17 / 42
末沢視点
(15)ハッピーは続いて行く。
しおりを挟む月曜日。キラキラした顔で出社して来たから、あぁ上手くいったんだな、と思った。
「おはよー末ちゃん。」
「おはよ、ほとり。昼休み、分かってるね。」
「ははーっ末沢大明神様ー。」
南無南無と拝まれて、始業時間になった。
ほとりは、入社して来た時から、私の苦手な女共とは違っていた。
そのまま真っ直ぐに成長しましたって感じの、純粋培養。おおらかで、感情表現豊かで、一生懸命。
悪く言うと、騙されやすくて、粗雑で、猪突猛進が過ぎる。そんなところが、とても可愛い。
私とは、まるで違う。
そう、嫌いな女共は、詰まる所私自身。要は同族嫌悪なのだ。
ほとりは、私のことを大切にしてくれて、頼ってくれて、一緒にいて幸せな気持ちにさせてくれる。こんな私でもいいんだって思わせてくれる、そんな子。
だから、灘川も好きになったんだろうなって思う。
初めて、いつもの飲み会にほとりを連れて行った日。
この子だったら、あの面子にも動じず難なく入れるだろう、きっと2人も面白がると思って誘った。
そもそもあの会は、私が部門移動をするもっと前、3人でチームを組んで小さなプロジェクトを進めていた時から始まった。
誰とでも上手くやれるけど、ハイテンションで陽気過ぎる松田。
見た目が華やかだけど、ビジネスライクで全く自己を出さず、淡々と仕事を裁いていく灘川。
そして何の取り柄もなく、定時で帰ることのみをモットーに働く私。
社内でも浮いてる2人と、埋没している私が組んで、上手くいくのかと思っていたけれど、チームワークは良かったし、プロジェクトも成功した。
それに、ちゃんと話したら面白い2人だった。
人を見た目で判断するのを悪いとは思わないけど(私がそうだし)、たまには掘り出し物もいるってことだ。
なんだかんだで、よく飲みに行くようになり、今に至る。
ちなみにこの会は、面白いと思った人を連れて来てもいい、というルールがある。
たまに2人が連れて来たりもするけど、定着したことはない。
そして、ほとりがやって来た。(阿部くんもね。)
ほとりと話している時の灘川と言ったら、そんな風に笑ってたこと今まであった?君誰?ってレベル。
会社でも、ほとりと話す時だけは、心の扉が観音開き。中に鎮座している観音様が丸見えですよー、お兄さん。
でも、ほとりはそれを知らない。
能面みたいな灘川も、面白かったから、ほとりにも知ってて欲しかったなって思う。
灘川は絶対に見せないし話さないだろうから、女同士の秘密の話にするんだ。
ある日、「灘くんのこと、好きになっちゃったみたい。どうしよう…」って、相談しに来た時の、ほとりの可愛さと言ったら…
嫉妬半分、嬉しさ半分。
灘川に、ほとりを取られると思うと腹立ったけど、アイツも残念イケメンだから仕方ない。
お姉さんが、可愛い後輩2人の為に一肌脱ぎましょう。
どう考えても両思いなんだけど、お互いに今一歩踏み込めないタイプなのと、灘川の思考がイマイチ掴めない(本当に自分のことをあんまり話さないヤツ!)。
私がとやかく言って、2人が拗れるのは本意じゃないから、しばらく様子を伺い、ほとりを焚きつけた方が早いってことに気づいた。
一度決心したほとりは頑張った。
頑張る方向がおかしくて、セックスから始まると思わなかったけど。
母親が、いらないからあげるってくれた遊園地の特別招待券。
オークションで売ろうとしてたけど、売らなくて良かった。
良い雰囲気でイチャイチャしてれば、まとまるでしょ。気分が良くなって、日取り聞き出して、ホテルまで予約しちゃった。
さぁてさて、ここまでお膳立てした特権で、根掘り葉掘り聞いてやろうじゃないの。
秘密の話をする時の、いつものお店。
バッグからお財布を出して、ほとりと並んで会社を出ようとしたら、ちょうど帰社した灘川に会った。
「おかえり。」
「灘くん、おかえり。」
ほとりの声、甘ーい。
それ、分かる人には分かっちゃうよー。
いや、分からせてやれ。この会社の自己顕示欲ばっか高い女共に、難攻不落の花形営業最強イケメンを落としたのは、この私だぞー!って。
なんて、ほとりは微塵も思ってない。性格の悪い私が、自慢気にしてるだけ。
「ほ…木実、ただいま。」
名前呼ぼうとして苗字に変えたー!うっかり恋人気分かよー!
まぁ幸せそうな顔しちゃって。
ごちそうさまです。
「おいおい、末沢様もいるぞ。」
「末さん、おつです。」
この度は誠に、と深々とお辞儀をされた。
うん、苦しゅうないよ。
「これから末ちゃんとランチ行くんだー!」
イェイイェイ!と踊り出しそうなほとり。テンション高め。
灘川は、一瞬まずいって顔したけど、諦めなさい。私達の口には戸が立てられないのよ。
「楽しんできて…」
「うん!いってきまーす!」
きゃぴっと手を振って、自動ドアを抜けた。
「この度は、末沢大明神様のお陰で、めでたくお付き合いをすることになりました。いや、実際は既に付き合っていました。」
「あ、うんごめん。意味がわかんない。」
「それがねー!!処女喪失後、私が半分眠ってる時に、交際申し込まれてて!うんってお返事したらしくて、灘くんの中では既に彼女だった!のです!」
「アーハン」
灘川のタイミング悪。とことん残念イケメンだな。
お冷を飲みながら、まとめる。
「灘川は恋人のつもり、ほとりはセフレのつもりだったと。」
「せ、セフレて…実質そうかもだけど、気持ち的には違うのー。」
「なにはともあれ、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。こちら、お礼の献上品でございます。お納めください。」
お土産のお菓子と、母宛の高級菓子折りと、私には封筒。
「なにこれ、図書券とか?」
「んにゃ、金券でごじゃるよ末殿。これでアウトドア用品をお買い求めくださいませ。私と灘くんからの気持ちです。」
「あらあら、まあまあ。ありがたくいただくわね。」
やった!新しいトレッキングシューズ買おう。
世の中、信じられるものはお金よ。
ちょうど、ランチセットが運ばれてきた。今日はたっぷりホワイトクリームとトマトソースのラザニア。生パスタだからプリプリで美味しい。
「で、遊園地デートはどうだったの?」
「やばいの!!末ちゃん!!灘くん、かっこよさの度が過ぎてる!」
「おう、そうか。して?」
キラキラ輝く笑顔で、怒涛のごとくしゃべるほとり。
「遊園地が好きだったみたいで、詳しくてね。ライトな私に合わせて色々エスコートしてくれて、次の日の着替えを一緒に選んで買ってくれたり、果ては宿泊者限定のコースを予約してくれてて、夜のパレードをそこで見た。お部屋でイチャイチャしたり、一緒にお風呂入ったり、朝寝坊して慌ててチェックアウトしたよ。」
既に情報過多。灘川が、ほとりに対してガチでアピってるのだけは、理解した。
「オーケー、オーケー!灘川がやばいってのは分かった。ほとりの一押しは、どこ?」
ラザニアをもぐもぐしながら、思考タイム。
それをのんびり待つ私。
ふにゃあっとした顔で、思い出しながらポツポツと話し出す。
「レストランでパレードを見てる時、座ってる場所に反射した光がキラキラしててね、灘くんの瞳の中で星屑が弾けて、まるで王子様みたいだったの。」
ほ、ほとり…あんたがお姫様だよ…
なんか、涙腺が緩みそう。
「良かったね。」
「うん、末ちゃんありがとう。」
「違うよ、ほとりが頑張ったからだよ。」
「それなら、もっとありがとう。末ちゃんが応援してくれたから、頑張れたよ。」
あちゃー、崩壊したよ。年取ると緩むねぇ。
「末ちゃん?!なんで?!」
ポロポロとこぼれた涙を、紙ナプキンで拭う。
「なんか、良かったなぁって。思ったら泣けてきた。」
「末ちゃん、大好きだよー。」
「私もー。」
私のかわいいほとり。
幸せにおなり。
灘川はムカつくから、恥ずかしい言動を聞きまくってやった。
あー恥ずかしい恥ずかしい!
ランチから戻ると、見計らったように灘と松田が席にやってきた。
「末ちゃん、聞いた?聞いた?」
「聞いたー!」
松田と並んでニヤニヤする。
気まずそうな表情の灘川に、爆弾落としてやる。
「彼シャツとショルダーバッグの斜めがけ、お好きなんですって?」
灘川がゲッという顔をしてほとりを見ると、愛しの彼女さんはすまし顔。
「ほとり、ゲロッたな。」
「え?何か言った?私、聞こえなかったぁ。」
「後で覚えてろよ。」
そんなこと言って、どうせデロデロに甘やかしてイチャイチャするんでしょ。
既にイチャイチャしてるけど。
松田と顔を見合わせて笑った。
「あーあ、私も幸せになりたい。」
「はいはーい!俺は?俺は?」
「はー、渋いナイスミドルがいいなぁ。」
「末沢さん、今度、僕と夜明けのコーヒーいかがですか?」
松田のナイスミドルのイメージ像が分からない。
「遠慮しときまーす。」
お似合いの2人が楽しそうに笑った。
付き合いたての恋人同士の邪魔はできないから、しばらくは松田で遊んでやるか。
今度、グランピングでも行こうかな。
2
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
諦めて身を引いたのに、エリート外交官にお腹の子ごと溺愛で包まれました
桜井 響華
恋愛
旧題:自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす
꒰ঌシークレットベビー婚໒꒱
外交官×傷心ヒロイン
海外雑貨店のバイヤーをしている明莉は、いつものようにフィンランドに買い付けに出かける。
買い付けの直前、長年付き合っていて結婚秒読みだと思われていた、彼氏に振られてしまう。
明莉は飛行機の中でも、振られた彼氏のことばかり考えてしまっていた。
目的地の空港に着き、フラフラと歩いていると……急ぎ足の知らない誰かが明莉にぶつかってきた。
明莉はよろめいてしまい、キャリーケースにぶつかって転んでしまう。そして、手提げのバッグの中身が出てしまい、フロアに散らばる。そんな時、高身長のイケメンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのだが──
2025/02/06始まり~04/28完結
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる