15 / 53
第15話
しおりを挟む定時で退勤後、ティルはいつも以上にベッタリと沙彩のそばに付き、駅のホームでも電車内でも、帰り道でさえも寸分も離れようとしなかった。
「いやもう、普通に歩きづらいんですけど」
背が高くエルフらしい体型のティルは、正直言ってくっつかれていると邪魔である。
「誰にもサーヤを触らせません」
「意味が分かりません」
玄関を閉めるギリギリまで張り付かれ、沙彩は辟易した。
部屋着に着替え、習慣になってしまっているティルとの夕食も、面倒だなあとゴロゴロしていると、玄関のチャイムが鳴った。
どうせ痺れを切らしたティルが迎えに来たのだと思い、しばらく無視をしていたが、間隔を置かずに何度もチャイムを鳴らされる。
「う、うるせえー」
大人エルフのくせに駄々っ子か。
このままだと近所迷惑になるため、沙彩は渋々ドアを開けた。
「サーヤ!良かった、生きてました!」
「早々死にませんよ」
「いえ、サーヤは美しいですから、いつ冥府から迎えが来てしまうか分かりませんよ!」
その思考が分かりませんよ。
沙彩は自室の鍵をしめ、ディルの部屋へいつも通り招かれた。
ドアの鍵を後ろ手で締めていると、穏やかでとろけそうな笑顔を浮かべたティルが、沙彩の右手首を取り、冷たくて重い何かをガチャンと取り付けた。
これは、ドラマで見たことがある。
「手錠ですね……」
「はい、その通りです」
肝が冷えるとはこのことだ。
沙彩はヒュッと息を呑んだ。
「え、何で?」
空いている方の手錠の輪を、ティルは自身の左手首に取り付ける。
「これで、今から私とサーヤは一つです。離れられません」
嬉しそうにはしゃぐティルに、沙彩は脱力した。
「ティルさん、頭おかしいなってずっと思ってましたけど、一応聞きますね。エルフジョークじゃないですよね?」
「本気ですよ!インターネットで調べたところ、離れ離れになりたくない人間は、こういうものを使うとありました」
絶対に間違っている。どこかの性癖暴露記事でも読んだのではないか。
誰か、彼にきちんとしたネット検索の方法を教えてあげて欲しい。
「これだと、ご飯を食べるのも大変なんですけど」
「ええ、なので私が食べさせてあげます。お手洗いもお風呂も、全て私がやりますから、安心してくださいね」
頬を染めて喜ぶ姿を見て、沙彩は妄想の世界の扉を開けそうになった……いや、ギリギリ開いて妄想の森から鹿が顔だけ出している。
おい、君の親友は、やはり頭がおかしいぞ。
沙彩は鹿へ訴えかけたが、鹿は大きな瞳をパチパチして森の中へと帰って行った。
3
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる