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第七章:椿は鋼に咲く、忠誠の銃声とともに――女帝と三将軍のプロトコル
第116話:ツバキ・ブラッドムーン、女帝の座にて
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帝国――それは、「力こそ全て」と謳う強者の楽園だった。
男女も、国籍も、人種も関係ない。
ただ一つ、「実力」がある者のみが、この国で認められる。
そして、王国の姫ツバキ・アルセリオンの嫁入りは、
この国の歴史をさらに加速させることになる。
幼い頃から父であるカズキ王から聞かされていた異世界の知識を武器に、
彼女は帝国を「第二の産業革命」へと導いた。
皇帝の妃としての座に満足せず、
やがては皇帝の権力そのものを手中に収める女傑――
ツバキ・ブラッドムーン
帝国の女帝として、頂点に君臨した。
帝国空港――軍用機が轟音と共に着陸し、タラップが降ろされる。
颯爽と現れたのは、銀髪をショートカットにした軍服の女性。
その姿はレンによく似ているが、大人の女性の風格と色気を纏い、
一歩一歩に威厳が滲み出ていた。
「ジーク・ハイル!ハイル・ツバキ!!」
両側に整列した軍人たちが一斉に敬礼し、その名を叫ぶ。
その後ろから、妖艶な紫色の巻き髪を揺らしながら現れたのは、
三将軍の一人――ミラージュ・アナトメ。
隣には、金色の長髪が光る美青年、同じく三将軍のアリスト・クロノスが歩む。
そして最後――
「わわっ!?」
階段でつまずき、今にも転びそうな灰色の長髪の子供。
小さな体にぶかぶかの軍服を着込んだ、三将軍最後の一人、
エンタープライズCVN-6だった。
帝国空港の管制塔から見下ろす滑走路に、黒塗りの高級軍用車が到着した。ツバキ・ブラッドムーンは革手袋を嵌めた指で時計を叩きながら、氷のような眼差しをミラージュに送った。
「30分も遅れた理由を説明してもらおうか、ミラージュ?この程度のスケジュール管理もできないなら、機長は更迭ものよ」
紫髪の将軍は妖艶に微笑みながら答えた。「あら、閣下にもう少し休んでいただきたくて。最近の過密スケジュールが気掛かりで」
「余計なお世話だわ」ツバキは鋭く舌打ちした。「この30分の遅れで、会議開始時間を変更しなければならない。資料確認の時間すら削られたのよ」
その時、後方から甲高い声が響いた。「で、でも吾輩が全部予習してまとめたであります!データは完璧であります!」
エンタープライズが小さな手で分厚いタブレットを抱え、必死にアピールしている。軍服の袖が長すぎて、端を折り返しているのが印象的だった。
ツバキはため息をつきながらエンタープライズを見下ろした。「「…感情回路なんて、明らかに設計ミスだったわ。あのドクターの趣味の悪さは相変わらずね」
「しかしながら」アリストが冷静に指摘した。「感情を持たない他の機体は全て戦闘で破壊されました。この子だけが生き残った事実は」
「...ドクターか」ツバキの表情が一瞬曇った。軍用車のドアを開けながら、「会議で詳細を確認するわ。全員、乗りなさい」と短く命じた。
四人が乗り込むと、車は静かに発進した。エンタープライズが窓に頬を押し付け、離陸する戦闘機を目で追っているのが、後部座席から見えた。
会議室の重厚な扉が閉ざされ、ツバキはエンタープライズの報告書を指先で軽く弾いた。
「さて、詳細を聞かせてもらおうか」
エンタープライズは緊張した様子で直立し、報告を始めた。「は、はいであります!先週、王国のクセリオス・ヴェスカリア公爵がクーデターを起こし、カズキ王を捕らえて王位を奪取したであります!」
ツバキは紅茶のカップを傾けながら、涼しい顔で言った。「ああ、あの狐め、いずれはやると思っていたわ。お父さんは彼を甘く見過ぎていたのよ。むしろ遅かったくらいだわ」
「ツバキちゃん...」アリストが苦い表情で口を挟んだ。「ご尊父が囚われの身となっているというのに、随分と冷静で」
ツバキの目が冷たく光った。「私はもうアルセリオン家の娘ではない。ブラッドムーン家の当主よ。お父さんが敗れたなら、それは彼の無能の証。隙を見て有利な領土を分捕るのが賢明というもの」コーヒーのカップを置くと、艶やかな唇が歪んだ。「まあ、侵攻の大義名分は『父の仇討ち』で良いわ」
「で、であります!」エンタープライズが声を弾ませた。「最新情報では、クセリオスは既に勇者に討たれたらしいであります!」
ツバキの眉が跳ね上がった。「たった一週間で?もっと粘って私が出兵するまで持たせられないとは...狐も見かけ倒しね」そして鋭く問いただした。「勇者の正体は?マサキか?レン?まさかシエノじゃないわよね?」
ミラージュが妖しく微笑みながら口を開いた。「なんと、メイドさんだそうよ。しかも妹君と同い年くらいの」
「ふふ...」ツバキの笑いが会議室に響いた。「王国は相変わらず人材の宝庫ね。いや、むしろあれほどの者をメイドにしか起用できない制度こそが問題だわ。我が帝国なら、すぐにでも将軍の地位を与えていたというのに...実に惜しい人材を」
アリストが冷静に指摘した。「しかしツバキちゃん、その『惜しい人材』は今、王国を救った英雄だよ。我々の侵略計画に少なからぬ影響を与えるでは。」
ツバキは窓ガラスに指先を当て、冷たい感触を確かめながら思索に沈んだ。「...ねえ、みんなドクターの関与を疑わない?あの男がただ消えて何もしないなんて、ありえないでしょう。先日の海軍艦隊全滅事件も、表向きは海賊の仕業だけど...視察結果から見て、彼の手口に間違いないわ」
「ドクターでありますか!」エンタープライズの光学ユニットが一瞬明るく輝いた。エンタープライズの身体と心を設計した創造主の名に、ロボットながら明らかに反応を示している。
アリストは機械義手の関節をぎっしりと鳴らしながら苦笑した。「あまりにも可能性が高すぎて...むしろ彼が関わっていると考える方が、この結果には納得がいく」彼の体の半分以上はドクターの手によるサイボーグ改造の賜物だった。
ミラージュは妖艶な笑みを浮かべながら、肌の色を豹柄に変化させた。「彼が王国に潜伏しているとしたら...危険すぎますわ。暗殺ドローンを派遣しましょうか?」彼女のキメラ因子改造もドクターの作品であり、あらゆる生物に擬態できる能力は帝国の闇の仕事に活用されていた。
ツバキはコーヒーのカップを傾けながら冷静に反論した。「殺すよりスカウトした方が生産的よ。そもそも彼が離反したのは、前皇帝がエンタープライズのことについて嘘をついたからでしょう?」鋭い視線をエンタープライズに向ける。「あなたが会えば、彼も戻ってくると思うわ」
「だが」アリストが慎重に口を挟んだ。「海軍事件への関与が事実なら、放置はできない。カート・シュナイダー少将も犠牲に...」
「誰それ?」ツバキは冷ややかに眉を上げた。「無能の名前なんて覚えていないわ。あれだけの艦隊を率いながら、何の戦果も挙げず全滅とは...英雄として弔われるだけでもありがたく思うべきよ」
ミラージュが妖しく笑みながらツバキの肩に手を置いた。「では、ドクター奪還作戦を?」
ツバキの唇が紅のように歪んだ。「そうね。エンタープライズ、王国に潜入してドクターを連れ戻しなさい。手段は問わないわ」
「はいであります!!」エンタープライズの声が弾んだ。小さな軍服姿のロボットは、創造主との再会を胸に、きらきらと目を輝かせていた。
*
夕暮れの街並みを背に、ツバキは重い足取りで自宅マンションのドアを開けた。高層階のこの部屋は、帝国大統領の住まいとしては驚くほど質素だった。
「お帰りなさい。ご飯はもうできてるよ、ツバキ」
キッチンから現れたのは、エプロンをした細身の男性。端正な顔立ちながらどこか儚げな印象の彼こそ、元皇帝にしてツバキの夫、ティアノ・ブラッドムーンだった。
「また自炊?家政婦を雇えばいいのに」ツバキはハイヒールを脱ぎ捨てながらため息をついた。「皇帝だったあなたが、どうしてこの程度で満足するの?」
ティアノは優しく微笑みながら、ツバキの鞄を受け取った。「業者さんだと...ただ仕事をこなすだけじゃない?僕はツバキが一日の疲れを癒せる場所を作りたくて」
「もっと野心的になればいいのに...」ツバキはソファーに倒れ込むと、上着を乱雑に脱ぎ捨てた。「...まあいい。お風呂入って寝るわ。明日は朝五時に起きないといけないの。会議があるから」
ティアノが心配そうに浴室のドアに向かうと、「湯船で寝ちゃわないでね。先週も危なかったじゃない」と声をかけた。
「うるさいわよ...分かってるってば」ツバキの声は既に疲れ切っていたが、その言葉の端に、夫の心遣いを嬉しく思う気持ちが滲んでいた。
*
王都の暖かな書斎で、魔王はクセリオス公爵から届いた報告書を懐かしそうに広げていた。夕日が差し込む窓辺で、彼の目は「エンタープライズCVN-6」という名前に釘付けになった。
「あの子が...三将軍に?」
思わず顔が緩む。指先で名前を優しくなぞりながら、あの日のことを思い出す。研究室で小さな体を震わせていた自律戦闘ユニットが、今や帝国の将軍だなんて。
「よくやったな...」
ふと、口元がほころぶ。窓から差し込む夕日に照らされ、魔王の表情はどこか父親のように柔和だった。報告書の記述から、エンタープライズが立派に成長している様子が伝わってくる。
ふと、机の引き出しを開ける。中には古びた設計図と、小さな手形が保管されていた。エンタープライズが初めて自我に目覚めた日、記念に取っておいたものだ。
「でもまあ...もう少し様子を見よう」
優しい笑みを浮かべながら、報告書を丁寧に閉じた。あの子が今、立派な将軍として生きているのなら、それが何よりだ。いずれ巡り会うその日まで、そっと見守っていればいい。
男女も、国籍も、人種も関係ない。
ただ一つ、「実力」がある者のみが、この国で認められる。
そして、王国の姫ツバキ・アルセリオンの嫁入りは、
この国の歴史をさらに加速させることになる。
幼い頃から父であるカズキ王から聞かされていた異世界の知識を武器に、
彼女は帝国を「第二の産業革命」へと導いた。
皇帝の妃としての座に満足せず、
やがては皇帝の権力そのものを手中に収める女傑――
ツバキ・ブラッドムーン
帝国の女帝として、頂点に君臨した。
帝国空港――軍用機が轟音と共に着陸し、タラップが降ろされる。
颯爽と現れたのは、銀髪をショートカットにした軍服の女性。
その姿はレンによく似ているが、大人の女性の風格と色気を纏い、
一歩一歩に威厳が滲み出ていた。
「ジーク・ハイル!ハイル・ツバキ!!」
両側に整列した軍人たちが一斉に敬礼し、その名を叫ぶ。
その後ろから、妖艶な紫色の巻き髪を揺らしながら現れたのは、
三将軍の一人――ミラージュ・アナトメ。
隣には、金色の長髪が光る美青年、同じく三将軍のアリスト・クロノスが歩む。
そして最後――
「わわっ!?」
階段でつまずき、今にも転びそうな灰色の長髪の子供。
小さな体にぶかぶかの軍服を着込んだ、三将軍最後の一人、
エンタープライズCVN-6だった。
帝国空港の管制塔から見下ろす滑走路に、黒塗りの高級軍用車が到着した。ツバキ・ブラッドムーンは革手袋を嵌めた指で時計を叩きながら、氷のような眼差しをミラージュに送った。
「30分も遅れた理由を説明してもらおうか、ミラージュ?この程度のスケジュール管理もできないなら、機長は更迭ものよ」
紫髪の将軍は妖艶に微笑みながら答えた。「あら、閣下にもう少し休んでいただきたくて。最近の過密スケジュールが気掛かりで」
「余計なお世話だわ」ツバキは鋭く舌打ちした。「この30分の遅れで、会議開始時間を変更しなければならない。資料確認の時間すら削られたのよ」
その時、後方から甲高い声が響いた。「で、でも吾輩が全部予習してまとめたであります!データは完璧であります!」
エンタープライズが小さな手で分厚いタブレットを抱え、必死にアピールしている。軍服の袖が長すぎて、端を折り返しているのが印象的だった。
ツバキはため息をつきながらエンタープライズを見下ろした。「「…感情回路なんて、明らかに設計ミスだったわ。あのドクターの趣味の悪さは相変わらずね」
「しかしながら」アリストが冷静に指摘した。「感情を持たない他の機体は全て戦闘で破壊されました。この子だけが生き残った事実は」
「...ドクターか」ツバキの表情が一瞬曇った。軍用車のドアを開けながら、「会議で詳細を確認するわ。全員、乗りなさい」と短く命じた。
四人が乗り込むと、車は静かに発進した。エンタープライズが窓に頬を押し付け、離陸する戦闘機を目で追っているのが、後部座席から見えた。
会議室の重厚な扉が閉ざされ、ツバキはエンタープライズの報告書を指先で軽く弾いた。
「さて、詳細を聞かせてもらおうか」
エンタープライズは緊張した様子で直立し、報告を始めた。「は、はいであります!先週、王国のクセリオス・ヴェスカリア公爵がクーデターを起こし、カズキ王を捕らえて王位を奪取したであります!」
ツバキは紅茶のカップを傾けながら、涼しい顔で言った。「ああ、あの狐め、いずれはやると思っていたわ。お父さんは彼を甘く見過ぎていたのよ。むしろ遅かったくらいだわ」
「ツバキちゃん...」アリストが苦い表情で口を挟んだ。「ご尊父が囚われの身となっているというのに、随分と冷静で」
ツバキの目が冷たく光った。「私はもうアルセリオン家の娘ではない。ブラッドムーン家の当主よ。お父さんが敗れたなら、それは彼の無能の証。隙を見て有利な領土を分捕るのが賢明というもの」コーヒーのカップを置くと、艶やかな唇が歪んだ。「まあ、侵攻の大義名分は『父の仇討ち』で良いわ」
「で、であります!」エンタープライズが声を弾ませた。「最新情報では、クセリオスは既に勇者に討たれたらしいであります!」
ツバキの眉が跳ね上がった。「たった一週間で?もっと粘って私が出兵するまで持たせられないとは...狐も見かけ倒しね」そして鋭く問いただした。「勇者の正体は?マサキか?レン?まさかシエノじゃないわよね?」
ミラージュが妖しく微笑みながら口を開いた。「なんと、メイドさんだそうよ。しかも妹君と同い年くらいの」
「ふふ...」ツバキの笑いが会議室に響いた。「王国は相変わらず人材の宝庫ね。いや、むしろあれほどの者をメイドにしか起用できない制度こそが問題だわ。我が帝国なら、すぐにでも将軍の地位を与えていたというのに...実に惜しい人材を」
アリストが冷静に指摘した。「しかしツバキちゃん、その『惜しい人材』は今、王国を救った英雄だよ。我々の侵略計画に少なからぬ影響を与えるでは。」
ツバキは窓ガラスに指先を当て、冷たい感触を確かめながら思索に沈んだ。「...ねえ、みんなドクターの関与を疑わない?あの男がただ消えて何もしないなんて、ありえないでしょう。先日の海軍艦隊全滅事件も、表向きは海賊の仕業だけど...視察結果から見て、彼の手口に間違いないわ」
「ドクターでありますか!」エンタープライズの光学ユニットが一瞬明るく輝いた。エンタープライズの身体と心を設計した創造主の名に、ロボットながら明らかに反応を示している。
アリストは機械義手の関節をぎっしりと鳴らしながら苦笑した。「あまりにも可能性が高すぎて...むしろ彼が関わっていると考える方が、この結果には納得がいく」彼の体の半分以上はドクターの手によるサイボーグ改造の賜物だった。
ミラージュは妖艶な笑みを浮かべながら、肌の色を豹柄に変化させた。「彼が王国に潜伏しているとしたら...危険すぎますわ。暗殺ドローンを派遣しましょうか?」彼女のキメラ因子改造もドクターの作品であり、あらゆる生物に擬態できる能力は帝国の闇の仕事に活用されていた。
ツバキはコーヒーのカップを傾けながら冷静に反論した。「殺すよりスカウトした方が生産的よ。そもそも彼が離反したのは、前皇帝がエンタープライズのことについて嘘をついたからでしょう?」鋭い視線をエンタープライズに向ける。「あなたが会えば、彼も戻ってくると思うわ」
「だが」アリストが慎重に口を挟んだ。「海軍事件への関与が事実なら、放置はできない。カート・シュナイダー少将も犠牲に...」
「誰それ?」ツバキは冷ややかに眉を上げた。「無能の名前なんて覚えていないわ。あれだけの艦隊を率いながら、何の戦果も挙げず全滅とは...英雄として弔われるだけでもありがたく思うべきよ」
ミラージュが妖しく笑みながらツバキの肩に手を置いた。「では、ドクター奪還作戦を?」
ツバキの唇が紅のように歪んだ。「そうね。エンタープライズ、王国に潜入してドクターを連れ戻しなさい。手段は問わないわ」
「はいであります!!」エンタープライズの声が弾んだ。小さな軍服姿のロボットは、創造主との再会を胸に、きらきらと目を輝かせていた。
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夕暮れの街並みを背に、ツバキは重い足取りで自宅マンションのドアを開けた。高層階のこの部屋は、帝国大統領の住まいとしては驚くほど質素だった。
「お帰りなさい。ご飯はもうできてるよ、ツバキ」
キッチンから現れたのは、エプロンをした細身の男性。端正な顔立ちながらどこか儚げな印象の彼こそ、元皇帝にしてツバキの夫、ティアノ・ブラッドムーンだった。
「また自炊?家政婦を雇えばいいのに」ツバキはハイヒールを脱ぎ捨てながらため息をついた。「皇帝だったあなたが、どうしてこの程度で満足するの?」
ティアノは優しく微笑みながら、ツバキの鞄を受け取った。「業者さんだと...ただ仕事をこなすだけじゃない?僕はツバキが一日の疲れを癒せる場所を作りたくて」
「もっと野心的になればいいのに...」ツバキはソファーに倒れ込むと、上着を乱雑に脱ぎ捨てた。「...まあいい。お風呂入って寝るわ。明日は朝五時に起きないといけないの。会議があるから」
ティアノが心配そうに浴室のドアに向かうと、「湯船で寝ちゃわないでね。先週も危なかったじゃない」と声をかけた。
「うるさいわよ...分かってるってば」ツバキの声は既に疲れ切っていたが、その言葉の端に、夫の心遣いを嬉しく思う気持ちが滲んでいた。
*
王都の暖かな書斎で、魔王はクセリオス公爵から届いた報告書を懐かしそうに広げていた。夕日が差し込む窓辺で、彼の目は「エンタープライズCVN-6」という名前に釘付けになった。
「あの子が...三将軍に?」
思わず顔が緩む。指先で名前を優しくなぞりながら、あの日のことを思い出す。研究室で小さな体を震わせていた自律戦闘ユニットが、今や帝国の将軍だなんて。
「よくやったな...」
ふと、口元がほころぶ。窓から差し込む夕日に照らされ、魔王の表情はどこか父親のように柔和だった。報告書の記述から、エンタープライズが立派に成長している様子が伝わってくる。
ふと、机の引き出しを開ける。中には古びた設計図と、小さな手形が保管されていた。エンタープライズが初めて自我に目覚めた日、記念に取っておいたものだ。
「でもまあ...もう少し様子を見よう」
優しい笑みを浮かべながら、報告書を丁寧に閉じた。あの子が今、立派な将軍として生きているのなら、それが何よりだ。いずれ巡り会うその日まで、そっと見守っていればいい。
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