【R18】新入社員ヤンデレエルフの、教育係になりました!

はこスミレ

文字の大きさ
27 / 53

第27話

しおりを挟む



 来た時は確実にいつもの山だったし、こんな崖は沙彩の家のそばにはない。
「なんで……」
 自分の家のある位置を探そうと前に出ると、腕を引っ張られた。
「足場が不安定で崩れやすいですから、危険ですよ」
「ねえ、私の家がないよ。学校も、友達も、家族もいないの?」
 泣きそうになりながら訴えると、彼は沙彩の腕を掴んだまま元来た道を引き返す。
「そうですね、ここは人間が来るところではないですから」
「えっ…私、死んじゃってるってこと?」
 彼の顔を見上げると、笑って否定した。
「私もあなたも生きてますよ。ほら、暖かいでしょう」
 しゃがんだ彼にぎゅっと抱きしめられると、暖かく、草花の香りがした。
「うん……」
 沙彩は鼻の奥がツンとして、どうしようもなく涙がこぼれた。
「私、知らないとこに来ちゃった」
 調子に乗って奥まで来なければ、こんなことにはならなかったのに。
 ぼたぼたと落ちて行く涙が、彼の服に染みを作っていく。
「とりあえず、私の家に行きましょう。まずは、美味しいお茶を飲んで休みましょうね」
「分かった……」
 知らない人についていっちゃいけないと言われているけれど、知らない人しかいない場所に来てしまったのだから、仕方ない。
 それに、今は一人でいるのがとても怖い。
 彼は沙彩の手を引いて歩き出した。


「ここが私の家です」
 見たこともないくらい大きくて太い木の、うろの中に快適な部屋があった。
「すごい、なにここ!秘密基地みたい!」
 うろに合わせたドアが付けられ、窓がいくつもついていて中は思ったより明るい。
 部屋には木造りのテーブルと椅子、大きめのベッド、棚がいくつか置かれていた。
「椅子に座っててください、今お茶を入れますから。砂糖はいりますか」
「紅茶?」
「ハーブティーです」
「苦い?」
 沙彩は、母親が前に買ってきた渋くて苦いハーブティーを思い出した。あの時は、砂糖を入れたらより不味くなったのだ。
「いいえ、甘い香りがします」
「じゃあ砂糖入れる」
 彼はにっこりと笑い、手際よくお茶を入れた。
 やがて爽やかで甘い、りんごのような香りがするお茶が、沙彩の前に置かれた。
「いい匂い」
「そうですね、これは私が一番好きなお茶です」
「いい趣味してるね」
「それはどうも」
 一口飲む度に、香りと甘味が沙彩の心をゆっくりと温めた。
「そういえば、名前を聞いていませんでしたね。私は、ティリオン・リングールです」
 やはり、外国人だった。
「七五三木沙彩だよ」
「サーヤですね」
 発音が微妙に違うが、外国人だから言いにくいのかもしれない。
「まあ、そんなもんかな。ティリオンが名前?リングールが名前?」
「ティリオンが私個人の名前、リングールはファミリーネームです」
「へー」
 沙彩は、温かいお茶をゆっくりと飲み干した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...