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第十二章…「困惑と戦い」
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レイトとエリオが捕まってからのユリィとひなは、とりあえず担任であるサクラノに報告したのち、男子寮と女子寮の間にあるベンチに座り今後のことを話し合っている。
「今夜、二人が連れていかれた場所に向かう」
「でも……場所が………わからない」
ひなの質問ももっともなのだが、ユリィはそこは心配してなかった。
理由はすぐにわかった。
ユリィは自分の首に付けられた黒いチョーカーを軽く叩く。
「俺のチョーカーはレイトが少し改良したやつでな、もしものためにって2つの機能があるらしい」
「?」
「1つはレイトと俺、互いの居場所がわかるようにされているらしいのと……2つは俺も聞いてはないんだけど、1つ目の機能を使えば」
「エリオとレイトの居場所がわかる!」
珍しくひなが興奮気味に言葉を発する。
その様子に少し驚きつつもユリィは頷く。
「今日夜、この場所に集合……できるだけ黒っぽいものを羽織って来てくれ」
「わかり……ました!」
ユリィの言葉に力強く頷いた。
それから二人はすぐに別れた。
ひなと別れて自分の部屋に戻ろうとしたユリィに部屋から出てきたダマテが声をかけた。
「少しいいか?」
「どうした?」
「いや、あの二人を助けに行くのはいいが前衛一人に後衛一人だとキツいだろ?だから、ミエハネを連れていけ」
ダマテの言葉の後に部屋から出てきたミエハネと目が合う。
ユリィは少し考える仕草をする。
確かにダマテの言う通りで、前衛一人だと色々とキツイ。けどそれは普通の前衛ならの話だ。
ユリィも前衛だが、他と比べると普通とは言えないレベルだ。だが、もしものことを考えてユリィはダマテの申し出を受けとることにする。
「わかった、ミエハネは連れていくよ……こっちも一応サクラノ先生には伝えてあるから明日会えば察してくれるはずだ」
「了解だ、ミエハネ……気をつけろよ」
ダマテの言葉にこくりと頷く。
それを見届けたダマテは部屋に戻る。
廊下に残ったユリィとミエハネは、言葉を交わさずに部屋にあげてひなに伝えたことをミエハネにも伝えた。
辺りが真っ暗になり、誰もが寝静まった頃に男子寮と女子寮の間にあるベンチに人影が3つ。
黒いマントを身に纏わせ、外の暗闇に溶け込んでいる。
「じゃあ、行くぞ」
ユリィが声をかけるとひなとミエハネは黙って頷く。
トントンと軽く叩くとチョーカーはピピッと少し高めの音をたてる。
すると知らない道や場所がユリィの頭に記憶される。
それからはチョーカーは音をたてなくなる。
「よし、場所がわかったから行くぞ」
ユリィの言葉にひなとミエハネは静かに頷く。
魔学園の門から出ると少し肌寒く感じるが、三人はお構いなしに音をたてずに走り始めた。
太陽が顔を覗かせる頃、三人は森の中で休憩していた。
休憩を始めてから30分になる頃にユリィは立ち上がる。
「さて、進むか」
「了解」
ユリィの言葉に短く返事をするミエハネに静かに頷くひな。
三人は出発してからまだ一度も睡眠をとってはおらず、ミエハネは少し眠そうにしているが問題はなさそうだ。
再び走り始めてからそれは現れた。
黒いマントを身に纏い、フードを深く被ったそれは赤い瞳が光って見える。
「これ以上進むな」
「無理だ」
「…………………そうか」
長い沈黙の後にその言葉だけを残して姿を消す。気配などが無いことから完全に消えている。
それにしても謎であった。
普通ならば、主を守ろうと必死になったり危険分子だと判断されれば殺すといった行動をとるはずなのだが、先程の奴はあっさりと消えた。
危険分子だと判断されなかったとか?
いや、それはないかとユリィは軽く顔を振る。
なら、何で引き下がったんだ?
「今のって……」
「博士の部下みたいな奴等さ……レイトの話だとあんな奴みたいなのが10人、髪は白で赤目、全員が人殺しらしい」
「人殺しなら危険分子の判別は簡単なはずだ……じゃああいつは何で」
ミエハネもユリィと同じ疑問を抱く。
わかっていることは、その疑問解消にはもう一度奴と会うことだが、判別の仕方がわからない。それと、今は進むことしかできないことがわかっている。
ユリィがひなとミエハネ、それぞれに視線を向けるてから行くかと言って再び走り始める。
向かい始めてから初めての夜を迎える。
三人は火を囲いながらマントを毛布代わりにしている。
ご飯を済ませ、今後のことも話終わり、後は寝るだけなのに誰も寝転がらないし寝てもいない。
バチッと音を鳴らす火。
ひなはかくんかくんと何度か頭を頷かせてははっとして顔を横に振る。
「ひな…無理しないで寝ていいぞ」
「すみ……ません」
ひなはそう返すと横になる。
寝息はすぐに聞こえてきた。
相当疲れていたらしい。まぁ確かに休憩は少し取りながらといっても、長時間の休憩は無かったから仕方がない。
ミエハネもうとうとし始める。
「ミエハネも寝ろ」
「でも……ユリィが寝れないんじゃ」
「俺は何日も寝ないで過ごせる」
「そうなの?………わかった、おやすみ」
ミエハネも横になるとすぐに寝息が聞こえる。一人になったユリィは空を見上げた。雲がない空。星がよく見える空。
今レイトがいる場所は、空が見えない。
星も見えない。
そっと目を瞑る。何となくでふり返ってみる。
転生する前のこと。
転生した後のことを。
そして考えた。
これからの先のこと。
未来のことを。
これからもレイトのこと知り、隣で笑っていられるか。
「転生した後の方が……楽しいって思うなんてな」
ボソッと呟く。
二人は眠ている。時々、バチッと火の粉が舞う。
そっと目を開けて回りを見渡すがあいつはいない、ふっと微かに笑う。
夜は始まったばかりである。
太陽が顔を覗かせる頃、二人は目を覚まして準備をしていた。だがそこにはひなとミエハネの姿しかなく、ユリィの姿はなかった。
二人が起きる少し前に水浴びをしに行っていたからだ。一応、“水浴びしてくる”と地面に書き置きしたので少しゆっくりと浴びているのであった。
「よく眠れた?」
「はい……」
会話が終わる。
ミエハネは気まずくなる。
少し落ち着きがなくなる。
早くユリィ戻ってきてと何度か願っている。そして何度目かは忘れた願いが聞いたのか、ガサガサと草をどけながらユリィが戻ってくる。
ユリィの髪はまだ少し濡れていて、水滴がポタポタと落ちている。
「髪、ちゃんと拭けよ?」
「え、あ、忘れてた……いつもあいつが拭きたがるからなぁ」
「わかる……私…も………エリオが、いないと………拭くのも……忘れる」
ユリィに共感するひな。
二人の言葉にえっと小さく呟くミエハネ。それでも構わないとひなとユリィは少し話続け、再び走り始めたのはユリィが戻ってきて15分くらいが経った頃だった。
再び走り始めてから三時間程経つ頃に異変は起きた。
ひなとミエハネの前を走っていたユリィの足が突然と止まり、しゃがみ込むユリィにそっと近寄り覗いてみると胸を手でぎゅっと掴んでいた。
今現在ユリィを襲っているのは、転生前、子供の時に感じたのと同じ何かが起こる前触れを感じとるような不思議な感覚であり、ひどく苦しい。
それを感じたときの転生前ではその次の日にユリィが住んでいた町の近くに大きな穴が開いたと言う。その町には姉が何かを売りに出しに行っていたが巻き込まれて死んでいる。
今回も何かが起こる可能性がある。
ユリィは前を向いて急ごうと言ってからは何も喋らなくなる。
走り始めてからの二日目の夜にレイトとエリオがいるはずの建物に着く。
外見は普通の四角い建物だ。
慎重に近づき、裏口と思われるドアから中にはいる。
廊下は明るく真っ白だ。
ドアも同化しており、パッと見どこにドアがあるのかわからないくらいにヤバイ。そんな真っ白な廊下に黒いマントを身に纏わせる三人組。
慎重に慎重に廊下を進む。ドアに耳を当てて中に人がいるかを確認しながら。
人はいなかった。1階には。三人は互いに見あった後、下に続く階段を見つめる。壁には地下2階とパネルが張られている。
先に階段を降り始めたのはユリィだ。その後に続くひなとミエハネ。なるべく壁に背中をつけながら進む。
2階に着くと廊下には黒いマントを身に纏った誰かが立っていた。そいつはユリィでもひなでもミエハネでもない。つまりは博士の部下の一人だろう。
「___止めてくれ」
そいつはそう呟く。
その声はすがるようだった。
三人は困惑する。当たり前だ。レイトの話から聞いていた人殺しとは思えないほどに弱々しく土下座をしている目の前の奴。だが、奴は必死だ。
「頼む!博士を、博士を止めてくれ!」
「………何で止めたがる?お前は博士の部下じゃないのか?」
ユリィがそう問うと奴は答えようと軽く息を____吸えなかった。
正確に言うならば、吸えなくなった。
なぜなら、奴の首が体と離れたからだ。誰かに切られたのだ。
ユリィとひな、ミエハネは一瞬で警戒する。そして曲がり角があるらしい場所から黒いマントを身に纏った誰かが歩いてくる。奴の遺体の前まで来ると、そいつは奴を踏みつけながらフードを取る。
ツンツンと跳ねた少し長い白い髪に少し揺れるだけ赤い瞳の残像のように見える。
「あれれ?久しぶりだね」
奴は馴れ馴れしく声をかけてくるが、三人は首を傾げる。
記憶ない。いつ、どこで、会ったのか。
その事を察した奴はくくくっと笑う。
「屋上でレイト様と話していたではありませんか」
「!お前」
奴がいった言葉をきっかけに思い出したユリィは、警戒心をさらに強める。
奴はペコッとお辞儀してから口を開く。
「名乗って無かったですね、私は博士の隠密武隊隊長のローゼリスといいます
……あ、もし増援を気にしているのでしたらご安心ください」
ローゼリスと名乗った奴は、マントの内から何かを取り出すと三人の前に投げる。コロコロと転がってきたのは、血に濡れた目玉だった。
ひなは小さくひっと小さく悲鳴をあげ、ミエハネは言葉なくその目玉を凝視している。ユリィはローゼリスを睨み付ける。ローゼリスは笑いつつも歩み寄ってきた。
「あーいやだいやだ」
「___お前、仲間を殺したのか?」
「仲間?何を言っているのですか?そいつらは仲間ではなく裏切り者ですよ?」
ローゼリスの言葉で我慢ができずに飛び出したのは珍しくひなだった。
ひなは人が変わったかのように攻め始める。
「お前みたいな奴が!仲間と言うな!【風の刃】!」
『へっ』
突然のひなの変わりようについて行けなかったユリィとミエハネは抜けた声を発する。目は点になっている。
後衛であるはずのひなが前衛であるかのように魔法で攻めまくる。
基本的、短い魔法しか現在使ってはいない。ローゼリスは楽しそうにニヤけながらひなの攻撃を交わす。
ユリィは顔を横に振り、出遅れたが腰にぶら下げていた剣の鞘に手を添えながら走る。ローゼリスの後ろをとるのと同時に剣を抜き首めがけて振る。
「おっと危ない」
ふざけているようにローゼリスはひょいと遊んでいるように交わす。
チッと軽く舌打ちをしながら無理の体制で追撃をするが、それもひょいと交わされる。それを待っていたと言うようにミエハネが刀を振る。
だがしかし、やはり交わされてしまう。
それでも構わないと言う風にミエハネは体制を変えないまま鞘を抜いてローゼリスに向かって振る。それに合わせてユリィも剣を振る。
「はぁ!」
「はっ!」
「おっと」
始めてローゼリスがマントの内側に隠されていた短剣を抜いた。
さすがに交わせないと判断したのか、余裕だがわざと抜いていけると思わせたかったのかは定かではないが、ローゼリスが短剣を抜いた事実は変わらない。
少しタイミングをずらしていたひなが走りながら魔法をくり出す。
「【エクスプロージョン】!」
魔法の名を呼ぶと魔方陣が出現し、光始めたことに気づいたときには遅い。
凄まじい爆音と爆風。そして余波で当たる熱は半端ないくらいに熱かった。
この魔法ならば多少ならば傷がついたらしく、ローゼリスのマントは溶けてなくなり着ていた服が所々穴が開いている。それ以外におった傷などはなかった。
ローゼリスが姿勢を低くして攻めようとしたとき、少し体をピクッと反応すると普通の姿勢に戻るのと同時に後退する。
三人は後を追わずに一息付く。
床や壁、天井が先程のひなの魔法で焦げて黒くなっている。
落ち着いてくると三人は警戒しながら再び散策し始める。
建物に入ってから30分くらいは経っただろうか。時間感覚が失われつつあるなかでユリィにはひどくもやついた何かが強くなっていった。
さらに20分が過ぎた頃、三人はようやく見つけた。
レイトとエリオを。
けれど、二人の様子は明らかにおかしくすぐ側には誰かがいることが黒い影でわかる。ユリィは慌てず、ゆっくりと室内に入り二人も後に続く。
コポコポと水槽の中で空気が音をたてて上がっていく。レイト、エリオそして影はその前にいる。ピクッと動いたエリオは、ゆっくりと顔を上げる。
「………数秒後、敵三人がこちらに向かってきます」
呟くように言うエリオの言葉に影はうんうんと頷きながら前に出た。
前に出たことにより、姿が見える。
白衣を着た男。
「あいつが博士か?」
「あいつを殺ればエリオをたすけられるんだったら、すぐに殺る!」
「え、ちょ!ひな!?……たくもー」
ユリィの制止を聞かずに飛び出すひなに続いてユリィとミエハネも飛び出して走る。博士の守りはなく、容易く殺れると考えてひなは隠し持っていたナイフで博士の首をかっ切ろうとしたが突然博士の前に飛び出してきた何者かの手によって阻まわれる。
止めた奴の姿にひなはひゅっと息を吸うがそれ以外何も発せずに飛び退いた。
ひなが飛び退いた瞬間にユリィとミエハネも奴の姿が見えるようになるが息を飲んだ。
「良くやった」
博士が労う。
「何……で……っ」
ひなが戸惑う。
「どうして?!エリオ!」
そう。今三人の目の前にいるのは博士を庇うように立っているエリオ。
レイトはいまだに動こうとはしない。
ひなは震えて、普段通りに戻っている。ミエハネもまさかの展開に言葉を失っていた。少しだけ続く沈黙を破る博士がどこかに隠れていた奴の名前を呼ぶ。
「来い……レト」
呼ばれたレトは闇の中から姿を表すと博士の前でしゃがみこんだ。
ユリィはそいつの姿と名前を聞いてレイトの話に出てきたレトだと判断する。
レトは博士から渡された注射器を持ってレイトに近づいていく。
ピクッと動いたレイトは顔を上げて目の前に立っているレトを見つめる。
レイトの瞳には光がなかった。
レトはポケットから横長の布を取り出すとそれをレイトに付け、目隠しをする。レイトは抵抗しようとしない、付け終わるとそのまま注射器を首元に刺す。
「___っ」
「さぁレイト……一緒に暴れよ?」
レトがそう呟くのをユリィは聞いた。
レイトの様子は注射器を打たれてからは俯いている。
レトは振り向き様にユリィに目を向ける。目が合う。
不適な笑みを浮かべて、まるで挑発している。ミエハネはひなとユリィを見つつも博士を見た。
博士は両手を広げて楽しげに告げた。
「さぁ!楽しいサーカスの幕開けだ!」
それを合図にその建物は、悲しみと戸惑いの戦いが始まった。
「今夜、二人が連れていかれた場所に向かう」
「でも……場所が………わからない」
ひなの質問ももっともなのだが、ユリィはそこは心配してなかった。
理由はすぐにわかった。
ユリィは自分の首に付けられた黒いチョーカーを軽く叩く。
「俺のチョーカーはレイトが少し改良したやつでな、もしものためにって2つの機能があるらしい」
「?」
「1つはレイトと俺、互いの居場所がわかるようにされているらしいのと……2つは俺も聞いてはないんだけど、1つ目の機能を使えば」
「エリオとレイトの居場所がわかる!」
珍しくひなが興奮気味に言葉を発する。
その様子に少し驚きつつもユリィは頷く。
「今日夜、この場所に集合……できるだけ黒っぽいものを羽織って来てくれ」
「わかり……ました!」
ユリィの言葉に力強く頷いた。
それから二人はすぐに別れた。
ひなと別れて自分の部屋に戻ろうとしたユリィに部屋から出てきたダマテが声をかけた。
「少しいいか?」
「どうした?」
「いや、あの二人を助けに行くのはいいが前衛一人に後衛一人だとキツいだろ?だから、ミエハネを連れていけ」
ダマテの言葉の後に部屋から出てきたミエハネと目が合う。
ユリィは少し考える仕草をする。
確かにダマテの言う通りで、前衛一人だと色々とキツイ。けどそれは普通の前衛ならの話だ。
ユリィも前衛だが、他と比べると普通とは言えないレベルだ。だが、もしものことを考えてユリィはダマテの申し出を受けとることにする。
「わかった、ミエハネは連れていくよ……こっちも一応サクラノ先生には伝えてあるから明日会えば察してくれるはずだ」
「了解だ、ミエハネ……気をつけろよ」
ダマテの言葉にこくりと頷く。
それを見届けたダマテは部屋に戻る。
廊下に残ったユリィとミエハネは、言葉を交わさずに部屋にあげてひなに伝えたことをミエハネにも伝えた。
辺りが真っ暗になり、誰もが寝静まった頃に男子寮と女子寮の間にあるベンチに人影が3つ。
黒いマントを身に纏わせ、外の暗闇に溶け込んでいる。
「じゃあ、行くぞ」
ユリィが声をかけるとひなとミエハネは黙って頷く。
トントンと軽く叩くとチョーカーはピピッと少し高めの音をたてる。
すると知らない道や場所がユリィの頭に記憶される。
それからはチョーカーは音をたてなくなる。
「よし、場所がわかったから行くぞ」
ユリィの言葉にひなとミエハネは静かに頷く。
魔学園の門から出ると少し肌寒く感じるが、三人はお構いなしに音をたてずに走り始めた。
太陽が顔を覗かせる頃、三人は森の中で休憩していた。
休憩を始めてから30分になる頃にユリィは立ち上がる。
「さて、進むか」
「了解」
ユリィの言葉に短く返事をするミエハネに静かに頷くひな。
三人は出発してからまだ一度も睡眠をとってはおらず、ミエハネは少し眠そうにしているが問題はなさそうだ。
再び走り始めてからそれは現れた。
黒いマントを身に纏い、フードを深く被ったそれは赤い瞳が光って見える。
「これ以上進むな」
「無理だ」
「…………………そうか」
長い沈黙の後にその言葉だけを残して姿を消す。気配などが無いことから完全に消えている。
それにしても謎であった。
普通ならば、主を守ろうと必死になったり危険分子だと判断されれば殺すといった行動をとるはずなのだが、先程の奴はあっさりと消えた。
危険分子だと判断されなかったとか?
いや、それはないかとユリィは軽く顔を振る。
なら、何で引き下がったんだ?
「今のって……」
「博士の部下みたいな奴等さ……レイトの話だとあんな奴みたいなのが10人、髪は白で赤目、全員が人殺しらしい」
「人殺しなら危険分子の判別は簡単なはずだ……じゃああいつは何で」
ミエハネもユリィと同じ疑問を抱く。
わかっていることは、その疑問解消にはもう一度奴と会うことだが、判別の仕方がわからない。それと、今は進むことしかできないことがわかっている。
ユリィがひなとミエハネ、それぞれに視線を向けるてから行くかと言って再び走り始める。
向かい始めてから初めての夜を迎える。
三人は火を囲いながらマントを毛布代わりにしている。
ご飯を済ませ、今後のことも話終わり、後は寝るだけなのに誰も寝転がらないし寝てもいない。
バチッと音を鳴らす火。
ひなはかくんかくんと何度か頭を頷かせてははっとして顔を横に振る。
「ひな…無理しないで寝ていいぞ」
「すみ……ません」
ひなはそう返すと横になる。
寝息はすぐに聞こえてきた。
相当疲れていたらしい。まぁ確かに休憩は少し取りながらといっても、長時間の休憩は無かったから仕方がない。
ミエハネもうとうとし始める。
「ミエハネも寝ろ」
「でも……ユリィが寝れないんじゃ」
「俺は何日も寝ないで過ごせる」
「そうなの?………わかった、おやすみ」
ミエハネも横になるとすぐに寝息が聞こえる。一人になったユリィは空を見上げた。雲がない空。星がよく見える空。
今レイトがいる場所は、空が見えない。
星も見えない。
そっと目を瞑る。何となくでふり返ってみる。
転生する前のこと。
転生した後のことを。
そして考えた。
これからの先のこと。
未来のことを。
これからもレイトのこと知り、隣で笑っていられるか。
「転生した後の方が……楽しいって思うなんてな」
ボソッと呟く。
二人は眠ている。時々、バチッと火の粉が舞う。
そっと目を開けて回りを見渡すがあいつはいない、ふっと微かに笑う。
夜は始まったばかりである。
太陽が顔を覗かせる頃、二人は目を覚まして準備をしていた。だがそこにはひなとミエハネの姿しかなく、ユリィの姿はなかった。
二人が起きる少し前に水浴びをしに行っていたからだ。一応、“水浴びしてくる”と地面に書き置きしたので少しゆっくりと浴びているのであった。
「よく眠れた?」
「はい……」
会話が終わる。
ミエハネは気まずくなる。
少し落ち着きがなくなる。
早くユリィ戻ってきてと何度か願っている。そして何度目かは忘れた願いが聞いたのか、ガサガサと草をどけながらユリィが戻ってくる。
ユリィの髪はまだ少し濡れていて、水滴がポタポタと落ちている。
「髪、ちゃんと拭けよ?」
「え、あ、忘れてた……いつもあいつが拭きたがるからなぁ」
「わかる……私…も………エリオが、いないと………拭くのも……忘れる」
ユリィに共感するひな。
二人の言葉にえっと小さく呟くミエハネ。それでも構わないとひなとユリィは少し話続け、再び走り始めたのはユリィが戻ってきて15分くらいが経った頃だった。
再び走り始めてから三時間程経つ頃に異変は起きた。
ひなとミエハネの前を走っていたユリィの足が突然と止まり、しゃがみ込むユリィにそっと近寄り覗いてみると胸を手でぎゅっと掴んでいた。
今現在ユリィを襲っているのは、転生前、子供の時に感じたのと同じ何かが起こる前触れを感じとるような不思議な感覚であり、ひどく苦しい。
それを感じたときの転生前ではその次の日にユリィが住んでいた町の近くに大きな穴が開いたと言う。その町には姉が何かを売りに出しに行っていたが巻き込まれて死んでいる。
今回も何かが起こる可能性がある。
ユリィは前を向いて急ごうと言ってからは何も喋らなくなる。
走り始めてからの二日目の夜にレイトとエリオがいるはずの建物に着く。
外見は普通の四角い建物だ。
慎重に近づき、裏口と思われるドアから中にはいる。
廊下は明るく真っ白だ。
ドアも同化しており、パッと見どこにドアがあるのかわからないくらいにヤバイ。そんな真っ白な廊下に黒いマントを身に纏わせる三人組。
慎重に慎重に廊下を進む。ドアに耳を当てて中に人がいるかを確認しながら。
人はいなかった。1階には。三人は互いに見あった後、下に続く階段を見つめる。壁には地下2階とパネルが張られている。
先に階段を降り始めたのはユリィだ。その後に続くひなとミエハネ。なるべく壁に背中をつけながら進む。
2階に着くと廊下には黒いマントを身に纏った誰かが立っていた。そいつはユリィでもひなでもミエハネでもない。つまりは博士の部下の一人だろう。
「___止めてくれ」
そいつはそう呟く。
その声はすがるようだった。
三人は困惑する。当たり前だ。レイトの話から聞いていた人殺しとは思えないほどに弱々しく土下座をしている目の前の奴。だが、奴は必死だ。
「頼む!博士を、博士を止めてくれ!」
「………何で止めたがる?お前は博士の部下じゃないのか?」
ユリィがそう問うと奴は答えようと軽く息を____吸えなかった。
正確に言うならば、吸えなくなった。
なぜなら、奴の首が体と離れたからだ。誰かに切られたのだ。
ユリィとひな、ミエハネは一瞬で警戒する。そして曲がり角があるらしい場所から黒いマントを身に纏った誰かが歩いてくる。奴の遺体の前まで来ると、そいつは奴を踏みつけながらフードを取る。
ツンツンと跳ねた少し長い白い髪に少し揺れるだけ赤い瞳の残像のように見える。
「あれれ?久しぶりだね」
奴は馴れ馴れしく声をかけてくるが、三人は首を傾げる。
記憶ない。いつ、どこで、会ったのか。
その事を察した奴はくくくっと笑う。
「屋上でレイト様と話していたではありませんか」
「!お前」
奴がいった言葉をきっかけに思い出したユリィは、警戒心をさらに強める。
奴はペコッとお辞儀してから口を開く。
「名乗って無かったですね、私は博士の隠密武隊隊長のローゼリスといいます
……あ、もし増援を気にしているのでしたらご安心ください」
ローゼリスと名乗った奴は、マントの内から何かを取り出すと三人の前に投げる。コロコロと転がってきたのは、血に濡れた目玉だった。
ひなは小さくひっと小さく悲鳴をあげ、ミエハネは言葉なくその目玉を凝視している。ユリィはローゼリスを睨み付ける。ローゼリスは笑いつつも歩み寄ってきた。
「あーいやだいやだ」
「___お前、仲間を殺したのか?」
「仲間?何を言っているのですか?そいつらは仲間ではなく裏切り者ですよ?」
ローゼリスの言葉で我慢ができずに飛び出したのは珍しくひなだった。
ひなは人が変わったかのように攻め始める。
「お前みたいな奴が!仲間と言うな!【風の刃】!」
『へっ』
突然のひなの変わりようについて行けなかったユリィとミエハネは抜けた声を発する。目は点になっている。
後衛であるはずのひなが前衛であるかのように魔法で攻めまくる。
基本的、短い魔法しか現在使ってはいない。ローゼリスは楽しそうにニヤけながらひなの攻撃を交わす。
ユリィは顔を横に振り、出遅れたが腰にぶら下げていた剣の鞘に手を添えながら走る。ローゼリスの後ろをとるのと同時に剣を抜き首めがけて振る。
「おっと危ない」
ふざけているようにローゼリスはひょいと遊んでいるように交わす。
チッと軽く舌打ちをしながら無理の体制で追撃をするが、それもひょいと交わされる。それを待っていたと言うようにミエハネが刀を振る。
だがしかし、やはり交わされてしまう。
それでも構わないと言う風にミエハネは体制を変えないまま鞘を抜いてローゼリスに向かって振る。それに合わせてユリィも剣を振る。
「はぁ!」
「はっ!」
「おっと」
始めてローゼリスがマントの内側に隠されていた短剣を抜いた。
さすがに交わせないと判断したのか、余裕だがわざと抜いていけると思わせたかったのかは定かではないが、ローゼリスが短剣を抜いた事実は変わらない。
少しタイミングをずらしていたひなが走りながら魔法をくり出す。
「【エクスプロージョン】!」
魔法の名を呼ぶと魔方陣が出現し、光始めたことに気づいたときには遅い。
凄まじい爆音と爆風。そして余波で当たる熱は半端ないくらいに熱かった。
この魔法ならば多少ならば傷がついたらしく、ローゼリスのマントは溶けてなくなり着ていた服が所々穴が開いている。それ以外におった傷などはなかった。
ローゼリスが姿勢を低くして攻めようとしたとき、少し体をピクッと反応すると普通の姿勢に戻るのと同時に後退する。
三人は後を追わずに一息付く。
床や壁、天井が先程のひなの魔法で焦げて黒くなっている。
落ち着いてくると三人は警戒しながら再び散策し始める。
建物に入ってから30分くらいは経っただろうか。時間感覚が失われつつあるなかでユリィにはひどくもやついた何かが強くなっていった。
さらに20分が過ぎた頃、三人はようやく見つけた。
レイトとエリオを。
けれど、二人の様子は明らかにおかしくすぐ側には誰かがいることが黒い影でわかる。ユリィは慌てず、ゆっくりと室内に入り二人も後に続く。
コポコポと水槽の中で空気が音をたてて上がっていく。レイト、エリオそして影はその前にいる。ピクッと動いたエリオは、ゆっくりと顔を上げる。
「………数秒後、敵三人がこちらに向かってきます」
呟くように言うエリオの言葉に影はうんうんと頷きながら前に出た。
前に出たことにより、姿が見える。
白衣を着た男。
「あいつが博士か?」
「あいつを殺ればエリオをたすけられるんだったら、すぐに殺る!」
「え、ちょ!ひな!?……たくもー」
ユリィの制止を聞かずに飛び出すひなに続いてユリィとミエハネも飛び出して走る。博士の守りはなく、容易く殺れると考えてひなは隠し持っていたナイフで博士の首をかっ切ろうとしたが突然博士の前に飛び出してきた何者かの手によって阻まわれる。
止めた奴の姿にひなはひゅっと息を吸うがそれ以外何も発せずに飛び退いた。
ひなが飛び退いた瞬間にユリィとミエハネも奴の姿が見えるようになるが息を飲んだ。
「良くやった」
博士が労う。
「何……で……っ」
ひなが戸惑う。
「どうして?!エリオ!」
そう。今三人の目の前にいるのは博士を庇うように立っているエリオ。
レイトはいまだに動こうとはしない。
ひなは震えて、普段通りに戻っている。ミエハネもまさかの展開に言葉を失っていた。少しだけ続く沈黙を破る博士がどこかに隠れていた奴の名前を呼ぶ。
「来い……レト」
呼ばれたレトは闇の中から姿を表すと博士の前でしゃがみこんだ。
ユリィはそいつの姿と名前を聞いてレイトの話に出てきたレトだと判断する。
レトは博士から渡された注射器を持ってレイトに近づいていく。
ピクッと動いたレイトは顔を上げて目の前に立っているレトを見つめる。
レイトの瞳には光がなかった。
レトはポケットから横長の布を取り出すとそれをレイトに付け、目隠しをする。レイトは抵抗しようとしない、付け終わるとそのまま注射器を首元に刺す。
「___っ」
「さぁレイト……一緒に暴れよ?」
レトがそう呟くのをユリィは聞いた。
レイトの様子は注射器を打たれてからは俯いている。
レトは振り向き様にユリィに目を向ける。目が合う。
不適な笑みを浮かべて、まるで挑発している。ミエハネはひなとユリィを見つつも博士を見た。
博士は両手を広げて楽しげに告げた。
「さぁ!楽しいサーカスの幕開けだ!」
それを合図にその建物は、悲しみと戸惑いの戦いが始まった。
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