【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter12 - Side:Other - D

187 > 決戦の日−06(溶かされた融資)

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「結婚前に『YGDC社や、ひいては吉永家に弓引くようなことがあれば覚悟しておくように』と釘を刺してありましたが……結果として彼はその約束をたがえたのです。三浦家に融資した金銭は、YGDC社が後援している、とある金融機関経由のもの。その弁済を一度として行うことなく6千万を新たに借入れ、その金の大半が……」

 そういって志弦はテーブルにある書類の1つを取り出し、汐見と池宮の間にツッと差し出す。

「湯水のように消えました。その詳細もこちらでは把握しています」

 それは英語で書かれたパンフレットだった。

 どこなのかはわからないが、支柱マストが剥き出しになった船が所狭しと並べられた港の写真と、プール付きの豪邸が大きく表紙を飾っている。
 そして、そのパンフレットの表紙にはその写真の上に英語で何か書かれていて。

 それを見た池宮が驚く。

「これは!」
「わかります? あちらでもこういうのは当たり前のようにありまして。英語能力もそれほどない夫が知人と一緒に現地まで行ったようです」

 池宮は、驚きつつもそのパンフレットに興味津々で

「それ、見せてもらっても?」
「どうぞ」

 池宮が捲るパンフレットを汐見は隣から見る。

 そのパンフレットには、英語でこう書かれていた。
『A mansion overlooking this yacht harbor will be yours in this price! Please come and visit us!』
(このヨットハーバーが見渡せる豪邸がこの金額であなたのものに!ぜひ現地まで足を運んでください!)と。

「全く努力しないため能力はない。なのに持って生まれた見た目と家柄のせいで、いろんな人間が自分に近寄ってくる。そこにしか承認欲求を満たすものがない彼は、愛人たちにこの家に住めるようになるとそそのかす目的もあって大金を……」
「お聞きしても?」

 池宮が口を挟んだ。

「はい」
「この家、おいくらだったんです?」

「……中古ですが、5千万だったそうです」
「なっ!!!」

「追加で新規で融資した金額のうち、5千万がこの家に」

 どうやってわかったのか、もう聞く必要はないと思われた。

「……それで、この家は?」
「この家は、存在しません」
「え?! で、ですが、現地まで行ったって……」

 驚いた汐見が思わず大きな声を出してしまう。

「そうです。この、行ったのです。そこで複数の白人に囲まれ訳のわからない英語をまくし立てられて契約し、その場で一括して支払いを済ませてしまった」
「「はぁぁ?!」」

 呆れた顔をしているのは志弦だけではない。汐見も池宮もその言葉には呆然とする以外なかった。

「私に隠れて行っていたので、夫は相談することもできなかった。日本円で5千万なら、向こうでの不動産価値は2倍の1億以上です。英語が苦手な日本人を相手にする【不動産詐欺】を得意としたブローカー仲介業者だったのです」

「「!!!」」
「もちろん、全額溶かしました」

 もはや汐見と池宮には言うべき言葉が見当たらなかった。

「気づいた時にはもうその会社に連絡もつかず、アメリカの商業登記(に当たるもの)を確認してもそのような会社はなかった」

 はぁぁ……、と長いため息をついた志弦は、情けなさそうな顔をして

「救いようのない無能馬鹿だったことが分かったので、もうこれ以上、夫婦として籍を一緒にするのも嫌だと……今の総元締めに訴えました。それで今回の、離婚調停と愛人さんたちへの慰謝料請求に至ったのです」
「そ、それは……吉永家としては」

醜聞スキャンダルですね。まぁ、私にはどうでもいいことですが」
「え?」

「私は、近いうちに、アメリカに移住するつもりですので」
「え、ええ?!」

 居住まいを正した志弦は背筋を伸ばして言った。

「ここ数年、YGDC社内の組織変更で揉めていましたが、それが片付きました。今は自社ビルの建設と同時に関連会社の整理・縮小などを行っています」
「「……」」

「先日行った取締役会で世襲制を廃止することも決定しましたので。私自身はアメリカに作る予定の支社……その支社長として残りの仕事人生を捧げるつもりです」
「は、はぁ……」

 あまりにも迅速で強靭きょうじんな意思で動く女代表に幹部は舌を巻いていた。
 元いた場所アメリカ本国での人脈を存分に活かした支社の設営にも余念はない。

 チャンスは自ら掴むものだと思っているその女性経営者の手腕と支社設営は確実に今後の会社の飛躍にもなる、とあっては反論の余地はなかっただろう。

「前々から言ってはいたんです。血統主義はもう時代遅れだと。優秀な人材を確保して会社を活性化させる、会社が生き残るためには世界から広く人材を集めるべきで、狭い日本内部での世襲制にこだわっていたら時代に取り残されると。役員や幹部連中の説得に6年かかりました」

 6年とは、志弦がこの会社に代表として入社してからの年月だ。
 入社当時から志弦は自分の居場所を作るために常に尽力していた。
 そして、その場所は日本ではないと。

 疑問が拭えなかった汐見が質問した。

「なぜ今更またアメリカに? ご家族もいるのなら、ここで暮らした方が……」

「6年前に……向こうに置いて来た……生涯を共にしたい恋人がいるので」
「え?!」

「隆との結婚を決意して日本に帰国する時に別れました。ですが、彼女は今も独身で……」
「??? ……彼、?」

「同じ日本人ですが、シングルマザーの女性です」

「?!」







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