魔法使いになりそこなったお話

ruki

文字の大きさ
10 / 20

10

しおりを挟む
彼はやっぱり今年の営業の新入社員の子だった。名前を吉沢新よしざわあらたという。いつもは僕が退社してから外回りから帰ってくるので会うことは無かったのだけど、今日は僕の方が遅くなったのでたまたま会社ですれ違ったらしい。

とりあえず自己紹介だけして会社に戻って行った彼、吉沢くんを思い浮かべても、僕はあの時のことを全く思い出さなかった。

確かに香りは、知っているような気がしないでもない・・・。

彼ら新入社員が会社にきたくらいから、出社すると時々いい香りがするな、とは思っていた。その香りは心地よく、心が落ち着いた。

あの香り、吉沢くんの残り香だったんだ。

時間が経つと消えてしまう香り。恐らくその香りが消える前に出社した時にだけ、嗅ぐことが出来たのだろう。

まさか、それがアルファのフェロモンだとは思わなかった。それも、玲央の父親のだなんて・・・。

僕は人知れず頭を抱えた。

彼は新入社員だ。ということは、僕と10歳も違うことになり、玲央ができた時は19歳・・・大学一年生だ。

僕はいたいけな未成年の学生を襲ってしまったのだろうか・・・?しかも妊娠したということは、発情していたと言うことだ。発情期のフェロモンで何も知らない若いアルファを手篭めに・・・。

てっきりあのまま魔法使いになるかと思っていたら、何も知らないフリをして、いたいけなアルファの子供を襲っていたなんて・・・!

誰もいない部屋で自分のしたかもしれない行いにジダバタしていると、インターフォンが鳴った。

来た。
吉沢くんだ。

モニターを確認して、エントランスのカギを開けるも、分かってしまった事実に会わせる顔がない。けれど呼んでしまった手前帰ってもらう訳にも行かないし、何より、あの時のことを聞きたい。僕はとりあえず何も知らない風を装った。

玄関のインターフォンに笑顔でドアを開ける。

「いらっしゃい。場所すぐ分かった?」

ここは年上の嗜み。どんな状況でも笑顔と余裕で出迎えるのだ。
けれどそんな僕とは対称的に、吉沢くんは顔を強ばらせて少し後ずさった。

怯えてる?
やっぱり僕、あの時吉沢くんを襲っちゃったのかな?

僕の顔もひきつりそうになるけれど、そこは意地で堪えて彼を迎え入れる。するとそこは吉沢くんも素直に応じてくれて、中に入ってくれた。

「そこ洗面所だから、先に手を洗ってきて」

子育てをしていると、手洗いうがいは気になってしまう。うがいはともかく、手は洗ってもらいたい。
ほぼ初対面でのその対応に嫌な顔をするかと思ったら、それに素直に応じてくれる。

いい所の子なのかな?

なんて思いながら手を洗ってきた吉沢くんを促してリビングに入り、ダイニングの椅子を勧める。

「ごはんまだでしょ?適当に作ったから、食べながら話そう」

そう言ってごはんとみそ汁を装った。おかずは下から来てもらうまでに温め直したので大丈夫。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

押しても押してもダメそうなので引くことにします

Riley
BL
俺(凪)には愛して止まない幼馴染(紫苑)がいる。 押しても押してもビクともしない余裕の態度に心が折れた。 引いたらダメだと思っても燃え尽きてしまった…。 ちょっと休憩…。会えないと寂しいけど、引くと言ったからには自分からいけない…

久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ

いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。 いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

琥珀の檻

万里
BL
砂漠の王国の離宮「琥珀の間」で、王・ジャファルは、異母弟であるアザルを強引に抱き、自らの所有物であることを誇示していた。踊り子の息子として蔑まれ、日陰の存在として生きてきたアザルにとって、兄は憎悪と恐怖の対象でしかなかった。 しかし、その密事を見つめる影があった。ジャファルの息子であり、次期王位継承者のサリムである。サリムは叔父であるアザルに対し、憧憬を超えた歪な独占欲を抱いていた。 父から子へ。親子二人の狂おしい執着の視線に晒されたアザルは、砂漠の夜よりも深い愛憎の檻に囚われていく。

S級エスパーは今日も不機嫌

ノルジャン
BL
低級ガイドの成瀬暖は、S級エスパーの篠原蓮司に嫌われている。少しでも篠原の役に立ちたいと、ガイディングしようとするが拒否される日々。ある日、所属しているギルドから解雇させられそうになり、焦った成瀬はなんとか自分の級を上げようとする。

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

やけ酒して友人のイケメンに食われたら、付き合うことになった

ふき
BL
やけ酒の勢いで友人に抱かれた榛名は、友人の隠された想いに気付いてしまう。 「お前、いつから俺のこと好きなの?」 一夜をなかったことにしようとする瑞生と、気付いたからには逃げない榛名。 二人の関係が、少しずつ変わっていく。 瑞生(ミズキ)×榛名(ハルナ)

処理中です...