ブラッティーメアリー

燐火

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第一章

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私はウィルさんの部屋に戻り、再び冷静に状況を整理しようとした。

先程手に入れたペットボトルにを見つめる。
冷凍庫の奥の奥に静かに置かれていた。
その切り口をじっと見つめ、何かを感じた。

ペットボトルは元々の形から一部が切り取られ、下半分になっている。そして、縦にも切られている……。
ふと、思いつく。もしこれを冷凍庫に入れて氷を作り、そのまま形を整えたら、ナイフになるのではないか?

「水を入れて凍らせた後、ペットボトルを切り開き、氷を取り出す。その氷をナイフの形に成型する……」

ペットボトルは透明なので、氷が内側にぴったりと張りつく。そのまま切り取れば、氷は取り出せるし、うまく成型すれば十分にナイフとして使えるだろう。


「そして、ナイフでウィルさんを殺害した……」

このナイフはかなり前から準備されていたに違いない。

それに、冷凍庫の奥には霜がついていた。作りかけの氷のナイフがあったとしても、誰も気づくことはなかっただろう。

「昨日、犯行前にナイフを握った部分が溶けて水滴が残った。それが証拠だ……」

その水滴が氷のナイフを使った証拠となった。冷凍庫に残された水滴が、決定的な証拠を物語っている。

「つまり、ナイフは冷凍庫で作られた。恐らく、何日もかけて成型したんだろう。計画的な殺人だ……」

私はその一連の流れを頭の中で整理した。

おそらく、ナイフはワインを持ち出す時のトレーの下に隠されていたのだろう。トレーの下に置いて、手で押さえれば、普通にトレーを持っているときと変わらない見た目になる。

凍傷もその時にできたのだろう。

そして、いつも通りワインを机に置き、トレーの上が空いたときにナイフを使って殺害した。

殺害方法と凶器はわかった……あとは、動機だ。何が彼をそこまで突き動かしたのか、それを考えなければならない。

あともう一歩……もう少しで、真実を掴める……!

その時、扉を叩く音が聞こえた。返事をし、扉を開けると、そこにはワインとグラスをトレー乗せたニコリが立っていた。

「あら、ニコリじゃない。どうしたの?何かあった?」

私を見たニコリが一瞬、驚きの表情を見せ、その後に悲しげな顔をした。
「あっ……す、すいません……いつもの癖でワインを持ってきちゃいました……」

その言葉を聞き、時計を見ると、零時を回っていることに気づく。

しまった……。推理に没頭しすぎた……。
まだナナアトロさんとモリスさんに話を聞けてない……。

「もうそんな時間なのね、時間なんて全く気にしてなかったわ……」

とりあえず、聞き込みをするべきだわ。
あの謎の部屋のことも気になるし……。

「ねぇ、ニコリ」

「はい、なんでしょう?」
ニコリは素早く返事をする。

「ナナアトロさんとモリスさんはこの時間どこにいるのかしら?まだ聞き込みができてないのよ」

「ナナアトロ様とモリス様なら、自室にいらっしゃいます。ご案内しましょうか?」

「いや、大丈夫よ。ニコリにはニコリのやることがあるはず。それに専念するべきよ。私には私のやることがあるから」

私がそう言うと、ニコリは微笑み
「ありがとうございます」と一言添え、戻って行った。

さて、私も聞きこみをしにいこう。
私はそのままウィルさんの部屋を後にし、二人の部屋がある三階へと歩を進めた。

三階の廊下を進み、ナナアトロさんの部屋の前で足を止めた。扉をノックすると、すぐに「誰だ?」という低い声が返ってきた。

「失礼します」と言い、扉を開けると、ナナアトロさんは何かの書類を整理していたようで、机の上には数枚の紙が広げられていた。

「夜分遅くに申し訳ありません、少しお話を伺いたくて」

「別に構わない。それで、何を聞きたいんだ?」

初対面の時にも思ったが、少し苦手かもしれない……。それでも、話を聞かない限り進まない。

「確認したいことが二点あります。まず、昨夜、零時から一時まで、ナナアトロさんはどこにいらっしゃいましたか?」

ナナアトロさんは少し考えた後、静かに答えた。

「その時間は書斎にいた。ずっと一人でな」

一人きり、しかも書斎でとなると、アリバイとしては少し弱い。しかし、犯人はわかっている。アリバイが弱くても、ナナアトロさんが事件に関与しているとは思えなかった。

「分かりました。では、もう一つ」

私は言葉を選びながら切り出した。

「ニゲラから聞いたのですが、ニコリとニゲラを、この屋敷に雇ったのはナナアトロさんなんですよね?」

「ああ、そうだ。二人は孤児院出身で、特に仲が良かった。最初はニゲラだけを雇おうと思ったんだが、二人があまりに離れがたく見えてね。引き離すのは酷だと思った。それで、二人とも雇うことにしたんだ」

その言葉を聞いて、私は少し考えた。 

ナナアトロさんがニコリを雇ったのは、ニゲラのためだったのか。
それほど、二人の仲が良かったという事ね……。

ニゲラがニコリのことを姉さんと呼んでいる理由が、何となくわかったような気もするわ。


「……ありがとうございます。では、これで失礼します」

ナナアトロさんは「役に立てたならいいが」と言いながら、再び書類に視線を戻した。

私は軽く頭を下げ、この部屋を後にした。

次に、モリスさんの部屋へ向かう。 扉をノックすると、数秒の間があった後、静かな声が返ってきた。

「どうぞ」

部屋に入ると、モリスさんは窓際の椅子に座り、手に本を持っていた。

「遅い時間にすみません。少しお話を伺いたくて」

「気にしないでいいですよ。何を聞きたいんですか?」

ナナアトロさんとは対照的に、優しい声で私に聞いてくる。

「昨夜の零時から一時まで、どこにいらっしゃいましたか?」

「部屋にいました。特に誰かと会うこともなく、一人でここにいました」

またしても一人。単独行動をしている人物が多い。 それでも、ナナアトロさんと同じように、ウィルさんを殺す理由がないし、事件とは無関係だろう。

「分かりました。では、もう一つお聞きしたいことがあります。この屋敷の謎の部屋についてです」

「謎の部屋?」

モリスさんは少し考えた後、何かに気づいたような表情で言った。

「ああ……あの部屋のことを言ってるんですか……?あれはウィルの弟の部屋なんです」

「ウィルさんの弟?」

「えぇ。もっとも、彼は二十歳の時に家を出ていってしまいました。もう長い間、屋敷には戻ってきていないんです……」

ウィルさんには弟がいたのか……。 そして、あの謎の部屋はその人の部屋……。調べる価値はありそうだ。

「……ありがとうございます。助かりました」

モリスさんは軽く頷くと、再び本に視線を落とした。

私は部屋を出て、しばらく廊下で考えた。

ナナアトロさんもモリスさんも、事件とは無関係だろう。 しかし、新たな情報は得られた。

元々はニゲラだけを雇うつもりだったが、仲が良かったニコリも一緒に雇ったこと。そして……

私は一つの扉の前で足を止めた。

この部屋は、ウィルさんの弟の部屋だということ。

──中に入ろうと、開けようとしたが……開かない。 鍵がかかっているようだ。

それもそのはず。長年使われていない部屋の鍵を開けっ放しにしておく理由はない。

この部屋は後で調べるとして、次に情報を集められそうな場所は……書斎だ。

書斎には、もしかしたらアルバムがあるかもしれない。 ウィルさんの弟がどんな人間だったのか、それを知る手がかりがあるかもしれない。

私はそのまま二階の書斎へ向かった。
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