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麗らかな陽だまり4-2
しおりを挟む俺は酒を飲みすぎると記憶を失くすタイプなので、うららがいる飲み会では、絶対にセーブするようになった。もしうっかり告白してしまったり、あげく振られたら立ち直れないし、知らない間にうららがお持ち帰りされたら切腹したくなるからだ。
「今日って、教授来るの?」
「来ないと思う」
「じゃあ、いっぱい飲めるね」
「自力で帰れるぐらいにしとけよ」
「意識します!」
挙手して返事をするが、あまり信用できない。うららは酔うと寝るタイプである。まぁ、俺が担いで行けばいいのだが。
早く着いていたのであろう先輩達は、既に出来上がっていた。
「早くないすか?」
「お、森崎、遅かったな!よし、駆けつけ一杯」
席に着く前にビールを渡され、酔いどれ親父のようなことを言われる。受け取って半分飲み干すと、先輩の背中を叩いて座らせた。
「お疲れ様です。いつから飲んでるんすか?」
「っ…覚えてねえ」
なるほど、これはうららを近づけない方が良さそうだ。
そのテリトリー内で1番慣れている人間のそばに、ずっとくっついているタイプのうららは、当然俺の隣に座る。もちろん、ゼミ内には同学年や先輩の女子もいて話もするが、まだそこまで仲良くなれていないのだ。うららなら、仲良くなれるはずなので、そのうち俺の元から離れると思う。だから、今だけは1番を楽しんでも良いだろう。
「うらら、何飲む?」
「んー、レモンサワー!」
店員を呼び、いくつか注文をし、空いたジョッキなどを持って行ってもらう。まだ手がつけられていない食べ物を引き寄せ、うららの前置いた。
「ありがとう」
「おう」
うららがにこっと笑うたび、単純な俺の心は飛び上がる。
「森崎さぁ、最近どうよ?」
俺とうららの間に入ってこないでくれ、と思いながら先輩の相手をしていると、女子の先輩がうららの隣に移動してきた。一応安心である。
「逆に先輩はどうなんすか?卒論順調ですか?」
「ちげーよ!お前、飲みにきて研究の話なんかすんなよ」
顔を真っ赤にしてヘロヘロになった人間に投げる話題ではないと知っているが、他に話すこともないので聞いただけである。
「小川とは、どうなのよ?」
うらら本人が隣にいるのに、ここで聞くか。
一瞬横目で見ると、食べ物で口をいっぱいにしながら、女子の先輩と何やら盛り上がっているので、こっちのことは気にしていないだろう。
「順調ですよ」
「まじか?!どこまでいったんだよ!?」
「それはちょっと、ねえ?」
「おいおいー!教えろってぇ」
肩をガシッと組まれて近づかれる。この人、酔うと面倒だから潰そう。
「あ、先輩ちょうど追加来ましたよ。はい、飲んで飲んで!」
「お、ありがとな」
大ジョッキの多分ハイボールを手渡せば、調子に乗ってゴクゴク飲み干していく。
どうして先輩からこんなことを聞かれたかと言えば、ゼミに入ってすぐの飲み会で、先輩がうららにちょっかいを掛けて来たことがあった。その時、俺が彼氏なのでやめてもらえますか、と言ってしまったためである。ちなみに、うららは酔って半分寝ていたので知らない。
そのため、ゼミ内では俺とうららが付き合っていることになっている。
でも、それもうららは知らない。というより、うららへの連絡事項が、なぜか全て俺に来るためバレていないというのが正しい。
うららも今のところ俺にベッタリのため、知りようがないのだ。
虚しい、けれど今を楽しみたい。
「え?しーちゃんと?」
大声や笑い声が飛び交い、飲み会の盛り上がりが最高潮に達している中、うららが俺の名前を言った。女子の先輩と何やら話しているらしい。
「そうそう、森崎くんってどんな感じなの?」
これは、多分さっきの俺と同じパターン。サァッと体温が下がる。
「んー??しーちゃんは、優しいですよ」
「えー?!そうなんだ?!それで?!」
急に声が色めき出す。何の話をしてるんだ。
「うーん…いつも私が辛くないようにって考えてくれてて」
「きゃー!!やばーい!!」
まじで、何の話よ。
「ずっと優しいです」
なんか照れるけど、ボロが出たら怖いのでストップさせる。
「おい、うらら」
「あれ、しーちゃん聞いてた?」
女子の先輩たちが、小さくキャァっと喜ぶ。なぜだろうか。
「先輩、聞くならうららより俺に聞いてください」
1番女受けする顔で微笑むと、一人の先輩は後ろに倒れ、一人は奇声を上げて顔を真っ赤にし、一人は大ジョッキを煽った。
本当に何の話をしていたんだ。
「しーちゃん、本当にすごいねえ」
既に酔っている顔をしたうららのデコをはねて、座っている座布団を俺の方へ引き寄せる。そろそろ寝出すだろうから、せめて倒れるなら俺側に来て欲しい。
男の先輩達の話に相槌を打っていると、どすっと人間の重みが太ももに落ちて来た。アルコールで熱を持った体温が伝わってくる。
机の下で見えないことを良いことに、俺はそのしなやかな髪をゆっくりと撫でた。
何度目だろうか、こうして眠ったうららを背負って歩くのは。付き合っているという誤認識のおかげで、うららの世話は全部俺に回ってくる。
役得過ぎて泣けてくるなあ。
「ん…しーちゃん」
掠れた声が耳元でするせいで、肌がざわつく。
「起きた?」
「うーん、眠い」
「いいよ、寝てて」
静かな寝息がして、一度背負い直す。温かな体がぴたりと張り付き、心音が聞こえる。
ずっとこうしていたい。離れたくない。帰したくない。俺のものになればいいのに。
「好きだよ、うらら」
伝えられない気持ちを言葉にして、伝わらない状況にほっとしている。
俺はダサい。
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