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episode2
イレイス
しおりを挟むロゼ先生の手のひらからこぼれ落ちた欠片を、俺は床に落ちる前に掴んだ。少しだけ暖かい。それをリアンに返すと光が減ったので、ちゃんと適性を示している事が分かる。
「本当に全ての魔法が使えるのか。」
「俺は適性があるだけなんだけどな。」
俺もティアも、ステータス上は同じくらいの魔法が使える。けど、俺は魔法を一回しか使えない。
防具屋で買ったペンダントに俺の魔力を貯めてあるから、これで完全に魔力はなくならないが、一回使うと気を失う事に変わりない。
「さて、問題はここからだ。」
先生の今の状態は分かった。しかし、どうすれば良いのかはわからない。
中に吸い込まれた欠片を取り除けば、元に戻るだろうか。
首謀犯の黒き太陽を調べる時間は、恐らくない。一刻も早くこの状況をなんとかするべきだ。
「犯人は自分達を、黒き太陽と名乗っていた。心当たりはありますか?」
「!?」
なんだ、知ってるのか。だけど、それにしては何か変だな。
疑ってるというか、納得出来なさそうな顔だ。
「黒き太陽は、アリーヤ神を信仰する小さな団体だ。」
なるほど。神話に出て来た二人の神様で、信者が別れるのか。
世界を創ったアナスタシアとアリーヤか…授業も何気なく聞いていたが、俺達があったのはアナスタシアなのか?
「ワタシ達の知っている黒き太陽は、ほとんど魔力もないような連中だったが…本当に奴らが犯人なのか?」
「そう名乗っていたのは間違いない。」
疑う気持ちは分からなくもない。みんなが俺のスキルみたいに、嘘が分かるわけではないんだから。
だけど、倒れるくらい無理して視たってのに、なかなか厳しい言葉だな。
少しくらい不貞腐れても良いと思う。
ただ、過去を見た所で、俺は黒き太陽を知らない。奴らが本物かどうかまでは分からない。
「そういえば連中、与える力と奪う力を研究していたな。もしかすると、それが関係あるんじゃないか?」
アリーヤ神は絶対的強さを持っていて、その力を与える事も奪う事も出来たとされている。そうティオ先生が言った。
研究なんてして、一体どうするつもりなんだろうか。
この世界で研究を発表する場があるとは思えないが。
「与えられた力を取り除く事が出来たら、なんとかなるかな?」
やってみる価値はある。だが、そんな事が果たして出来るのだろうか。
吸収する魔法でもあれば良いんだが。
「イレイスという魔法がある。ただその魔法は、最高峰の魔法師ですら使うのが難しいとされる禁断の魔法だ。」
言われてすぐにステータスを開く。
ティアの使える魔法からイレイスという名前を探す。昨日の夜にステータスの表示を変えておいたから、属性別で見やすくなった。
イレイスという言葉は地球にもある。英語で“消す”という意味だとティアが小声で教えてくれた。
闇属性の魔法で、確かにイレイスが存在している。
「ティア。」
「うん。」
短い言葉と視線を交わして、俺達はロゼ先生に向き合った。
神眼で詳細を確認したところ、イレイスは効果が出るまでにかなり時間がかかるようだ。その間ずっとMPをもの凄い勢いて消費していくため、MPをすぐに回復する必要があるようだ。そしてイレイスの魔法自体も、五つのダンジョンをクリアしなければ得られない特別な魔法らしい。
ティアならMPが完全に消費する事はないだろうけど、念の為に俺の魔力を渡せる準備はしておきたい。
「おい、まさか本当にイレイスを使うつもりか?!」
騒つく先生達をよそに、ティアは大きく息を吸い込んだ。
目を閉じ、集中する姿が美しい。ゆっくり息を吐くと、ティアの身体から淡い紫色の光が溢れる。
毒毒しくない、綺麗な薄紫だ。先生達も息を呑んでいた。
光はティアの身体から指先に渡り、ゆっくりとロゼ先生に移って行く。ステータスを確認すると、すでに魔力が4分の1程減っている。すぐに回復するはずのティアの魔力がこの時点でここまで減ったという事は、普通の魔法師でも難しいとされる意味が分かる気がする。
俺の魔力を渡すべきだろうかと、悩んでいる俺の横から、リアンが手を伸ばした。
「魔力を渡すなら触れ合うのが一番だよ。これは魔法じゃないから、ゼロも出来るんじゃないかな?」
そう言うと、リアンは伸ばしているティアの手を握る。リアンの身体から淡い光が溢れ、ティアを包んだ。その瞬間、俺の目に光輝く翼が目に入る。
まただ。俺にしか見えないであろう、リアンの翼。この翼が、リアンの秘密を知る鍵になりそうなんだが。
何故だかリアンに関しては、神眼が思うように働かない。
リアンの赤い髪がふわりとなびいて、光の粒が弾かれたように周りを舞う。手を取り合った二人が美し過ぎて、言葉が出ない。
ロゼ先生の身体がゆっくり戻って行く。数分見守って、完全に治った事を確認する。ステータスは異常なし。
ティアのMPは半分に回復していたが、リアンのMPは半分以下で立っているのがやっとの状態だ。
俺は安堵の溜息を吐いたと同時に、二人の背中に手を置いて魔力を流した。
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