64 / 190
第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き
第58話:その手を離した日――マリの懺悔
しおりを挟む
私の家は、どこにでもあるような農村の、貧しい農家だった。
代々、地主の貴族様に頭を下げ、畑を耕して、どうにか家を持てていた。
父と母、それに子どもが七人。私は長女だった。
弟や妹の面倒を見ながら、いずれ誰かの嫁になって――
そうして、母の人生をなぞる。それが、当たり前の未来だと思っていた。
でも、カズキ王が“学校”を作った。
平民でも、貧乏でも、学べる場所。スキルがもらえる場所。
授業料もいらない。ご飯も出る。
……一人分、家の口が減るなら、それで十分だと思った。
だから、私は入学した。
――そして、あの子に出会った。
「はじめまして。セリナと申します。今日からお世話になります」
元・奴隷の少女、セリナ。
どこにでもいそうな、少しぼんやりした子。
けれど、その笑顔は無邪気すぎて……私は、妹たちと重ねてしまった。
彼女とは同室になった。
だから私は、彼女を――自然と、妹みたいに思ってしまった。
*
「字が読めるようになりたいんです。……まだ、全然分からないけれど」
「このままじゃ、私はダメだって思うんです。
図書館で掃除していると、皆さんが楽しそうに本を読んでいて……
でも私には、それが壁みたいに感じられる。届かない世界のようで……」
「やめときなよ」
私は、つい言ってしまった。
「どうせ私たちは、卒業しても使用人。字を覚えても、使う機会なんてないんだから」
「……いいえ、本を読めば、人は変われるって……お母さんが、そう言ってました」
まったく、本当に――どうしようもない妹分だ。
読み書きなんて、貴族のものでしかない。
そんなの、私たちに教えてくれる人がいるわけ――
*
……と思っていた、その夜。
「ふふっ♪」
彼女は、嬉しそうに本を抱えて帰ってきた。
なんでも、魔法使いの男の人が教えてくれたらしい。
あやしいヤツじゃないだろうな?と何度も聞いたけれど、
どうやら、ちょっと変わった“お貴族様”らしい。
なら、――いっそお嫁にでも行ってくれたら
そう思った。
姉としてじゃなく、たぶん、親心のつもりだった。
でも……幸せな時間なんて、いつも長くは続かない。
*
「号外号外! 聖剣泥棒はメイド!? 王都で大事件です!」
ある日突然、セリナが“聖剣泥棒”として王都で話題になった。
あっという間に、貴族からの圧力が学校に押し寄せる。
「その聖剣を盗んだ者、御校の生徒ではないか?」
「いえ、そのような者は存じません。我が校の名を騙る、不埒な者でしょう」
校長先生は、貴族に頭を下げた。
「セリナという生徒は、我が校にはいなかった。……いいな?」
「違反した者は、彼女と同じ末路を辿ってもらう」
……そう脅されて、先生たちも、生徒たちも、皆、口を閉ざした。
私も……。
……怖かった。
セリナの味方をしたら、次は私だと思った。
私の家には、まだ幼い弟や妹がいる。両親も、高齢だ。
もし私が学校を追われたら――家族が、生きていけなくなる。
だから、私は逃げた。
ごめん、セリナ。
私は……あなたを守る勇気がなかった。
私は、平凡で、臆病な姉だった。
せめてもの償いに、私の全財産を私の部屋に残した。
慣れない字を町の看板を見よう見まねで書いた手紙も置いていた。
でも――
罪悪感は、消えなかった。
*
それからというもの、あの子が夢に出てくるようになった。
「なんで助けてくれなかったですか?」「お姉ちゃんだって思ったのに……」
そんな声が、眠るたび、耳に刺さる。
苦しくて、うなされた、私は教会でボランティアを始めた。
せめて、セリナみたいな子を助けられれば――
そうすれば、少しだけ、私の心が救われる気がした。
……そんな中で、彼に出会った。
「よく見かけますね。よほど、この仕事が好きなのでしょう。
僕は、シエノ。よろしく、優しきレディ」
それが、私の……“運命の人”だった。
代々、地主の貴族様に頭を下げ、畑を耕して、どうにか家を持てていた。
父と母、それに子どもが七人。私は長女だった。
弟や妹の面倒を見ながら、いずれ誰かの嫁になって――
そうして、母の人生をなぞる。それが、当たり前の未来だと思っていた。
でも、カズキ王が“学校”を作った。
平民でも、貧乏でも、学べる場所。スキルがもらえる場所。
授業料もいらない。ご飯も出る。
……一人分、家の口が減るなら、それで十分だと思った。
だから、私は入学した。
――そして、あの子に出会った。
「はじめまして。セリナと申します。今日からお世話になります」
元・奴隷の少女、セリナ。
どこにでもいそうな、少しぼんやりした子。
けれど、その笑顔は無邪気すぎて……私は、妹たちと重ねてしまった。
彼女とは同室になった。
だから私は、彼女を――自然と、妹みたいに思ってしまった。
*
「字が読めるようになりたいんです。……まだ、全然分からないけれど」
「このままじゃ、私はダメだって思うんです。
図書館で掃除していると、皆さんが楽しそうに本を読んでいて……
でも私には、それが壁みたいに感じられる。届かない世界のようで……」
「やめときなよ」
私は、つい言ってしまった。
「どうせ私たちは、卒業しても使用人。字を覚えても、使う機会なんてないんだから」
「……いいえ、本を読めば、人は変われるって……お母さんが、そう言ってました」
まったく、本当に――どうしようもない妹分だ。
読み書きなんて、貴族のものでしかない。
そんなの、私たちに教えてくれる人がいるわけ――
*
……と思っていた、その夜。
「ふふっ♪」
彼女は、嬉しそうに本を抱えて帰ってきた。
なんでも、魔法使いの男の人が教えてくれたらしい。
あやしいヤツじゃないだろうな?と何度も聞いたけれど、
どうやら、ちょっと変わった“お貴族様”らしい。
なら、――いっそお嫁にでも行ってくれたら
そう思った。
姉としてじゃなく、たぶん、親心のつもりだった。
でも……幸せな時間なんて、いつも長くは続かない。
*
「号外号外! 聖剣泥棒はメイド!? 王都で大事件です!」
ある日突然、セリナが“聖剣泥棒”として王都で話題になった。
あっという間に、貴族からの圧力が学校に押し寄せる。
「その聖剣を盗んだ者、御校の生徒ではないか?」
「いえ、そのような者は存じません。我が校の名を騙る、不埒な者でしょう」
校長先生は、貴族に頭を下げた。
「セリナという生徒は、我が校にはいなかった。……いいな?」
「違反した者は、彼女と同じ末路を辿ってもらう」
……そう脅されて、先生たちも、生徒たちも、皆、口を閉ざした。
私も……。
……怖かった。
セリナの味方をしたら、次は私だと思った。
私の家には、まだ幼い弟や妹がいる。両親も、高齢だ。
もし私が学校を追われたら――家族が、生きていけなくなる。
だから、私は逃げた。
ごめん、セリナ。
私は……あなたを守る勇気がなかった。
私は、平凡で、臆病な姉だった。
せめてもの償いに、私の全財産を私の部屋に残した。
慣れない字を町の看板を見よう見まねで書いた手紙も置いていた。
でも――
罪悪感は、消えなかった。
*
それからというもの、あの子が夢に出てくるようになった。
「なんで助けてくれなかったですか?」「お姉ちゃんだって思ったのに……」
そんな声が、眠るたび、耳に刺さる。
苦しくて、うなされた、私は教会でボランティアを始めた。
せめて、セリナみたいな子を助けられれば――
そうすれば、少しだけ、私の心が救われる気がした。
……そんな中で、彼に出会った。
「よく見かけますね。よほど、この仕事が好きなのでしょう。
僕は、シエノ。よろしく、優しきレディ」
それが、私の……“運命の人”だった。
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!
神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。
そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。
これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
いわゆる異世界転移
夏炉冬扇
ファンタジー
いわゆる異世界転移
森で目を覚まし、虫や動物、あるいは、魔物や野盗に襲われることなく
中規模な街につき、親切な守衛にギルドを紹介され
さりげなくチート披露なパターンA。
街につくまえに知る人ぞ知る商人に
訳ありのどこぞの王族に会うパターンBもある。
悪役令嬢なるパターンCもある。
ステータスオープンなる厨二病的呪文もかなり初歩にでてくる。
ゲームの世界で培った知識が役に立つこともある、らしい。
現実問題、人はどうするか?
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる