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第八章…「そして新たなページへ進む」

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サクラノに元魔王だとバレた日の夜のこと。
レイトは寮の自室でユリィの前で正座をさせられていた。
理由は簡単。レイトの秘密1つ目が担任にバレたからだ。

「お前なぁ~」

「まさか砂糖でバレるなんて…くっ」

「くっじゃねーよ、下手すれば俺もバレるんだぞ!てか、どんなバレ方だよ」

砂糖でバレると言うことが他の物語で合っただろうか。
大概は、戦闘をしていてバレたり、自分からバラしたりする。
本気で悔しがるレイトにユリィは1発頭を殴る。殴られたレイトははっと息を吸い込んだ後、開き直る。
扉に向かって走るレイトの行動に嫌な予感がし、ユリィも扉に向かって走る。
取っ手を掴んだのは同時だった。
ガチャガチャと力が加わる度に取っ手が音をたてる。

「くっ……何しやがる」

「はっ……お前、何をしようとしてる」

「気づいてるんだろ?」

「おいおい、嘘だろ?」

「嘘に見えるか?」

「……見えないなぁ」

「そうか、なら諦めろ!」

「無理な答えだな…お前が諦めろよ」

取っ手を掴みながらの攻防戦。
なかなか諦めないユリィに開き直ったレイト。勝つのはどちらだろうか……などと思っていると、部屋に響いたのは、取っ手から手を離す音でも開く音でもなく、バキッという何かが壊れた音だった。
レイトとユリィは今まで騒いでいたのが嘘のように静かに自分達の手元を見る。
扉から壊れて外れた取っ手が握られている。だらだらと汗を流し始める。
そして何が始まるのかというと、だいたい予想はついていただろう……醜い擦り付けあいだ。

「嘘だろ!おま、おま、おまー!!!」

「俺は知らねーぞ!」

「ふざけんな!お前が抵抗なんてしなければこんなことにならずに済んだんだ!」

「はぁ!?お前が変なことを考えるからだろ!」

「つまり!」

「これは!」

『お前のせいだ!』

ぜぇぜぇと肩で息を吸いながら睨み合っていたが、まだまだ諦めてないレイトは窓の方を見るなり大声を出す。

「あ!サクラノだ!」

「え、嘘!」

誘導されるように、指を指された方を見るユリィにニヤリとニヤついてから取っ手の無い扉を蹴破り廊下を走って行く。ユリィもこれがレイトの罠だと瞬時に判断すると、廊下を走る後ろ姿のレイトを見て、吹っ切れるのだった。

「へへ……ここまで離れれば諦めるだろ!」

寮を出て近くにある木に隠れ、ユリィの出方を伺う。
が、木とレイトの間に光る何かが突如出現したと思えば爆発する。
レイトは爆発する寸前にその場を離脱していたために無傷なのだが、爆発した周辺が軽いクレーターがうまれる。
音もなく出現し、音もなく爆発する。
いつ、どこで現れ、爆発するかわからない。
だが、その攻撃を知っていたレイトはゆっくりと寮の出入り口から歩いてくるユリィに向かって文句を飛ばす。
勿論、姿は見せず。

「お前!人にはさんざん言っといて自分はいいのかよ!」

「……え、俺何か言ったかな?言った覚えないなぁ」

「このヤロー、吹っ切りやがったな!」

「吹っ切れるに決まってるだろうが!!このヤロー!」

レイトの言葉に苛立ちを隠さないユリィ。
再び音の無い爆発がなんれ発してレイトを襲うが、容易く交わしながら移動を開始する。レイトが移動を開始されれば、ユリィも後を追うために移動する。
二人が向かって走るのは、今回の事件を始まるきっかけにもなったサクラノの所である。
一方で、レイトとユリィがこうなっているとは知らない等の本人のサクラノは、いまだに学園の職員室で残った仕事を片付けていた。

「くっしゅん」

そして二人に呟きが戻る頃には、学園と寮の半分に当たる場所で二人は硬直状態になっていた。
ぜぇぜぇと息荒く、目の前に立つ者を互いに睨み合う。
ちなみになぜ二人がこうやって外を走ったり魔法を使っているのに誰も見たり、出歩いていないのかと言うとレイトの張った結界のお陰である。
外に出ようと考えた人物たちにはその場に止まろうという意思を強制的に生み出してはその場に立ち止まらせる。
もし、外を出歩いている人がいようとも、レイトとユリィが向かう方向又は側に来ようとした人がいれば、自然と別の方向に行くように仕込まれた結界が動く度に張り直しを繰り返しては消していっていた。
そして最終決戦が魔学園の前で開催される。決着方法は、レイトが職員室にいるサクラノに考えていることを言い始めてしまえばレイトの勝ち。そして職員室の前、廊下などでレイトを諦めさせればユリィの勝ちとなる。
職員室にいるのが、サクラノの一人だと移動しながら確認済みのレイトは深呼吸してから再び走り始める。ユリィもレイトを追って走る。

「考え直せ!」

「はぁ?負けると思って交渉か?そんなもんに応じる気などない!」

「ふざけるなぁ!」

ユリィがそう叫ぶと、周囲の空気が揺れる感じが周囲に感じさせる。
勿論レイトも例外ではないが、前世で何度もやられているうちに既に対処法が編み出されていたので、すぐにその方法で避けたのだ。その方法とは、身を魔力で囲み薄い結界を張る感じだ。
レイトはその結界を維持したまま走り始める。当たり前にユリィも追う。
職員室があるのは、5階建ての一番下の列1階の中間辺りにある。
生徒が出入りする場所から走れば5分もしないで着くほど近い。
ユリィが慌て始める。
そんなユリィを後ろで感じながら到着した職員室の扉を勢いよく開けると、中にいたサクラノは驚き、ガンと机に膝をぶつける。

「あれ、魔王様……どうなさいましたか?」

「聞いてくれ!実は勇者も転生をしていてな!」

「ギャー!」

「転生者は俺の相棒パートナーのユリィ・マルバデアなんだ!」

言いきった!レイトは達成感に胸を踊らせていると少ししてから絶望の表情をしたユリィがやって来る。
レイトから告げられたユリィの正体を聞いたサクラノは、ユリィを見るなり音も無く、一瞬で間合いを積めるとどこから出したのかわからないミニナイフをユリィの首めがけて振り下ろされるが、レイトによって防がれる。
体力の限界が近かったユリィにとっては、油断したとはいえ反応が遅れておぉと呟く。そして後でレイトにお礼を言おうと決めるのだった。

「なぜ止めるのですか?魔王様」

「俺は今魔王ではないし、ユリィこいつは俺のパートナーだ……それに今は同じ種族であり、仲間には手を出させない」

「……仲間、ですか」

「ああ、昔は種族が違えど今は同じだ」

レイトがそう言ってサクラノを睨む。
サクラノとユリィはしばし黙っていたが、恥ずかしそうにしながらユリィが口を開く。

「……あの言葉はガチだったのかよ」

「ああ、ガチだぞ」

ユリィの頭の中に再生される、入学した次の日に言われた言葉。

__俺は味方である者には手を上げない……裏切り者以外な__

確かにサクラノのミニナイフから反応できなかったユリィを守った。
ユリィは小さく笑った後、廊下に座りはぁと息を吐く。目の前にいるサクラノは、ユリィを見下す目で見つめた後レイトに笑顔で話始める。
そこでふと何かを感じたユリィは、サクラノを観察していて気づいた……いや、思い出したと言うべきだろう。

サクラノお前は……確か軍を指揮していた上位魔族じゃねーか!」

「やっと気づいたんですか?やっぱり所詮はグズ同然ですね……ふぅ、改めまして、軍の前衛を指揮しますサクラノ・ディッツペルと言います……種族は闇に飲まれた龍の種族です……以後お見知りおきを元勇者!のユリィ・マルバデアくん」

なぜか元勇者の所だけ強調して呼ばれる。ユリィはあはは…と乾いた笑い声を漏らす。

「……それにしても、サクラノは闇龍やみりゅうだったんだな……元聖龍せいりゅうだったのに」

「私は闇龍になったことを恥じてはいないわ、逆に光栄に思っています……死ぬだけだった私を魔王様は救ってくださったのですから」

嬉しそうに頬を赤く染めながら笑う。
誰もが見惚れてしまう程の美しい笑顔。
だがそれは、サクラノ彼女の戦いっぷりや本性を知らない人のみが思うこと、知っている人が見れば恐ろしくて堪らないだろう。
ユリィはチラ見でレイトを見るが、レイト本人は話を聞いてはおらず、職員室に置かれた誰かの椅子に座り眠そうにかくんかくんと首を縦に落ちては直しを繰り返していた。時刻はすでに夜の8時を回っていた。
ユリィは完全にレイトが寝落ちる前に寮に戻ろうと揺さぶり起こして手首を掴み歩き始める。

「サクラノ先生・・、俺のことレイトのことは秘密にしてください……お願いします、おやすみなさい」

それだけを言い残してレイトを連れてユリィは立ち去る。
1人職員室前の廊下に残されたサクラノは、小さくため息をした後残りの仕事を終わらせようと再び職員室に入るとき、サクラノの口元は笑っていた。


寮に戻ってきたユリィとレイト。
レイトは途中で眠ってしまい、ユリィが背負って戻ってきたのだ。
眠っているレイトを布団の中にいれる前にとゴムを取り、髪をクシでとかす。
紫がかった黒髪、部屋の電気で紫色がハッキリと見える。腰まで伸びており、邪魔じゃないのかと思いつつも布団にいれる。ユリィは一仕事を終えたと思いながらも、眠るレイトの顔を見る。
そこでふと思う。

(そういえば、レイトこいつの顔をよく見るのは今までなかったが………髪を降ろしているせいか?女に見えてくるな)

じ~と見続けること5分。
もぞもぞとレイトが動いたことにより、我に帰ったユリィは時間を確認することなく自分の布団に入って眠りに着く。
今日一日、色々あったせいか、ユリィが寝付くのは早かった。


次の日の朝。
6時のこと。
突然男子寮のユリィとレイトの部屋に騒音と言えるほどのノックがかかる。
そんな音を出されれば、部屋にいるものは誰でも起きるであろう。
例外としては眠りが深く、どんなことをしても起きない人は除く。
いち早く騒音に目が覚めたのは、ユリィだった。ユリィよりも早く寝ていたはずのレイトはいまだに眠っていた。

「はいはい、誰だよこんな朝早くから」

嫌みにぶつぶつと呟きながら部屋の扉を開け始めた時、隙間に誰かの手が入るこんでくる。
突然のことにユリィはわっ!と驚き、ドアノブから手を離す。
ちなみに壊したドアノブは、昨日のうちにレイトがユリィの魔法を避けながら直したらしい。ユリィがその事を知ったのは部屋に戻ってきてからだ。
まぁドアノブの話はこれくらいにしといて、ユリィが離したことにより扉が勢いよく開いたのと同時くらいにバキッと今度は扉と壁を繋ぐ金具が嫌な音をたてる。
その音に起きたのか、いまだに眠そうなレイトが玄関にやって来る。

「うるさいぞ、ユリィ」

「……!レイト」

「ん?なんだ、今度は扉の金具まで壊したのか?」

厭味ったらしい口調とは裏腹に表情は扉の前に立っているものを拒絶するかの様な睨みをしている。
扉の前に立っているものは、この魔学園の生徒でも況して教員でもない。
黒いマントに身を包み、顔を隠すために鬼の仮面を付けている。これでは、男なのか女なのかすらも判断できない。
そんな人物に向かってレイトは、表情変えず、体を動かさずに呟くように言う。

「__爆」

「!!」

レイトが言ったのとほぼ同時と言えるくらいに爆発が起こる。
レイトと相手の間にいたユリィは、目を見開き、口はぽかーんと開け放たれたまま固まる。

「……なぜ今」

「れ、れれれレイトォォォ!?おま、何してる?」

いかにも動揺していることがわかるくらいの焦り。そんなユリィをつまらなさそうな半目で見ながらさっきまで人がいたところを見る。そこには爆発が原因だとわかるくらいに焦げている。だが、人が焦げた後が無いということは___

「まだ、生きてるな」

「え、まだ生きてるか?よかった~、殺したのかと思った」

「……殺す気でやった」

ユリィの言葉にレイトがボソッと言い返す。ふとユリィが気づく。
あんなでかい爆発音が響いたのに誰も部屋から出てこないことに、その事に気づいてからさらに気づく。
音が漏れでないように小規模な結界が張られていることに。
それからレイトを見る。

「いつから張ってた?」

「あいつが来たときから」

「………起きてたのかよ!」

ムカつきが一瞬で限界を越えて、光魔法の爆発を起こす。
まだ結界が張ってあったことに幸運に浸るのは少し後のこと。
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