新月神話伝 第二世代

鴉月語り部

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第一話 鳳凰の神託

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執筆日 2024年3月11日

 新月の國、シン・ユエイ
皇帝は新月 神威(しんゆえい かむい)、皇后は白雪城 雪華(しらゆきじょう ぜっか)
夫妻には第一子の神無衹(かんなぎ)皇子と第二子の初雪(はつゆき)皇女がいた。

 神々の召集

 一柱代理に御門 神無衹 (みかどの かんなぎ)
次期後継者であり普段は新月の國では無く葦原で王の一人を務めている。
有能なのだがやや傲慢で野心家。
彼の統率のお陰で新月の國は徐々に勢力を拡大している。

 二柱 八咫神翠珱(やたがみ すいよう)

新米の陰陽師で最も若い、補佐の雨流涙 五月雨(うるるい さみだれ)は彼女の幼い頃からの従者だ。
翠珱は俊足が自慢であり武力もそれなりに持ってはいるがまだ頼りなく、五月雨を始めとして従姉の鵺千代(やちよ)が彼女の指導役でもあった。

 三柱 海神 真珠(わたつみ しんじゅ)
見た目は16歳の少女だが蓬莱人であり最年長、霊力は高く海神の血を引く人魚だ。
彼女を溺愛する過保護な親御さんが定期的に警備しに来るのがちょっと問題になっている…

 四柱 相模鵺 鳳仙(さがみや ほうせん)
葦原の名高き武人であり雷神、誇り高き山の民。
真珠の次に年長であり古風で頑固者。

 五柱 煌花 鵺千代(きらはなの やちよ)
隻眼の幻術師であり千夜の実妹。
本来は千夜が五柱に相応しいのだが妹の可愛い我儘が本当に通ってしまった例。
まあ千夜は天上レイウの神も兼ねているから……

 六柱 黄泉比良坂 鬼(たまをの)
黄泉の番人である鬼、名前と種族名のせいでややこしい。
ぶっきらぼうで見た目で誤解されがちだか割と常識人寄りのヤンキー兄さんである。
四柱の鳳仙に匹敵する怪力を持つ。

 七柱 十六夜 初月(いざよい はつづき)
    十六夜 藤紫(いざよい ふじむらさき)

不死の薬を精製する月の一族である三兄弟、攻撃の兄と守備結界に長けた次兄、心を読み支援の末弟・八朔(はっさく)で三位一体である。

 天地と海を巻き込んだリヴァイアサンの乱から数百年後、世はまさに第二世代の幕開けである。
末弟 神立皇子が生まれた事によって兄の神無衹は少し警戒していた。

 ……兄の手足となるように。お前は所詮国の捨て駒に過ぎないのだから。
神無衹は内心でそう考えていた。寡黙で従順な弟を見下していた。
初月と藤紫も同じように末弟を見下していた。


【神託の日】

 鳳凰によって後継者を選ぶ日が来た。
当然有能な兄である自分だろうと神無衹は高を括る。
第二子の初雪は自分の許嫁だ、消極的で従順な彼女は女王にはならないだろう。

あろうことか鳳凰は末弟の神立こそが後継者に相応しいと告げた。

「……偉大なる我等の鳳凰ユエイよ、今何と申された?」

「神立様こそ新月を守護する者に相応しい。
神無衹様は葦原を守護し、兄弟で国を治めるのです……と、鳳凰様は仰っています。」

鳳凰の言の葉を神子・桜花(おうか)が改めて伝えた。

「何かの間違いでは無いのか?
何故私が弟の下に就かねばならんのだ!
納得がいかぬ。」

 葦原の王の一人に甘んじろと言うのか。
それで兄を立てたつもりか。

弟のあの憐れむような、遠慮するような瞳が昔から気に食わなかった。

「……神立が辞退するやもしれん、その場合はどうなるのだ?」

さあ神立、聡いなら兄の考えを察せよ。
お前はこの国に向いていない、王の器では無い。
統べる者は私こそ相応しい。

「おやめなさい神無衹さん、そうやって弟を威圧するのは貴方の我儘に過ぎません。
鳳凰様は兄弟で国を治めるべきだと仰られているのです。
貴方一人で全てを背負うわけにはいかないでしょう。」

皇后である母が私を制止する。
貴女はいつもそうだ、単に私が気に食わないのだろう。
貴女だってお飾りのお人形でいればまだ可愛げがあったものの……

神託の儀式は終わり、私はこの国に絶望していた………
いくら綺麗ごとを並べようが兄である私が神立の下に就くようなものだろう。
鳳凰や神立のような保守派だけでは国を護れんのだ、何故わからぬ?
侵攻戦で次々と領土を拡大していったのは誰のお陰だと思っているのだ?
私が押し切ったからこの国は地盤が固まってきたのだ。

「……兄上」

見たくもない弟が私の機嫌を伺いに来たか。

「兄上、私は兄上と共に政を行いたいと思うております。
私では力不足故、どうか……」

 「……お前なんか


生まれてこなければ良かったのに」

私がずっと思っていた事を吐き出してしまった。
もういい、この国に用は無い。
神立が継げばきっと滅びるだろう。

部屋に戻ると儀礼用の衣や冠を脱ぎ捨てた。
許嫁である初雪に別れを告げようと思ったが彼女を神立にくれてやるのは惜しいな。
神立の皇后になる可能性もあるなら不愉快だ。

「兄様!お待ちください兄様……」

斎王の装束を着たまま初雪が私に駆け寄った。

「私は葦原に帰る、もう二度とこの国の土を踏む事は無いであろう。
私の故郷は葦原であり、私は葦原の皇族なのだから……」

初雪、お前だけは連れて行こう。
ただし私の妻になるのならお前も同じ覚悟で生きよ。

「……初雪は
兄様と、共に生きます。」

思えば何の愛着も無かった新月の國を捨てる。
海を越え、葦原に私は帰るぞ。
……数年後には、神立、お前に問おう。
国を護る覚悟はあるのか?と。
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