【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter07 - Side:EachOther - B

92 > 汐見宅で2人ー1〜 夫婦の寝室(Side:Sugar)

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【Side:Sugar】



「汐見? 大丈夫か?」

 片手で脇腹を押さえ、食卓にもう片方の手をついて俯き、じっとしている汐見の右肩に俺が手をかけると

「わるい……ちょっと……やっぱり、横になっていいか……」

 汐見が俺を流し目で見てきた。
 強面と言われる汐見だが、力の入ってない時の切長の瞳は視線が艶っぽくなって一瞬ドキッとする。

"いや、今そんなんじゃないから……"

 どこにいても何をしても汐見の一挙手一投足に情動が動かされてしまう自分に腹が立つ。

「あ、あぁ……リビング……のソファで……」
「……寝室まで、頼めるか?」

 俺はまた一瞬ドキッとした。
 汐見が結婚してここに引っ越してきてから2年が経過する。だが、いくら俺でも汐見夫婦の寝室に立ち入ったことは未だない。流石に……

「えっと……その……」

 汐見夫妻の夫婦生活のあれこれが生々しく見えそうなのが嫌で。

〝毎晩頭の中でお前のこと抱いてる俺が、お前が毎晩……ではないにしても〈春風〉を抱いてる部屋に入る、のは……〟

 俺が躊躇ためらっていると、何を思ったのか汐見が

「お前が思ってるようなことはないよ……」
「え?」

 なんのことを言ってるのかわからなかったが

「……色っぽいことなんて、よ……お前ほどじゃないけど……半年くらい、ナイ」
「!!!」

〝え?! って、え?!〟

 俺は驚いていいのか喜んでいいのか哀れんでいいのか一瞬混乱して、汐見の顔をマジマジと見た。

「……レスっての?……まぁ、外に男がいて間に合ってるんだったら…………オレは要らないよな……」
「!! そ、そんなこと言うな!」

「? 佐藤?」
「そんなこと……思ってても言うな……!」

〝お前を! お前を要らないって〈春風〉が言うなら! 俺が! 俺がお前を!!!〟

 不意に泣きたくなった。

 なんで。

 こんなに近くにいるのに
 体温さえ感じるほどそばにいるのに
 汐見の呼吸する音すら愛おしいと思うのに

 どうしてこの男は俺の恋人じゃないんだろう。

 男だから? 女だったら?
 俺が女だったらお前は俺を選んでくれたか?
〈春風〉がいても俺が女ならお前と結婚できたか?

 俺がお前の子供を産めたらよかったのに。
 お前の家族を作ってあげられる身体だったらよかったのに。

 俺が男でお前も男だから、お前が俺を選ぶっていう選択肢はないんだよな。
 きっと、ずっと……一生……?

 お前のことを必要ないっていう
 お前じゃない誰かとそういうことをする〈春風〉なんかと結婚しやがって……

 お前のことが誰よりも何よりも必要で
 お前とこんなにも繋がりたいって思ってる俺が、こんなにも近くにいるのに……

 お前が好きで好きで仕方なくて、お前以外にはもう何も要らないのに、お前は全然俺に見向きもしないのに、でもそれでも俺はもうお前以外では無理で……

 考えれば考えるほど苦しくなってむしりたくなるほど心臓がり潰されるから、俺はいつも途中でその考えを放り出す。

 だって、考えたところでどうしようもないから。
 汐見は俺のこと、【恋愛対象圏外】だから。

 男でも子供が産める世界の住人になりたかった。

 そしたら汐見の子供を産むか、俺が汐見に子供を産んでもらって、世界は平和になりましたとさ、めでたしめでたし。で物語は締めくくられたのに。

 生産性とかそんなもん関係ない、とにかく汐見と家族になるために子供が必要だってんなら、どんなことをしてでも子供を作って、そしたら一生汐見のそばにいられる権利が得られて、どんなことをしてでも……

「佐藤?! なんで泣いてんだ?!」
「?!」

 完全に無意識だった。
 溢れた涙が両頬の脇を通っていた。

「こ、これ!」

 汐見がテーブルにあるティッシュを二枚取り出して俺に差し出す。
 それを受け取って俺はゆっくりとその水滴を拭った。

 苦しいほど恋焦がれる男のそばに俺はいられる。
 まだ、いさせてもらえる。

 それだけで、十分だ。

〝大丈夫。嫌がられたり、気持ち悪がられたり……怖がられたりする、までは……まだ……大丈夫……〟

 そう言い聞かせて、汐見のふとした瞬間や、少し触れるたびにやましい気持ちが湧き起こるのを押さえて、帰った後寝る前にそれを思い出して……そういう毎日を過ごしてきた。

〝お前が俺の気持ちに気づくのと、俺がお前に無意識に手を出して拒絶されるのと……どっちが早いんだろうな……〟

「なんでもない……お前の代わりに涙が出た」
「……オレのこと……あわれだと……思うんだな……」

 哀しそうな表情だ。
 その表情すら俺のものじゃない。じゃない。

 そんな顔をさせる〈春風〉がひどく憎くて恨めしくて羨ましくて、たまらない。

「……俺……おまえ、が……」

〝好きだ……汐見、お前が好きだ……もう〈春風〉のことで心を痛めないでくれ。お前を想わない相手のことで傷ついたりしないでくれ。お前を、お前の存在を、お前の尊厳そんげんを無視する〈春風〉に、お前自身を……捧げたりしないでくれ……〟

 俺にお前を捧げてくれなくてもいい。
 でも俺はお前に捧げたい。
 お前のものになりたい。

 一生お前のそばにいられる権利が欲しい。
 どうやったら俺はその権利を享受きょうじゅすることができるんだろう。
 どうしたらお前の心を手に入れることができるんだろう。

 どうして……

「寝室、開いてるか……」

 そこまで考えて、俺は自分の沈思ちんしの海から急浮上した。

「ん? あ、ああ、鍵はついてないから」

〝寝室に鍵がついてないのか……まぁ、夫婦二人暮らしだもんな……〟

 きっとこの先も。
 何万回となく、この思いは繰り返されるんだろう。

〝お前への片想いで俺も……壊れたり、するのかな……〈春風〉みたいに……〟






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