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第1話
しおりを挟む資料を準備して、総務から支給のノートパソコンを受け取り、事前にデータを送っておく。
当日午前は入社後の総務のオリエンテーションがあるから、沙彩の仕事は午後からだ。
「来週から、新入社員が来るので、教育係よろしく」
そう上司から言われたのが先週の半ば。
営業部に欠員が出てから、ずっと代行を依頼していたので、正社員が入るのは久しぶりだ。
業績が軌道に乗ってきたため、今は採用を増やしているところらしい。と、沙彩は聞いていた。
「リーダーに聞いたんだけど、新しい人、やばいくらい美形らしいよ」
同僚の穂乃果が耳打ちをしてくる。
「あー、リーダーが面接したの?」
「うん、即決だったって」
「リーダー面食いだもんね。ま、仕事ができて人として清潔感を保ってるなら、顔面偏差値はどうでもいいよ」
穂乃果は指を振った。
「いやいや、顔が良いと案件取りやすいでしょ。お客さんも喜ぶしね」
確かに、営業は見た目が大切だ。でもそれは、清潔感や誠実さがあってこそ。
張り合うのも面倒なため、それに返事はしない。
「私はオンボーディングを頑張るだけです」
「美形の定着は、沙彩にかかってるぞい」
頼んだ、と笑って穂乃果は去って行った。
沙彩はふうと息を吐き出し、準備を続けた。
翌週、月曜日。
いつも通りに出社をし、午後のオンボーディングの前に、こなせる業務は終わらせておく。
かかりきりになってしまうことが常のため、他の人へ振ったり、引き継ぎもしておいた。
総務のオリエンテーションが終わる頃、上司の元へ新入社員が連れて来られる。そして、社内にいる営業達と一緒にランチをするのが習慣だ。
だけど、総務部の担当の後ろについてやってきたのは……
どう見ても、ダークエルフだった。
「えっ……」
沙彩は言葉を失った。
何度も瞬きを繰り返し、頭を左右に振ってみたが、いくら見直しても、上司の隣で紹介をされているのは、ダークエルフだ。
褐色の肌に、色素の薄い髪、人間よりも尖った耳が特徴的で、瞳の色も薄い。
ファンタジーRPGや、映画によく出てくるような、エルフがそこにいた。
ドッキリなのか、沙彩は疑った。
一般人に、しかもこれから教育係として受け持つただの会社員に、ドッキリを仕掛ける意味はあるのか……
「本日から入社しました、ティリオン・リングールと言います。気軽にティルって呼んでください。よろしくお願いします」
流暢な日本語を話している。
日本で育ったエルフなのだろうか。
いや、日焼けサロン通いが趣味で、髪の毛は染めていて、瞳はカラコン、たまたま耳だけ尖っているだけかもしれない。
沙彩の祖父も、少し尖った耳の形をしていたから、そういう可能性もあるだろう。
ダークエルフだと、決めつけるのはまだ早い。なりきりなのかもしれないし。
会社になりきりで来るのは、社会人としてどうなのだろうか。
沙彩は悶々と考え、この先どうやって対応していけば良いのか、途方に暮れた。
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