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2P《外伝 瑞歯別皇子の思い(その2)》
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佐由良と瑞歯別皇子が初めて会った丘の上での再会を果したあの日から、2週間が経過していた。
この日皇子は昼時に佐由良を部屋に呼んで、のんびり過ごしていた。
一応彼女から妃になる事の承諾は得たが、本人からまだ暫くは采女として働きたいとの希望だった。
その為、意外に以前と余り変わらない日常を過ごしていた。
「はぁー、今日はのどかな日だな」
寒かった冬も過ぎて、日中の気温もだんだんと上がって来ていた。
「ふふ、本当にそうですね。私はどちらかと言うと夏の方が好きですが」
瑞歯別皇子は、彼女が夏を好きだとは意外だなと思った。
「何で、夏なんだ?」
「はい、私は元々吉備の生まれの為、ずっと瀬戸内の海を見て育って来ました。夏になると海にも入れますし、あの太陽に照らされた瀬戸内の海が好きだったので」
「なる程。そう言う事か」
(瀬戸内の海か。今後行く機会が出来たら見てみたいものだな)
皇子はそう言うと、ふと佐由良の膝の上に寝そべった。
佐由良の膝はとても気持ちが良く、最近よく皇子はそうしていた。
佐由良もそれに対して特に嫌がる事もなく、皇子の好きにさせていた。
「政り事の方は順調なんですか?」
佐由良は皇子に聞いた。
「あぁ、これと言って問題はない」
彼はそう言うと、思わず佐由良の髪の先に触れた。
皇子にとってこの一時が、今最も落ち着く時間だった。
そして暫くすると佐由良が言った。
「では皇子、私はそろそろ仕事に戻りますね」
「あぁ、もうそんな時間か」
瑞歯別皇子は佐由良の膝の上から起き上がった。
「佐由良、余り根詰めるなよ」
「はい、分かってます」
そう言って、どちらからともなく口付けを交わした。
「では、行きますね」
そう言って、佐由良は立ち上がると皇子の部屋を後にした。
そして佐由良が部屋を出ていくと、それと入れ替わりで、稚田彦が入って来た。
「今まで佐由良が来てたんですね」
「あぁ、そうだ」
瑞歯別皇子は思わず腕を伸ばして、言った。
「ちょっと時間が出来たので、皇子に会いに来たんですが、佐由良はまだ采女のままなんですね」
「仕方ないだろう。俺は早く妃にしたいんだが、あいつがまだ暫くは采女として働きたいと言ったんだ」
それを聞いた稚田彦は驚いた。
「へぇー、あれだけ妃選びを嫌がってた皇子が。人とは変わるものなんですね。
でも何故そんなに妃にこだわるんですか?」
皇子は稚田彦にそう言われ、ひどく言いにくそうにしながら言った。
「それは、雄朝津間の奴が……」
「え、雄朝津間皇子?」
稚田彦は不思議に思った。
「あいつは以前、俺の前で堂々と佐由良を妃にしたいと言って来たんだぞ」
「へ?皇子、それって」
瑞歯別皇子はかなり分が悪いようで、ムスっとした。
「つまり、皇子は弟の雄朝津間皇子に先を越された事を根に持ってるんですね」
そう言って稚田彦は、クスクス笑いだした。
「あいつは、俺が言えなかった事をサラッと言いのけたんだ。
そんな状況で佐由良を振り向かすには、始めから妃にするしかないだろう。
それに妃にさえしてしまえば、今度こそ誰にも取られないと思ったんだ。それなのに佐由良のヤツ......」
「分かりましたよ。皇子の言いたい事は」
尚も稚田彦は笑っていた。
どうやらこの皇子の発言はかなりツボにハマったらしい。
暫くして稚田彦はやっと笑いが収まった。
「でもまぁ、皇子がそうやって一人の女性を大事に思うようになった事は、本当に良かったと思いますよ」
(まぁ、確かに。佐由良のお陰で自分は大分変わったような気がする)
それから2人は外を眺めた。
「もう少ししたら夏ですね」
(今年の夏は少し遠出してみても良いかも知れない)
瑞歯別皇子はそう思いながら、今後の事に想いを募らせた。
この日皇子は昼時に佐由良を部屋に呼んで、のんびり過ごしていた。
一応彼女から妃になる事の承諾は得たが、本人からまだ暫くは采女として働きたいとの希望だった。
その為、意外に以前と余り変わらない日常を過ごしていた。
「はぁー、今日はのどかな日だな」
寒かった冬も過ぎて、日中の気温もだんだんと上がって来ていた。
「ふふ、本当にそうですね。私はどちらかと言うと夏の方が好きですが」
瑞歯別皇子は、彼女が夏を好きだとは意外だなと思った。
「何で、夏なんだ?」
「はい、私は元々吉備の生まれの為、ずっと瀬戸内の海を見て育って来ました。夏になると海にも入れますし、あの太陽に照らされた瀬戸内の海が好きだったので」
「なる程。そう言う事か」
(瀬戸内の海か。今後行く機会が出来たら見てみたいものだな)
皇子はそう言うと、ふと佐由良の膝の上に寝そべった。
佐由良の膝はとても気持ちが良く、最近よく皇子はそうしていた。
佐由良もそれに対して特に嫌がる事もなく、皇子の好きにさせていた。
「政り事の方は順調なんですか?」
佐由良は皇子に聞いた。
「あぁ、これと言って問題はない」
彼はそう言うと、思わず佐由良の髪の先に触れた。
皇子にとってこの一時が、今最も落ち着く時間だった。
そして暫くすると佐由良が言った。
「では皇子、私はそろそろ仕事に戻りますね」
「あぁ、もうそんな時間か」
瑞歯別皇子は佐由良の膝の上から起き上がった。
「佐由良、余り根詰めるなよ」
「はい、分かってます」
そう言って、どちらからともなく口付けを交わした。
「では、行きますね」
そう言って、佐由良は立ち上がると皇子の部屋を後にした。
そして佐由良が部屋を出ていくと、それと入れ替わりで、稚田彦が入って来た。
「今まで佐由良が来てたんですね」
「あぁ、そうだ」
瑞歯別皇子は思わず腕を伸ばして、言った。
「ちょっと時間が出来たので、皇子に会いに来たんですが、佐由良はまだ采女のままなんですね」
「仕方ないだろう。俺は早く妃にしたいんだが、あいつがまだ暫くは采女として働きたいと言ったんだ」
それを聞いた稚田彦は驚いた。
「へぇー、あれだけ妃選びを嫌がってた皇子が。人とは変わるものなんですね。
でも何故そんなに妃にこだわるんですか?」
皇子は稚田彦にそう言われ、ひどく言いにくそうにしながら言った。
「それは、雄朝津間の奴が……」
「え、雄朝津間皇子?」
稚田彦は不思議に思った。
「あいつは以前、俺の前で堂々と佐由良を妃にしたいと言って来たんだぞ」
「へ?皇子、それって」
瑞歯別皇子はかなり分が悪いようで、ムスっとした。
「つまり、皇子は弟の雄朝津間皇子に先を越された事を根に持ってるんですね」
そう言って稚田彦は、クスクス笑いだした。
「あいつは、俺が言えなかった事をサラッと言いのけたんだ。
そんな状況で佐由良を振り向かすには、始めから妃にするしかないだろう。
それに妃にさえしてしまえば、今度こそ誰にも取られないと思ったんだ。それなのに佐由良のヤツ......」
「分かりましたよ。皇子の言いたい事は」
尚も稚田彦は笑っていた。
どうやらこの皇子の発言はかなりツボにハマったらしい。
暫くして稚田彦はやっと笑いが収まった。
「でもまぁ、皇子がそうやって一人の女性を大事に思うようになった事は、本当に良かったと思いますよ」
(まぁ、確かに。佐由良のお陰で自分は大分変わったような気がする)
それから2人は外を眺めた。
「もう少ししたら夏ですね」
(今年の夏は少し遠出してみても良いかも知れない)
瑞歯別皇子はそう思いながら、今後の事に想いを募らせた。
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