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その20
しおりを挟む夕飯の時間辺りになって、さえちゃん先生が帰ってきた。
「おかえりなさい!」
離れのリビングで皿を並べていた千歳を見て、さえちゃん先生は指をさした。
「約束は守れた?」
「もちろん!門の外には一歩も出てません!」
「よろしい。」
自室に荷物を置いてきたさえちゃん先生と、二人で食卓につく。
「さえちゃん先生は、今日ずっと忙しかったんですか。」
手伝ったポテトサラダを頬張り、なかなか美味しいと千歳は思った。
「ん、そこそこ。千歳は?」
「本読んだり、映画見たり、のんびりしてました。あ、夕飯のお手伝いもしたので、ポテトサラダと唐揚げの下味は私がやったんですよ。」
さえちゃん先生が、その二つを順繰りに食べる。
「美味しい。」
「やった!でも味付けは由美子さんなので、大したことないんですけどね!」
それでも、褒められると嬉しい。
「あと、西くんのお友達が来ましたよ。光大さんて言うニコニコ笑う人、さえちゃん先生は知ってますか。」
「ん、まあ。」
「これから度々来るらしいから、さえちゃん先生も会うかもですね。久しぶりの再会?」
千歳の問いに答えず、もくもくとご飯を食べすすめている。
もしかして、知っているけど交流がないのか。さえちゃん先生は無表情で言葉少ない、光大はよく笑うし人当たりが良さそう、正反対だから仲良くないのかもしれない。
そこまで考えが行くと、千歳の心臓が変にバクバクした。
「この話題、嫌でした?」
さえちゃん先生が不快になったらどうしよう、嫌われたくない、という思いが先行する。
「…唐揚げに気を取られてた。」
皿を見ると既に半分が消えていた。
「ああっ、私まだ食べてないのに!さえちゃん先生の食いしん坊!」
「マヨ醤油をかけると美味い。」
お米の上に置いた唐揚げに、マヨネーズを絞って醤油を垂らし、がばっと口に入れた。
「なんてジャンキーな食べ方。」
得意げなさえちゃん先生が、とても可愛らしく見えて、千歳は胸がキュンとした。
ー気持ちに自覚すると、症状が悪化するのね。
さえちゃん先生だったら何でもいいのかもしれないと、納得した。
寝る支度を整えて、美月へメッセージの返信をした。
『ときめき純愛すぎて、えっちな気分にはなりません。』
見ているだけで幸せな気持ちになる。
即座にスマホが震えた。
『そんなことを言えるのも今のうちですぞ。毎日一緒にいて守られたら、魔が差してキスやえっちをするに決まっている!』
それはないだろう、と思いたいが…キスしたいと思ってしまった自分がいた訳だから、半分は否定できない。
『さえちゃん先生にその意思はないでしょ。私が好きなだけで、向こうはそうじゃないもん。』
『でも、女の子同士だからガード緩いよ。くっついたり触ったりは基本問題ないじゃん。思う存分触ってしまえ。』
悪魔の誘惑である。
『どうやって?』
『さりげなくスッと腕を組んでみたり、挨拶がわりにハグしてみたり、色々あるでしょ。』
確かに、さえちゃん先生が手を繋ぐ時は、とてもさりげない。
あれは意識していないからだろう。
『明日、やってみる。』
『今行きなよ!同じ家なんだから!はい、今行く!そして報告ね!』
人の恋路で楽しんでいる。
しかし、自分もドキドキしていた。
「おやすみの挨拶くらいなら、いいかな。」
立ち上がって自分の部屋を出た。
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