【R18】endless summer

はこスミレ

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麗らかな陽だまり5-2

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 手にはスーパーの袋を下げ、荒い呼吸を整える。部屋には電気がついていて、いるのは分かっていた。
 大学の頃から考えたら、有り得ないくらい会っていない。拒否られたらどうしよう、俺の知らない間に彼氏ができてたら…とかダサいことを考えてしまう。
 彼氏ができてたら、報告くらいはするだろう…絶対に嫌だけど。
 うだうだと考える頭を振って、呼び鈴を鳴らす。反応がないため、もう一度鳴らす。しばらく待って、痺れを切らして鳴らす。
 電気つけっぱなしで出勤したのか?うららなら有りえる。
 そう思って踵を返そうとした時、扉の向こうから物音が聞こえた。辛抱強く待っていると、少しだけドアが開き、隙間から顔が覗いた。
「…しーちゃん?」
 隙間に手を突っ込み、無理やりドアを開ける。びっくりして後ずさったうららの顔は真っ白で、いつものぷくっとした頬は削げ、キラキラしていた瞳は陰を落としていた。
「うらら、飯食ってないだろ」
 できるだけ優しい声を出す。
「…うん、でも」
「買って来たから、一緒に食おうぜ」
 時が止まったような静寂の後、うららは今にも決壊しそうな顔で小さく頷いた。
 抱きしめたかった。
 好きなだけ甘やかして、そばにいて、どれだけ俺がうららのことを好きなのか、照れて恥ずかしがるまで伝えて、髪を撫でて口づけて、俺のものにしてしまいたかった。
 でも、その権利はない。
 うららには部屋着に着替えるように伝え、俺はこのワンルームの狭いキッチンを陣取り、食事の支度を始める。
 引っ越してから初めて入ったうららの部屋は、散らかっていてぐちゃぐちゃだった。普段のうららならまずないような荒れようで、人を入れるのも恥ずかしがる状態だったが、今はスウェット姿でぼんやりとしている。
 スーパーで買って来たインスタントの味噌汁とご飯を温めて、冷凍の餃子を焼いた。いい匂いがして、俺の腹が鳴る。
「うらら、できたぞ」
 テーブルの上に置かれたままの雑貨やメイク道具を一旦床に下ろし、食べられるように周りを片付ける。湯気の立つご飯を並べると、うららの向かいに座った。
「いただきます」
「…いただきます」
 小さな声で復唱すると、味噌汁を口に運んだ。その姿をじっと見つめる。
「…おいしい」
 うららの暗い瞳から、ぽたぽたと雫がこぼれ落ちた。
「餃子、まだあるから好きなだけ食べろよ」
「うん…」
 えへへ、と笑って食べ始めるうららに、俺が泣くかと思った。

 食が細くなったのか、前よりも少ない量で満腹になったらしく、苦しいと唸るうららをベッドに上げ、食器を洗い、ついでに部屋のゴミも片付けた。服の整理整頓はできないので、片隅に寄せる。下着とか、見ちゃダメだし。
 ペットボトルからお茶を注ぎ、テーブルの前に置く。俺は少し距離を取ってベッドの下に座った。
 よく考えたら、これって押し込みだよな…でも、襲うつもりも強盗するわけでもないし、飯作ってゴミ捨てって母親みたいなことしかしてないから、許されるだろうか。
 そんなことを思っていると、頭上でお茶を飲む音がした。
「しーちゃん、ありがとう」
 良かった、これは多分許されてる。
「別に、俺が食いたかっただけだし」
 表情を見ようと後ろに顔を向けると、思ったよりも近くにうららがいて、すぐに顔を戻した。
 飲み会で寝落ちたうららを背負っていたくらいの距離感だ。うららの距離感がバグっている。
「なんかね…全然なんにもうまくいかないの」
 うららの声が鼻にかかって、くぐもり始める。
「うん」
「頑張ってるんだけど、空回りしちゃってるみたいで…」
「うん」
 鼻をすする音に、そばにあった箱ティッシュを後ろに渡すと、何枚も引き抜かれた。
「今までどうやって人とコミュニケーション取ってきたのか分かんなくなっちゃって」
「うん」
「ほんとに、どうしたらいいか分かんないの…」
 ひっくひっくと聞こえ出した声に、自分の無力さを感じた。
「そしたら、みんなと連絡取るのも…急に…下手になっちゃって、もしかしたら嫌がられてたかも、とか…考えちゃって、返事できなくて」
「思う訳ないだろ」
 後ろを振り向いて、ぐちゃぐちゃの泣き顔をティッシュで拭く。
「ごめん」
「謝んな」
「でも…」
 とめどなく溢れる綺麗な雫が、頬を伝って俺の手に落ちる。
「いいんだよ、みんなお前のことが大切なんだ。心配くらいさせてくれよ。辛かったら話してくれよ、な?」
「…うん」
「うららが辛いのも、悲しいのも…楽しいことと同じくらい知りたいんだよ。言ってくれよ、頼むから」
「うん…しーちゃん…」
 俺にしがみついて、子どもみたいに声を上げて泣くうららが愛しくて、今この一瞬だけ抱きしめ返した。

「しーちゃん、ごめん」
「いいよ、洗えるやつだから」
 何リットル流したのか、というくらい泣いたうららの涙で、俺のワイシャツとズボンがぐしゃぐしゃになった。
「水を飲みなさい、水を」
 カラカラに乾いたであろう体に、水分を吸収させる。
「ありがとう」
 空になったコップを受け取りテーブルに置く。
「しーちゃんがいてくれて良かった」
「まぁ、俺が一番のダチっしょ」
 うららの可愛さに照れてそう言って、自分の首を絞めたことを後悔する。
「しーちゃん、ずっと友達でいてね。私も、しーちゃんが辛い時、話聞くからね」
 あー、やっぱ、そうなりますよね。
「俺、辛いことないわ」
 嘘、今めっちゃ辛い。ほんとに。
「しーちゃん、強いぶってさ…本当は繊細なのに」
 口を尖らせて俺の肩を突くうららに、めちゃくちゃキスしたくてたまらない。
 好きな女が泣いて頼って隙を見せてるのに、友達認定で何もできないヘタレな俺よ。
「いや、俺強いから。全然大丈夫」
「嘘ばっかり。いいんだ、私はしーちゃんが頑張り屋さんで優しくて、いつも人のこと気にかけてるって知ってるから」
 笑ってそういう好きな女を、見ているだけの俺は本当に情けない。
 だけど、今の関係が壊れるくらいなら…うららを失うくらいなら…このままでいい。

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