まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
64 / 190
第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き

第58話:その手を離した日――マリの懺悔

しおりを挟む
私の家は、どこにでもあるような農村の、貧しい農家だった。

代々、地主の貴族様に頭を下げ、畑を耕して、どうにか家を持てていた。

父と母、それに子どもが七人。私は長女だった。

弟や妹の面倒を見ながら、いずれ誰かの嫁になって――

そうして、母の人生をなぞる。それが、当たり前の未来だと思っていた。

でも、カズキ王が“学校”を作った。

平民でも、貧乏でも、学べる場所。スキルがもらえる場所。

授業料もいらない。ご飯も出る。

……一人分、家の口が減るなら、それで十分だと思った。

だから、私は入学した。

――そして、あの子に出会った。

「はじめまして。セリナと申します。今日からお世話になります」

元・奴隷の少女、セリナ。

どこにでもいそうな、少しぼんやりした子。

けれど、その笑顔は無邪気すぎて……私は、妹たちと重ねてしまった。

彼女とは同室になった。

だから私は、彼女を――自然と、妹みたいに思ってしまった。



「字が読めるようになりたいんです。……まだ、全然分からないけれど」

「このままじゃ、私はダメだって思うんです。

 図書館で掃除していると、皆さんが楽しそうに本を読んでいて……

 でも私には、それが壁みたいに感じられる。届かない世界のようで……」

「やめときなよ」

私は、つい言ってしまった。

「どうせ私たちは、卒業しても使用人。字を覚えても、使う機会なんてないんだから」

「……いいえ、本を読めば、人は変われるって……お母さんが、そう言ってました」

まったく、本当に――どうしようもない妹分だ。

読み書きなんて、貴族のものでしかない。

そんなの、私たちに教えてくれる人がいるわけ――



……と思っていた、その夜。

「ふふっ♪」

彼女は、嬉しそうに本を抱えて帰ってきた。

なんでも、魔法使いの男の人が教えてくれたらしい。

あやしいヤツじゃないだろうな?と何度も聞いたけれど、

どうやら、ちょっと変わった“お貴族様”らしい。

なら、――いっそお嫁にでも行ってくれたら

そう思った。

姉としてじゃなく、たぶん、親心のつもりだった。

でも……幸せな時間なんて、いつも長くは続かない。



「号外号外! 聖剣泥棒はメイド!? 王都で大事件です!」

ある日突然、セリナが“聖剣泥棒”として王都で話題になった。

あっという間に、貴族からの圧力が学校に押し寄せる。

「その聖剣を盗んだ者、御校の生徒ではないか?」

「いえ、そのような者は存じません。我が校の名を騙る、不埒な者でしょう」

校長先生は、貴族に頭を下げた。

「セリナという生徒は、我が校にはいなかった。……いいな?」

「違反した者は、彼女と同じ末路を辿ってもらう」

……そう脅されて、先生たちも、生徒たちも、皆、口を閉ざした。

私も……。

……怖かった。

セリナの味方をしたら、次は私だと思った。

私の家には、まだ幼い弟や妹がいる。両親も、高齢だ。

もし私が学校を追われたら――家族が、生きていけなくなる。

だから、私は逃げた。

ごめん、セリナ。

私は……あなたを守る勇気がなかった。

私は、平凡で、臆病な姉だった。

せめてもの償いに、私の全財産を私の部屋に残した。

慣れない字を町の看板を見よう見まねで書いた手紙も置いていた。

でも――

罪悪感は、消えなかった。



それからというもの、あの子が夢に出てくるようになった。

「なんで助けてくれなかったですか?」「お姉ちゃんだって思ったのに……」

そんな声が、眠るたび、耳に刺さる。

苦しくて、うなされた、私は教会でボランティアを始めた。

せめて、セリナみたいな子を助けられれば――

そうすれば、少しだけ、私の心が救われる気がした。

……そんな中で、彼に出会った。

「よく見かけますね。よほど、この仕事が好きなのでしょう。

 僕は、シエノ。よろしく、優しきレディ」

それが、私の……“運命の人”だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!

神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。 そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。 これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。  

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

いわゆる異世界転移

夏炉冬扇
ファンタジー
いわゆる異世界転移 森で目を覚まし、虫や動物、あるいは、魔物や野盗に襲われることなく 中規模な街につき、親切な守衛にギルドを紹介され さりげなくチート披露なパターンA。 街につくまえに知る人ぞ知る商人に 訳ありのどこぞの王族に会うパターンBもある。 悪役令嬢なるパターンCもある。 ステータスオープンなる厨二病的呪文もかなり初歩にでてくる。 ゲームの世界で培った知識が役に立つこともある、らしい。 現実問題、人はどうするか?

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

処理中です...