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Chapter13 - Side:Sugar - B
200 > 再会−03(回顧ー前編)
しおりを挟む1年前────
◇◇◇◇◇
汐見が〈春風〉と結婚して1年が経過していた頃。
俺は、なんとか吹っ切ろうと仕事を無理やり詰め込んで多忙にすることで考えないようにしていた。
〝結婚した相手に……しかも男に……無理だろ。不毛すぎるだろ〟
そう思うことで俺は、自分で自分を慰めていた。
汐見が結婚した直後に、俺は汐見そっくりの女性・相良美穂と出会った。
この出会いは天啓だと思ったんだ。
〝この人となら……結婚できる、かも……〟
見た目が似てるってだけで単純な思考回路だと我ながら思った。
けど、どうしても汐見の面影を探してしまう。追いかけてしまう。
仕方ないだろう? その時すでに6年も片想いしていたんだから。
しかも、〈春風〉と会う直前の俺と汐見は、かなり良い雰囲気だったんだ……俺の勘違いじゃなければ……
断ち切ったつもりでいても、心の底ではまだ汐見に未練たらたらだった。
美穂は、汐見と出会った後で付き合った彼女の中では一番付き合いが長く、そして一番、汐見に似ていた。
外見も、中身も。
母親が経営してる薬局で薬剤師として働いていて、母親が引退したら継ぐつもりだと言っていた。
『男に何を求めてるかって? そんなの決まってるじゃない、顔よ。私より収入の多い男は大体クズだったから、収入低くても顔が良くて人格に難がなければ問題ないわ』
面と向かって俺にはっきりそういうことを言う女性はなかなかいなかったが、面白さも手伝って、俺と彼女の関係は1年続いた。
結婚してしまった汐見とどうこうなるはずがないので、このまま交際を続けていればいずれ美穂と結婚するんだろうな、とぼんやり思っていたんだ。
付き合って数ヶ月後に迎えた俺の誕生日に彼女から
『いつもつけてる時計、5年くらい使ってるって言ってたじゃない? 似合わないとは言わないけど、こういうのもサブに持っておくのも良いんじゃないかなと思って』
プレゼントとして腕時計をもらった。だけど、あまり使用することはなく。
彼女が嫌いだったわけじゃない。
たぶん、歴代の彼女の中では一番好きだった。
でもそれでも───
〝汐見の……10分の1くらい?〟
その感覚は常に拭えなかった。
汐見が〈春風〉を溺愛しているのを知っていたから、もう俺の入り込む余地なんてないと思った俺は無意識に結婚願望も高まっていた。
『よく話す汐見さん? 今度私にも紹介してよ』
美穂にそう言われたことは何度かあるが、俺は結局、彼女と汐見を引き合わせたことはない。
〝だって、絶対バレる……〟
美穂は顔立ちがシュッとして薄味で、奥二重の瞳は目つきが鋭い。身長も汐見とそれほど変わらないほどの170cm。男らしい目つきの悪さに悩んだこともあったらしいが
『薬局経営するようになれば、男っぽくても良いかな、って最近思うようになった』
開き直ったと言ってた。その清々しさも気に入っていた。
とにかく収入的にも自立した女性だったから、それまでの彼女たちのように俺に物を強請るようなこともなく、デートも割り勘。そういう行為はするものの俺たちの間に甘さはほとんどなかった。その気楽さも長く続いた理由だったんだと思う。
俺は内心、女体化汐見と付き合ってる感覚だったから、とにかく美穂に『汐見』って言わないようにだけ気をつけてた。
汐見が既婚者になったのに、まだ未練が残っていた俺は美穂と付き合うことで心の穴を埋めていたんだ。
〝代替品だ……汐見の……〟
でも美穂は薄々気づいていたんだと思う。俺が、自分じゃない誰かを想っていることを。
結局、別れる時までそのことを聞かなかった美穂に、少し違和感を感じていたものの、俺は詮索されないことで安心してもいた。
そんな時、俺と汐見で東北まで2泊3日の出張に行くことになったんだ。
宿泊する部屋は別々だったけど、結婚後の汐見は残業もほとんどしなくなったし、付き合いも悪くなっていたから、久々に長く一緒にいられると、我ながら有頂天になっていた。
商談も成功に終わって、翌日帰るって日に、地酒の利き酒ができるって評判の店に入った。
食事もうまいし、その時の酒も、思った以上に美味しかったもんだから……
つい、飲みすぎたんだ。
しかもそれは。
本来、俺が不得手とする日本酒で───
気づいたら、俺は病院にいた。
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