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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き
第58話:その手を離した日――マリの懺悔
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私の家は、どこにでもあるような農村の、貧しい農家だった。
代々、地主の貴族様に頭を下げ、畑を耕して、どうにか家を持てていた。
父と母、それに子どもが七人。私は長女だった。
弟や妹の面倒を見ながら、いずれ誰かの嫁になって――
そうして、母の人生をなぞる。それが、当たり前の未来だと思っていた。
でも、カズキ王が“学校”を作った。
平民でも、貧乏でも、学べる場所。スキルがもらえる場所。
授業料もいらない。ご飯も出る。
……一人分、家の口が減るなら、それで十分だと思った。
だから、私は入学した。
――そして、あの子に出会った。
「はじめまして。セリナと申します。今日からお世話になります」
元・奴隷の少女、セリナ。
どこにでもいそうな、少しぼんやりした子。
けれど、その笑顔は無邪気すぎて……私は、妹たちと重ねてしまった。
彼女とは同室になった。
だから私は、彼女を――自然と、妹みたいに思ってしまった。
*
「字が読めるようになりたいんです。……まだ、全然分からないけれど」
「このままじゃ、私はダメだって思うんです。
図書館で掃除していると、皆さんが楽しそうに本を読んでいて……
でも私には、それが壁みたいに感じられる。届かない世界のようで……」
「やめときなよ」
私は、つい言ってしまった。
「どうせ私たちは、卒業しても使用人。字を覚えても、使う機会なんてないんだから」
「……いいえ、本を読めば、人は変われるって……お母さんが、そう言ってました」
まったく、本当に――どうしようもない妹分だ。
読み書きなんて、貴族のものでしかない。
そんなの、私たちに教えてくれる人がいるわけ――
*
……と思っていた、その夜。
「ふふっ♪」
彼女は、嬉しそうに本を抱えて帰ってきた。
なんでも、魔法使いの男の人が教えてくれたらしい。
あやしいヤツじゃないだろうな?と何度も聞いたけれど、
どうやら、ちょっと変わった“お貴族様”らしい。
なら、――いっそお嫁にでも行ってくれたら
そう思った。
姉としてじゃなく、たぶん、親心のつもりだった。
でも……幸せな時間なんて、いつも長くは続かない。
*
「号外号外! 聖剣泥棒はメイド!? 王都で大事件です!」
ある日突然、セリナが“聖剣泥棒”として王都で話題になった。
あっという間に、貴族からの圧力が学校に押し寄せる。
「その聖剣を盗んだ者、御校の生徒ではないか?」
「いえ、そのような者は存じません。我が校の名を騙る、不埒な者でしょう」
校長先生は、貴族に頭を下げた。
「セリナという生徒は、我が校にはいなかった。……いいな?」
「違反した者は、彼女と同じ末路を辿ってもらう」
……そう脅されて、先生たちも、生徒たちも、皆、口を閉ざした。
私も……。
……怖かった。
セリナの味方をしたら、次は私だと思った。
私の家には、まだ幼い弟や妹がいる。両親も、高齢だ。
もし私が学校を追われたら――家族が、生きていけなくなる。
だから、私は逃げた。
ごめん、セリナ。
私は……あなたを守る勇気がなかった。
私は、平凡で、臆病な姉だった。
せめてもの償いに、私の全財産を私の部屋に残した。
慣れない字を町の看板を見よう見まねで書いた手紙も置いていた。
でも――
罪悪感は、消えなかった。
*
それからというもの、あの子が夢に出てくるようになった。
「なんで助けてくれなかったですか?」「お姉ちゃんだって思ったのに……」
そんな声が、眠るたび、耳に刺さる。
苦しくて、うなされた、私は教会でボランティアを始めた。
せめて、セリナみたいな子を助けられれば――
そうすれば、少しだけ、私の心が救われる気がした。
……そんな中で、彼に出会った。
「よく見かけますね。よほど、この仕事が好きなのでしょう。
僕は、シエノ。よろしく、優しきレディ」
それが、私の……“運命の人”だった。
代々、地主の貴族様に頭を下げ、畑を耕して、どうにか家を持てていた。
父と母、それに子どもが七人。私は長女だった。
弟や妹の面倒を見ながら、いずれ誰かの嫁になって――
そうして、母の人生をなぞる。それが、当たり前の未来だと思っていた。
でも、カズキ王が“学校”を作った。
平民でも、貧乏でも、学べる場所。スキルがもらえる場所。
授業料もいらない。ご飯も出る。
……一人分、家の口が減るなら、それで十分だと思った。
だから、私は入学した。
――そして、あの子に出会った。
「はじめまして。セリナと申します。今日からお世話になります」
元・奴隷の少女、セリナ。
どこにでもいそうな、少しぼんやりした子。
けれど、その笑顔は無邪気すぎて……私は、妹たちと重ねてしまった。
彼女とは同室になった。
だから私は、彼女を――自然と、妹みたいに思ってしまった。
*
「字が読めるようになりたいんです。……まだ、全然分からないけれど」
「このままじゃ、私はダメだって思うんです。
図書館で掃除していると、皆さんが楽しそうに本を読んでいて……
でも私には、それが壁みたいに感じられる。届かない世界のようで……」
「やめときなよ」
私は、つい言ってしまった。
「どうせ私たちは、卒業しても使用人。字を覚えても、使う機会なんてないんだから」
「……いいえ、本を読めば、人は変われるって……お母さんが、そう言ってました」
まったく、本当に――どうしようもない妹分だ。
読み書きなんて、貴族のものでしかない。
そんなの、私たちに教えてくれる人がいるわけ――
*
……と思っていた、その夜。
「ふふっ♪」
彼女は、嬉しそうに本を抱えて帰ってきた。
なんでも、魔法使いの男の人が教えてくれたらしい。
あやしいヤツじゃないだろうな?と何度も聞いたけれど、
どうやら、ちょっと変わった“お貴族様”らしい。
なら、――いっそお嫁にでも行ってくれたら
そう思った。
姉としてじゃなく、たぶん、親心のつもりだった。
でも……幸せな時間なんて、いつも長くは続かない。
*
「号外号外! 聖剣泥棒はメイド!? 王都で大事件です!」
ある日突然、セリナが“聖剣泥棒”として王都で話題になった。
あっという間に、貴族からの圧力が学校に押し寄せる。
「その聖剣を盗んだ者、御校の生徒ではないか?」
「いえ、そのような者は存じません。我が校の名を騙る、不埒な者でしょう」
校長先生は、貴族に頭を下げた。
「セリナという生徒は、我が校にはいなかった。……いいな?」
「違反した者は、彼女と同じ末路を辿ってもらう」
……そう脅されて、先生たちも、生徒たちも、皆、口を閉ざした。
私も……。
……怖かった。
セリナの味方をしたら、次は私だと思った。
私の家には、まだ幼い弟や妹がいる。両親も、高齢だ。
もし私が学校を追われたら――家族が、生きていけなくなる。
だから、私は逃げた。
ごめん、セリナ。
私は……あなたを守る勇気がなかった。
私は、平凡で、臆病な姉だった。
せめてもの償いに、私の全財産を私の部屋に残した。
慣れない字を町の看板を見よう見まねで書いた手紙も置いていた。
でも――
罪悪感は、消えなかった。
*
それからというもの、あの子が夢に出てくるようになった。
「なんで助けてくれなかったですか?」「お姉ちゃんだって思ったのに……」
そんな声が、眠るたび、耳に刺さる。
苦しくて、うなされた、私は教会でボランティアを始めた。
せめて、セリナみたいな子を助けられれば――
そうすれば、少しだけ、私の心が救われる気がした。
……そんな中で、彼に出会った。
「よく見かけますね。よほど、この仕事が好きなのでしょう。
僕は、シエノ。よろしく、優しきレディ」
それが、私の……“運命の人”だった。
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