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番外編

番外編小話・4

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卒業アルバム  灘ほと


灘くんが実家から持ってきたって言って、渡してくれたのは卒業アルバムだった。

「ふああぁ…!」
高校1年から3年までの行事の写真がたくさん載っている。
灘くんはやっぱり人気者らしく、写る周りには男の子や女の子がいる。
「灘くんモテモテ…!」
「…いや、そんなことはない。男とつるんでばっかりだったし。」
ほら、と言って指したのは、教室で写っている一枚。
確かに、男の子の集団の中心にいる。
「灘くんて写真撮る時、いつもこの顔とか、このポーズするけど、高校生の時からしてたんだね。」
眉間に皺を寄せて、くしゃっと笑う。ウィンクになっているような、なっていないような、右目だけ閉じかかっている笑顔。
すっごく可愛くてかっこいい。
よくやるポーズは、人差し指で前を示す形。
「あー、いやもっと前からやってたかも。もう癖になってるから。」
灘くんが後ろに座って、お腹に腕がまわり、肩に顎が乗る。
「あと、顎を出すよね。しゃくれさせる。」
「やるねー、ちゃんと写るの苦手なんだよね。」
確かに、灘くんはかっこつけるのが苦手だ。自発的にふざけてかっこつけるのは大丈夫らしいんだけど、求められたり頼まれたりするのは、恥ずかしくてダメらしい。

1年生の写真を見ると、まだとても幼い。
「細い!」
「背が伸び始めた頃だから、ひょろひょろしてる。」
背が伸び始めの灘くん…!可愛い!
「なんか、髪の毛がサラサラしてない?」
「子どもの頃はサラサラだったんだよ。いつの日からか剛毛癖っ毛になっちゃった。」
「どっちも良いよー!癖っ毛も好き!」
「…ありがと。」
照れてる。見なくても分かる。
「この頃から八の字眉だぁ。ほっぺたもぷくってしてる。可愛い。」
2年生になると少しシュッとしてきて、卒業写真はほとんど今と同じ顔だった。
「3年間で彫りが深くなったね。」
「そう言われるとそうかも。あんまり気にして見たことなかった。」
「鼻も高くなってるし。」
「大きくなったって感じかな。」
後ろを振り向いて見比べてみる。
「灘くんの顔、好きになる前はあんまり興味なくて、何とも思ってなかったのね。」
「えっ…それはそれで悲しいんだけど。」
「いや、イケメンだなとは思ってたよ。客観的に。」
不満げに唇を尖らせている。
「好きになった途端に、世界で一番かっこよく見えるよね。」
写真と同じ顔をした灘くんのほっぺたを、ぎゅっと両手で挟む。

ペラペラめくると、部活をしている写真がある。
「灘くん、ダンス部?」
「…友達が入れってうるさいから。」
待って、モテてモテて仕方ないやつでしょ、これ。
ひえー!
「踊ってよー!!」
「もう踊れないよ。」
「見たい…見たいよー!ずるいー!なんで同じ高校じゃないの?!私、女子校だよー?!うわーん!!」
悔しくてジタバタしていると、後ろで唸り声が。
「…映像なら…あるけど。」
「見る!見るー!!!動く高校生の灘くん!!!やったー!!」

DVDをセットすると、しばらくして流れ始めた。
先輩達の後ろで踊っている。
「何年生?」
「多分、2年かな。まだちょっと細いね。」
顔がズバ抜けてかっこいいから、どこにいるかすぐ分かる。
「なんか、灘くん、ダンスすっごく上手?一人だけ違くない?」
「んー、まぁ。自分でもそう思う。」
灘くんは自分で言いながら、ちょっと笑っちゃってる。これも照れてる。
「えー、すごく上手。生で見たかった…かっこいい…」
キラキラした笑顔で踊る高校2年生の灘くんは、アイドルみたいだった。
「かっこいい…この動画欲しい…録画していい?」
「そんなに?いいけど」
「ありがとう…!」
すかさず巻き戻し、携帯電話で録画をする。
「これでいつでも高2の灘くんが見られるー!うれぴっぴ!」
無言の灘くんが、うなじにキスをした。
「ひゃっ」
「今の俺は?」
えっ、過去の自分に嫉妬してるの?
可愛くて死ぬ。
「一番好き!」
振り向いて、厚めの唇にキスをする。
「今が一番かっこいいよ!」
恥ずかしがりで照れ屋なところとか、仕事頑張ってるところとか、疲れて甘えてくるところとか、全部好き。
「………」
自分で聞いてきたのに、照れに照れて何も言えなくなってるところも。
「だーいすきだよ。」
後ろからぎゅーっと抱きしめられた。
幸せだなぁって思いながら、卒業アルバムの写真も、携帯電話で撮るよ!
「はぁ…どの灘くんもかっこいい」
「…そんなに喜んでくれるなら、あげるよ。」
「それはダメだよ!灘くんの歴史なのでちゃんと持っててください!私はコピーでいいですう。」
「あ、うん。」
最終的に動画も写真も全部保存して、大満足でした。
「今度は、ほとりの卒業アルバム持ってきて。」
「え…私ダサいから見せたくない。」
「ダサいほとり見たい。」
「ダサいって言うな!」
「かーわい。」
うんって言うまで深く口づけられて、強制的に約束させられた。
今度、実家に帰らなきゃ…。



2カップル・はいどーぞ


灘ほとの場合


「なーだーくん!」
振り向く灘くんの前に、手首をくっつけて作ったV字を差し出す。
「はいどーぞ。」

どんな反応するのかな、とドキドキして待っていると、躊躇なくスッと顎を乗せてきた。
「おお…すごい…」
片眉を上げて訝しげにこちらを見る灘くんと目が合う。
「何?」
とてつもなく可愛いです。
たまらん。

「あのね、こうやって手を差し出すと、みんな顎を乗せるんだって!」
「ふぅん、そうなんだ。」
顎を乗せたまま手首を掴んで、手のひらにキスをしてきた。
「ひゃっ」
灘くんはニヤニヤしている。
「もしかして、知ってた?」
「何が?」
なんだか悔しい、でもカッコいい。
悔しいから、そのままほっぺを固定して、ぶちゅっとキスをしてやった。
「そう来ると思わなかった。」
「へっへっへ」



松末の場合


松田と話している途中、ふと思い出して、両手のひらでV字を作って差し出した。
すると、松田はちょこんと顔を乗せて会話が続く。
続くからしばらくそのままにしていた。

「ねえ、これいつまで乗せたままなの?」

「え?」
まるでずっとそこからありました、みたいな感じで松田が答える。
「この顔。」
「あぁ、え、柊子ちゃんがやってるから。」
「離せば離れるってこと?」
「うん。」
頷くと、ふかふかした髪が、指に触れる。
いたずら心が疼き出す。
「じゃあ、このままで。」
「いや、そろそろ腰が痛くなってきました。」
「頑張れ。」
「柊子ちゃん…!」
確かに、体がプルプルしている。
「アッハッハ!」

ああ、可愛い。


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