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第一話(続き)『まずは畑を借りたい ~初日の夜~』
朝の目覚めと小さな来訪者
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「……ねぇ、ねぇ、おにーちゃん。おきてー」
誰かの声がする。
「おにーちゃん、おきてってばー。ごはんだよー!」
まぶたの裏にうっすら光が差している。声の主は、どうやら部屋の中にいるらしい。
頭の中はまだふわふわしていて、身体は布団と藁のあたたかさを恋しがっている。
「……あと五分……」
「え? なにそれ? ごふんってなに?」
「……いや、だから……あとちょっとだけ……」
「ちょっとだけって……じゃあ、髪引っ張るね!」
「えっ、それは――いってぇっ!」
ガバッと飛び起きると、目の前にいたのは、見上げるほど小さな女の子だった。
年の頃は、たぶん5歳か6歳くらい。ふわふわした金髪の三つ編み。ほっぺはまんまるで、服はパッチワークのようなエプロン付きワンピース。
「お、おまえは……?」
「わたし、ティナ! マルスとリーネのこども!」
「……ああ、あの夫婦の……」
ユウトは目をこすりながら、昨日のことを思い出した。
そうだ。ここは異世界、ヘルト村。そしてこの宿に泊まって、人生のリスタートを切ったんだった。
「おにーちゃん、おなかすいてるでしょ? パンあるよ!」
ティナはそう言って、手に持っていたカゴを高々と掲げた。
中には小さな丸パンが2つと、リンゴのような赤い果物がころんと転がっている。
「……うわ、うまそう。っていうか、くれるの?」
「うん。おかあさんが、“お礼に持っていきなさい”って!」
(あの人、昨日もスープくれたのに……)
「じゃあ……ありがとう」
「うん! “ありがとう!”」
どうやら、昨晩の「ありがとう」が早速伝染していたらしい。
異世界語なのか、共通語なのかもわからないけど、ティナの言葉ははっきりと心に届いた。
⸻
パンをかじりながら、ユウトは部屋の窓を開けた。
冷たい朝の風が、顔をなでていく。村はすでに活動を始めていた。
家々の煙突からは薄く白い煙が上がり、通りには薪を運ぶ男たち、井戸で水を汲む女たちの姿がある。
パン屋の前では、焼きたての匂いが香ばしく広がり、どこかの家から子どもの笑い声が聞こえてきた。
(……なんか、こういうの、いいな)
背後でティナが椅子によじ登って、残った果物を頬張っている。
「おにーちゃん、なにかしごとするの?」
「んー……畑とか、使わせてもらえたらなーって思ってる」
「ふーん。じゃあ、カエおじちゃんのとこ行ってみたら? カエおじちゃん、土ばっかり掘ってるよ!」
「カエ……おじちゃん?」
「うん。あたし、“ユウトおじちゃん”ってよぶね!」
「……おじちゃん!?」
⸻
朝の陽が少しずつ強くなる。
どこかしら笑えるやり取りと、素朴で優しい朝の始まり。
ユウトの“村暮らし”は、まだ何も始まっていないけれど、
その日一日が悪くないものになるような、そんな予感がしていた。
誰かの声がする。
「おにーちゃん、おきてってばー。ごはんだよー!」
まぶたの裏にうっすら光が差している。声の主は、どうやら部屋の中にいるらしい。
頭の中はまだふわふわしていて、身体は布団と藁のあたたかさを恋しがっている。
「……あと五分……」
「え? なにそれ? ごふんってなに?」
「……いや、だから……あとちょっとだけ……」
「ちょっとだけって……じゃあ、髪引っ張るね!」
「えっ、それは――いってぇっ!」
ガバッと飛び起きると、目の前にいたのは、見上げるほど小さな女の子だった。
年の頃は、たぶん5歳か6歳くらい。ふわふわした金髪の三つ編み。ほっぺはまんまるで、服はパッチワークのようなエプロン付きワンピース。
「お、おまえは……?」
「わたし、ティナ! マルスとリーネのこども!」
「……ああ、あの夫婦の……」
ユウトは目をこすりながら、昨日のことを思い出した。
そうだ。ここは異世界、ヘルト村。そしてこの宿に泊まって、人生のリスタートを切ったんだった。
「おにーちゃん、おなかすいてるでしょ? パンあるよ!」
ティナはそう言って、手に持っていたカゴを高々と掲げた。
中には小さな丸パンが2つと、リンゴのような赤い果物がころんと転がっている。
「……うわ、うまそう。っていうか、くれるの?」
「うん。おかあさんが、“お礼に持っていきなさい”って!」
(あの人、昨日もスープくれたのに……)
「じゃあ……ありがとう」
「うん! “ありがとう!”」
どうやら、昨晩の「ありがとう」が早速伝染していたらしい。
異世界語なのか、共通語なのかもわからないけど、ティナの言葉ははっきりと心に届いた。
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パンをかじりながら、ユウトは部屋の窓を開けた。
冷たい朝の風が、顔をなでていく。村はすでに活動を始めていた。
家々の煙突からは薄く白い煙が上がり、通りには薪を運ぶ男たち、井戸で水を汲む女たちの姿がある。
パン屋の前では、焼きたての匂いが香ばしく広がり、どこかの家から子どもの笑い声が聞こえてきた。
(……なんか、こういうの、いいな)
背後でティナが椅子によじ登って、残った果物を頬張っている。
「おにーちゃん、なにかしごとするの?」
「んー……畑とか、使わせてもらえたらなーって思ってる」
「ふーん。じゃあ、カエおじちゃんのとこ行ってみたら? カエおじちゃん、土ばっかり掘ってるよ!」
「カエ……おじちゃん?」
「うん。あたし、“ユウトおじちゃん”ってよぶね!」
「……おじちゃん!?」
⸻
朝の陽が少しずつ強くなる。
どこかしら笑えるやり取りと、素朴で優しい朝の始まり。
ユウトの“村暮らし”は、まだ何も始まっていないけれど、
その日一日が悪くないものになるような、そんな予感がしていた。
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