ぼっちの田舎暮らしの青年、鉄仮面の貴公子を助けて溺愛される

猫の手

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第二章 両片思いの日々

想いが通じ合ったキスはとても甘いものでした

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「好…き?」


 誰が?アシェルが?
 誰を?僕を?


 ルシルの頭の中が混乱をきたす。
 目の前で真剣に見上げてくるアシェルを、ものすごく遠くに感じる。


 いや、だって、好きなのは僕の方で。
 僕がアシェルを好きになって。
 勝手に1人で恋に落ちて。
 会いたいと思っていたけど。

 え?
 好き?

 アシェルが僕を?


 混乱した思考が徐々に言葉の意味を正しく飲み込んでいくと、告白されてたっぷり数分経った後に、ルシルの顔がこれでもかというほど真っ赤になった。
 恥ずかしくて、今すぐ隠れたい。そう思ってもしっかりとアシェルに両手を握られていて見つめられている。
 何処にも逃げ場はなかった。

「ルシル、迷惑ならそう言ってくれ。だが俺は本気だ。本気で惚れた。好きだ、ルシル」
「う…」
 もう一度言われ、告白が現実だと理解し、顔だけではなく、体の外も中も、脳までが沸騰したような熱に浮かされた状態になってしまった。口から心臓が飛び出るのではないかと思うほど鼓動がバクバクとうるさく、大きく脈打っていた。
「ア…アシェル…」
 ようやく声が出て名前を呼ぶ。
「ほ…ほ、…本当に?」
「ああ」
 ルシルの質問にアシェルは真剣な表情と声で即答する。
「僕を?」
「ああ」
「僕を好き?」
「ああ」
 何を聞いてもはっきりと即答するアシェルに、ルシルは口元を歪めると、次の質問をする。
「どうして?」
「……どうしてって…」
 流石にその質問には即答出来なかった。
「どうして僕なんか…」
 ルシルは顔を歪め、思ったことを言った。汚れている僕は、アシェルに好きになられる資格がない。僕は相応しくない、とそう思って口にした。
「何故そう自分を卑下するんだ。なんかじゃない。ルシルはルシルだ」
 そう言い返され、ルシルはさらに泣きそうな顔をする。
「僕は…汚いから…。汚れてるから…」
 ルシルの言葉を聞いて、アシェルはすぐにその意味を理解した。

 彼は見た目のことを言っているのではない。農作業や家畜の世話で土や埃で汚れている姿ではなく、彼は他人に凌辱された体のことを汚れていると表現したのだ。

 アシェルはすぐに悟って顔を歪ませる。
「ルシル…、君は汚れてなんかいない。とても綺麗だ。真っ白のままだよ」
「そんなの、嘘だよ。僕は…」
 ルシルはアシェルの顔をまともに見られず顔を背けた。


 真っ白で綺麗なのはアシェルの方だ。
 キラキラと光り輝いて、見惚れてしまうほど綺麗で、眩しい。


「嘘じゃない。ルシルは綺麗だよ」
 アシェルの声がルシルの心に響く。
 好きな人に綺麗だと言われたのがとても嬉しい。だが、それはただの慰めとして受け取った。
「綺麗じゃない。僕は汚ないんだ。あいつらに汚されて…」
 ルシルの目から再びポロッと涙が流れた。アシェルはそれを見て胸が締め付けられる。
「いいや、汚されてなんかいない。その証拠にどこにも跡なんか残っていないだろ?」
「それはアシェルが治してくれたか…」
「ルシルは心が綺麗なんだ」
 アシェルはルシルの言葉に被せるように断言し、再びルシルを抱きしめた。
「ルシルの心は真っ白で、何も汚れてなんかいない。だから綺麗なままなんだよ」
 ギュッと小さな体を抱きしめ、背中を優しくポンポンと撫でる。
 抱きしめられ、汚ないと言い強張っていたルシルの体から力が抜けて行く。
「アシェル…」
「君は綺麗だ。綺麗で、可愛い。初めて君を目にした時からそう思っていた。
 一目惚れってやつだろうな」
 アシェルはそっと体を離すと、ルシルへ微笑んだ。
 ルシルは初めて見たアシェルの微笑みに、ドキンと大きく心臓は跳ね、その笑顔に魅入った。無表情だったアシェルが笑っている。自然に表情筋が動き、綺麗な笑顔を作っていた。
「ルシル…好きだよ…」
 その笑顔に目を離せずにいると、再び告白され、ルシルは嬉しさと恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じた。
 そしてアシェルは優しい微笑みを浮かべたまま顔を近付ける。

 ふに

 ルシルは近過ぎてアシェルの顔が見えなくなったと思った瞬間、唇に柔らかな物が押し当てられ、それがアシェルの唇だと気付くのに数秒かかった。

 重ねられた唇から、アシェルの温かな魔力が流れ込んでくる。
 ルシルはその温もりを感じ目を閉じると、もっと感じたくて腕をあげアシェルの背中に回し、そっと抱きしめ返す。
 アシェルは背中にルシルの手を感じ、一瞬僅かに閉じていた目開くとすぐに閉じ、より深く唇を重ね、強く抱きしめた。


 好きだ。


 己の気持ちをキスに込め想いを伝える。
 重ねられた唇が柔らかく、熱くて、このままずっと、と思った。

 長いキスが終わり、自然と唇が離れると、ルシルは頬を染め、ポーッとした表情でアシェルを見つめる。
 アシェルは優しく微笑んでおり、その綺麗な顔にルシルはさらに顔も体も熱くなり、その熱に浮かされるように口が動いた。

「アシェル…僕も…。僕も、好き」
 ルシルの口からアシェルへの想いが紡がれた。
 それを聞いたアシェルは、自分の頭の中の妄想が聞こえたのかと思ってしまった。
「あ…、あの…も、もう一回…言って欲しい」
 現実かどうか確認するために、若干狼狽えつつお願いした。
「…僕も、好き。アシェルが好き」
 今度は現実としてはっきり聞くことができ、アシェルは目を丸くして、カアアッと顔を真っ赤に染め、一気に脳内が茹で上がったような興奮状態に陥る。
「こんな僕で…いいの?」
 だが、戸惑うようなルシルの質問に、アシェルは気を持ち直す。
「こんな、なんて言わないでくれ。ルシルがいい。ルシルじゃなきゃ駄目だ」
 ルシルの目を見つめ真剣に言うと、ルシルの目からポロッと一筋涙が溢れた。
 その涙さえ愛おしい。アシェルは頬に触れ涙を拭う。ルシルはその手に自分の手を重ね、頬を手にすり寄せて微笑んだ。
「嬉し…」
 目に涙を浮かべたまま微笑むルシルに、アシェルの胸がギュン!と締め付けられる。
「ルシル…」
 そしてその柔らかな唇に吸い寄せられるように、再びキスをした。


 両思いだと知った後のキスは、とても甘くて、気持ち良くて、心地よくて、何度も何度も啄むようなキスを繰り返した。



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