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第七章…「模擬戦」後編

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前回までは
サクラノが隣のBクラスに模擬戦を申し込み。三人が出場。その中に選ばれたユリィと連帯責任を発令されたレイト、そして立候補したミエハネ・ロイバ。
一回戦目はユリィVSエルフのカハネ・アルノッテ。勝者はユリィ。
二回戦目はレイトVS前衛のサナ・ナルベア。勝者はレイト。
といった結果が出ている。

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ここまではAクラスが優勢だが、もし三回戦目ここで負ければ第四回戦目が出現する。
負けられない戦いを背負ったミエハネは、今目の前に立つミエハネと比べて体格の良い赤い髪を短くカットされ、ワックスで固められた髪に赤い瞳を持つ名前をルアマイン・アロバという男を見据える。背中に背負われた武器木刀。長さは大体180㎝程。
それに比べてミエハネの持つ武器木刀は、強い力を与えてしまえば折れてしまいそうな刃に70㎝しかなく、普通に考えれば勝つのは圧倒的有利なルアマインだろう。
だが、それでもその場から立ち去ろうとしないミエハネを見ていたAクラスの生徒は誰しもが頑張れと思った。
パートナーのダマテも口には出しはしないが、内心で頑張れと呟く。
緊張が満ちる一階で、平然としているサクラノは開始の鐘を鳴らした。
開始の鐘が鳴るが、中央に立つ二人は動こうとしない。

「あれ、開始の鐘がなったのに」

「何で動かないんだろう……」

「Aクラスの子が怖じ気ついたとか?」

「じゃあ、何でルアマインも動かないんだろう?」

Aクラス、Bクラスの女子はそんな会話を交わしていることを近くにいたエリオとひなは、嫌そうな表情をするも内心では確かに呟く。
そんなところに水を飲みに離れていたユリィが戻ってくる。
ユリィに気づいたエリオとひなはすぐに駆け寄るとユリィも二人に気づく。
首を傾げながらも合流すると、早速質問を投げつけられる。

「何で二人は動かないの?」

「鐘が……なってから、もー……2分は経ち……ます」

「ん?……ああ、あれは動かないんじゃなくて動けないんだよ」

ミエハネとルアマインを見た瞬間にそう返す。ユリィの言葉の意味が解らずに首を傾げる二人にユリィは、更に分かりやすく説明を始める。

「あれは、互いに頭の中でシュミレートしては消してを繰り返して相手をどう倒すか戦略を練り続けてるんだ……。
まず、ミエハネの場合はルアマインよりも体も武器木刀の長さが違うから懐に入ってしまえば簡単だ。
けど懐に入る前にはあの大剣が待ち受けているからむやみに動けずにいて、ルアマインの場合はまず相手を懐に入れずにどう攻撃をするかを考えるけど大剣の場合は小回りは効かないしかと言って大きく振れば懐に入られる。
尚且つ、ミエハネのスピードにも注意をしなければならない……。鬼であるミエハネには、鬼が一番得意とする身体強化魔法がある…。
身体強化されれば恐らく約20倍の力が備わり、ルアマインの大剣を素手で止められることができるんじゃないか?
まぁ、それを破るとしたらルアマインは大剣に全体重を乗せれば破れる可能性は生まれるだろうな」

ユリィの長々とした説明を聞いていたが、理解ができずに首を傾げる。それを見たユリィは、更に分かりやすく砕いた説明をする。

「いいか?180㎝の大剣があるとします」

「はい」

「更に最初に少し距離が遠いです」

「確かに距離がある」

「うんうん」

「それをふまえて、普段のスピードだと近づけません。
なので、身体強化の魔法を使うことにします。
身体強化の魔法を使ったミエハネは、普段の20倍の力が使えます」

「さっき言ってたやつね」

「20倍…すご……い」

「なので、ルアマインは大剣を下手に振るうことができず、使い物になりません」

何度も頷く二人。
どうやら、この説明だと理解できるようだ。
ユリィはそのまま続けた。

「もし、破れるとしてもルアマインの振り下ろした力+全体重を乗せれば、もしかしたら破ることができるかもしれません」

「近づけ…ても……危ない」

「ですが、それをすると失敗したときに大きな隙がうまれてしまいます。
なので、大剣を地面に突き刺して背にし、壁を作ります」

「なるほど」

「すると、後ろから襲われることはなく、前か左右又は上のみミエハネは攻撃が可能となります。
大剣を地面に突き刺したことにより、ルアマインには武器が無くなってしまいす。
ですが、拳という武器があります……どうだ?理解したか?」

「うん、した」

「はい……理解、でき…ました」

やっと現在の状況を理解するが、いつまでもその場に残ることは許されるわけがなく、その事を理解しているからこそ行動を起こした。
先に動いたのはミエハネだった。
腰にぶら下げた刀に軽く手を添えて、右手で柄を握りながらも低い姿勢のまま走り始める。
ミエハネの行動に反応して、ルアマインはゆっくりと大剣を持ち上げて構える。

「【身体強化ボディストレングニング】」

ボソリと呟いてから少しした後、ミエハネのスピードが上がる。
が、ルアマインも負けじと背後に大剣を突き立て壁を作りよしかかる。
大剣を壁にすることによって、後ろからの攻撃を防ごうと考えたのだろう。たが、問題があるとするならば大剣を床に突き立てたことにより振るえる武器木刀が無くなってしまっていることだ。
けれど、本人は慌てることなく強く握った拳を構える。その時ルアマインが武器を無くした、もしくは近くに無かったときのために格闘術を習っていたとわかる。
ルアマインの行動を見てユリィは、目を細めながらなるほど、と呟く。
ユリィの呟きの意味を理解したエリオといまだに理解できないひな。
だが、後衛のひながわからないのも仕方のないこと。

「へ~、格闘術をすることによって懐に入られても平気になったのね」

「接近……戦…に、なるの?」

ひなが首を傾げながらエリオを見ると、そうと返しながらひなの頬をツンツンと突っつくエリオ。
そんな光景を見ていたユリィに、休憩終わり頃から姿が見えなかったレイトが現れる。
レイトに気づいたユリィは、振り向きはしなかったがチラ見でレイトを確認する。

「今までどこに行ってたんだ?」

「……サクラノ……先生に頼まれた飲み物を買いに、さっきから戦闘見ながら歩いてたから休みて~」

そう言いながら柵によりかかりながらミエハネとルアマインの戦いを見る。
ユリィはふ~んと返しながらレイトの隣に立って再び見る。そんな二人に続くようにエリオとひなも見るのだった。
ミエハネとルアマインの戦闘を見ていると、右側の二つ離れた場所にいたダマテは奥歯を噛み締めながら苦悶の表情を見せる。その理由はすぐに姿を見せた。
突如、ミエハネが床に座り込んだのだ。
どうやら足首を痛めたらしく、左足首を押さえている。
すぐにサクラノが駆け寄り、ボソボソと二人で話し合っていた。
それを見ていたレイトは、ひなの方を見てからはぁ~とため息を吐く。そして一階に行くための階段に向かう途中で、ひなに声をける。

「ひな、一緒に来てくれ」

「え、あ…はい」

「あ、ついでにお前らは着いてくるなよ」

そう言ってからレイトとひなは、階段を降りていく。
二人の姿が見えなくなってから少しした後、一階の訓練所の所に姿を見せる。その事に驚きながらもただその場でじっと見つめる。
そのことを知らないレイトとひなは、まっすぐサクラノとミエハネのところまで歩いていくと、二人に気づいたサクラノとミエハネと目が合う。
レイトはひなと視線をマジ合わせてから、ひなはミエハネの足を見てレイトはサクラノと話始める。

「レイト・アルディアデ、勝手に何をしているのかな?」

「聞きに来ただけですよ……続けたいのか、続けたくないのか」

「もし、ミエハネが続けたいと言っても足首の腫れで無理ですよ?」

視線を鋭くする。
サクラノの顔からは笑顔はなくなっている。そんなサクラノに対してレイトは、いつもの調子で大丈夫ですよっとだけ返してからひなの方を見る。丁度顔上げたひなと合い、視線だけで会話するように見つめあった後、レイトはミエハネに問う。彼らの意思を尊重するように。

「ミエハネ、お前はこの戦いを続けたいか?ルアマインと引き分けになるとしても負けるとしても…戦いたいか?」

「………うん、ルアマインさんと戦いたい!例え、引き分けになったとしても!負けたとしても!もっと、戦っていたい!」

意思の強い目。その目を見たレイトは、ミエハネとひなそしてサクラノにしか見えない角度でふっと寂しそうにだが、嬉しそうに微笑む。
なぜそんなに寂しそうに笑うのかは誰もわからない。だからなのか、サクラノはその微笑みを見た瞬間から何も言わずに黙って見守り始める。何かを悟ったように。

「レイト・アルディアデ……後で私の部屋に来てくれる?」

「はい…説教ならいくらでも付き合います」

そう返してから今度は、少し離れた場所から見守っていたルアマインに視線を向けられ、言葉が向けられる。
ルアマインは戸惑いながらも返事を返す。

「ルアマイン」

「はい、何でしょうか……」

「同じ質問する…ルアマインお前は、ミエハネとまだ戦いたいか?例え、引き分けになるとしても、負けるとしても」

「ああ…俺はまだミエハネさんと戦いたい!こんなに楽しめる戦いは久しぶりだから!」

ルアマインがそう返す。
ミエハネは嬉しそうな表情を見せるが、痛めていた足を動かしてしまい顔をしかめる。それを見たひなは、少し待ってと言いたげに手の平をミエハネに見せてからそっと痛めた足首に手を添えてから何かを呟く。
それを見たレイトは手の平同士を強く合わせ、パァン!と高い音を見えない魔力に乗せて2階にいる1年生経ちに届けると、きゃ!やうわ!など驚いた声を出す。その間にひなは呪文の様な呟きを終わらせる。

「植物たちよ我は主であり、意思である。我の望むがままにその力を示せ【回復リフレッシュメント】」

ポォと薄く黄緑色に一瞬光るとミエハネは驚いた表情を見せる。
その理由はすぐにわかる。
赤く腫れていた足首が治っていたからだ。サクラノもそれを確認するとひなを見るが、ふぅと息を吐いた後レイトの側に戻っていってしまいどうやったのか聞けずにいた。
驚いた表情で固まっているミエハネとひなにレイトは振り向いてから一言置いて去っていく。

「サクラノ先生……また後で会いましょう」

「…………」

最後に残したレイトの言葉に息をするのを忘れかける。
二人が去った後、ミエハネは立ち上がり痛みがないかを地面を何度も踏んでないことを確認する。

「サクラノ先生、僕はまだ続けられるのでいいですね?」

「………はい、痛めた箇所が治っているので続けていいですよ」

サクラノのから許しを得たミエハネは満面の笑みを見せながら、少し離れた場所から見守っていたルアマインの方へに向かって手を振って意を示す。
その事に気づいたルアマインにも軽い笑みが浮かぶ。
そんな二人を見たサクラノは、呆れたようなため息を1つしてから自分の席につき、再開の鐘を鳴らした。
丁度再開の鐘が鳴るのと同時に2階に戻ってきたレイトとひなにすぐさま駆け寄るエリオ。その後ろから視線だけを投げてくるユリィ。そして何をしたんだと言いたげなクラスの視線。
レイトは気にすることなく、再開されたミエハネとルアマインの戦闘を見始める。エリオは少しの間ぎゅ~と抱き締めた後、手を繋いで元の位置に戻る。
視線を気にしていないレイトとひなにクラスの奴等も今は置いといて、今繰り広げられている戦闘に注目する。
戦闘は先程よりも盛り上がっていた。
ミエハネのとめどない木刀さばき、一度攻撃をした後に手の甲で転がしては握り直しては再び転がすの繰り返しだ。
ルアマインはそれを素手で避けては受け流す。二人が行うこれらは、普通に見ることのできないスピードで繰り広げられる。ミエハネとルアマインは楽しげに笑っていたが、ある一撃を食らわせ、防いだ時に表情が変わる。

「そろそろ終わらせないと、チャイムが鳴りそうだ」

「ああ、まだまだ続けたいがチャイムが鳴ったらもともこうもないからな」

木刀を素手を交えては会話する。
ミエハネは距離を取るために後方に飛び、ルアマインも大剣を引き抜いて後方へ下がる。
ゆっくりと木刀を構え直す両者。
風の入らぬ訓練所に風が入ったかの様に髪を揺らす。それを気にもせず、相手を見据え続けて一分が経つ頃に動きがあった。まず先に動いたのはルアマインだった。ミエハネもルアマインが動き出してから数秒後に動き出す。
二人の最大の力で木刀を振るった。
バキッと折れる音と共に何かが床に落ちる音が訓練所に響いた。
2階にいたA、Bクラスが見届けた。
三回戦目の結果は、引き分けだった。
両者の木刀が折れたことが、引き分けに繋がったのだ。

「そこまで!両者、引き分け!」

「……引き分け」

「らしいな」

キョトンとした表情のミエハネに、涼しげな表情のルアマイン。
試合終了の鐘が鳴る。
ミエハネとルアマインは、互いに強い握手を交わした後サクラノとBクラスの先生を見る。両先生は、見つめあった後それぞれの生徒の側に向かっていく。
それに合わせるかの様に2階にいた生徒全員が1階に降りる。
それぞれのクラスに分かれ、話を軽く済ませると解散と告げられる。
両クラスがそれぞれバラバラに帰っていく中で、一人だけポツンと残っていた。

「……それじゃあ、行きましょうか」

「はい」

サクラノに声をかけられて返事をするレイト。ユリィも残ろうとしたが、レイトがそれを許さず、エリオとひなと共に帰らせたのだ。
サクラノを先頭に歩き始めてから約10分後に目的地に到着する。
扉を開けて、レイトを中へと案内した後に自分も中にはいる。
部屋の中はシンプルだった。
真ん中に横に長い机とソファが置かれ、窓のすぐ側には校長が座りそうな机と椅子が置かれている。
サクラノは何も言わずにソファに座り、自然とレイトも反対側にあるソファに腰を下ろした。

「……で、話はなんですか?説教ですか?」

最初に切り出したのはレイトだった。
やる気の無さそうな声と態度でサクラノに問う。サクラノは少しの間口ごもっていたが、覚悟を決めたのか深呼吸を何回かした後に切り出した。
模擬戦中に気づいたこと。

「レイト・アルディアデ……君は、魔王様の子孫だったりする?」

「………」

サクラノの言葉に眉をピクッと反応するが、変わらぬ表情と視線で黙って続きを聞く。

「ミエハネ・ロバを助けるとき見せた表情が…昔にいた初代魔王様の見せた表情に似ていたから気になって」

サクラノの言葉を最後まで聞き終えたレイトは、頭の中で考えていた。
サクラノに事実を教えるか、だが元魔王と裏で繋がっていたとしたら?だけど、今教えなくても後々バレるかもしれないし、などと考えが頭の中を巡る。
そして最後に答えを選択してから、サクラノを見るのだが、あっ!と突然大声を出したかと思えば慌ただしく部屋の中にあるドアを開けて奥へと姿を消す。
予想外の行動にレイトはただ黙っていることしかできず、とりあえず心を落ち着かせるために深呼吸をする。
しばらくして戻ってきたときにティーカップも一緒だった。
目の前に置かれたティーカップの中身は恐らくコーヒーだろう。
レイトはティーカップが置かれるのと同時に置かれた砂糖の入った瓶の蓋を開けて、いつも通りに砂糖を入れていく。
その行動を見ていたサクラノは、その時ある昔の記憶を思い出していた。
初代魔王もコーヒーなどを飲むときには大量の砂糖を入れていたことを。

「まるで、初代魔王様みたい」

「___っ」

サクラノの言葉に動揺したレイトがビクッと反応して砂糖をポチャンと音をたてて落としてしまう。
粗から様の動揺にサクラノも、へっと間抜けた声を出す。頬に汗が流れ始める。
レイトは誤魔化そうと、スプーンで一回混ぜてから窓を見ながら一口飲む。
だが既に答えにたどり着いてしまっているサクラノは、青ざめた顔で震える声、震える指でレイトを指差しながら問うのだった。

「え、へ?ふぇ……初代魔王……様っ?」

「………そうだけど」

バレました。
とんだ失態だった。
レイトはユリィのことは黙ったまま自分が初代魔王であることを明かす。
勿論、元魔王の息子であることは隠す。
サクラノは目を点にしていたが、事実なのだから仕方がないのだ。
レイトは自分の愚かさを噛み締めるのだった。
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