大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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「聞いている側からしたら、中々楽しい姫じゃないか」

  瑞歯別大王みずはわけのおおきみは思わずその場で笑いだした。大王と彼女が会ったのは、前回の桜見物以来だ。

「やっぱり根っからのお転婆は、中々直らないみたいだね」

  雄朝津間皇子おあさづまのおうじは本当にやれやれといった感じだった。だがそれでも彼女が可愛く見えてしまう辺り、自分も少し重症なのかもしれないと思った。

「でも前回の舞を見せられた時は、今の妃に出会っていなかったら、ちょっとまずいなとは思ったよ。それぐらい魅力のある娘だと思うぞ俺は」

「でもその日に宮に帰ったら、ちゃんと彼女に逐一報告はしているんだろう?」

  大王は自分の妃に、己自身の良くない噂が流れて、彼女が変に思わないよう常に気を配っている。

「あぁ、それはもちろんしたさ。彼女に変な心配は掛けたくないからな」

(この人は本当に自分の妃一筋だよな。まぁ俺も、そんな話しを普通に聞けるようになって、本当に良かったとは思っている。彼女は俺の初恋の人だから)

  雄朝津間皇子はふとそんな事を思い返していた。彼女を初めて見た時、自分は確かまだ11、12歳ぐらいの時だった。
  でも当時はとても気さくで優しい彼女に心引かれた。

(そう思うと、彼女と忍坂姫おしさかのひめは本当に性格が真逆だよな。一体忍坂姫のどこがそんなに良かったんだろうか……)

  そんな事を雄朝津間皇子が思っていると、2人の元に稚田彦わかたひこがやって来た。

「お二人方、ちょっと宜しいですか?」


「うん、どうした稚田彦?何かあったのか」

  瑞歯別大王は稚田彦にそう言った。
  今回は彼もこの視察に同行していた。

「それが、最近となりの半島の国からやって来た者の中に、少し気になる人物がいまして。何でも向こうの国で、人殺しを生業としていたそうです」

  雄朝津間皇子も瑞歯別大王と一緒にその話しを聞いていた。

「何で、そんな奴が倭国わこくに来るんだ。半島では戦が耐えないから、稼ぎなんていくらでも出来そうなのに」

「だから気になるんですよ。もしかすると誰かに誘われてやって来たのかもしれませんね」

  それはつまり、倭国の人間で殺したい奴がいて、その為にわざわざ呼んだと言う事なのだろうか。

「そいつの顔の特徴とかは、分からないのか?」

  瑞歯別大王は稚田彦に聞いた。そんな奴がここ付近に潜んでいるとなると、いつ誰が狙われて殺されるかもしれない。

「済みません。流石にそこまでは……」

  稚田彦もその人物の顔の特徴までは、話しの中では伝わって来なかったようだ。

「顔が分からないのであれば、どうする事も出来ないな。とりあえず俺達も十分に注意しよう。俺達だって狙われる可能性はあるんだからな」




  大王達がそんな話しをしている時だった。そんな彼らを遠くから見ている1人の男がいた。

「あの顔は、間違いない。あれは瑞歯別大王だな。あいつの顔を見たのは6年ぶりだ」

  彼らを見ていたのは嵯多彦であった。
  彼は大王への復讐の為に、ここら付近に身を潜めていた。

(相変わらず凛々しい顔立ちをした男だな。本当に見ていて腹が立ってくる)

  そんなふうに思った嵯多彦だったが、ここからは何分距離がある。
  その為、大王達の話している会話の内容については彼には分からない。

「何故あいつらがここに来ているのかは分からないが、まだここで自分達の存在がバレる訳には行かない。暫くは様子を見るとするか」

  嵯多彦はそう思うと、大王達に気付かれないよう、静かにその場から離れて行った。




「それで兄上、視察の続きはどうするんだ?」

  雄朝津間皇子は大王にそう言った。先ほど聞いた稚田彦の話しからすると、この付近ももしかすると危ないかもしれない。

「そうだな。見た限りでは怪しい感じの人物は見当たらない。それに俺達3人に剣で勝てる奴なんてそうそういないだろう。まぁ、その殺しを生業にしていたっていう人物は分からないがな」

「でもそんな奴が現れたら、その時は稚田彦に倒して貰ったら良いんじゃない?」

  雄朝津間皇子はふと稚田彦を見た。

  雄朝津間皇子と瑞歯別大王でも、稚田彦の剣の腕前には到底勝てないでいた。

  すると稚田彦は少し呆れたような感じで彼らに言った。

「お二人とも、いつも私がいるとは限らないので、いざと言う時はご自身で何とかして下さい。その為に、お父上がお二人に剣を学ばせたのですから」

「分かってるよ、稚田彦」

  雄朝津間皇子はそう稚田彦に言った。

  彼らの父上である大雀大王おおさざきのおおきみは、聖帝と呼ばれたとても偉大な大王だった。
  そんな彼には元々複数人の皇子がいて、その皇子達の将来を考えて、彼は政り事や剣術等様々な事を学ばせていた。

「とりあえず、もう少し見て回ろう。それでも何もないようなら、俺の宮に戻ったら良いさ。きっと宮にいる者達も待っているだろうからな」

  瑞歯別大王はそう言った。

  剣を学んだのはもちろん自分自身の身を守る為である。だがそれともう1つ、自分以外の大切な人達を守る為でもあった。
  大雀大王はきっとその事も伝えたかったのであろう。

「そうですね。妃達も心配されているでしょうし」

  稚田彦が少しクスクス笑いながら言った。

  大王の妃と一緒に、今日は忍坂姫も来ている。きっと色々と楽しく話しをしているだろう。

(でも宮に戻ったら忍坂姫から何か色々と言われそうだな。きっと今頃は、宮で話しに夢中になっているだろうし。まさか俺の昔の話しまで聞かされてないと良いけど……)

  雄朝津間皇子はそう思うと、だんだんと不安になってきた。とりあえず早く視察を終えて、彼女らの元に戻ろうと思った。
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