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第十三・五章…「俺もお前と生きたい」

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暗い空間に1人だけ。
自分が何をしていたのか。そもそも誰なのかわからない。
ただ、暗い空間に俺の意思だけがぽつんと放り出されている。
何も感じない。何も思い出せない。
俺は誰?俺は何をしてた?目の前にいるのは誰・・・・・・・・・
何かを叫び続けている。けど、何も聞こえないんだ。だけど不思議だ。
目の前の誰かさんを見ていると、とても胸が痛くて、止めて!って俺の体を押さえつけたくなる。
でも何でだろう?言うことを聞いてくれない。まるで、俺の体が俺のじゃないかのような気分だ。
俺の攻撃を交わしながら何かを言っている誰か。いまだに聞こえてこないその言葉。俺の意思とは関係なく動く体。
意思は涙なんか流さないだろう。
だけど、もし今の俺に体があるとするなら流しているだろう。

「俺は!お前と一緒に今を生きたい!」

不意にその言葉が聞こえた。
俺はその言葉が聞こえた方を見た。
光がそこにあった。
俺は無意識にその光を目指した。
目指しているときにあの時に聞こえた声がもう一度聞こえてくる。

「…レイト……一緒に帰ろう」

その言葉を聞いた瞬間視界に突然透けた布が見え、そのさらに向こうには元勇者の現同族であるユリィの姿があった。
ああ…そうだ。俺の名前はレイト・アルディアデで、目の前にいるのは俺のパートナーであるユリィ・マルバデアだ。思い出した。思い出せたことが嬉しかった。
パサッと布がとれて、視界がクリアになる。眩しかったが慣れてくれば、大したことがなかった。
でも何故だろう?片手が生暖かい。
俺は生暖かい方の手を見た。
ユリィの腹に俺の手が刺さっていた。
え、ちょ…嘘だろ?何で俺の手がユリィの腹に刺さって___っ
るんだよと思う寸前に俺がしていたことを思い出す。
そう、これは俺がした。俺が刺した。俺が傷つけた。
俺は腹に刺さっている手を抜いてもう片腕でその腕を掴む。震えが収まらない。と言うよりは、動揺が収まらない。いや、押さえられない。あってはいけないことだ。

「レイ……ト……っ」

「ああ……あ……っ」

ユリィは自分で回復ヒールをしながら近づいてくる。
何で来るんだよ……来るんじゃねーよ。
俺の気持ちなんか知りよしもないユリィは逃げる俺にお構いなしに近づいてくる。気づけば壁にぶつかり、えっと壁を見た後すぐにユリィが走ってきたこと気づいた。
だから来ないでよ!
何て言えるわけがなく。俺は壁沿いに走り出すが、やっぱり気づくのが一歩遅れたせいですぐに手首を掴まれる。強制的に振り向かされるが、視界が突然ぐわんと歪みそれにより足を滑らせて後ろ側に倒れる。掴まれた手を離すのを忘れたのか、ユリィも一緒に倒れてくる。
倒れた拍子に頭を軽く打って痛い……。
でもそれ以上に罪悪感に襲われ、目を合わせないように血の付いてない腕で両目を隠して逃げるよりも真っ先に謝罪の言葉を口にする。

「ごめ………っ、ごめんなさい___っ」

「……何か、レイトお前が何回も謝るとか怖いんだけど……」

「うるさい!」

人の気持ちも知らないで本当にムカつく野郎だ!
ユリィはふっと微かに微笑みながら起き上がり、俺も起こされる。
ユリィは先に立ち上がり上の階を見つめている。そういえば、ひなともう1人いた気がするでもない。俺はやっとの思いで自力で立ち上がり、自分で指してしまった傷の跡を見た後ユリィを見つめる。当然回復ヒールで治したから傷跡は無い。ふいにユリィも俺を見る。

「傷……大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ……回復ヒールしたからな」

「そうか……一応完全回復パーフェクトヒールを使った方がいいんじゃないのか?」

俺がそう提案する。
ユリィは一瞬考える仕草をした後頷く。

「じゃあ……レイト、頼めるか?」
「別にいいけど」

断ったとしてもかけるつもりだったが、ユリィが目の前で座り手をかざす。視界が歪む、カタカタと手が震える。
いつまた薬の効果が強くなるかわからない、早めに終わらせよう。
俺はそう思うや否や素早く終わらせる。

「ほら終わったぞ」

「よし、じゃあまずはひなとエリオだな」

そう言ってユリィは歩き始める。
俺はその後を追うように歩くがふらふらと歩き進む。何度か俺の様子をうかがうように振り向いてくれる。俺はその度にビクビクと体を震わせるが、ユリィは気にせず歩き続けた。
やっとの思いで上の階へと続く階段に着くが、俺の体が悲鳴をあげ始めるがそれに構っている時間はない。
俺はまだ大丈夫と伝えようとしたとき、そっと手を繋がれる。
一瞬動揺したがユリィと目が合うと不思議とその動揺は消え失せて、とうに尽きていた力が溢れてくる気がした。
ユリィは上の階へと上がれる階段を見つめる。俺もつられるように階段を見つめた。

「上の階に行くぞ」

「………っ」

そう言われて俺は頷く。
ユリィと繋いだ手に力を込めた。
今俺の中を支配しているのは、後悔でも悔いでも悲しみでもなく、ちっぽけな勇気だ。
だが、その勇気は時として強い力に変わると前の時代でお師匠に言われたことを思い出した。
その時初めて俺が感じたちっぽけな勇気をくれたのが元勇者で元敵だったとは誰が思うだろう。偶然転生魔法に巻き込まれた?俺も驚いていたけど、今は心強くて頼もしい……俺の最強で………最高のパートナー……。
ユリィも俺も気づかない。
俺の頬伝って落ちた一粒の雫なんか。
こうして俺とユリィは上の階に上がっていく。
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