【R18】新入社員ヤンデレエルフの、教育係になりました!

はこスミレ

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第36話

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 ティリオン・リングールは、ダークエルフの一族、リングール家の末裔だ。リングール家は、エルフの中でも特殊な力を持つ。
 歌声に呪い(まじない)の力を持ち、念じて歌えば他人を惑わすことができた。それ故、エルフの暮らす国でも端の端、青い水をたたえる湖のある、この森の一帯を守り暮らしている。
 呪いの力以外にも、ティリオンはもう一つの力を持っていた。それは、リングール家の中でも稀にしか生まれない、監視者の力だ。湖に力を投影すると様々なものを見ることができる。
 そうして、見たものを国へ報告することで、莫大な報酬を得ていた。
 しかし使うあてのないお金は貯まる一方。両親は既に他界しており、一人息子のティリオンは気の遠くなるほど長い間、ただ独りで暮らしていた。

 ある日、ティリオンはいつものように、湖で投影をしようと出かけると、小さな子どもが湖に向かって石を投げ込んでいた。
 どうやってこの地に来たのだろうと声を掛けたら、人間の子どもだった。ますます分からない。人間がやってくることなど、ありえないのに。
 一先ず保護することに決め、家へ連れ帰った。
 その子どもはサーヤと言い、中々に好奇心旺盛で元気が良く、いつも笑ったり泣いたりしていた。
 食事を与えれば喜び、家に帰れないと言っては泣き、一人で遊んでいると思えば、ティリオンへいたずらを仕掛けたり、大きな声で笑う。
 覚えていないくらい遠い過去、自分もこんな風に過ごしていただろうか。
 エルフの寿命は長い。
 100年を過ぎたあたりから、歳を数えることをやめてしまった。
 父母のように伴侶を求めている訳でもなければ、子をなす気持ちもない。リングール家は自分の代で、絶えてしまえばいいとさえ思っている。
 そうして静かに生きてきたから、サーヤの存在は眩しかった。

 やがて数年が経ち、成長が早い人間の子どもは、すぐに大人になった。

「ティルってば!聞いてる?」
 街へ行きたいとねだるサーヤは、艶やかな黒い髪を腰まで伸ばし、はつらつとしていて、美しく育った。
「街へ行くのはダメです」
 人間がエルフの街へ行くなんて、危険すぎる。彼らは珍しいものや、美しい物を愛しているから、サーヤなんて格好の的だ。
「だから、ティルも一緒に行けばいいじゃん!」
 自分でさえ街へ下りるのは億劫で、あまり気が進まないのに、サーヤを連れて行くなんてより一層困難である。
 じっとサーヤを見つめて無言を貫いていると、頬を染めて顔をそらした。
 最近、サーヤはこの表情をすることが増えた。大変愛らしいけれど、何が原因なのかは定かではない。

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