大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾】

藍原 由麗

文字の大きさ
72 / 78

71《大泊瀬皇子の決心》

しおりを挟む
  一方韓媛からひめの方も息長での出来事のあと、葛城の元に帰ってきていた。

  今回は本当に悲しい結末を向かえることとなり、彼女の衝撃もとても大きいものとなった。彼女の親戚でもある市辺皇子いちのへのおうじの死は未だによう受け入れられていない。

  ただ大泊瀬皇子おおはつせのおうじも肩に怪我を負うことになり、それでも彼が命に別状がなかったことには本当に安堵している。

  そして今までずっとすれ違っていた市辺皇子と阿佐津姫あさつひめも、最後の最後でやっと互い思いを通わせることができた。

  そういう意味では、この3人の災いは無事に断ち切れたのかもしれない。

「災いを断ち切るって、本当に色々あるのね」

  韓媛はふと自身の短剣を眺めながら呟く。
  この剣のお陰で自分も含めて何人もの人を救うことができた。
  だが天の理でもあるのか、どんな災いでも断ち切れるという訳ではなさそうだ。

「あと息長の帰りに阿佐津姫から聞いた話しも、本当に驚いたわ……」

  これは息長からの帰りに、阿佐津姫が韓媛にだけ話したことである。

  それは市辺皇子が阿佐津姫に婚姻を申し込むより少し前の出来事で、2人は当時から余り仲が良くなかった。

  だが互いに何か思うことがあったのか、一時だけ恋人のような関係に陥っていた時期があったとのこと。

  でも互いに好きだとか告げる訳でもなく、ただただ大瀬を交わすだけの関係だった。

  そののち2人は全く会わない期間が続き、その後に市辺皇子が阿佐津姫に婚姻を申し込んだのだった。

  だが阿佐津姫からしたら、そんな市辺皇子がとても自分に本気だとは思えなかったようで、自身の意地も相まって彼との婚姻を断ってしまったようだ。

  この2人が当時、互いに自身の思いを素直に伝えていれば、もしかすると今回は違った結果になっていたかもしれない。

  だがそれは結局のところ誰にも分からないことだ。

「まぁそういう意味では、私はまだ良い方なのかもしれないわね。大泊瀬皇子は割りと恋には真っ直ぐなようだし」

  だが大泊瀬皇子の場合、その真っ直ぐさが少々厄介な部分でもあるのだが、そこはもう目をつぶることに彼女はしている。

「結局のところは、きっと皆がそれぞれの形で幸せになるのが一番良いことなのね」

  人の幸せとは一人ひとり違うものだ。ましてやそれを他人が決めることでもない。


  韓媛がそんな風に考えている時だった。急に彼女の部屋の外から女性の声が聞こえてくる。
  どうやらこの家の使用人である布津与ふつよのようだ。

「韓媛様すみません。実は今ちょうど大泊瀬皇子が来られました。何でも韓媛様にお話しがあるとのことで……」

  布津与は彼女の部屋の外からそう話し掛けてきた。

(大泊瀬皇子が私に話し……)

  いよいよ次の大王を決めることになり、その最有力者が大泊瀬皇子だということを韓媛も知っている。
  なので、もしかするとその辺りに関わる話なのかもしれない。

  韓媛はいずれ大泊瀬皇子の妃になるのだから。


「分かったわ布津与。ではこの部屋に皇子を案内してもらえる?」

  大泊瀬皇子が韓媛の元にやってきた時は、彼女と皇子はいつもこの部屋で会うようにしている。

  彼らの場合、既に半分通い婚のようになっていたので、大泊瀬皇子が来た日は、そのまま彼は韓媛の家に泊まり、翌日自身の宮へと帰っている。

「それが大泊瀬皇子がおっしゃるに、今日は外で韓媛様とお話ししたいとのことです」

  それを聞いた韓媛は何とも奇妙だなと思った。自分に話しがあるなら、尚更部屋で話した方が良いだろうに。

(大泊瀬皇子、一体どうしたのかしら?)

「布津与、分かったわ。大泊瀬皇子は今外にいるのかしら?それなら私が皇子の元に行ってくるわ」

  どうやら布津与の方もそのつもりで、韓媛の部屋にやってきているようだった。

「はい、大泊瀬皇子は外で韓媛様をお持ちになられてます」

  それを聞いた韓媛はすぐさま立ち上がり、部屋を出てそのまま大泊瀬皇子の元に行くことにした。

(どうか、余り良くない話でなければ良いけれど……)

  ここ最近は、本当に良くない出来事ばかりが起こっていた為、韓媛も少し不安になる。

  だが大泊瀬皇子を外で待たせているため、彼女は急いで彼のいる場所へと向かった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...