Condense Nation

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3章 東西都市国家大戦編

第54話  地から放った者

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トウキョウCN 豊鳥エリア

ズドドドド ズパァァオン ドシュッ

 トウキョウ兵の迎撃は止むことなく、どこまでも続いていた。
複雑な地形、強力な兵器、何より圧倒的な数で一切の幅を
許さずに関東兵の進路を強固にはばんでいる。
レッドは味方達を案じながらどうするべきかレイチェルに聞く。

「どこにいても、猛攻撃の嵐だ。
 司令、目標場所の見当はつきましたか?」
「「上層フロアに指令室がある可能性があります。
  基本、地下はライオットギアなどの重機が存在、
  指令系統は上部にあるので、高層フロアを探してみて下さい」」

総司令官が摩天楼まてんろうエリアを示した。
組織の中枢は基本、奥の方にある。
トウキョウでいう奥とは高層か地下かのどちらかによるはずで、
高層を選択。
話を聞いた他の兵達も上を意識して動こうとするが、
膨大な数に及ぶ混戦でうまく連携がとれていないようだ。

「本隊とはぐれちまった、手を貸してくれ!」
「周りをよく観ろ、どこも敵影反応ばかりだぞ!」

シールド脇から進路を見直すイバラギ、トチギ兵士達。
どこかしこの通路もトウキョウ兵が待ち伏せしている。
密集市街地の中で少しでも進めそうな足場を探してゆく。
1つ、可能性があるとしたら壁。
クモ移動ができる関東兵の1人が見上げた先には中層階があった。

「地上が無理なら、壁伝いに向かえば・・・」
「上だ、上を目指すぞ!」

ソリッドワイヤーを壁に突き刺し、反動で上に登っていく。
その瞬間、1兵士が足を踏み外してしまう。

「わ、わあああぁぁぁっ!?」

ギュルッ パシン

落下寸前に足にワイヤーが巻き付き、一寸に助けられる。
グンマ兵達もこのエリアまでやって来ていた。

「お前達にこの高さでの展開は慣れてないだろう?
 無理せずに一緒に来るんだ」
「「た、助かった・・・」」
「高所エリアでは、グンマCNが先に展開しまーす!
 あなた方は後陣としてついてきてくださーい!」
「うおおおおおおおっほほ!」
「今回ばかりはあたしも叫びたくなるわね。
 グンマらしく、緑に舞いなさーい!」

やぶれかぶれな状況か、陣頭のマリサも高揚し始める。
バグウォームも緑から灰色に変えて背景の建造物に合わせていた。
グンマ兵の動きに、トウキョウ兵も対応しづらくなる。

キュルルル

「ヘリ・・・まず!?」

ズドドドド

縦長コンクリートの背後から現れたローラーフライヤーに
奇襲をかけられた。
通常、ヘリ型ビークルは狭い建造物の間に入る事はない。
リスクも省みない人間離れした行動で考えられるのは1つ。
機内に誰も入っていないという根拠だけだ。

「無人機ッ、なら遠慮なくやらせてもらうわ!」

摩天楼エリアといえど、敵の手が空いている場所などある
はずがなく密集するトウキョウの防衛策にそう隙はない。
東北軍に与えてもらったパルスミノルを空中で発射しようと
引き金をひこうと腰をひねってエイムする。
数十mの空中階に無数の弾丸が散り続けていた。


万代田エリア

 地上でも同様にトウキョウの壁を崩せなく、牽制けんせいし合う
射間200mを保つ保たれつ撃ち合いが続く。
ライオットギアで機体を前面に押し出そうとしても、
すぐに大型砲撃で破砕されるので近寄れない。
だが、局面は少しずつ変化が見られていた。
レッドの行動に振り回されて、防衛の亀裂が生じたからだ。

ドォン ドォン ドォン シュッ

「なんだアイツは・・・当たりやしない。PD、あいつを狙え!」
「識別不明、存在しま――ガッ」

ドンッ

「と、気を取られている内に、あたし達が狙撃すると!」
「レッド様々です!」

カオリも後方支援で狙撃。
レッドをおとりに関東兵も援護する作戦が功を期していた。
監視していたPDはどういうわけかレッドを確認できず、
大半のトウキョウ兵から捕捉されずに人だけ相手をする羽目になったのだ。

「敵、1体異常個体発見。狙撃では手に負えない!」
「ラチがあかああああああん!
 第630~650隊、前進しろ!」

一部のトウキョウ兵が動きを見せた。
軍勢を目にしたワタルはこのままの戦況が危うくなると察知して、
戦闘より武装解除を優先にかじをきろうとする。

「司令、トウキョウのリソースはどれくらい割り出せているのか、
 判明してる?」
「「ざっと3割は甘谷エリアという場所からは分かった。
  しかし、残りの出所は不明だ。
  これだけの数だ、供給元がまだどこかにあるだろう」」
 (供給元か・・・)

ナミキの状況報告に、ワタルは辺りの建造物を見渡す。
トウキョウといえば、圧倒的な数に及ぶCNだ。
ならば、人の数だけ支えるリソースも必要になるはず。
多数という数の利点故の欠点を改めて見直しながら、
ある1つの案を思いつきメンバー達に伝えた。

「食料貯蔵庫を探るぞ、んで頂戴する!」
「「食糧庫・・・なるほど、疲弊ひへいを狙うんだね!?」」
「というわけで、イバラギはそっちに移動する!
 レッド、お前はここを任せた」
「「ああ、気をつけて行ってくれ!」」

これからどう立ち回ろうかと状況判断する矢先に、
レイチェルが特徴を捉えて対策を投じた。

「「トウキョウCNは構造上、縦長ばかりのフロアが続いています。
  その円周状は複雑ながらも通路が必ず存在しているので、
  回る流れの中で行動していくのが相応しいと思います。
  水中の流石りゅうせきを削る様に」」

どんなに固い岩でも水の流れが続けば削れて摩耗される。
目的地へすぐに向かわず、外周回りに囲うよう指示した。

「その水を抜き出す様に、
 円を描いて立ち回って相手の身を削る作戦ですね?」
「「御理解が早くてなによりです」」
「ええ、経験済み流されてきた川ですから」
 皆聞こえたか!? 俺はケニーで囮役になる。
 旋回しながら、上に上り詰めていく!」
「アイアイサー!」


串野エリア

 トウキョウCN西部にも関東の輪が迫っている。
チバ、イバラギ、東北の大きな軌道のうねりが変化し始めて
トウキョウ兵を惑わせていく。
近場にはトチギ兵達もまばらながら進軍していたが、
エリー分隊も関東兵に守られて侵攻していた。

 (ううっ、ラチがあかない・・・)

川がある橋から東部から中々先に進めない。
地上班の周りにも無数のトウキョウ兵による流れを分断できずに
苦しむ関東組みがいる。愛と平和の関東シールド(非公式名)の
発案者も弾を防ぐだけで精一杯だった。

ピピッ

「無線連絡が来た、あっ!?」
「どうしたの?」
「手が滑って周波数をズラしちゃった、設定し直し!」

そして、再度回線がつながり相手の内容を聞き出すと、
退路要請の救助だった。助けに行こうにもこちらも動けず、
この現状を突破しない事には変わりない。
とにかく突破口を見つけるべく、反響ワイヤーで音を探るが。

「えーと、この壁の先に約10人、あっちに約35人、
 12時の方向に約69人・・・敵だらけ」
「エリー、適正進路は他にないの!?」

ズドン キィン

「あわわわ!」

パァン ブスッ

 (糸が勝手に出ちゃった!?)

銃声音に怯えて、誤ってソリッドワイヤーを射出させてしまう。
慌てた拍子床に刺さった先端をすぐに戻そうとした時だ。

「ん?」
「エリーまだか!? 早くここから動かないと!」
「この中に通路がある・・・人の話し声」
「え!?」

わずかな人声が耳に入り、場所がどこかよく見渡してみると。

「橋の下に小さなドアがある・・・」

人気のなさそうなそこは、橋の暗渠ながらも柱の上のほんの
小さな足場にあったのだ。降りようにも梯子はしごすらなく、
足を入れるのも一苦労しそうな狭い場所にあった。
糸検知を再確認すると、先の救援要請区画と一致。
立体移動してドアに入ると中は薄暗く、外と対比して静かな様子だ。
その先に目を凝らして見ると。

「誰かいる!?」

見るからに外にいた連中とは異なる格好だ。
腰に黒い箱を携帯せず、ほとんど兵装をしていない。

「誰だ!?」
「大丈夫、あなた達に危害を加えない!」

だが、彼女は気付いていない。
同盟CNの者でなく、敵性CNの者達の無線を拾っていた。
それもそのはず、エリーは周波数を間違えていたのだ。

「信号を送っていたのはあなた達だったの?
 何故こんな所に?」
放棄アバンドンド組だ、今回の作戦に参加していない者だ」
「反トウキョウ組もいる、
 俺達は長年あいつらにいられていたからな」

数えて12人いる彼らはトウキョウに意を汲まないという。
トウキョウだけでなくサイタマ、カナガワCNの表記もある。
私は不思議に問いだした。

「あなた達もトウキョウと同盟関係でしょ?
 なのにどうして?」
「そんなモン形だけだ。元々、烏合うごうの衆で
 ここは始めからいつわりのたいを成してる」
「最近は目まぐるしい再配置が続いてばかり。
 下の者ほど、対応に苦しんでいるんだ」
「特に、今はヤバい。
 妙な技術を取り入れてきてから、ここはすっかり変わっちまった・・・」
「旧技術の無駄をスッパリと切るのがここの特徴だ。
 コツコツ努力してきた報いもありゃしねえ。
 俺の工房も即日廃棄にしやがって・・・」
「・・・・・・」

彼らはトウキョウの進化についていけない者達だった。
統廃合の連続に疲れ切って振り回される今の現状をうれいて
現場から逃げ出してきたという。
それを聞いたエリーはかつて、自分と似た境遇に重ねて
助けてあげたいと思い、そして次に提案を述べた。

「あなた方をここから出してあげる!」
「今、本部と連絡を取りました。了承済みです!」
「そうだ、他の仲間がではからっている。
 あいつらが来たら、ここを出よう」
「ついてこい、こっちだ」


トウキョウCN 手立エリア

 一方で東北軍も関東軍の後を追いつつ、
トウキョウCN北部に足を踏み入れていた。
先方隊は被害を出しながらもコクーンの防御性能が大きく果たせて
中心部付近にまで食い込ませたという。
クリーズは的確に付いているレイチェルの作戦を素直に信じて、
とあるエリアの建造物を目指すよう提案する。

「戦況は良い傾向となり、ラボリ成功は見えてきたとの事。
 アオモリ、アキタ、ミヤギ、ヤマガタCN、第2~5分隊は
 彼らと参加して重要拠点の中心部に向かってもらう」
「前線サポートか」
「君達は中枢位置と思わしき区画を共に攻略してほしい。
 すぐさまベルーガに乗ってくれたまえ!」
「了解!」

関東と交じって叩く手段に打って出る。
最前線に立たされる分、籠手を奮うに不足はなさそうだ。
今更どうというわけでもないが、度胸と不満をおしくらまんじゅうに
トウキョウ中心地へ飛んで向かった。


古宿エリア軍事執行局 中層階

 見慣れぬエリアをバタバタして駆け上がってきた部隊がいる。
先に到着したのはロック達の分隊だ。

「こちら東北CN、中層くらいまで到着」
「「了解、そのまま上層階まで到達して下さい」」

話によると、トウキョウの重要箇所の1つらしい。
CN法の根拠が見つかる見込みとして東北に潜入させた。
ただ、進めというにも道への道筋が辿れずに不頓着ふとんちゃく
見る限りの縦長フロアが広がっているこのエリアは方向感覚を
狂わせる構造になっている。

「くっ、流石最凶クラスのCNというだけあるな。
 道が入り組んで分かりやしねえ」
「他の皆と伝えあって進んだ方が良いわね。
 関東のCNも数十人すぐ側にいるし。
 隊長、陣形はしっかり見ておいてよ!」
「だけは余計だ、しっかり脇を固めてろ!」

周辺を見回していたデイビッドが地理情報を報告する。

「建築物端にテラスが見えた。
 ここから外にある通路の方が見渡しが良いな。
 室内だと閉じ込められる危険性もある」
「そ、そうか。ならそこから上がるぞ!」
「ん、異形な敵影反応があるさ!」

ガサガサガサ

外壁の奥から四つ足のライオットギアが数機向かってきた。
ヤモリの様な物が壁を這いながら来る、侵入者撃退機だ。

「この絶妙な距離、R-BOXで撃つさ」

ピピピピピ・・・

「ロックオン機能を感知してるさ!?
 警戒されて離れようとしてる!」

ロックオン検知されて距離をとろうとする。
ならば、急接近にもちこもうとロックが近づいた。

「オラッ!」

ガツン ブブブブ ゴトン

内側からくる衝撃で中枢機能が壊れ、四つ足は停止した。

「破壊工作は俺の特権だ!
 1回触れりゃ、こっちのモンだ」
「ううっ、自慢箱にこんな欠点があったとは・・・」
「こいつら近寄ってくるだけで何も・・・!?」

ガシッ

壁際に背を向けているロックはゲッコの対処にうつつを抜かす。
だが、不意に上から1機現れ、掴まれてしまう。

「させっかよ!」

ガツン ブブブブブ

思わず肘打ちしても効くわけもなく、わずかに自由が利いた左腕で
滑らかなボディを打撃。だが、どんな吸着力なのか中々とれない。
脚だけが素早く動けながらも、しどろもどろによろめいてもがく。

「うおああああ!?」
「ロック!?」

カレン達はロックに巻き添えを受ける危険でSRを撃てずに、
すぐに接近できない。反対側の外壁からも再びやってきて助力不可能。
完全に振りほどけず落下、俺は敵機とまるごと10m下へ落ちていった。


 中庭らしき場所に落とされてしまう。
途中の高さで別のブロックとぶつかり、元の場所が分からなくなる。
見た感じ、当の妙な機体は他に見当たらないようだが。

 (早く合流しねーと・・・)

別階に分かれただけで、まだすぐ上にいるはずだ。
敵もいないようで、中継廊下を歩いてメンバーを探す。
ウィンドウの外で喧騒を聴き、トウキョウ兵がいるのかと
コッソリ観てみると。

 (誰か戦ってるのか?)

1人の男が2mはある巨漢と素手で戦っている。
武器も持たず、拳で殴り合う光景があった。

 (あの重量差じゃ、厳しいだろーに・・・)

このまま無視しても良いだろうに、ロックはそこから
目が離すことができなかった。似た境遇に遭わされた時
かつて、自身を助けてくれたあの時の言葉が脳裏をよぎったのだ。


「お前はまだ若ぇ、こんなとこで死ぬな!」


こんな時にあの隊長の言葉が脳裏から浮き出てきた。
見捨てるなど、自分だけのうのうと生かされる有難味を
独占しようなどと、気持ち悪さを持てなかったからだ。

「おい、これを使え!」

装備していたエアークエイクナックルの片方を低身長の男に向かって
投げつける。援護で加勢しようにも、そこへ出られるドアも
見つからず、自分もいつまでもここにいるわけにはいかない。
男の健闘を願い、ロックは先の通路へと突き進んでいく。


 (誰もいないみたいだ)

 上層階の一角にもかかわらず、意外に警備は薄く人気がない。
不吉な意図を疑うが、ここで細かく考えている場合じゃなく
一刻も早く部隊と合流しないと身が危なくなる。
電波受けできそうな見晴らしの良さそうな所へ出ようと、
螺旋階段を駆け上がり、そして屋上に出た。

(誰かいる・・・あいつは!?)

1人よく見た者が立っていた。
目にした直後は一度見間違えたかと思ったが、視界は正しく映る。
元東北兵、アキタCNの部隊長の男だ。










「お前・・・こんな所まで来たのか?」
「・・・・・・・・・アキラ」
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