【R18】新入社員ヤンデレエルフの、教育係になりました!

はこスミレ

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第44話

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 ティルは首を横に倒した。
 この力で過去を見ることは可能だったであろうか。もしかしたら、強すぎる思いに反応し、過去に遡った可能性もある。
 湖の水を桶に汲み家へ持ち帰ると、自身の部屋にしまってある、歴代の力に関して記載されている書物を取り出した。
 ページを繰り読み進めていく。一番最近は四代前に顕現しており、特にこれといって特出したものはない。九代前、十五代前、それぞれが自身の力について詳細に記している。
 この特出能力は当代が亡くなってから次代に受け継がれる為、同じ時代に二人と現れることはない。そのため、なにが起きても過去に相談できるよう、書物が引き継がれていくのだ。
 三十三代前まで遡ったが、過去を見たという記載は無かった。
 だとすれば、これは現在の状況だろう。
 ティルが桶の中の青い水を見ると、出会ったばかりの頃のサーヤが、赤いカバンから書籍を取り出し、冊子に写し書きをしていく様子が映し出されている。
 ふとサーヤの首から金色の細い鎖が見えた。
「サーヤ?!」
 じっと水面を見つめていると、冊子から顔を上げたサーヤの胸元に、滴型の石が下がっているのが見えた。
「あれは……」
 見間違う訳がない。
 サーヤが拾った鉱物に、自身の力を込めて研磨した御守りだった。幼い子どもが家族の元へ帰れるように、悲しい思いをしないように、そう力を込めて贈ったのだ。
「私が呪いをかけたから」
 正しく、ティルの呪いは機能した。
 幼い子どもは、親元へ帰ったのだ。
 ティルは拳を強く握り、全身の力が抜けそうになるのを堪える。そのかわり、指先から血液が凍っていきそうだった。
 サーヤは帰った、彼女が生きるべき場所へ。エルフである自分とこの家で生きていくことは、人間である彼女にとって幸せではない。本来なら、人間の友人達と共に成長し、健やかに大人になるのが当然なのだ。
 たまたま間違って、ティルの元へやって来てしまった。彼女が自分の孤独を癒し、明るい笑顔と優しさを分け与えたのは、神の手違い。
 けれど、これから共に過ごせたであろう、彼女との時間を思うと、自身の半身を失ってしまったような気持ちだった。
 ティルは喘ぐように息をすると、フラフラとリビングのソファに座る。
 テーブルの上には、昨日サーヤが詰んできた花が生けてあった。
 痛む胸を押さえ、やっと声に出せたのは、自身の情けなさを露呈する言葉だった。
「何も今、帰ることないじゃないですか」
 ティルの呟きは、誰にも聞こえない。
 

 
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