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第34話
しおりを挟む昼食後、ティリオンも花飾りを作り、沙彩の頭に載せた。何種類もの真っ白な花ばかりを集めて作られたそれは、本当に花嫁がつける髪飾りのようだった。
「可愛い……」
「似合っていますよ、サーヤ」
ティリオンの大きな手が沙彩の後頭部を撫でた。
「ありがとう」
なんだか恥ずかしくなって、沙彩は顔を下に向けた。
「では、そろそろ湖に行きましょうか」
「……うん」
二人で荷物をまとめると、昨日と同じ、あの湖へと向かった。
相変わらず底が見えない湖は、キラキラと風景を反射している。
「この湖には、何がいるの?」
魚やカエルなどがいれば波紋ができるはずだが、それすらも起こらない。ただ、風で波が立つだけだ。
「私もここで生き物を見たことがないのです」
「え?」
沙彩は驚いてティリオンを見上げた。
「ここは、そういう場所なのですよ」
妖精を見かけるくらいだし、エルフが言うなら、そうなのだろう。
ここは、人間が来る場所ではないのだから。
ならどうして、自分はここにいるのだろう。
「沙彩が来た場所は、ここですね」
昨日と同じ、茂みの前に立つ。
「うん、ここ」
沙彩は緊張で身震いをした。
「ここからは、一人で行けますか」
コクリと頷くと、ティリオンが沙彩の背中を撫でた。
「気をつけて」
もう一度頷くと、茂みに向かって一歩を踏み出す。ザクザクと進み、後ろを振り向いた。
「ありがとう、ティリオン」
女王様のようなティリオンは、ゆっくりと手を振った。
沙彩は茂みの中へ戻り、そのまま進んでいく。
帰りたい、家族のもとへ、友達のもとへ。そして日常の続きを始めるのだ。餃子も食べたいし、しまったままの懐中電灯を使って遊びたい。
強く手を握り込み、茂みを抜け切ると、そこには崖が広がっていた。
沙彩はへたり込み、涙を流した。
「おかあさーん、おとうさーん」
涙は溢れ続け、苦しくて、悲しくて、寂しくて、声を上げて泣いた。
しばらくすると後ろから抱きしめられたが、沙彩は構わず泣きじゃくった。
帰れないことが、日常に戻れないことが、悲しかった。
それから毎日、沙彩は茂みへと通った。
初めのうちは何度も泣いていたが、そのうち慣れて、諦めにも似た表情をするようになった。
そして通う回数は減り、やがて行くことをやめた。
大きな木のうろの家は改装をし、部屋が増えた。
元々のダイニング、ティリオンの部屋、そして沙彩の部屋だ。
「知ってる?ティル。これって、2DKっていうんだよ」
「前の家はワンルームってとこですかねえ」
「なんだ、知ってるんじゃん」
あれから3年が経過した。
思春期に入った沙彩の為に、ティルがわざわざ街へ下りて大工に依頼をしたのだ。
普段仕事をしているのを見たことがないため、そのお金がどこから出ているのか沙彩は全く知らない。
「サーヤ、一人で眠れますか」
「眠れるわい!」
どんな心配をしているのやら。
最近は自分にベッドを譲り、ほとんどソファで寝ているくせに。
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