おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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王位簒奪編 〜デート襲撃、決着〜

204.おっさん、休養する

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 流石に寒い。
 夜風を遮るものはなく、室内から連れ去られてコートも着ていない。
 ついさっきまでは戦闘における興奮状態で寒さを全く感じていなかったが、いざ終わると初冬の夜の寒さが体を冷やして行く。
 地面に直接座り込み、膝を抱えて寒さを凌ぐ。はぁと吐き出した息が白かった。
「ふぇ…ぇ…ぶえっくしょい!」
 ブルブルッと震えて派手にくしゃみをすると、俺のくしゃみの仕方に3人が声を出して笑う。
 そして、ロイとディーが俺に近寄ると左右からギュッと抱きしめて暖めてくれた。触れているところから伝わる2人の体温が暖かくて嬉しくて、えへへと笑ってしまった。
 

 馬車が2台、何もない平地に停車する。
「お迎えに上がりました」
 御者席からサッとアイザック、アーロン、クリフが降りてくると、俺達の前に並び、ビシッと敬礼した。
 本当なら立ってきちんと挨拶したいのだが、疲弊した体で立ち上がることも出来ず地面にぺたりと座ったまま笑顔を向ける。
「事情はアラン殿下からざっと聞いてるッス。大変でしたね」
 アイザックがニコリと笑うと、アーロンとクリフに戦闘後の後処理を命じた。
 2人は俺と話したそうにソワソワしつつも、命じられた通り作業に入った。
 オーギュストの遺体を布で包んで荷馬車の方に積み込み、戦闘の跡、血の痕跡を消し、抉られて窪んだ地面を土魔法を使って均していった。
「いつ王都に戻ったんだ?」
 ロイが尋ねる。
「今日の夕方に帰還したッス。報告やら色々した後、アラン様に呼ばれまして」

 獣士団第4部隊はドルキア砦での国境警備を終えると、シュターゲンで治安維持任務についていた。
 約3ヶ月前、俺の護衛をカレーリアで騎士団第1部隊に交代し、シュターゲンに向かったのだ。
 今回キドナと緊張状態になり、グレイの第2部隊がシュターゲン入りして、第4部隊は王都への帰還命令が出た。
 俺たちの関係や、ジュノーであることを知っている彼らを迎えによこしたのはアランの機転だろうと思うが、帰還してすぐ、ゆっくりと休む暇もなくここに迎えに来させられたことに申し訳なく思った。

「戻りましょう。みんな心配しています」
 ディーが俺を支えながら立たせてくれる。たった数メートル先の馬車に乗ることすら一苦労だった。
 終わったと安堵したことと、一度座り込んだことで、膝がガクガクに震えてまともに歩くことも出来なかった。
 ロイとディーに抱えられるようにして馬車に乗り込むと、俺の隣にロイが座り、向かい側にはディーとアレックスが座った。
 作業が終わると馬車が動き出した。



 40分近く馬車に揺れ、王宮前に到着したのは深夜0時の少し前だった。
 再びロイとディーに助けられながら馬車を降りると、キースとアラン、ジャニス、アビゲイルが外で待っていてくれた。
 アイザック達は、全員を下ろすとすぐに馬車を戻しに行き官舎に戻ると言う。  
 また後日改めて話をしようと今日は別れた。
「ショーヘイさん」
 キースが近付くと、ギュッと俺を抱きしめる。
「良かった…無事で…本当に良かった…」
 俺の肩に頭を押し付けて、キースが泣いていた。
「キース…心配かけたな」
 その背中をポンポンと叩く。
「ショーヘー。お帰り」
 アランも近付いてくると俺に微笑みかけ、キースの肩を慰めるように抱いてそっと離してくれた。
「ショーヘーちゃん」
 ジャニスが涙声で呼び、アビゲイルも泣きそうな表情を浮かべている。
「なんか、色々とごめん」
 思わず謝った。
「何言ってる。悪いのは襲ってきた奴だろう」
 アランが苦笑混じりに言うと、中に、と俺たちを促した。
「アレックス殿もまずは入ってくれ」
 唯一の部外者であるアレックスも中に入るように言い、アレックスも黙って頷きその言葉に従う。

 王宮に入ると、その暖かさにはぁと息を吐いた。
「キース、後は頼む。ショーヘーを休ませてやってくれ」
 キースが頷き俺を支えるように肩と腕に手を回す。
「今日はこのまま王宮で休んでください」
「ちょっと待って。説明と報告を…」
 今日あったことを話さなくては、と口に出したが、全員が俺を驚いたように見る。
「何言ってるの!そんなボロボロになってるのに!」
 ジャニスが焦ったように言った。
「ボロボロってそんな…w」
 ハハッと笑いながら答えるが、俺自身の姿を見て、自分の血ではないが、血だらけで埃まみれで、確かにボロボロだなと苦笑した。
「ショーヘー」
 ロイが真顔で正面に立ち、じっと俺を見つめた。
「心停止したのを忘れたのか」
 ロイの両手が俺の頬をはさむと辛そうに歪んだ。
「お前は魔力は多いかもしれないが、普通の男で、俺たちとは違うんだ。
 お願いだから、休んでくれ。
 もっと自分の体を労わって、大切にしてくれ。
 頼むよ」
 ロイが泣きそうな表情で懇願するように言った。
「そうですよ。
 今貴方は責任を感じて、精神力だけで立っているでしょう?」
 ディーも俺に近付き、背後から肩に触れ指を絡めて手を握られた。
「ロイの言うとおり、もっと体を大切にしてください。
 貴方1人の体じゃないんです」
 2人に説得されるように言われ俯く。


 ロイの言うとおり、俺は騎士のように普段から鍛えているわけじゃない。騎士に守られ、常に共に行動しているから錯覚しがちだが、俺は普通の人間なのだ。
 魔力が多いだけで、この世界の一般的な成人男性の平均値の体力しかない。いや、もしかすると平均値以下かも。

 それに、元の世界でのサラリーマン時代の名残りなのか、ディーが言うように、最後まできちんと、と責任を感じていることに気付いた。
 まぁ、生まれ持った性格というのも大きいのだろうが。
 襲撃があると知り、逃げずに立ち向かったといえば聞こえはいいのだろうが、それによって多くの人を巻き込み、迷惑をかけた。だからこそ、最後までやり遂げ結果を出し、責任を果たさねばと考えていた。

 もうとっくに体力の限界は超えている。これ以上無理をすれば、さらに迷惑がかかると考えを改め、休めという言葉に甘えることにする。


「わかった、休む」
 2人に微笑みながら言うと、ロイもディーもホッとしたように表情を緩めた。
「でも、一つだけ教えてくれ」
 その言葉に2人が苦笑する。
「ジョンとシアは?無事なのか?どこにいるんだ?」
 その質問にはキースが答える。
「お二人は王城の医務局にいらっしゃいます。
 大丈夫です。お二人とも無事ですよ」
 キースが微笑みながら教えてくれて、安堵した。
「そっか…良かっ…」
 安堵した瞬間、自覚していなかった心にのしかかっていた重圧が取り払われていくのを感じた。
 感じた瞬間、全身から力が抜けてしまった。体と心にかかっていた負荷が消え、それと同時に意識も失う。

 突然、糸が切れた人形のように崩れ落ちた翔平を咄嗟に2人が抱き止める。
「無理もないわよ。むしろ今まで立って喋っていたのが不思議なくらいだわ」
 ジャニスが顔を顰めた。
 ジョンとシアを保護し、ジュリエッタから王城へ戻る途中、意識のあるシアから大まかな流れの説明を受けた。
 シア自身も満身創痍で、いつ気を失ってもおかしくない状態だったのに、朦朧とする意識を奮い立たせてキース達に事の経緯を説明していた。
 窓をぶち破ってオーギュストが現れる以前に、翔平は2度魔力を爆発させていたことを知った。
 3度目の爆発で心停止を起こすほど、その体には負荷が重くのしかかっていたのだ。
 常日頃鍛えている騎士ですら、魔力の爆発は体に堪える。それを普通の人である翔平が3度も行ったのだ。しかも翔平の魔力量は桁外れで、爆発させた量も自分達の比ではないだろう。

 翔平は今までにも多大な魔力を爆発させた時には気を失っていた。それなのに、今回は襲撃という緊張状態が続いたせいと、並々ならぬ翔平自身の精神力で意識を保っていた。
 それは一重にジョンとシアを救いたいという思いと、他人を巻き込んだという責任感から来るものだった。

 意識を失い、ぐったりとした翔平をキースに預ける。
「後は頼む」
 ロイがキースに姫抱きにされた翔平の頭を撫でた後、そっと頬にキスを落とす。ディーもまた同じように撫でると、額にキスをした。

 キースが翔平を連れて立ち去ると、アランが全員を促した。
「アレックス殿も一緒に。王が是非会いたいと」
 アランを先頭に全員で王宮内を移動する。
 アレックスは自分の意思で関わったとはいえ、このまま着いて行くべきか一瞬迷った。だが、レイブン王が待っていると言われれば行くしかない。

 騎士であり貴族の端くれとして、一国の主に謁見したことは何度もあるが、こんな個人的に、非公式のような形で謁見するなど、生まれてこのかた初めてだ。
 しかも今の自分の格好は平服で、戦闘直後であり、血と土汚れでかなり汚い。
 こんな格好で謁見などあり得ないと、冷や汗をかき、焦ってしまった。
「な、なぁ…」
 せめてきちんと身なりを整えてから、と思い、前を歩くディーに声をかけた。
「王に謁見するなら、せめて着替えを…」
 ロイも振り返り、2人でアレックスをキョトンとした表情で見る。だが、直後に笑い出した。
「大丈夫ですよ。父はそんなこと気にしません」
 ディーが笑う。
「いや、そういうわけには…」
 焦るアレックスにロイも笑った。
「俺も似たような格好だろうが。気にすんな」
 確かにロイもアレックスと同じように薄汚れている。白い髪も尻尾も、ところどころ茶色くなっていた。
 だが、サンドラーク王家と家族同然のロイと自分とでは立場が違う。自分は他国の人間で、しかも帝国侯爵家という立場もある。おかしな格好で王の前に出るなど、家や国の品格が疑われてしまう。
「お前、割とそういう所真面目だよな」
 ロイがゲラゲラと笑い、先頭を歩いていたアランもその会話が聞こえて吹き出していた。
「アレックス殿、本当に気にする必要はない。父は王である前に騎士だ。聖女のために戦ってくれた騎士を労いたいだけだよ」
 振り返って笑いながら言うアランにも恐縮してしまった。

 談話室という非公式な場でレイブン王と宰相サイファーの前に跪く。
「帝国騎士団第1部隊所属、アレックス・ベルナールです。陛下におかれま…」
「うむ!挨拶は抜きだ!!立ちなさい」
 アレックスの挨拶をその3倍はある声量でレイブンが遮り、自らアレックスのそばまで歩み寄ると腕を掴んで立ち上がらせる。
「すまんな。あまり時間もないので、堅苦しいことは全部省略させてくれ」
 レイブンがアレックスの肩をポンポンと叩きながらニカッと笑った。
 だが、その気さくな物言いと笑顔の下にある、王の威厳という圧にゴクリと唾を飲み込む。
「アレックス、すまんが敬称も省かせてもらうよ」
 サイファーが静かにニコリと微笑んだ。


 談話室のソファに座るよう促されたが、それを断る。
 流石にそれは非礼が過ぎる。
 そう思ったのだが、ロイとディーにいいから座れと肩を押されて無理やり1人掛けのソファに座らされた。
「手短に済ませるつもりだから我慢してくれ。
 まずは、聖女救出への協力、感謝する。本当にありがとう」
 アランが微笑みながら言った。
「ロイと飲みに行った店でいきなり巻き込まれたんだ。驚いただろう」
 サイファーが続けるが、それに対して返事をした。
「巻き込まれたとは思っていません。自分の意思で参戦しましたので」
 感謝され、楽しそうだったから混ざりました、という子供みたいな理由で参戦したことに後ろめたさを覚え苦笑する。
 ディーはジュリエッタの酒場での乱闘に嬉々として参加してきたアレックスを思い出して、心の中で笑う。
「だが、結果としてショーヘーは救われた。我が国にとって聖女は宝だ。救ってくれたことに礼を言うよ」
 レイブンがニコニコしながら言い、ますます恐縮してしまった。


 だが、聖女救出は事実かもしれないが、その状況にはかなり謎が多い。
 なぜあんな場所に聖女がいたのか。しかも、宿の一室で2人の男と一緒に。
 聖女を狙った奴らもだ。人数が多過ぎる。あれは訓練された一個部隊だった。しかも諜報などの裏で暗躍するような部隊だ。
 さらに現れたオーギュスト・ラングレイ。
 突然降って湧いたジャニスやアビゲイル、そして第2王子の婚約者であるキース。
 状況があまりにも不自然でおかし過ぎる。

 自分が今こうしてここに呼ばれた理由は、その謎が絡んでいるんだろうと考えていた。


「アレックス。単刀直入に言おう。
 感謝しているが、それに報いることは出来んのだ」
 サイファーが真剣な表情で言った。
「薄々気づいているだろうが、今回の件は表沙汰にはならない」
 でしょうね、とアレックスが心の中で呟く。
「本来なら、その功績を讃えて何かしらの褒美を与えたい所なのだが…」
 レイブンも苦笑混じりに言った。
「いえ、必要ありません。私が勝手にやったことです」
 アレックスは自分がここにいる意味を理解し、やはりそうか、と心の中で呟く。
「たまたま友人であるロイと飲みにいき、たまたま乱闘騒ぎに遭遇した。
 ロイが巻き込まれ、たまたま居合わせたディーゼル殿下を見かけて、私は自分の意思で友人側についた。
 ただそれだけの話で、他人に話して聞かせるほどの内容でもありません」
 全て偶然でたまたまだと、ニコリと微笑みながら言い今日あったことを口外しない、ということを自ら口にする。

 事は聖女だけではなく、政治が絡むとはっきりと悟った。
 この状況に自分が首を突っ込むべきではないし、その資格がないことも理解している。

 要するに、黙っていろ、ということだ。
 こんな場面で、否、などと答えられるわけがない。沈黙を貫くことしか、自分には選択肢がない。

 先ほどから自分に向けられている脅迫めいた圧は、今回の事件が単純なものではないと示していた。
 だが、そんな中でも拘束もされず、強制的に守秘契約を結ばされるわけでもない。それは一重にディーとロイの友人であると認めた上で、事情を知らずとも聖女救出に協力したという自分に対する温情だ。

「理解してくれて感謝する」
 サイファーが静かに言い、その目で圧をかけられた。
「すまんのぉ…」
 だがレイブンは本当に申し訳なさそうな目で、その親子のギャップに思わず笑ってしまった。
「私はただ酒場で喧嘩をしただけです。個人的な話ですので、当然報告も致しません。騎士として誓います」
 そう言いと、ロイが身を乗り出す。
「アレックスは騎士として一流だ。信用出来る」
「私も同意見です。
 約束を違えるような、騎士道精神に反することはしない」
 ロイとディーがアレックスを擁護する。

 アレックスのプライベートな行動は褒められたものではなくクズそのものではあるが、だがそれでも騎士団第1部隊を除籍にならないのは、騎士としては超一流で、芯が通っているからだった。
 こと騎士の任務に関しては一切手を抜かず結果を出す。命令や指示にも忠実に従い、そこにプライベートは絶対に挟まず公私を完璧に区別していた。

 ロイとディーとの関係にしても、10年も続いているにも関わらず誰にも気付かれなかったのは、3人の関係を口外しないと約束したからだった。

 そんなアレックスが他言無用と口にしたのだから、間違いないと2人は言った。


「これ以上ここにいてはお邪魔でしょう。
 私はこれで」
 アレックスがソファから立ち上がる。ここに呼ばれたのは、釘を刺すためで、これ以上ここにいる必要はない。
 ここから先は自分は邪魔になる。早目に退散すべきだと、自分から退席すると言った。
「送ってきます」
 ディーも立ち上がる。
 流石に王宮の中を1人で歩くわけにもいかないから当然だろう。
 執事かメイドでもつけてくれれば、と思ったが、状況がそうは出来ないのだろうと察した。
 丁寧に深々と王達に頭を下げると、談話室を出る。

 ディーゼルとアレックスが出て行くと、アランがきっちりと遮音魔法をかけ直した。
 アランがドアの所に立っていたジャニスとアビゲイルにも座るように言う。
「あれもなかなか大した男だな」
 レイブンが目を細めて口元を歪めた。
 たった少しの会話で、自ら口を噤む、報告もしないと言ったのだから、今回のことが重要事項であると理解していることになる。
 本来なら、この場でアレックスと守秘契約をしても良かったのだ。実際にその用意もしてあった。
 もし口外すれば命をとまでは行かないが、騎士生命は絶たれるほどの障害が残る強力なものだ。
 そんなものは使いたくなかったが、アレックスの出方によっては必要になると思い、サイファーが用意していた。
「彼は噂通りの男ではないな」
 サイファーがニヤリと笑い、その意地の悪そうな何かを企んでいる笑い方にレイブンは苦笑し、ロイは引き気味になる。
「アレックスの行動はクソだが、ああ見えて政治的な状況判断は出来る奴だよ。侯爵家次男は伊達じゃねえわな」
 ロイが足を組んでソファにのけぞると、レイブン以外がロイを細目で見る。

 お前が言うか。

 とその目が語っていた。




 ディーと肩を並べて王宮の玄関まで来ると、背後にあるレイブンとソフィアの肖像画を振り返る。
「本当に似てるな。本人みたいだ」
 アレックスがソフィアとディーゼルを見比べる。
「良く言われます」
 ディーが苦笑する。
「そういや、ヴェンデリンとブラウンの坊ちゃん方に求婚されたんだろ?」
「ああ…もうそっちに広まっているんですか」
 ディーがあからさまに嫌な顔をする。
「サージェスもケイロンも、お前を伴侶にするって取り巻き連中に息巻いてたからな」
 外に出ると、バルト家が宿泊している離宮まで並んで歩き始める。
「あの人達は、私が母上と似ているという理由で求婚してるんですよ」
 吐き捨てるように言うディーに笑う。
「お前ほどの美人なら、選び放題だな」
 そしてそんなディーが選んだのは、聖女だった。
 しかも聖女も結構見た目が良い。あの神秘的な雰囲気や、憂いのある表情にはグッとくるものがある。ロイとディーと並ぶとなかなかに似合いだと思って微笑んだ。

 だが、ふとディーと翔平が並んだ姿を想像して思わぬ妄想が頭をよぎった。

「ディーゼル」
 ピタリと歩みを止めると、数歩進んだディーが振り返る。
 アレックスが右手を空を撫でるように動かし、周囲に遮音魔法を展開した。どこで誰が聞いているかわからない。
「気をつけろ」
 真顔でディーを見つめ、脳裏を掠めた考えを口にした。
「帝国でお前を欲しがる貴族は多い。もしお前と聖女の関係が露見したら…」
「…アレックス…?」
 突然の話に、ディーは眉間に皺を寄せた。
「すまん。今回の襲撃の首謀者について口外しないとは言ったが…」
 アレックスが声を低くして、キョロッと辺りを見渡すと、さらに強めに遮音魔法を重ねがけした。
「今回の首謀者、わかっていないんだろう?」
「ええ…まぁ…」
 それには曖昧に答える。

 今回の襲撃は翔平からの連絡が来て初めて知ったことだった。
 これから襲撃者の残した物的証拠などから調査を進める。
 ディーの中では、元キドナの騎士爵であるオーギュストが出現したことでキドナが一番怪しいとは思っているが、まだ憶測の段階だ。
 今後、翔平やジョンやシアの回復を待って話を聞き、首謀者を突き止める。それが黒幕に繋がる可能性もあるため、事は急ぐ必要があるが、特に慎重にならねばならなかった。

「すまん、俺の勝手な憶測なんだが」
 アレックスが自分でも突飛なことを思いついたと顔を顰めながら、だが言った方がいいと思い、ディーを真正面から見る。
「帝国の誰か、とも考えられないか」
「帝国が…?」
 流石にそれは寝耳に水で、ディーが目を見開く。
「聖女は誰だって欲しい。一度のヒールで数百人を癒せるなんて、戦争に連れていけば兵士の生存率は爆上がりだ」
 ディーがアレックスの言葉に奥歯を噛み締めると、赤い月の時の戦闘を思い出した。

 あの時、数時間にも及ぶ戦闘にあったにも関わらず、終わってみれば怪我人は0。疲労は蓄積されるがそれだけだ。
 アレックスの言いたいことがよくわかった。

 ディーがキョロッと辺りを見渡すと、アレックスの腕を掴んで、離宮への途中にある庭園のベンチに連れて行った。
 アレックスを座らせて、その周囲に遮音、隠蔽、保温、あらゆる魔法をかけまくる。

「聞きましょう」
 隣に座り、体ごとアレックスの方に向ける。
「聖女の利用価値だ。
 商人が欲しがってもおかしくない。聖女の力は治癒師の比じゃねぇ。それこそ大儲け出来るだろ。
 もう一つは、治癒師ギルド。
 あいつらにしたら、聖女は邪魔者でしかない。その仕事を奪われて、おまんまの食い上げだ。まぁこれは攫うよりも殺したいんだろうが、攫って洗脳してギルドの手先にってことも出来るわな」
 アレックスが指折り数えながら、聖女拉致の目的を語る。
「帝国の話は」
「それだよ。お前が関係してくるんだ」
 アレックスが眉を顰めてディーを見たが、ディーは自分と聖女拉致の関係がピンとこなかった。
「もしもの話だ。
 お前らの関係がバレていて、聖女を攫い人質にして、お前を手に入れる」
「……は?」
「本当の目的はディーで、聖女はお前を誘き出す餌だ」
 アレックスの言葉にポカンと口を開けた。
「帝国では、ディーを伴侶にしたいっていう声はお前が考えている以上に大きいんだよ。
 それだけソフィア様の影響はいまだに帝国に根強く残ってる。
 もしお前達の関係がバレていて、正攻法で求婚しても無理だと考えたなら、野蛮な奴らは強行手段に出るぞ」
「まさか…そこまで…」
「俺もまさかだとは思うよ。
 だが、今日襲ってきた奴ら、確実に訓練を受けた一個部隊だ。しかも、あの動きは傭兵の類というよりも、諜報や暗殺、影に特化した部隊だった。
 あんな奴らを抱えるのは、どっかの国か、武力を誇る帝国貴族しか考えられない」
 アレックスが真剣にディーを見つめる。
「そんな…」
 ディーが目を伏せ、口元に手を当てると困惑したような表情を見せた。
「いや、これは俺の妄想だ。
 ただ、そういう見方も出来るって話だよ」
 アレックスがただの思い付きだと言いながら苦笑した。
「それだけ帝国貴族どもにとって、ディーゼルは喉から手が出るほど欲しい存在なんだよ。
 ソフィア様の帝国の至宝とまで言われたその美貌、先見の明、慈愛の精神、まるで女神のような存在で、今もなお語り継がれている。
 ディーゼルはそんな女神と瓜二つなんだよ」
 ディーが呆然とアレックスを見る。


 まさかそこまで帝国貴族の間で自分が求められているとは思ってもいなかった。
 確かに、学生時代や外交で帝国に赴いた時、それこそ数多くの人に言い寄られてはいた。身の危険を感じたことも一度や二度では済まない。
 学校を卒業して数ヶ月後には王位継承権を放棄したため、ほぼ外交とは無縁になり、他国に行くことはなくなったため気にもしていなかった。
 年に数回他国から訪れる特使に対して、王家の一員として夜会や接待に駆り出されることはあったが、それでも国内においては問題なかった。
 だが、今現在も誰かしらから求婚され続けている。


「ディーゼル、大丈夫か」
 無言になったディーに、余計なことを言ってしまったか、と心配そうに声をかける。
「はっきり言って…そこまで…考えてませんでした…」
「そうか…。
 覚えておいてくれ。
 帝国貴族の中には、ディーもショーヘーも、2人とも欲しいと考える奴らがいると思うぞ」
「そうかもしれません…」
 眉間に皺を寄せて考え込んでいたディーが顔を上げる。
「アレックス、ありがとう。
 今後ショーヘイを守るための参考になりました」
 そう言って立ち上がり、アレックスに握手を求める。その時にはもうディーのいつもの表情に戻っており、ニコリと笑顔を見せていた。
 アレックスがディーと握手をかわすとベンチから立ち上がった。
「もうここでいい。送ってくれてありがとう」
「ええ。アレックス、今日は本当にありがとう。何もお礼を出来なくて本当に申し訳ない」
「いや、それは気にしなくていい。王から直々に感謝されただけで充分光栄なことだよ。
 こちらこそ、さっきは俺を信用してくれてありがとう」
「長い付き合いですからね。これからも友人として、よろしく」
 互いに拳を作ると、笑顔でゴツッとぶつけ合った。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
 ディーが全ての魔法を解除すると、アレックスが笑顔で手を振りながら背中を向け、ディーも手を振り返し、王宮へと足を向ける。

 長い1日が終わろうとしていた。


 
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堀川渓
BL
事故で命を落とし、目覚めたそこはーー生前遊んでいた女性向け恋愛ゲームの世界!? しかも最推し・“氷の公爵令息”セルジュの執事・レナートとして転生していてーー!! 短編/全10話予定

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

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