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韓媛は、先程いた所よりもさらに下った所に来ていた。
遠くを見ると、円や大泊瀬皇子達も見られるので、そこまで心配はしなくても良いだろう。
「確かにこの辺りは先程いた所よりも少し深そうね。別に川に入る訳ではないから、大丈夫だろうけど」
そんなふうに思っている矢先だった。彼女のさらに先の方に子供が2人いた。きっとこの辺りに住んでいる子供なのだろう。
(まぁ、あんな子供がこの辺りで遊ぶのはさすがに危ないわ)
どうやら男の子と女の子の2人で、男の子は8歳、女の子は6歳ぐらいに見える。
その2人が何やら川をじっと眺めている。韓媛はどうしたのだろうと思って、彼らの目の先を見ると、川の真ん中ぐらいに大きな岩があり、その岩に何やら布らしきものが引っ掛かっているのが見えた。
(きっとあの布をとりたいのね……)
すると、男の子の方が川の中に入っていこうとしている。川の深さはその子の腰の上辺りでまであり、水の流れが早いと危うく流されてしまうだろう。
「いけないわ。きっとこの先はさらに深くなるはずだから、もし流されでもしたら溺れてしまう!」
韓媛は慌てて子供達の側に向かった。
彼女が子供達の側まで来ると、男の子は岩の側まで行っており、なんとか布を掴む事が出来たようだ。
「お兄ちゃんー! 大丈夫!!」
もう1人の女の子が、男の子に声をかけた。どうやらこの2人は兄妹のようだ。
「あぁ、苗床、布はつかんだぞ」
男の子は手で岩をつかんだまま、少し自慢げにして言った。
そこにちょうど韓媛がやって来た。
「ちょっと、君、危ないから早く戻って来なさい!!」
韓媛はその男の子に呼びかけた。
「何だよ、お姉ちゃんは? 大丈夫だって、今戻る所だから」
その男の子はそう言って、岩から手を離してこちらに戻ってくる事にした。
だが川の水は腰上まで来ているので、彼は慎重に歩いている。
韓媛は少しハラハラしながら、その男の子が戻ってくるのを見守っていた。
だがその途中で片足がつまづき、彼は思わず川の中に潜ってしまった。するとそのまま彼は、川の水に流されはじめる。
(駄目だわ、この先はさらに深くなってる。早く助けないと!)
「お、お兄ちゃんー!!」
妹の苗床は驚きの余り、大声で兄を呼んだ。
その声に、遠くにいた大泊瀬皇子達も気がついたらしく、慌てて韓媛の元に向かう事にした。
韓媛もその男の子を追うも、どんどん彼は流されていく。
(いけない、これではこの子が溺れてしまう)
そこで意を決した彼女は、つかさず川の中に入った。川の水は冷たく、こんな状態で長く水の中にいるのは危険だ。
そこで彼女は泳いで男の子の元に向かった。男の子の方は足が付かなくなる所まで流されていた。
韓媛はその子を掴むと、そのまま陸地に男の子を必死で引っ張って向かった。だが川の水の流れが意外に早く、油断すると直ぐに流されてしまう状況である。
(早く、陸地に行かないと……)
それでも何とか陸地の所にたどり着き、男の子を後ろから押して、彼を先に上がらせた。
「はぁー何とかなりそうね」
男の子は少し水を飲んでしまったようで、少しゲホゲホしている。
そして「お姉ちゃん、有り難う……」と震えながら言った。
彼も急に川に流されて、相当焦っていたようだ。
そして韓媛も陸地に上がろうとした時だった。彼女の着てる服が水で重さを増し、中々上手く陸地に上がれない。
それを見た男の子も、どうしたら良いか分からずに、困ってしまう。
それでも何とか踏ん張って陸地に上がろうとした際である。彼女は思わず滑ってしまい、また川の中に戻されてしまった。
(しまった、早く陸地に戻らないと!)
しかし気が付くと、先程よりもさらに水の深い所に来てしまっている。
また冷たい水の中を必死で泳いでいたので、体が冷え、体力も削られていく。
そのために彼女は思うように泳げなくなってきた。さらに水も飲んでしまい、だんだん息もしずらくなってくる。
その頃になって、ようやく大泊瀬皇子達がその場にたどり着く。
そして彼は川の中にいる韓媛を見てとても慌てた。
そんな彼女を助ける為、大泊瀬皇子はすぐさま川の中に飛び込む。
そして泳いで韓媛の元へと向かった。
一方韓媛の方はだんだんと意識が曖昧になっていき、そのまま意識を失ってしまいそうになっていた。
するとどこからか「韓媛ー!!」と自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
(この声は誰、大泊瀬皇子?)
大泊瀬皇子は無事に韓媛の元にたどり着くことできた。だが瞬間に韓媛は意識を失ってしまう。
その後2人はさらに流されていき、最初にいた所よりも、かなり遠くまで来てしまった。
大泊瀬皇子は周りを見渡して、何とか上がれそうな場所を見つける。そして韓媛を抱いたままその場所に向かい、ようやく無事に陸に上がることができた。
それから彼は韓媛をその場に横たわらせると、彼女の名を必死で呼ぶ。
「おい、韓媛、しっかりしろ!!」
だが彼女はいっこうに目を覚まさない。恐らく水もかなり飲んでいるはずだ。
大泊瀬皇子は彼女の心臓に耳を当ててみる。だが心臓の音が上手く聞こえてこない。
もしかすると呼吸も止まっている可能性がある。
「う、嘘だろ……」
大泊瀬皇子はかなり焦った。このままだと彼女は死んでしまう。
「お前を死なせるなんて、絶対にさせない!!」
それから彼は思いっきり息を吸い、彼女に口付けて息を送り続けた。
(あれ、何かしら。何か暖かいものを感じる)
すると韓媛は、少し意識が戻ってきた。
そしていきなり「ゲホゲホ」と言って、彼女は飲んだ水をその場に吐き出した。
そしてゆっくりと彼女は目を開ける。
すると彼女の目の前には、大泊瀬皇子の顔があった。だが、彼はひどく泣きそうな表情をしている。
「お、大泊瀬皇子……」
韓媛はゆっくりと小さな声で、彼の名を呼んだ。
遠くを見ると、円や大泊瀬皇子達も見られるので、そこまで心配はしなくても良いだろう。
「確かにこの辺りは先程いた所よりも少し深そうね。別に川に入る訳ではないから、大丈夫だろうけど」
そんなふうに思っている矢先だった。彼女のさらに先の方に子供が2人いた。きっとこの辺りに住んでいる子供なのだろう。
(まぁ、あんな子供がこの辺りで遊ぶのはさすがに危ないわ)
どうやら男の子と女の子の2人で、男の子は8歳、女の子は6歳ぐらいに見える。
その2人が何やら川をじっと眺めている。韓媛はどうしたのだろうと思って、彼らの目の先を見ると、川の真ん中ぐらいに大きな岩があり、その岩に何やら布らしきものが引っ掛かっているのが見えた。
(きっとあの布をとりたいのね……)
すると、男の子の方が川の中に入っていこうとしている。川の深さはその子の腰の上辺りでまであり、水の流れが早いと危うく流されてしまうだろう。
「いけないわ。きっとこの先はさらに深くなるはずだから、もし流されでもしたら溺れてしまう!」
韓媛は慌てて子供達の側に向かった。
彼女が子供達の側まで来ると、男の子は岩の側まで行っており、なんとか布を掴む事が出来たようだ。
「お兄ちゃんー! 大丈夫!!」
もう1人の女の子が、男の子に声をかけた。どうやらこの2人は兄妹のようだ。
「あぁ、苗床、布はつかんだぞ」
男の子は手で岩をつかんだまま、少し自慢げにして言った。
そこにちょうど韓媛がやって来た。
「ちょっと、君、危ないから早く戻って来なさい!!」
韓媛はその男の子に呼びかけた。
「何だよ、お姉ちゃんは? 大丈夫だって、今戻る所だから」
その男の子はそう言って、岩から手を離してこちらに戻ってくる事にした。
だが川の水は腰上まで来ているので、彼は慎重に歩いている。
韓媛は少しハラハラしながら、その男の子が戻ってくるのを見守っていた。
だがその途中で片足がつまづき、彼は思わず川の中に潜ってしまった。するとそのまま彼は、川の水に流されはじめる。
(駄目だわ、この先はさらに深くなってる。早く助けないと!)
「お、お兄ちゃんー!!」
妹の苗床は驚きの余り、大声で兄を呼んだ。
その声に、遠くにいた大泊瀬皇子達も気がついたらしく、慌てて韓媛の元に向かう事にした。
韓媛もその男の子を追うも、どんどん彼は流されていく。
(いけない、これではこの子が溺れてしまう)
そこで意を決した彼女は、つかさず川の中に入った。川の水は冷たく、こんな状態で長く水の中にいるのは危険だ。
そこで彼女は泳いで男の子の元に向かった。男の子の方は足が付かなくなる所まで流されていた。
韓媛はその子を掴むと、そのまま陸地に男の子を必死で引っ張って向かった。だが川の水の流れが意外に早く、油断すると直ぐに流されてしまう状況である。
(早く、陸地に行かないと……)
それでも何とか陸地の所にたどり着き、男の子を後ろから押して、彼を先に上がらせた。
「はぁー何とかなりそうね」
男の子は少し水を飲んでしまったようで、少しゲホゲホしている。
そして「お姉ちゃん、有り難う……」と震えながら言った。
彼も急に川に流されて、相当焦っていたようだ。
そして韓媛も陸地に上がろうとした時だった。彼女の着てる服が水で重さを増し、中々上手く陸地に上がれない。
それを見た男の子も、どうしたら良いか分からずに、困ってしまう。
それでも何とか踏ん張って陸地に上がろうとした際である。彼女は思わず滑ってしまい、また川の中に戻されてしまった。
(しまった、早く陸地に戻らないと!)
しかし気が付くと、先程よりもさらに水の深い所に来てしまっている。
また冷たい水の中を必死で泳いでいたので、体が冷え、体力も削られていく。
そのために彼女は思うように泳げなくなってきた。さらに水も飲んでしまい、だんだん息もしずらくなってくる。
その頃になって、ようやく大泊瀬皇子達がその場にたどり着く。
そして彼は川の中にいる韓媛を見てとても慌てた。
そんな彼女を助ける為、大泊瀬皇子はすぐさま川の中に飛び込む。
そして泳いで韓媛の元へと向かった。
一方韓媛の方はだんだんと意識が曖昧になっていき、そのまま意識を失ってしまいそうになっていた。
するとどこからか「韓媛ー!!」と自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
(この声は誰、大泊瀬皇子?)
大泊瀬皇子は無事に韓媛の元にたどり着くことできた。だが瞬間に韓媛は意識を失ってしまう。
その後2人はさらに流されていき、最初にいた所よりも、かなり遠くまで来てしまった。
大泊瀬皇子は周りを見渡して、何とか上がれそうな場所を見つける。そして韓媛を抱いたままその場所に向かい、ようやく無事に陸に上がることができた。
それから彼は韓媛をその場に横たわらせると、彼女の名を必死で呼ぶ。
「おい、韓媛、しっかりしろ!!」
だが彼女はいっこうに目を覚まさない。恐らく水もかなり飲んでいるはずだ。
大泊瀬皇子は彼女の心臓に耳を当ててみる。だが心臓の音が上手く聞こえてこない。
もしかすると呼吸も止まっている可能性がある。
「う、嘘だろ……」
大泊瀬皇子はかなり焦った。このままだと彼女は死んでしまう。
「お前を死なせるなんて、絶対にさせない!!」
それから彼は思いっきり息を吸い、彼女に口付けて息を送り続けた。
(あれ、何かしら。何か暖かいものを感じる)
すると韓媛は、少し意識が戻ってきた。
そしていきなり「ゲホゲホ」と言って、彼女は飲んだ水をその場に吐き出した。
そしてゆっくりと彼女は目を開ける。
すると彼女の目の前には、大泊瀬皇子の顔があった。だが、彼はひどく泣きそうな表情をしている。
「お、大泊瀬皇子……」
韓媛はゆっくりと小さな声で、彼の名を呼んだ。
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