転生後、魔王は魔王の子として勇者は魔王の部下として物語は続く

夜月 雪

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第九章…「動き出す黒い影」

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ユリィとレイトだけが知る爆発事件が起きた朝の学園。
二人はいつものように登校した。
途中でエリオとひなと合流して四人で登校する。学園について早々にサクラノと会うが今までと変わらぬ笑顔で挨拶をしてくる。不思議とユリィには、その笑顔の裏に隠れる顔と言葉が脳裏に浮かぶがそれは目をそらして気づかぬフリをした。
こうして普段通りの生活を迎えた。
ただ気になることと言えば、今朝の人のこと。レイトは何も話さずに授業を静かに聞き流している。ユリィは気になりすぎて授業が頭の中に入ってこなかった。
そして昼休みを迎える。

「………ユリィどうしたの?朝からレイトを見続けて」

「何か……あった……ん、ですか?」

エリオとひなが心配して声をかけてくる。ユリィはそのときに見すぎていたことに気づく。

「俺見すぎてたな」

「どうせ今朝のことが気になってるんだろ?」

図星を突かれる。
今朝と言われてもその場にいなかったエリオとひなは当たり前に首を傾げる。
そんな二人を見てからふぅと小さく一息付いて、レイトは食べていた手を止めて箸も置く。レイトの行動の意味がわかるとエリオとひなは姿勢を良くして聞く体制を作る。ユリィは箸を置きはしなかったが手を止めて視線だけをレイトに向ける。

「今朝、俺たちの部屋にマントを着た人が1人来た……俺は奴をいや、奴等を知っているから爆発魔法を使った」

「?爆発音しなかったわよ?」

「いつもと……同じ……朝、だった」

「それは俺が結界で音が漏れでないように張ったからな……まぁそれで、奴は食らいはしたが死んでない」

「奴は一体?」

ユリィの目が鋭くなる。
レイトは一度目を瞑り、自分が初めて奴等に会ったことを思い出す。
薄暗い場所で光も通さぬ場所にゆらゆらと揺れる赤い瞳に顔を隠す黒いフード。
壁にもたれ掛かり、薄れてく意識の中で5人の姿を見たこと。
再び目を開けてから口を開いた。

「奴等は10人で組織として動く隠密部隊だ、特徴なのが10人全員が赤い瞳と白い髪を持つこと……そして全員が人を殺している」

「じゃあ、今日来たって言う1人はレイトを殺しに!?」

驚きのあまりに声がでかくなる。
教室にいた生徒の視線が集まる。
エリオはあはは……と笑いながら座り直す。それを見るなり再び教室は話し声で一杯になる。
そんなエリオにじと目で見るレイトと目が合うとごめん!って、と言いながら手で顔をおう。
そんなエリオの頭を優しく撫でるひな。
レイトは一度咳払いをした後、再び口を開いた。

「今回来たのは恐らく確認だろうな」

「確認?」

「ああ、俺が本当にこの学園にいるかのな………次は確実に殺す」

殺意のこもった言葉にエリオとひなの背筋がゾクッとなる。
ユリィは平気そうな顔で箸を再び動かしてはいたが、もやもやとした気持ちが生まれていた。そのもやもやの正体は恐らく、同情。元人間だったユリィも同族との争いに巻き込まれたことはいくつかあるが、ここまで殺気を持たれることはなかった。それが同情する理由であり、もやもやの正体。

「……まぁ、またしばらくは来ないだろうし…それに」

レイトが紡ぐ言葉を止めてなぜかエリオ、ひな、ユリィのいない外を見て深呼吸をして続きを言う。
耳まで真っ赤にさせながら。

「今のこの空間も気に入っているからな………っ」

『…………』

とても貴重な場面であった。
片手で口元を隠し、明後日の方を見ながらだが顔、耳を真っ赤にさせながら呟くように言われた言葉。
そこにいた3人は固まり、無言のままレイトを見続けた。3人の視線に耐えきれなくなったレイトは、逃げるように廊下に向かう途中で教室に入ろうとしていたダマテとミエハネにぶつかりかける。

「おっと」

「!」

「……!あ、すまない」

互いに一歩引いて衝突は回避される。
レイトも自分が悪いと思い謝罪した後、そそくさと教室を出ていく。
レイトの様子にダマテとミエハネは首を傾げる。
ユリィは後を追おうとしたが、タイミングが悪くチャイムが鳴る。

「___っ」

ユリィは追いかけたい気持ちを殺して席に戻る。
席に座ると気持ちも和らぎ、先程の追いかけたい気持ちについて自問自答する。

(なぜ追いかけたかったんだ?)

外を見て考えてみるが何も思い至らない。それがなおのこと不思議だ。

(俺は元勇者なのに…なぜあいつを気にする?)

再び考えるが、やはり何も浮かばない。
ただ少し違ったのは、疑問についての回答みたいな答えが最初に思ったこと。

(俺は……あいつを知らなすぎるから、今のあいつを知りたがっている?)

外からサクラノが立っている方へと見る。サクラノと目が合うがすぐにそらされてしまう。
恐らくだが、廊下に出たときにレイトはサクラノと会っているはずだ。
自問自答をしている間にホームルームが終わり、サクラノは教室を出ていく。
空かさずユリィは立ち上り、サクラノの後を追って廊下に出る。
廊下では、予期していたかのようにサクラノが待っていた。

「サクラノ先生、レイトは今どこにいますか?」

「……さぁね、向かって行ったのは屋上じゃないかしら」

「わかりました!ありがとうございます」

学校ではあくまで他人のフリをする。
ユリィはサクラノからレイトの行きそうな場所を教えてもらうと、その場所に向かって走っていく。
遠くの方からサクラノが廊下を走るんじゃありません!と声をかけてくるが、すでにその声すら耳にはいってはおらず走り去る。
1年教室は4階にあるため、1つの階段を上がればすぐに屋上に出る。
屋上前の扉に着いた頃、走り続けた結果息切れをする。はぁはぁと最初は荒かったが、ゆっくり深呼吸を繰り返すこと三回目で通常の呼吸に戻り、捻り型のドアノブに手を伸ばしたときだった。

「お前らは腐ってる!」

そんな声が小さく聞こえてきたのだ。
ドアのせいで多少声に違いはあるが、紛れもなくレイトの声だった。
すぐにドアを開けようとも考えたがここはあえて、聞き耳をたてることにした。その方がよかったと本能が告げていた。

「今すぐそんなことは止めろ!」

「それは無理なご相談でございます………あ、もしや今の空間が気に入っておられるのですか?」

「………ああ、そうだ」

「___ぷ、あはははは!あなた様の口からそんな言葉が聞けるなんて!昔のあなた様だったらまず出ない言葉でしたね!」

「___まれ」

「魔王様の命令しか従わない!人形同然だったあなた様が!ふふ」

「___っ、黙れよ」

ドアごしからだと、レイトが先程から何を言っているのか聞きとれないが徐々に空気が変わっていっていることがわかる。

人殺し・・・のあなた様がなぜ今その幸せそうな場所にいるのかわからない」

(?人殺し?)

誰かがそう呟き、ユリィが首を傾けたときだった。
その場にいた誰もが息をするのを忘れるほどの殺気が空気を伝って震わす。その場にいた者は死を覚悟する。
それはユリィも例外ではなく、背筋には冷汗が頬を伝う汗、震える腕。
間違いなくそれは恐怖だった。
ユリィはたまらずに屋上のドアを勢いよく開けてその場にいるはずのレイトを見た。

「___っ」

「ユ……リィ」

ユリィを見たレイトの表情は、驚いた表情でも怒りの表情でもなく、ただ苦しそうな表情だった。
そんなレイトを初めて見たユリィは自問自答の全ての答えを理解した。

(そうか……俺もあの空間が好きで、もっとレイトの事を知りたかったんだ)

「あれ?君は?何でここにいるの?」

その声が聞こえたのは、フェンスの上からだった。
そこを見ると、フェンスに座り見下ろす今朝と同じくマントを身に纏った誰か。声的には朝の奴ではなく、また別の人物で男だ。
男はユリィを見るなりクスッと笑う。

「お仲間が登場か……まぁいいか、レイト様先程話したことは紛れもなく事実ですよ」

「?」

「…………」

「博士は彼女・・を欲している、そして彼女よりもあなた様のことを欲している」

それだけを言うとフェンスから飛び降りる。ユリィはすぐにフェンスに駆け寄り、男を探すが既にその場には男の姿は見えなかった。

「レイト、今あいつが言っていたことは?」

ユリィがそう問いかけるが、レイトは何も答えずにその場に立ちすくんだまま。
ポツポツと雨が降り始める。
このまま屋上ここにいるとずぶ濡れになると判断したユリィはレイトの手首をとって学校内に避難する。
チャイムが鳴る。一時間目が始まる合図。これが初めての欠席だった。
チャイムが鳴ってから5分間、何も言わず、聞かず、ただずっと離れずに側にいるユリィ。
チャイムが鳴ってから10分が経過したとき、レイトがやっと口を開く。その声は今にも消えてしまいそうに泣いているかのように囁かれるものであった。

「小さい頃、父の命令で同族を15人ほど殺したことがある……。その時はまだ記憶が定着していなくて、ただ父の命令に従っていた」

「………」

レイトが語り始めた自身の過去。
それはとても苦しく、悲しい過去であった。ユリィは口を挟むことなく静かに耳を傾ける。ただレイトのことを知りたいの一心で。

「初めて同族を殺してから4日ほどたった頃に記憶が定着した……。膨大な記憶で頭がおかしくなりかけた……。
 けど何より俺をおかしくしたのは、同族を殺したことだった」

自分の両手の平を見ながら恐怖で震え始める。よく見るとうっすらと涙も浮かんでいた。

「5歳になった頃、また父からの命令が下された……。また、同族殺しだった……。
 今でもあいつらの悲鳴や言葉を覚えてる、耳に残ってるっ」

ポロポロとこぼれる涙。
ユリィは何もせずにただ見つめていた。

「“助けて”“痛い”“苦しい”“殺さないで”……。俺が躊躇したら焼け殺されて苦しい思いをさせるくらいなら自分の手で楽にいかせてやりたかった……。だから俺は何度も何度も殺してきた」

「それは、同族だけか?それとも人間も」

「ああ、殺した」

レイトが語り始めてから初めてユリィが口を開いた。
そんなユリィの言葉を肯定しながらも、レイトは一旦落ち着くために深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから再び口を開く。既にチャイムが鳴ってから15分が経過していた。

「その事がきっかけで俺の心が壊れていった……何度も何度も魔王の命令で魔王に逆らうものを殺してきた。その度に俺の心は壊れていきついには何も感じず、思わないようになっていった」

この世界で転生した後のレイトの生きてきた道はとても苦しくて刺があった。
ユリィは一度、自分が転生した後の暮らしを思い出してみると雲泥の差があったことを今この場で知る。

「7歳になった頃、ある奴と知り合ったんだ……。そいつは元気があって、いつも俺に話をかけてきた」

その時、レイトが話始めてから初めて微笑みを見せる。

「あいつは俺と同じ異端者だった……。エリオは瞳だったがあいつは髪だった、俺はあいつが話しかけてくる度に避けていたんだ……。
 けどある時あいつは俺を助けてくれた、その時から軽く会話を交わすようになった。
 それと同時期に博士と名乗る男が姿を表した」

「博士!?」

博士という言葉にユリィは先程までいた男とレイトの会話を思い出す。
__博士は彼女を欲している、そして彼女よりもあなた様のことを欲している__

「ああ、博士は異端者の研究をしていた……勿論初めて会って聞かされたときは警戒したけど、あいつが大丈夫だと言うからそれを信じた……けど、その結果あいつは死んだ」

怒りのこもった言葉。
ユリィは何があったのか軽く想像できたが静かに聞いた。

「あいつは博士の実験体にされた……。最初は何があったのか話してくれた、けど日に日に口数は減って笑わなくなった……。
 何より変わったことは博士の実験に付き合う日になる度に暴れるようになった事。俺には恐怖に支配されているようにしか見えなかった。
そして博士はある事に手を付けた」

ごくりと唾を飲む。
レイトはまだ降り続ける雨を見つめながら、どこか遠くを見つめながら呟くように口を開く。

「博士は禁忌・・に触れた」

「禁忌?」

「博士が触れた禁忌はもっとも恐ろしいものだ……。かつて俺は力を暴走させて周辺降り飛ばした。
 それ以来“異端者を力の暴走させるまで追い込まない”ことを義務付けられ、2400年たった今では異端者に眠る力に触れることは禁忌として扱われている」

「それだと、エリオも何らかの力が眠っていることになる……レイト、お前もそうなのか?」

「………そうなるな、エリオはまだ気づいていないから引き出すことは無理だ」

ユリィの問いに素直に答えるレイト。
前世も今も異端者であるレイトは、力を引き出す方法は知っていそうだがそうしないのはまた別の事情なのだろうかと思いつつレイトの言葉に耳を傾ける。

「博士は無理矢理その力を引き出そうとあらゆる手を尽くした…誘惑・拷問・暗示……その他にも色々試したけど結局引き出せなかった博士はある薬を使った……。
1回打たれただけでも即死するほどの薬を、博士の考えは死に対する恐怖で引き出せるのではと考えてそれを行った……その考えは的中した」

雨がいっそう激しくなっていく。
耳に入るザーッと強く降る音。
ユリィも気づけば外を見ながらレイトの話を聞いていた。
再びレイトの顔を見ると、今まで見てこれなかった涙を一粒流していた。
その事に気づいてないレイトは話続けた。

「博士は大いに喜んだ…けど問題が発生した。暴走した力の制御ができなかったんだ……。
 博士の実験を影で協力していた魔王は俺を向かわせた。理由はわかりきっていた……俺は大切だったあいつをこの手で殺したんだ。暴走は止まったのと同時に実験も中止になった……。実験体がいなくなったことが中止の原因だ……。
 それから数年、博士は見つけてしまった」

「新たな実験体にできる、異端者のエリオを」

レイトの言葉に続けるようにユリィが口にする。
ここまで来てやっとレイトとあの男の会話が見えた。博士は実験の続きをするためにエリオを欲している。
もし、連れていかれれば話に出てきたあいつという人物と同じ結末を迎える可能性がある。
ユリィが頭の中で整理し終わるが、一向に口を開くことも動こうとする仕草もしないしないレイトが目にはいる。
重い空気の中に一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
ユリィは立ち上りレイトの手を取り、少し気になったことを質問する。

「……話に出てきたあいつの名前は?」

「………………………レト…レト・ロラナベア」

しばらくの沈黙から小さく、小さく呟かれた名前。
レイトの頬に何粒の涙が流れ始める。
レイトにとっての恐らくは一番辛い記憶なのだろう。
ユリィはレイトの手を強く握り、あいつの名前を口にしながらふっと笑いかけた。
その笑みにレイトは何かを感じ、すぐに涙を拭って立ち上り、いつもの調子でふんと言ってそっぽを向く。ふと小さくあいつ、と付け足すように呟く。

レトあいつは……ひなみたいな角で右の角は砕かれて少ししか残ってない……髪は紫で瞳は澄んだ青だった」

「へ~、以外と可愛い外見に性格だな」

想像しながらユリィがそう呟く。
レイトは頬を赤くしながら階段を下りていく。ユリィは少し離れた距離で着いていく。自分達の教室の前まで来るとユリィの方を振り向いて口を開く。

「エリオに博士のことを話す……けど、あいつのことを伏せて簡単に博士の事を言う……それと俺の小さい頃の話を誰にもするなよ」

それだけを一方的に伝えると、教室の扉を開けて中に入っていく。
その背中をユリィは無言で見つめながら、やれやれと内心で思いつつ教室に入る。
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