【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter11 - Side:Salt - C

169 > 追憶 ー16(加藤のアニマ)

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 加藤の父親は興に乗ったかのように、自分が持っている手札をさらけ出して見せた。

『刷り込みだと言っていた』

 その言葉はオレの頭の中で像を成さなかった。

『自分が付き合ってると思ってるのは「みう」という女性で、君ではない、とそう私たちにはっきり言った』
『?!?! っだから、「みう」ってのは……!』

『「みう」という理想の女性を君の中に見ているだけだと。潮くん、【男である潮本人ではない】、そう言ったんだよ、耕史は』
『?!?!』

 説明されてもよくわからなかった。

〝どういう?? どういう意味なんだ? オレは……〟

『君といることで、その初恋の彼女といる気分になっていたんだそうだ。君はアニマという言葉を知っているかね? 心理学用語で、男が心の中に持っている理想の女性像のことだ。その女性像を君に重ねていただけなんだ』

 オレは、加藤の父が言うセリフの半分も理解できないまま、呆然と加藤を見た。

『聞くところによるとまだ深い関係ではないということじゃないか。それなら話は早い』

 加藤はオレの疑問を、オレが加藤に聞きたい質問を肌で感じ取っているはずなのに、オレのことを無視し続けている。

『私はね、君たちの関係を正常な状態に正そうとしているだけだ。わかるね? 同性同士の恋愛のような感情は一過性のもので、よくあることで、ほぼ勘違いだ。それに耕史には異性の彼女もちゃんといた』

 自分に酔ったように自論を垂れ流す加藤の父親に、不気味でいびつなものを感じながら、オレは込み上げてくる吐き気と戦っていた。

『つまり、同性にだけ性的な欲求を感じるということじゃない。それは君たちのような年代に特有の、旺盛な性欲の誤作動みたいなものだ。君だって別に、男性に性的な欲求を感じるわけじゃなかろう?』

 加藤の父のそのよく回る舌を引っこ抜いてやりたいと思った。
 俯いたまま何も言わない加藤に助けを求めようとしても、加藤は震える肩を見せるだけで何もしてくれないのがわかってしまった。

こいつ加藤の父は暴君だ……この家は暴君の独裁者が支配している……〟

『わかるかい? その状態は精神的な風邪みたいなもの、そう、一過性の軽い病気だ。だから治療すれば……代替する行動や気の持ちようで治る。2人とも、異性の彼女と付き合うとか、もっと他のものに目を向けて没頭するとか、そうすることで同性に対する恋愛感情のようなものは勘違いだと気づいて、なくなっていく』

〝今、確かにあると感じている、その気持ちが……想いが……感情が……なくなっていくって、ことは…………〟

〝カンチガい? そんな、コト……〟

 かすかな声が、頭の中のどこかから聞こえた。
 オレは、加藤をなじりたい気持ちとののしりたい気持ち、それとは逆の慰めたい気持ちが入り混じり、目眩を感じていた。

『いいかね。これは人生の先輩としての忠告だ、潮くん。耕史とこれまで通り友人関係を続けるのは難しいと思う。だが、耕史は今、大学の推薦受験を控えて大事な時期だ。勝手に学校を休んだりするとその評価にも響く』

 そう言って、加藤の父親は母親に顎で合図した。
 母親はそそくさと立ち上がって応接間を出ていき、すぐに戻ってきた。何か封筒のようなものを持って。

『聞くところによると、君は耕史とともに3年間野球部に所属してキャッチャーとしての信頼も厚く、皆出席に近く、成績も優秀で先生の覚えもめでたい』

 オレが玄関から入ってくる時にばあちゃんと加藤の父が話していた断片を思い出す。
 加藤の母から封筒を受け取ると、加藤の父はその封筒の厚みを確かめながら

『君が卒業までの数ヶ月、学校に行かなくても問題ないことはすでに調べてある』
『?!』

『潮くん。君には当分、学校には登校しないでもらいたい。君の方から先生に、受験が終わるまで休むとかなんとか適当なことを言って』
『はぁ?!?!』

『耕史はまだ君が近くにいると諦めることができないだろう。それなら、、耕史の見えないところに行ってもらいたい。

 その封筒をオレ、ではなく、ばあちゃんに向けて、テーブルの上に差し出した。

『え?』

 会話の蚊帳かやの外だったばあちゃんはその封筒をみて目を白黒させ不安な表情で、オレと加藤の父を見比べる。 

『これはせめてもの……まぁ、希望大学変更のです。これだけあれば、県外の大学に進学することができるはずだ』
『はっ?!』

 それはお願いや依頼ではなく──事実上、暴君からの至上命令だった────







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