巨大魔物討滅作戦

広畝 K

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第一章:帰郷

5話

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 トリントル高等魔法学校は大陸でも有数の交易都市に建てられている。
 ゆえに当然、人材・商品・資金・情報といった諸要素が盛んに流通し、多く集まることこの上なく、どの国の都市よりも魔法技術が発展し、その恩恵が行き渡っているといっても過言ではない。

 流通の大部分を担っている商業ギルドという団体、それが扱う部門の一つである配送ギルドにも、文明の素たる魔法技術の恩恵は行き届いている。

 寮を出たソルトはその足で、配送ギルドの支店の一つに赴いていた。

「いらっしゃいませ……って、なんだソルトか」

「どうも」

 顔見知りの店員に気楽な挨拶を投げられつつ、ソルトは店内を軽く眺める。

 そこには配送札が貼りつけられている荷や木箱、魔力を動力源としている自動二輪車などが整然と並べられている。
 さながら、倉庫のような印象を感じさせる場所であった。

 分厚い眼鏡の奥の細目で、睨むように辺りを見回す少年の仕草を微笑ましく見守りながら、店員は口の中の飴玉をころころと転がした。

「で、今日は何の用だい? 新型二輪車の分解ならこの間にもう済ませたろ?」

「あー……今日は旧式で良いから二輪車を借りたい感じ」

「へえ、借りるとは珍しい。どっかに小旅行か?
 観光ならやっぱり王都が良いって聞くけど」

「田舎の実家に帰るんだよ」

「おやおや、そいつは寂しくなるじゃないか!」

 少しも寂しそうな声を出さずに、むしろ浮き浮きとした様子を見せて、店員は旧式の二輪車を店の奥から引っ張り出してきた。

 持ち手に付いているボタンを押すことで、一定速度を出すことのできる自動二輪車である。
 決められた速度以上を出すことはできないが、他の二輪車と比べて座り心地に安定感がある。
 そのため、今でも老人や初乗りをする者にとってありがたく使用されている魔道具だ。

「調子の方は?」

配送ギルドうちの規模を舐めんなよ? まだまだ地方では旧式の方が活躍してるんだ」

 店員が押してきた旧式の自動二輪車もメンテナンスだけはしっかりとなされているらしく、古びてはいるものの不調は見られない。
 動力音も耳に心地の良い低音が安定して響いており、現役であることを実感させる。

「乗り方は分かるか? ってか、免許持ってるのか?」

「持ってなきゃ貸してなんて言わないよ」

 店の前まで二輪車を押していき、路面に出たところで革のシートに座る。
 座って、すぐに足が地面に着かぬことを確認すると、ソルトはシートの高さを最低にまで下ろした。

 それほどに、彼の背丈は低いのだ。その分、足が短いということでもある。

「これでも、型の小さいのを持ってきたんだがな……」

「僕に言わせれば、世間一般がでかすぎるんだよ」

 憎まれ口を叩きながら、ソルトはシートに腰を落ち着ける。
 流石の旧式は安定感だけでなく安心感すら覚えるものだ。

 そんな彼の無表情を見つつ、店員はカード型の端末をソルトに差し出した。
 貸し出しの際に必要となる魔力認証を行う端末である。

 魔力は指紋や声紋のように一人ひとり異なっており、生まれた時点で国に魔力の波長を保存するよう義務化されている。
 身分証明を必要とする取引において魔力の記録を取るという形式が主流となっているのもその有用さと利便性が重視されているためである。
 次点では内部機構が複雑な魔道具を使用する際に、消費するケースが多い。

「じゃ、田舎に帰っても達者で暮らせよ!」

「そちらこそね」

 互いに手を軽く上げた後、ソルトはゆっくりと出発した。

 向かうは、遠方の実家である。
 南方の山中にある小さな村で、旧式の二輪車の出せる最高速でも六時間は掛かる距離となる。

(今日は山麓の町に泊まるか。明日については……明日になったら考えよう……)

 ソルトはこれから先の生活や将来に対して特に思うことも考えることもなく、ただただ風に吹かれるままに、二輪車を最高速で走らせるのであった。
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