ぼっちの田舎暮らしの青年、鉄仮面の貴公子を助けて溺愛される

猫の手

文字の大きさ
17 / 23
第三章 両思いと甘い日々

楽しい日々と、時々のキス

しおりを挟む
 1日目。
 朝起きて毎日の習慣をこなす。
 朝食前に畑の点検と家畜の様子を見つつ餌やりを済ませ、家に戻ると朝食の準備。
 1人分ではなく2人分作ることがとても嬉しかった。
「おはよう…」
「おはよう、アシェル」
 朝食が出来上がる頃起きてきたアシェルは、朝の仕事をせず寝過ぎてしまったことに申し訳なさそうにしていた。
「ごめん…手伝うって言った次の日に寝坊するなんて…」
「気にしないで。ほら顔洗ってきなよ」
 謝りながら小さくなるアシェルに笑い、バスルームへとその広い背中を押した。

 2人で向かい合って朝食を食べながら、今日1日の仕事内容の確認をする。
「冬が近いからやらなきゃいけないことがたくさんあるんだよ」
 ルシルは作業を順番に指折り数えながら説明し、アシェルは生まれて初めてやる農作業と家畜の世話に、出来るだろうかと少しだけ不安になった。



 午前中は2人で黙々と根菜の収穫をする。
 茎を掴んで思い切りズボッと根菜を引き抜いたはいいが、その反動で見事にひっくり返ったアシェルを見て、ルシルはケラケラと笑う。
「大丈夫ww?」
 転んだアシェルに笑いながら手を差し出され引き起こされる。
「顔に土が」
 そう言って持っていたタオルで顔を丁寧に拭いてもらい、アシェルは転んだことも、拭かれたことも恥ずかしくて顔を赤くした。

 午後は家の中でチーズ作り。
 手際良く作業するルシルに教えられながら進めるが、彼のように上手くいかず悪戦苦闘することになった。




 2日目は釣り。
 釣りの経験はあったアシェルはいい所を見せようと頑張るが一向に釣れる気配はなく、ルシルばかりいいサイズの魚を釣っていた。
 だが、最後の方でようやくアシェルの竿が大きくしなり、慌てたアシェルは足を滑らせて川に落ちてしまった。
 何とか獲物は逃げられることなく引き揚げられたが、アシェルはびしょ濡れになり、やはりルシルに笑われた。

 3日目は狩りに出かける。
 ルシルは手際良く獣の通り道に罠を仕掛けながら奥に進み、そして手作りの弓矢に雷撃の魔法を付与すると、4足歩行の獣を一発で仕留めた。
 アシェルはその見事な弓矢捌き、そして付与した魔法、さらに気配を消す隠密魔法にかなり驚く。
 騎士時代の遠征において狩りの経験はあったのだが、ルシルの動きはハンターと呼ぶに相応しいものだった。
 大物を1匹仕留めると、仕掛けていた罠を確認しながら帰る。5箇所の罠の内2箇所に中型の獣がかかっており、ルシルは持っていた手斧で苦しませることなくとどめを刺すことにも驚いてしまう。
 家に戻ると狩った獲物の処理も鮮やかだった。



「俺…ぜんぜんいい所がない…」
 その日の夜、アシェルはベッドの中で苦悶した。
 ルシルの身体能力は考えていたよりもずっと高く、身体強化などの補助魔法は完璧で、狩りの時に使った攻撃魔法も、アシェルが知っている魔導士と比べてもかなりレベルが高かった。
 さらに魔力量も一般人レベルではなくかなりの量であることが伺える。さらに、騎士団においても、ここまで効率良く的確に魔力配分出来る者は少ない。


 可愛いだけじゃなくて強いなんて聞いてない。


 アシェルは布団を抱え込んで身悶えた。
 ルシルを知れば知るほど惹かれていく。




 ルシルは毎日が楽しくて仕方がなかった。
 そばにアシェルがいるだけで嬉しくて、その顔を見るだけで幸せで、話しかければ応えてくれることが楽しかった。
 今日の狩りでは獲物を軽々と肩に担ぐ姿に惚れ惚れしてしまった。流石に自分は中型の獣2匹を担ぐことは出来ず、いつもは引きずって持ち帰るのだ。
 自分よりも背が高く腕も太い。その胸板は厚く逞しい。
 だが、農作業で土に汚れ、釣りでは慌て過ぎて川に落ちた姿が可愛くて、愛おしくてたまらない。


 かっこいいのに、子供みたいで可愛い。


 ルシルは布団をぎゅっと抱きしめ顔を埋めて身悶えた。
 アシェルを知れば知るほど惹かれていく。




 この3日間、食事中、作業中、休憩中、お互いに気になってついついじっと相手を見つめてしまっていた。何度も目があっては、はにかむように笑い、頬を染める。
 だが、ふとしたきっかけで雰囲気に呑まれ、唇を重ねた。
 1日に何度もそうしてキスをした。
 唇を重ねる瞬間は、恥ずかしさと緊張に体が強張るが、いざ重ねてしまうと全身から力が抜け、心の中から温められ体が熱くなるのを感じた。

 愛おしい。

 日に日に互いを想う気持ちが強くなっていった。









 4日目、午前中に野菜の選別作業をし、午後に昨日狩った獲物の肉を加工を始める。燻製や塩漬けにして冬の備蓄食糧にするのだ。

 家のキッチンで並んで肉を切って行く。
 アシェルは間近にいるルシルに見惚れて動きを止め、頬を染めてポーッとしてしまうことが何度もあった。
「アシェル?」
 そんな視線に気付いたルシルが斜め上にあるアシェルの顔を見る。上目遣いで首を僅かに傾ける仕草に、アシェルの胸に、何本も恋の矢が突き刺さり頬を染める。
 ルシルの顔をまともに見られず思わず目を逸らし、彼が持つナイフを見た。
「……?」
 アシェルはかなり見覚えのあるナイフであることに気付いた。
 黒いグリップに柄頭が金色。
「ルシル、そのナイフ……」
「ああ、これ?父さんから貰ったんだ」
 ルシルはどうぞとテーブルの上に置き、アシェルは手に取って眺める。
 そして間違いなく自分が知っているナイフだと気付く。それと同時に育ての親の名前を思い出し、ナイフと名前が結びついた。
「ルシル…、お前の父さんって、ドン・シルフォードなのか?」
「……ドンを知ってるの?」
 ルシルは目を丸くして聞いてくる。
「知ってるも何も……」
 今のアシェルは一介の冒険者。元騎士であることは言っていないため、続きの言葉を飲み込んだ。

 だが、ドン・シルフォードの名前は国民であれば誰でも知っている。多くの書籍も出回っているし、残っている英雄譚は数知れず。

 ルシルは、ドンは元騎士様ですごい人なんだと、養父を自慢するように笑う。
「そのナイフ、騎士様の誇りだって言ってた。亡くなる前にね、僕に譲ってくれたんだ……」
 ルシルは少しだけ悲しそうに微笑む。

 そう。このナイフは騎士になった証であり、名誉そのものだった。
 ナイフの柄には、本来国の紋章が刻まれているが、100年は経過し使い込まれたナイフには、目を凝らしてよく見ないとその紋章を見ることは出来なかった。
 当然、元騎士のアシェルもこのナイフを持っている。
 それにしても、100年以上経過しているとは思えない。その作りもさることながら、使用者の手入れが完璧であることがわかった。

 アシェルの中で、ルシルの身体能力、魔力、魔法、全てにおいて優秀なことが納得がいった。
 ルシルは、英雄ドン・シルフォードに育てられた子なのだ。

 アシェルはナイフを返し、ルシルをじっと見つめる。
「…何?」
 見つめられ、ルシルはドキッとして頬を染め尋ねる。
「ルシル、今夜話をしよう」
 アシェルは静かに微笑み、見つめる。
「あ、う、うん……」
 その優しげな微笑みに、ルシルは赤面したまま小さく頷く。



 アシェルは決意する。

 今夜、ルシルに一緒に行こうと告げる。
 己の素性や事情を全て話し、彼を迎えたいと、結婚を前提に一緒に来て欲しいと、そう言おうと決めた。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

不思議の森の小さな家

エウラ
BL
ユーリは理由も分からず、一五年前、五歳の時に異世界に転移した。世間からは『聖域』と呼ばれるこの深い森に住んでいたハイエルフの青年エルリオに保護されて、魔法や錬金術を教わりながら暮らしていたが、ある理由で現在は一人暮らし。 森から出たことがないユーリはちょっと寂しいと思いながらものんびり過ごしていたが、ある日、行き倒れの冒険者を拾ってしまう。 彼はアイオンと名乗り、しばらくユーリの家に同居することになるのだが……。 R15。ハッピーエンド。 いつものように思いつきです。短編予定ですがたぶん不定期更新です。

処理中です...