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番外編2
リリーの恋・28
しおりを挟む仕事は最速で終わらせた。できる彼女のフォローがあってこそだが。
国王の仕事は、采配と決定だ。良い人材がいれば、惜しまずに手を尽くして呼び寄せる。たまには、無理矢理なこともあるけれど…
建物同士を結ぶ、空中に浮かぶような長い廊下を歩く。ここからは中央棟の温室が見下ろせる。
偶然タイミングが合い、温室に入るあの子を何度か見かけたことがある。真剣な顔で植物を運んだり、楽しそうに世話をしたり、時々面倒な甥と仲良く笑い合っていることもあった。
思い出して、もやもやした気持ちを手のひらで持て余し、大きな溜め息を吐く。
「早く着替えなくちゃ。」
足早に廊下を駆け抜け、私室へと向かった。
器用な弟が南の森に移住してから、兄である自分の為に作ってくれた物がたくさんある。
この小さなバッグもそうだ。
見た目は、とろりとした上質な絹で巾着のような形をしているが、中にはその何倍もの容量の荷物を入れることが出来る。
難しい理論と魔術により出来ているらしいが、そこまでいくと自分には理解不能だ。元来、勉強はあまり得意ではない。
美しく舞い踊っていられれば、それだけで幸せだったからだ。
踊り子になりたかった。
厄を祓い、神々に祈りを捧げ、神子として生きたかった。
でも、そうはいかない。
王子として生まれてしまったからには、王族の責務がある。
実際、民の為、国の為に心血を注ぐことは、嫌ではなかった。領地を与えられた時は嬉しかったし、領民の生活を支えたいと思った。
他の兄弟と比べても、自分が一番うまくやっているということも、分かっていた。
だけど、争いが嫌なのだ。踊り子になりたかったのも、それが理由の一端を担っている。
賢い弟が、悲惨な目に合っているのを助けられなかった。森に逃がすことしか出来ず、辛い思いをさせた。
弟がやっと見つけた愛しい女性を、危険な目に合わせたのも、その争いの所為だ。
大切な人を、危険な目に合わせたくない。
自分には、たった一人を作ることはできない。
弟から博愛主義だと笑われても、仕方がない。
情けない兄なのだ。
王宮内から早く後継をとせっつかれていても、未だに覚悟が決められず、避妊を続けていた。回数も減っている。
いっそのこと自分の代で、世襲制を廃止しまってもいいのではないかと考えている。
「情けない国王よね。」
透かしの入った美しい立襟のワンピースと、緩いラインのズボンを履き、小さなバッグを持って身支度を終えた。
バッグの中には、あの子の成人を祝う為の品々を入れてある。
事前に仕立てたワンピースは、あの子の好きな、自分の髪と同じ色にした。
もしこれで公の場に出られでもしたら、自分の浅ましい独占欲が周りに透けて見えるだろう。
突き放しているクセに。
あの子の想いに甘えている。
四十を過ぎた男が、一体何をしているんだか。
だけど、今日だけは、どうしても行かなければならない。
あの子を毒牙から守らなければ。
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