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番外編2
リリーの恋・12
しおりを挟む学生時代に嫌という程経験していたから分かってはいたけれど、私は国民性に反してあまりにも貞操観念が硬いらしい。母が異世界人ということも影響があるのかな、と思ったこともあったが、アンバーがそうでもないから、個人の性格なんだと思う。
何より、強く想う人がいるのに、他の誰かとなんて有り得ない。
だから、私は未だに綺麗な体のままである。
「ねえ、リリー!仕事終わったらご飯でもどう?」
ふわふわの金髪が、私の周りを舞う。
「エルさんは、酔うと周りに迷惑をかけるので、行きたくありません。」
「えー!そんなあ!悲しい事言わないでよ。あっじゃあ、個室に二人なら迷惑かからないよね?」
「私に迷惑がかかるじゃないですか。」
「ううっ、辛辣!リリーとご飯食べたいよおー!」
室長が言っていた「もう一人の方がモテる」というのは、どの辺を指すのだろう。
お顔は整っているし可愛いと思うけれど、明け透けで子どもっぽく、スキンシップが多い。酔ったらナンパしまくりだし、女性を持ち帰ることもしばしば。
持ち帰られる女性の気持ちが分からない。
「アストロン室長、この迷惑な先輩をどうにかしてもらえませんか。」
「リリーさん、ごめんね。コイツ、どんなに注意しても治らないから、災害だと思ってくれると助かる。」
「…部署移動を希望します。」
「そんなあ!仲良くしようよお!」
二人は大学での先輩後輩の仲で、職場もたまたま一緒になり、室長曰く腐れ縁だと言っていた。
「リリーさん、分析速いし確実だから、移動しないでほしい。エルより戦力だよ。」
「では、エルさんの部署移動を希望します。」
「えっ、二人とも酷くない?!」
室長が嘆くエルさんの肩を叩いて、デスクへ戻っていった。
「…今日は諦めるけど、次は諦めないからね!」
捨て台詞を吐いて立ち去る姿に、思わず吹き出してしまった。
仕事にも環境にもすんなり溶け込めたのは、二人のおかげだと思っている。家名を聞いても特に反応せず、仕事振りを評価してくれるのは、とても嬉しい。
父の仕事を手伝うのが好きだったのもあり、こういった研究作業は性に合っているし、植物と共にある生活は幸せだ。
「あ、リリーさん。この前話してた新種の花の細胞培養の許可が下りたから、リリーさんにお願いしようと思ってるんだけど、いいかな?」
資料が積まれたデスクから、首だけを後ろに傾けた室長の顔が見えた。
「いいんですか?!やりたいです!」
「じゃあ、よろしくね。花は中央の温室で育ってるみたいだから、20株ほどもらってきて。」
「了解しました!今から行ってきてもいいですか!」
「うん、いいんだけど俺は今離れられなくて…エルでも良ければ連れて行って。」
無の顔で言うので、笑ってしまった。
「二人とも俺の扱いが酷い。」
「エルさん、お願いします。」
連れ立って研究室を出る。
ポケットから綿の厚い手袋を取り出し、装着した。母はこれをグンテと呼んでいたなあ、と懐かしく思う。
「ねーねー、リリーってさ。好きな人いるでしょ?」
ニヤニヤ笑って聞いてくるから、はぐらかすのも面倒だった。
「いますよ。」
「おっ、素直。珍しく身持ちが硬い女の子だから、そうなのかなーと思ってたんだよねえ。そして、相手は独身ではない。」
「…そうですね。」
「当たったー!やっぱりね、そうだと思ったんだよね!」
無邪気に喜ばれている。
「だってさ、もしこんな可愛い子が自分のこと好きだったら、すぐ受け入れちゃうじゃん?そうじゃないってことは、特定の相手がいる訳でしょ。」
胸の奥がズキズキするのを、気のせいだと思い込む。
「…そういうことでは、ないんですけど…面倒なんでそれでいいです。」
「うえ?違うの?予想が外れたー。」
相手は選り取り見取りでも、今の私は選んではもらえないのだ。
「そんなことより、仕事しましょう。」
「クールだなあ。そういうところも、可愛いよね。」
掴み所がなくて不思議な人だ。
半眼になりながら、温室の中へ入った。
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