大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

文字の大きさ
13 / 68

13P

しおりを挟む
「良いですか、姫様。もし何かあれば直ぐに知らせて下さいね」

  衣奈津いなつは彼女にそう念押しした。
  今回の婚姻が思わぬ方向に進んでいる為、彼女の心配はさらに高まってしまった。

(とりあえず、先程聞いた皇子の娘通いの件は伏せておこう。そんな話しをしたら衣奈津がどれ程騒ぎ立てる事か……)

「えぇ、分かってるわ。お父様とお母様に宜しくね」

  忍坂姫おしさかのひめもこれからの1ヶ月が物凄く不安に思えてきた。しかしここで根をあげるわけにはいかない。せっかく父親が熱心に勧めてくれた相手なのだから。

「姫様、私が言うのも何ですが、無理にこの婚姻を進めなくても良いですからね。無理なら無理で、また他を探せば良いので」

  きっとこれが衣奈津の本音だろう。自分も好きになる相手を本当間違えたかもしれない。

「有り難う衣奈津。とりあえずこれから1ヶ月間頑張ってみるわ」

  忍坂姫は笑顔で彼女にそう言った。

  そんな彼女を見て、衣奈津も後は本人に任せるしかないと思った。
  この婚姻は彼女自身のものだ。

「分かりました。姫様もくれぐれもご無理のないように」

  そう言って衣奈津達は、この宮を後にした。




「よし、ではとりあえずこの宮内を見て回ってみようかしら」

  それから忍坂姫はこの磐余稚桜宮いわれのわかざくらのみやの中を色々と見て回ることにした。

  この宮は元々先の大王が住んでいた事もありとても立派で、忍坂姫の住んでいる宮よりもだいぶ広い。

「さすが先の大王が住んでいた宮ね、私の宮とは大違いだわ」

  忍坂姫がそう思いながら宮の中を見て回っていると、急に後ろから何かに強く押された。

(え、一体何?)

  彼女が思わず後ろを振り向くと、そこには1人の男の子が立っていた。
  見た目で言うと6、7歳ぐらいだろうか。

  髪は耳上にみずらで簡単に纏められており、目のクリクリした、何とも可愛らしい男の子だった。

  その男の子は忍坂姫を、物珍しそうにキョトンとした目で見ていた。

(わぁ、可愛い男の子)

「僕、この宮に住んでいるの?」

  忍坂姫はその男の子が怖がらないよう、彼の目線まで座ってから優しく話しかけた。

  そんな彼女に安心したのか、その男の子は特に緊張する訳でもなく、ニコニコしながら言った。

「うん、そうだよ」

  そんな彼を見て、本当になんて可愛い男の子なんだろうと忍坂姫は思った。

「お姉ちゃんは誰なの?」

  男の子は凄い興味津々に聞いてきた。

「私は忍坂姫って言うの。先日からこの宮に来てるわ。あなたは?」

  そう言うと、その男の子は一瞬「うーん」と考えてから答えた。

「僕は、市辺いちのへって言うの。皆は僕の事を市辺皇子いちのへのおうじって呼んでるよ」

  男の子は嬉しそうにしながら答えた。

(市辺皇子って言ったら……まさかこの子が!)

  忍坂姫はそれを聞いて思い出した。市辺皇子と言えば先の大王の第1皇子だ。
  今は雄朝津間皇子おあさづまのおうじがこの宮を管理しているようだが、本来なら先の大王の皇子であるこの子がこの宮の主だ。

  とは言っても、この年齢でこの宮を管理するのはさすがに無理がある。だから雄朝津間皇子が代わりに管理しているのであろう。


「そっか、君が市辺皇子なのね」

  忍坂姫は思わず市辺皇子の頭を撫でてやった。すると皇子はとても嬉しそうにしていた。

「お姉ちゃんは、今何してるの?」

  市辺皇子はとにかく彼女の事が気になって仕方ないようだ。

「お姉ちゃんはね、先日ここに来たばかりだから、ちょっとこの宮の中を歩いてみようと思ったの」

  それを聞いた市辺皇子は、ふと思い付いたようにして彼女に言った。

「じゃあ、僕が宮の中を案内してあげる。僕ここの事色々知ってるんだ」

  市辺皇子は凄い自慢げにして言った。

  そんな皇子を見て、忍坂姫もこの子に任せてみようかと思った。

「分かったわ。じゃあ皇子にお願いしようかな」

  それを聞いた市辺皇子は凄い目をキラキラさせた。
  それから「じゃあ行こう!」と言って彼女の手を握って宮内を歩きだした。

  忍坂姫と市辺皇子は、それから宮内をあちらこちらと歩いて回った。
  その際に皇子は「あれは倉庫でね、あっちは色々な物が置いてあってね」と言った感じであれこれ説明してくれた。

(本当に可愛い皇子様ね。私も将来こんな男の子が欲しいな)

  先の大王である、去来穂別大王いざほわけのおおきみやその妃である黒媛くろひめも、この皇子をとても可愛がっていたんだろうなと彼女は思った。
  それなのにこんな可愛い皇子を残して死んでしまうとは、本当に運命は皮肉なものだと思った。




  彼女が市辺皇子と歩いて回ってる丁度その時だった。
  雄朝津間皇子が村の見回りから戻って来ていた。

  彼が宮に戻ると、偶然1人の使用人の女性が酷く慌てているのが目に入った。

「おい、一体どうしたんだ?」

  雄朝津間皇子を見つけた使用人の女性は、慌てて皇子の元へとやって来た。

「雄朝津間皇子、それが私がちょっと目を離した隙に、市辺皇子がどこかに行ってしまわれまして……」

  女は酷く怯えながら皇子に話した。もし市辺皇子が本当にいなくなったとなれば、それは大問題である。

「まぁ、あいつの事だから、どこかに隠れて遊んでるだけだと思うけど」

  仕方ないので雄朝津間皇子も一緒に市辺皇子を探す事にした。

(ったく、本当にあいつはどこに行ったんだ。)

  雄朝津間皇子が必死で探していると、急に男の子の笑い声が聞こえて来た。

(何だ、やっぱりいるじゃないか)

  雄朝津間皇子はその声のする方へ行ってみた。すると市辺皇子は忍坂姫と楽しくお喋りをしていた。
  忍坂姫も笑顔で皇子との対話を楽しんでいるようだった。

「おい、市辺。探したぞ」

  忍坂姫はその声にハッとなり、声のする方へ目を向けた。
  そこには雄朝津間皇子が立っていた。

「あ、叔父上だ」

  市辺皇子は雄朝津間皇子に向けて、思わず手を振った。

(あれ、皇子宮に戻って来てたんだ)


「雄朝津間皇子、戻られてたんですね」

  雄朝津間皇子は2人を見るなり、側に近づいてきた。市辺皇子も雄朝津間皇子が来たのでとても愉快そうに笑っていた。

「さっき向こうで、使用人の女が市辺皇子がいなくなったと騒いでいたよ」

  それを聞いた忍坂姫は「しまった!」と思った。こんな小さい男の子がいなくなれば、周りが慌てるのは当たり前だ。

「ご、ごめんなさい!私ったらつい……」

  市辺皇子は忍坂姫の手を握ったまま、どうしたの?って感じで彼女を見ていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...