屋で、手繋いだり、頬に触れるだけで真っ赤になるんだ。
 可愛いだろぉ?」
 可愛いと連呼してデレデレするロイにさらに呆れた。なんで惚気を聞かされにゃならんのだ。
「あ、そ」
 惚れた相手が通常の数百倍可愛く見えるのは、経験はないが何となくわかる。だが、戦争で敵兵に白炎の狼と恐れられた男がここまで絆されるなんて、とその相手に興味も湧いた。
 まぁ、その相手が誰かはあらかた予想はついているのだが。
「これなんてどうだ?」
 大きな宝石が嵌め込まれたゴツいピアスを指差す。
「駄目、似合わん。そんなイメージじゃない」
 即答される。
 適当に指差したが、ここは俺も真剣に探してやるか、と心の中で笑った。
「性格は?」
「クソ真面目で頑固。でもとにかく優しくて可愛い」
 また可愛いと言った。
 どんだけ可愛いんだ、と笑いつつ、先ほどとは真逆のデザインのシンプルなピアスを指差す。
「う~ん…まぁまぁ、か?」
 腕を組んで考える。
「髪色は?」
「黒。で、イメージは白とか金かな」
 だんだんと相手のイメージが掴めてきた。そして、予想していた相手が誰なのか自ずと確信した。

 ロイとディーが愛した人。
 間違いない。聖女だ。

 2回ほど会ったが、ロイが語ったイメージにピッタリ合う。
 確かに俺と目があった時、赤面した顔は可愛かった。それに、聖女としてのイメージもあるだろうが、とても優しそうで暖かみを感じた。

 そうか。あの聖女と愛し合っているのか。

 フフッと笑いつつ、相手がわかれば選びやすい。
 トレイを手に取ると、ササッと聖女に似合う宝飾品を数点選んでトレイに乗せ、ロイに示した。
「…すげえな。イメージぴったりだ」
「お前、あんまりプレゼントとか選んだことないだろ」
 馬鹿にしたように笑い、さらにもう1枚トレイを取って次々と商品を選ぶ。
 値札は全く気にしない。どれだけ高かろうが、この店にある商品なら何でも買える。それだけの資産をロイは持っている。
「う~ん…」
 差し出された宝飾品を眺め、一つ一つ聖女がつけた所を想像している。
 そして時間をかけて選び抜いた。

 結局ロイは店員にも相談し、必死に考えて自分で選んだものに決めた。
 金色の丸い輪っかの先に小さな雫状の乳白色の磨かれた宝石がぶら下がっている、とてもシンプルなピアスだった。
 だが、その金額はシンプルでも可愛くもなかった。

 早速会計を済ませると、いい物が買えたと満足した笑顔で戻ってくる。

「お前さぁ、もっと彼氏の好みとか把握しとけよな」
「すんません…」
 笑顔から一転、アレックスに叱られるように言われ、しょぼくれる。
「きっとお前、自分のことばっかりだろ。
 好きだー、愛してるーって抱きついてばっかじゃねーのか?」
「ぅぐ…」
 まるで見たことがあるような言い方にロイが言葉に詰まる。

 そうだったかも…。

 今までの自分の行動を考え、会うたびに抱きついて、キスして、匂いを嗅ぐ行動を思い出した。
 あの時も、あの時も、あの時も。
 会えばまず翔平に飛びつく。

「ま、犬系獣人の習性でもあるからしゃーないけどよ」
 思い当たる節が大有りなんだと呆れつつ笑う。
 そして、自分も気に入った人を落とすため、いい関係を保つためにプレゼントをしたな、と思い出していた。
 単純に花や菓子、宝飾品、服飾品。
 色々と思い出して、ふと閃いた。
「プレゼントするならよ…」
 店を出て再び歩き始め、閃いたことをロイに言った。
 その顔は悪戯心丸出しで楽しそうにニヤニヤと笑い、ロイに耳打ちするようにゴニョゴニョと教える。
 それを聞いたロイがニヤァと笑った。
「そりゃぁ、いいな」
 ニヤける顔をそのままにクックッと含み笑いを漏らす。
「じゃぁ行こうぜ」
 アレックスも楽しそうに笑い、それが売っている店を探し歩いた。










 お茶をゆっくりと口に含み、高まる緊張を抑える。
「確認させてくれ」
 ジョンもお茶で口の中を潤すと、身を乗り出すように、テーブルに両腕を置いた。
「この間のデートでは濁されたが、ショーへーと殿下方の関係だ。
 実際どうなんだ」
 ズバリ聞いてきた。
「俺たちは付き合ってる」
 迷うことなく素直に答えた。
「そうか…」
 ジョンが真顔になり、微笑む俺の顔から目線を逸らし、はぁとため息をついた。
「そうかな、とは思ったが…」
 と後のセリフをゴニョゴニョと口の中で呟き、何を言っているのかは聞こえない。
「何故公表しない?」
 眉を顰めながら、ジョンが問う。
「タイミングの問題だな。
 ジョンも言ってただろう?
 王都に着いてすぐに公表すれば、ロイとディーの噂から、俺は手籠にされたって思われる。
 聖女を囲って利用する気だって、きっとみんなそう思う」
「確かにな…」
 情報に惑わされたというのもあるが、実際にジョンはそう思った。
「だから公表はしばらく控えることになったんだ」
 本当の理由は俺が囮になるためだが、それは言えない。
 ジョンの顔が微妙に歪む。その顔は納得していない顔だ。

 それもそうだろう。公表しないせいでこうして求婚されているのだ。決まった相手がいるのに、見合いだなんだと受けているのはおかしい。
 友人を作るためと言っていたが、それならば求婚を全て拒否して、友人候補を募ればいいだけの話だ。

「他にも理由があるのか」
「ある。でも言えない」
 即答するとジョンの顔がますます顰められた。
 ジョンがじっと俺を見て黙り込んだ。
 俺の表情からその理由を探ろうとしているのだろうが、俺はしれっとお茶を飲む。
 内心はかなりドキドキしているが。

 俺が出せる情報は出した。
 果たしてジョンがどう考えるか。
 じっとその答えが出てくるのを待つ。

 ジョンが腕を組んで考え込み始める。

 
 俺を利用しようとした奴は、聖女を欲しがっている。
 そいつは聖女を利用したい。
 その目的は、おそらく王家への反逆。
 だから聖女と結婚して守ろうと思ったが、聖女にはディーゼル殿下と英雄ロイという恋人がいる。俺が守る必要はない。
 なのに付き合っていることを隠して、求婚を受け付けている。 
 
 だとしたら。


 ジョンの脳内で、シアが静かに語った言葉が響いた。

「聖女様は・・・ではないですか?」


 ジョンの目が見開いた。
「ショーヘー」
 その大きく開いた目で翔平を見つめ、名を呼んだ。
「ん?」
 なるべく普通に返事をした。
「お前、囮なのか」


 はい。正解です。


 ニコリとジョンに向かって微笑んだ。










 夕方6時過ぎに目的であるジュリエッタに到着した。
 一階の酒場は、食事と酒目当てで混みつつある。
「いらっしゃいませ~!お二人様ご案内で~す!」
 元気の良い犬耳尻尾の可愛い店員が叫ぶと、厨房のあるカウンターの奥から、あいよ~という年配の女性の声が聞こえてきた。
「ジュリ、美味いもの頼むよ」
 そのカウンターに近付き、厨房に居た恰幅の良い女性に手を差し出す。顔を上げマジマジとロイを見つめ、その手に触れるとすぐに笑顔になった。
 認識阻害魔法を、手に触れることで一時的に解除させ正体を明かす。
「なんだ、ロイかい。しばらく見なかったねぇ」
「忙しくてな」
「いつもの席でいいのかい?」
「ああ」
 店の主人、ジュリエッタが微笑むと、店員に声を掛けてその席へ案内するように指示をした。
 すぐに1階オープン席の角、少し奥まった場所に案内され、いつものように周囲に遮音魔法をかける。飲みの席で仕事関係の話が出ることもあるため、騎士同士の飲み会では遮音魔法が必須だった。
 席について数秒後には、ドンとテーブルに樽ジョッキが置かれる。
「じゃ、乾杯」
「何にだよ」
「あー…」
 関係の精算のために飲みにきたのだ。いわば別れであり祝い事とは言えない。
 そう思って顔を顰め、アレックスが笑った。
「じゃ、お前の恋人に」
 そう言うと、ロイが目に見えて嬉しそうに笑う。
「ショ…。恋人に」
 思わず名前を言いそうになり、ショーへーね、やっぱり聖女だ。とアレックスが笑う。
 ゴッゴッゴッと喉を鳴らし、ジョッキの半分まで一気に飲み干し、ぷはぁと息を吐いた。そこにツマミが届く。
「相変わらず良い飲みっぷりだねぇ。しかもいい男連れてさ」
 店主のジュリエッタ本人がツマミというには大皿大盛りの食べ物を持ってくる。
「上、使うなら空けとくけど?」
 気を利かせてジュリエッタが言うが、ロイが慌てて今日はいい、と大袈裟に身振りを交えて断った。
「なんだ、いいのかい?」
「俺は別に構わないんだぜ?」
 ニヤついた顔の2人に言われ、ロイがうぅと唸った。
「違うだろ」
 揶揄うような表情のアレックスに文句を言うが、アレックスはニヤニヤと笑うだけだった。

 どんどん酒が運ばれてくる。
 もう何杯飲んだのか覚えていなかった。ロイもアレックスも少しだけ顔が赤くなっていた。
「でよぉ、ショーへーが真っ赤になって…」
 飲み始めてすぐに、聖女が恋人であるとロイに認めさせた。
 最初は否定していたが、あからさまに動揺する姿や、プレゼントを選ぶ時に聞いたイメージで気付いたと話すと、あっさり認めた。元々嘘が上手な男ではないから、少し揺さ振りをかけるだけですぐに白状した。
 だが、絶対に口外するな、と真剣な眼差しで言われ、その目で、口外出来ない理由が個人の問題ではなく、国や政治が絡んでいるとすぐに察した。
 それからはひたすら惚気だ。

 ショーへーが、ショーへーに、ショーへーの、ショーヘー、ショーヘー。

 いい加減うんざりし、ムッとしていた。
 こんな惚気を聞くために飲みに来たんじゃない。ロイとの関係を終えるための飲み会だ。
 そんな目的も忘れて楽しそうに話すロイに腹が立った。

「おい」
 ドンと樽ジョッキを置くと、赤い顔でロイを見る。
「あー?」
 話の途中で呼ばれ、ロイがヘラヘラしながら答える。
「SEXしてぇ」
「あーSEXねぇ…したいなぁ…」
 二ヘラッと笑いながら答えた。
「ならしようぜ。本当にこれで最後だ」
 じっとロイを見つめ、笑うロイに対して真剣に言った。

 ロイとSEXしたい。
 抱かれたい。抱きたい。
 濃厚で、快楽だけを追い求める溺れるようなSEXを。

「あー…」
 ロイの顔から笑顔が消えた。
「俺はお前とSEXしたい。乱暴に扱ってもいい。お前のしたいこと、全部受け入れてやる」
 アレックスがテーブルに置かれたロイの手に自分の手を重ねた。
「お前のを俺に突っ込めよ。突っ込んでガンガン腰振って、好きなだけ出せ」
 ギュッとロイの手を握り、熱の籠もった視線を投げかけた。
「アレックス…」
 ロイの目が熱を帯びる。酒のせいなのか、アレックスの色気にあてられたのかはわからない。
 だが、じっとアレックスを見つめた。
 アレックスの指がロイの手に絡まる。そして、その指を怪しく撫で、煽るように動かした。
「なぁ…ロイ…抱いてくれよ…俺を…めちゃくちゃに…」
 アレックスの表情が歪む。
 本人も気付かないうちに、苦しそうな表情になっていた。
 まさに懇願だった。
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 その瞬間、アレックスの顔が苦痛に歪み、口を真横に結ぶと俯いた。
「アレックス、本当にすまん」
 さらにロイが謝る。
 だが、それがますますアレックスを惨めな気分にさせた。


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 まさに痴情のもつれの空気に黙り込んだ。
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「逆らったらどうなる?」
 静かにロイとディーが立つと正面から男達を睨みつけ、アレックスがうっすらと微笑みながら問いかける。
 そのアレックスの美しさに男達はごくりと唾を飲み込んだ。
「そりゃぁ、多少痛めつけて、その後はお楽しみだなぁ」
 べろりと舌舐めずりをしながら、立ち上がったロイとアレックスの体を視姦した。
「出来れば、の話だな」
 ロイが指をゴキゴキと鳴らした。
「あ“?やんのか?」
 男がニヤニヤと笑う。
「止めとけ止めとけ。こいつはクラスAだが、実力はSだぜ?」
 もう1人の犬耳がドヤ顔で言った。
「へぇ、そいつぁすげえなw」
 馬鹿にするように笑い、闘気を含んだ魔力を放出しようとした瞬間、
「ちょっと!!やんなら裏の広場でやりな!!」
 ジュリエッタの怒号が店内に響いた。

 店内にいた他の客がホッと胸を撫で下ろす。
「ジュリ。片付けて戻ってくっから席はこのままにしといてくれ」
「あいよ」
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 この界隈では日常的な光景ではあるが、何人かは絡んだ男達のことを知っているらしく、ロイがあの英雄ロイ本人であると知らない人が同情の目を向けた。
「女将さん、いいんですか?」
 犬耳尻尾の店員がソワソワと心配そうにジュリエッタに声をかけた。
 彼女もまた絡んだ男のことを知っていた。この近辺で最近騒ぎを起こしている傭兵崩れで、言っていた通りクラスSの実力はあるが、その言動や素行の悪さでSの称号を貰えない男だった。
「いいんだよ。ほっときな」
 ジュリエッタが素っ気なく答える。
 だが店員は出て行ったロイとアレックスが心配でならなかった。



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公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
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魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
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小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

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