まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
126 / 190
第七章:椿は鋼に咲く、忠誠の銃声とともに――女帝と三将軍のプロトコル

第116話:ツバキ・ブラッドムーン、女帝の座にて

しおりを挟む
帝国――それは、「力こそ全て」と謳う強者の楽園だった。

男女も、国籍も、人種も関係ない。

ただ一つ、「実力」がある者のみが、この国で認められる。

そして、王国の姫ツバキ・アルセリオンの嫁入りは、

この国の歴史をさらに加速させることになる。

幼い頃から父であるカズキ王から聞かされていた異世界の知識を武器に、

彼女は帝国を「第二の産業革命」へと導いた。

皇帝の妃としての座に満足せず、

やがては皇帝の権力そのものを手中に収める女傑――

ツバキ・ブラッドムーン

帝国の女帝として、頂点に君臨した。



帝国空港――軍用機が轟音と共に着陸し、タラップが降ろされる。

颯爽と現れたのは、銀髪をショートカットにした軍服の女性。

その姿はレンによく似ているが、大人の女性の風格と色気を纏い、

一歩一歩に威厳が滲み出ていた。

「ジーク・ハイル!ハイル・ツバキ!!」

両側に整列した軍人たちが一斉に敬礼し、その名を叫ぶ。

その後ろから、妖艶な紫色の巻き髪を揺らしながら現れたのは、

三将軍の一人――ミラージュ・アナトメ。

隣には、金色の長髪が光る美青年、同じく三将軍のアリスト・クロノスが歩む。

そして最後――

「わわっ!?」

階段でつまずき、今にも転びそうな灰色の長髪の子供。

小さな体にぶかぶかの軍服を着込んだ、三将軍最後の一人、

エンタープライズCVN-6だった。

帝国空港の管制塔から見下ろす滑走路に、黒塗りの高級軍用車が到着した。ツバキ・ブラッドムーンは革手袋を嵌めた指で時計を叩きながら、氷のような眼差しをミラージュに送った。

「30分も遅れた理由を説明してもらおうか、ミラージュ?この程度のスケジュール管理もできないなら、機長は更迭ものよ」

紫髪の将軍は妖艶に微笑みながら答えた。「あら、閣下にもう少し休んでいただきたくて。最近の過密スケジュールが気掛かりで」

「余計なお世話だわ」ツバキは鋭く舌打ちした。「この30分の遅れで、会議開始時間を変更しなければならない。資料確認の時間すら削られたのよ」

その時、後方から甲高い声が響いた。「で、でも吾輩が全部予習してまとめたであります!データは完璧であります!」

エンタープライズが小さな手で分厚いタブレットを抱え、必死にアピールしている。軍服の袖が長すぎて、端を折り返しているのが印象的だった。

ツバキはため息をつきながらエンタープライズを見下ろした。「「…感情回路なんて、明らかに設計ミスだったわ。あのドクターの趣味の悪さは相変わらずね」

「しかしながら」アリストが冷静に指摘した。「感情を持たない他の機体は全て戦闘で破壊されました。この子だけが生き残った事実は」

「...ドクターか」ツバキの表情が一瞬曇った。軍用車のドアを開けながら、「会議で詳細を確認するわ。全員、乗りなさい」と短く命じた。

四人が乗り込むと、車は静かに発進した。エンタープライズが窓に頬を押し付け、離陸する戦闘機を目で追っているのが、後部座席から見えた。



会議室の重厚な扉が閉ざされ、ツバキはエンタープライズの報告書を指先で軽く弾いた。

「さて、詳細を聞かせてもらおうか」

エンタープライズは緊張した様子で直立し、報告を始めた。「は、はいであります!先週、王国のクセリオス・ヴェスカリア公爵がクーデターを起こし、カズキ王を捕らえて王位を奪取したであります!」

ツバキは紅茶のカップを傾けながら、涼しい顔で言った。「ああ、あの狐め、いずれはやると思っていたわ。お父さんは彼を甘く見過ぎていたのよ。むしろ遅かったくらいだわ」

「ツバキちゃん...」アリストが苦い表情で口を挟んだ。「ご尊父が囚われの身となっているというのに、随分と冷静で」

ツバキの目が冷たく光った。「私はもうアルセリオン家の娘ではない。ブラッドムーン家の当主よ。お父さんが敗れたなら、それは彼の無能の証。隙を見て有利な領土を分捕るのが賢明というもの」コーヒーのカップを置くと、艶やかな唇が歪んだ。「まあ、侵攻の大義名分は『父の仇討ち』で良いわ」

「で、であります!」エンタープライズが声を弾ませた。「最新情報では、クセリオスは既に勇者に討たれたらしいであります!」

ツバキの眉が跳ね上がった。「たった一週間で?もっと粘って私が出兵するまで持たせられないとは...狐も見かけ倒しね」そして鋭く問いただした。「勇者の正体は?マサキか?レン?まさかシエノじゃないわよね?」

ミラージュが妖しく微笑みながら口を開いた。「なんと、メイドさんだそうよ。しかも妹君と同い年くらいの」

「ふふ...」ツバキの笑いが会議室に響いた。「王国は相変わらず人材の宝庫ね。いや、むしろあれほどの者をメイドにしか起用できない制度こそが問題だわ。我が帝国なら、すぐにでも将軍の地位を与えていたというのに...実に惜しい人材を」

アリストが冷静に指摘した。「しかしツバキちゃん、その『惜しい人材』は今、王国を救った英雄だよ。我々の侵略計画に少なからぬ影響を与えるでは。」

ツバキは窓ガラスに指先を当て、冷たい感触を確かめながら思索に沈んだ。「...ねえ、みんなドクターの関与を疑わない?あの男がただ消えて何もしないなんて、ありえないでしょう。先日の海軍艦隊全滅事件も、表向きは海賊の仕業だけど...視察結果から見て、彼の手口に間違いないわ」

「ドクターでありますか!」エンタープライズの光学ユニットが一瞬明るく輝いた。エンタープライズの身体と心を設計した創造主の名に、ロボットながら明らかに反応を示している。

アリストは機械義手の関節をぎっしりと鳴らしながら苦笑した。「あまりにも可能性が高すぎて...むしろ彼が関わっていると考える方が、この結果には納得がいく」彼の体の半分以上はドクターの手によるサイボーグ改造の賜物だった。

ミラージュは妖艶な笑みを浮かべながら、肌の色を豹柄に変化させた。「彼が王国に潜伏しているとしたら...危険すぎますわ。暗殺ドローンを派遣しましょうか?」彼女のキメラ因子改造もドクターの作品であり、あらゆる生物に擬態できる能力は帝国の闇の仕事に活用されていた。

ツバキはコーヒーのカップを傾けながら冷静に反論した。「殺すよりスカウトした方が生産的よ。そもそも彼が離反したのは、前皇帝がエンタープライズのことについて嘘をついたからでしょう?」鋭い視線をエンタープライズに向ける。「あなたが会えば、彼も戻ってくると思うわ」

「だが」アリストが慎重に口を挟んだ。「海軍事件への関与が事実なら、放置はできない。カート・シュナイダー少将も犠牲に...」

「誰それ?」ツバキは冷ややかに眉を上げた。「無能の名前なんて覚えていないわ。あれだけの艦隊を率いながら、何の戦果も挙げず全滅とは...英雄として弔われるだけでもありがたく思うべきよ」

ミラージュが妖しく笑みながらツバキの肩に手を置いた。「では、ドクター奪還作戦を?」

ツバキの唇が紅のように歪んだ。「そうね。エンタープライズ、王国に潜入してドクターを連れ戻しなさい。手段は問わないわ」

「はいであります!!」エンタープライズの声が弾んだ。小さな軍服姿のロボットは、創造主との再会を胸に、きらきらと目を輝かせていた。



夕暮れの街並みを背に、ツバキは重い足取りで自宅マンションのドアを開けた。高層階のこの部屋は、帝国大統領の住まいとしては驚くほど質素だった。

「お帰りなさい。ご飯はもうできてるよ、ツバキ」

キッチンから現れたのは、エプロンをした細身の男性。端正な顔立ちながらどこか儚げな印象の彼こそ、元皇帝にしてツバキの夫、ティアノ・ブラッドムーンだった。

「また自炊?家政婦を雇えばいいのに」ツバキはハイヒールを脱ぎ捨てながらため息をついた。「皇帝だったあなたが、どうしてこの程度で満足するの?」

ティアノは優しく微笑みながら、ツバキの鞄を受け取った。「業者さんだと...ただ仕事をこなすだけじゃない?僕はツバキが一日の疲れを癒せる場所を作りたくて」

「もっと野心的になればいいのに...」ツバキはソファーに倒れ込むと、上着を乱雑に脱ぎ捨てた。「...まあいい。お風呂入って寝るわ。明日は朝五時に起きないといけないの。会議があるから」

ティアノが心配そうに浴室のドアに向かうと、「湯船で寝ちゃわないでね。先週も危なかったじゃない」と声をかけた。

「うるさいわよ...分かってるってば」ツバキの声は既に疲れ切っていたが、その言葉の端に、夫の心遣いを嬉しく思う気持ちが滲んでいた。



王都の暖かな書斎で、魔王はクセリオス公爵から届いた報告書を懐かしそうに広げていた。夕日が差し込む窓辺で、彼の目は「エンタープライズCVN-6」という名前に釘付けになった。

「あの子が...三将軍に?」

思わず顔が緩む。指先で名前を優しくなぞりながら、あの日のことを思い出す。研究室で小さな体を震わせていた自律戦闘ユニットが、今や帝国の将軍だなんて。

「よくやったな...」

ふと、口元がほころぶ。窓から差し込む夕日に照らされ、魔王の表情はどこか父親のように柔和だった。報告書の記述から、エンタープライズが立派に成長している様子が伝わってくる。

ふと、机の引き出しを開ける。中には古びた設計図と、小さな手形が保管されていた。エンタープライズが初めて自我に目覚めた日、記念に取っておいたものだ。

「でもまあ...もう少し様子を見よう」

優しい笑みを浮かべながら、報告書を丁寧に閉じた。あの子が今、立派な将軍として生きているのなら、それが何よりだ。いずれ巡り会うその日まで、そっと見守っていればいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!

神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。 そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。 これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。  

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

いわゆる異世界転移

夏炉冬扇
ファンタジー
いわゆる異世界転移 森で目を覚まし、虫や動物、あるいは、魔物や野盗に襲われることなく 中規模な街につき、親切な守衛にギルドを紹介され さりげなくチート披露なパターンA。 街につくまえに知る人ぞ知る商人に 訳ありのどこぞの王族に会うパターンBもある。 悪役令嬢なるパターンCもある。 ステータスオープンなる厨二病的呪文もかなり初歩にでてくる。 ゲームの世界で培った知識が役に立つこともある、らしい。 現実問題、人はどうするか?

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...